イナイレ
「あー!たのしかった!」
『だなァ』
あれからもう一つゲームを挟んで、最後に鬼道を誘ってまた最初のゲームに戻ってゲームセンターを後にする。
満足げな表情の大輝と鬼道に口元を緩めて、とととっと聞こえてきた足音に構えれば紺色が飛び込んだきた。
「諧音さん!」
『おー、虎。随分と雰囲気変えてきたなァ?』
「はい!いっぱいおしゃれしてもらいました!!もうすごいんですよ!俺こんなに髪の毛整えたの初めてです!」
『ん。すげぇかっこいいな。楽しかったかァ?』
「はい!」
にぱっと笑う虎の下ろされて横に流された前髪に、セットされてるならと触らないように背中を二回叩く。
離れたところで集まってきた面々に思わず表情が緩んだ。
『全員気合入ってね?』
「だってこの後誠さんがご飯連れてってくれるんでしょ?!」
「誠さんが連れて行ってくれる場所って怖いから万全の準備はしておきたいじゃない?」
『そんな怖い場所連れてかねぇわ』
「い、いつどこにお邪魔しても、緊張しちゃうから…」
『気兼ねなく食事しろ。なぁ、あいな』
「ふふ。わかっていても感情が追いつくまでは難しいんじゃないかしらぁ?」
『そういうもんか…?』
身震いするみきにゆあとゆきやが頷く。不思議そうな顔をするのは虎と条助で、近づいてきた豪炎寺が俺を見据えるから目を向けた。
「どうだ?」
『似合ってる。髪下ろしたんだな。きれいだ』
「き、」
目を見開いて固まった豪炎寺に虎と条助が頬を膨らませる。あらあらとあいなが笑ったところできょうじがはいはいと手を叩く。
「そろそろ移動しようか」
確認した時計はもうすぐ十一時で、なんだかんだ着替えやゲームで時間を取ったらしい。
どうやらせいとはきょうじとあいなが連絡を取っているらしく、移動しましょうかと再度促されて歩き出す。
これからの食事会に震えてるみきに、だいきも緊張してきたと口元を押さえて、ゆあとゆきやも大丈夫かなぁ顔を歪める。そこに不思議そうな顔をした虎と条助と鬼道がまざって、隣に陣取った豪炎寺がそわそわと口を開いた。
「来栖、来栖、どこがきれいなんだ?」
『髪』
「来栖は髪が好きなのか?」
『別にそういうわけじゃねぇけど…髪と肌と爪が綺麗なやつは気ぃつかってんだなぁって思う』
「なるほど…参考になった」
『は?なんのだよ』
「いろいろだ。…あ、あと、遅くなってしまったが洋服ありがとう。とても気に入った。大切にする」
『んー。たまに思い出したら着てやってくれ』
「ああ!もちろん!次一緒に出かけるときにでも着てくる!」
『機会があればなァ』
「え、ないのか?」
『知らね。暇だったらあんじゃね』
「暇じゃないと出かけてくれないのか…?!」
『はぁ。お前仕事忘れてんじゃねーぞ、エースストライカー』
「忘れてはないんだが…そうだな、世界一にならないと来栖にもう一度告白できない」
『…………あー、はいはい。そうだなァ。応援してる』
「ああ!頑張ろうな!来栖!」
『ん。……鬼道と虎が呼んでんぞ』
「ああ、本当だな。行ってくる」
にこにこと笑ってそちらに向かっていく豪炎寺に、左からの強すぎる視線に負けてそちらを見る。
『なんだァ、不動ォ』
「……、…別に」
『ふぅん?』
「……………」
何も無いようには見えないけど、これだけ明るくて人もたくさんいる外で無理やり聞き出すのはきっと嫌がられる。
息を吐けばぴくりと肩を揺らして、目を逸らしたままの不動に口を開く。
『アメリカ戦終わったら部屋来い』
「は、?」
『都合つかねぇならその時点で言えよ』
「、ぁ、」
不動が何か言いたそうに言葉を詰めたけど、それよりも大きな足音が聞こえて、駆けていた音は思い切りよく飛び跳ねるから抱きとめた。
「かいとん!おはよう!」
『ああ、おはよ』
「おなかすいてる??」
『普通』
「じゃあいっぱいご飯食べようね!せいたんがおいしいの用意しといてくれたから!」
『ん。楽しみ』
「うん!楽しみにしておいて!!」
にぱっと笑ったようたは俺の頬に挨拶を送って離れる。姿を視認してかだいきが一番最初に笑った。
「耀太!おはよ!」
「だいきちんおはよー!あ!なんかみんなちょーしゃれしてるね!!すっごくかっこいいしかわいい!」
「ありがとう!おはよ、耀太くん!」
「ふふ。朝から元気ねぇ。おはよぉ」
「あ、ありがとう!お、おはようございます…!」
ゆあとあいな、それからみきは照れたように笑ってから挨拶を済ませて、ゆきやも手を振って答える。
条助と虎もおはよーとゆるく挨拶を交わして、ようたがじろりと二人を見た。
「おはよう。へぇ。鬼道くんと不動くんもおめかししてるんだね〜?」
「あ、ああ。おはよう…」
「………おはよう」
「なぁに?かいとんがあげたの?」
『選んだのはきょうじとゆきやとだいきだ。センスいいよな』
「ふぅーん。似合ってはいるんじゃない?まぁ俺っちの天使の横に並び立つには烏滸がましいレベルだけどね」
『ようた。今はサッカーしてねぇからやめろ』
「ちっ!!」
盛大な舌打ちが響く。あまりの険悪なムードにあれ?とゆあとだいきが首を傾げて、みきとゆきやが顔を見合わせ、きょうじとあいなが目を瞬いた。
「えっ、もしかして耀太ってあの二人と相性悪いの?」
「なんか知んねーけど、栄垣がうちのミッドフィルダーを目の敵にしてんだよな〜。なっ、豪炎寺」
「ああ。なにかあったみたいなんだがよくわからない」
「風丸さんと吹雪さんと立向居さんは仲良しでしたし、俺達にも普通にしてくれますもんね??」
「イタリア代表戦のときに喧嘩でもしたのかもしれないな」
条助と虎と豪炎寺は知る由もないし、わかる情報を断線的につなげて首を捻る。
ようたの頭を撫でてから叩けばぱっと離れて、膨らませた頬のまま走り出した。
「かいとんのばかー!!せいたーん!!」
「喧しいぞ、耀太」
「だってだって!!」
『「だっては言わない」』
「んー!!」
地団駄を踏むようたにせいが息を吐いて、そっと抱えてやれば不貞腐れたように頬を膨らませながらひっつく。やれやれとせいが零したところで顔を合わせた。
伸びてきた手が俺の帽子を外して額に唇を寄せる。
「おはよう、諧音」
『ん、おはよう』
「楽しめたか?」
『おー、そこそこ』
「そうか。仲良く楽しんでこれたのなら良かった」
「むっ」
「態度で十分に伝わるから口でも言うんじゃない」
「むぅぅ!!」
べしべしとせいの腕を叩くようたは不機嫌極まりない。それでもせいは仕方なさそうに息を吐くだけで、近づいてきた影に、ようたをあやすのは止めて持っていた俺の帽子をようたに被せた。
「おはようございます、誠さん」
「ああ、おはよう」
「今日も準備してくださって感謝するわ?」
「気にするな。俺とようたの天使のためだ。皆も腹は空いているか?」
「はい!お腹すきました!」
「おう!腹ぺこだ!」
「ふふ。そうか。ならば早く食事にするとしよう」
元気よく返事をした虎と条助に、みきとゆあがすごいと目を丸くする。豪炎寺がなにを?と零したところでゆきやとだいきが苦笑いを浮かべた。
「さぁ、いつまでも外にいても仕方がない。中に入れ」
『行くぞ』
「はい!」
「おう!」
やっぱり元気なのは虎と条助で、笑みは向かべてるものの動きの硬いきょうじとあいな、それから緊張しているみきとゆあに口数が少なくなってるゆきやとだいきを鬼道と不動も訝しげに窺っていて、豪炎寺から疑問が飛び出す前に進んでいく。
入った店は静かで、ちらりと隣を見ればようたを抱えたまま歩いてるせいは目尻を下げる。
「貸し切りにした。そのほうが気がねないだろう?」
『あー、まぁたしかに』
「食事もコースだと食べづらいだろうからバイキング形式にしてある。確認も済んでいるから安心してくれ」
『そこは心配してねぇよ』
「万一があっては困るからな」
テーブルの上に並べられた大きめの皿はどれも蓋が被せられたいて、それぞれ下には火や氷があって適温が保たれているらしい。横を通り抜けて円卓でせいが足を止めて、とんとんと背を叩けばようたが降りて俺とせいの服を掴んだ。
「真ん中!!」
『はいはい』
「好きにするといい」
「する!!」
多少機嫌がなおったらしいようたが椅子に座るから両サイドに座る。半数以上が緊張した面持ちで腰掛けて、気づいてる三人は訝しげに、気にしてない二人はにこやかに顔を上げた。
「バイキングなんですね!」
「ああ。好きなものを食べるといい。少なめに用意してあるが材料は潤沢にあるから足りないものや欲しいものがあれば給仕に声をかけろ」
「はーい!」
「すげぇな!いっぱい食べようぜ!虎丸!」
「はい!!」
二人の笑顔にせいは満足そうに目つきを和らげて、それからきょうじとあいなを見る。
「慣れないだろう。給仕はつけるか?」
「…ど、どうする?」
「そうねぇ…」
眉根を寄せたあいなは迷っていて、ゆあとみきとだいきが助けを求める目を向けてきた。
『給仕は要らねぇよ。虎、条助、あいなときょうじに取り方教えてやってくれ』
「え?取り方ですか?」
「…、おう!わかった!任せてくれ!」
ぱっと立ち上がった条助が行こう!と二人を誘う。虎は目を瞬いたあとに頷いてついていって、ご飯が冷めちゃいますよ!と急かす。
あいなときょうじが目を丸くしながら立ち上がって、それにゆきやが安心したように息を吐いて左右を見る。
「それじゃあ僕達も。ね、ゆあちゃん」
「うん!みきちゃん!いっぱい美味しいもの食べよう!」
「う、うん!」
「鬼道くんと不動くんと豪炎寺くんも行こうぜ!」
「早くしないと食べ尽くされちゃうよ?」
「そ、そうだな」
「…おう」
「あ、ああ」
連れられてカウンターに向かっていき、蓋が外されてはしゃぐ虎と条助に感化されたようにゆあとだいきも声を上げて喜ぶ。
肩の力が抜けたらしい向こうに、帽子の鍔を持ち上げて外して、それから膨らんだままの頬に指を刺して空気を抜いた。
『いつまで拗ねてんだァ?』
「拗ねてないもーん」
『ふーん?』
「…次は俺っちも一緒に遊ぶ!着替える!」
「なら寝坊しないようにしないとな」
「今日も頑張ったんだもん!!」
「ああ。この時間に起きていて偉い」
『ん。偉いなァ。次は一緒に遊ぼう』
「うん!約束だよ!」
『ああ』
上機嫌のようたが勢い良く立ち上がる。
「かいとん!せいたん!取り行こ!」
「そうだな」
『食事揃って始められなくなる』
鼻歌交じりに歩き出したようたは何取ってるのー!とだいきを覗き込みに行って、残されたせいと目を合わせて首を横に振って席を立つ。
「自由人だな」
『全くだ』
笑いあって近づいていけば、近くにいた虎と条助がぱっと顔を上げて真っ白の皿を差し出した。
「すごくおいしそうなのがいっぱいあります!」
「早く取ってみんなで食べようぜ!」
「、ああ、そうだな」
『ん。ありがとォ』
まさか手渡されると思っていなかったのか、一瞬固まった後に皿を受け取ったせいは俺を見て、口角を上げる。
「良い子供だ」
『だろォ?』
「「?」」
理解が追いついていないらしい二人に俺も笑って一緒にカウンターを回る。
せいが用意しただけあって種類も豊富で香りもいいものが多い。
各々好きなように盛っているようで、はしゃいでいる条助と虎とだいきの量にきょうじとあいなが驚いていて、ゆあとゆきやも豪炎寺と鬼道と不動に運動部の食事量だと溢してる。
賑やかな様子にある程度の上に物が乗ったからテーブルに戻って、先に居たみきとようたが顔を上げた。
「おかえりなさい」
「おかえり!」
『ん。好きなもん取れたか?』
「う、うん!えっと、どれもすごく美味しそうだったから、ちょっとずついろいろもらってきたの!」
『そぉかァ』
「かいとんは相変わらず少なめだね?」
『あー、二回目行く』
「ならいいや!いっぱい食べようね!」
『食いすぎて動けなくなんぞ』
「そこまでは食べないよん!」
あははと笑うようたにみきもふわふわと微笑んで、どんどん近づいてきて皿を置いていく面々にほぼ同時に全員が揃ってようたがぱんっと手を合わせた。
「いただきます!」
『「いただきます」』
「「「いただきまーす!!」」」
大抵こういうときはようたが先導する。いつもどおり続けば虎と条助に並んでゆあとだいきとゆきやも声を出して、慌てたようにいただきますと零した数人もそれぞれカトラリーを持った。
×
午後からは俺達日本もようたのイタリアも練習がある。賑やかな食事を済ませて一休みしたところで、せいが食後のカフェラテが入ってたカップをおろした。
「日本代表は俺が見送ろう」
『ん、ありがと』
「俺っちは?!」
「お前は一番につくから下りろ」
「ちぇー!」
「それから、皆はどうする予定だ?」
「あ、俺と恭司くんはアメリカエリアのゲーセン行きます!」
「はい。大輝に付き添う予定です」
「んー、僕はみきちゃんのボディーガードしようなぁ?イギリスエリア行きたいんだよね?」
「ひ、一人で大丈夫…!」
「あらぁ。だめよぉ、みきちゃん。海外での女の子の一人歩きは危ないわ?」
「じゃあ私もそこに入る!お買い物してー!あとカフェとかいきたい!哀奈ちゃんも一緒に行こ!」
「あ、あいなさん、えっと…一緒にきてくれますか…?」
「ふふ。こんなにかわいいお誘いを断るわけにいかないわ」
「じゃあみんなでお茶会だね!」
「恭司と大輝くんも遊び終わったのなら顔を出しなさい?あいながとっておきのアフタヌーンティーを用意してあげるわぁ?」
「え!まじで!楽しみ!!」
「ありがとう、哀奈」
上機嫌の会話にせいが頷いて、俺も隣のようたの髪を撫でてから帽子を被り直す。
『じゃ、話まとまったし行くか』
「はぁ〜い」
仕方なそうに動き出したようたに俺とせいも同時に立ち上がって、店を出る。つけられていた車に数人が固まって、虎がはわはわと口を動かす。
「か、諧音さん」
『なんだァ?』
「も、もしかして、俺達これに乗るんですか?」
『当たり前だろ?』
「え、ええ…?」
視線を左右に動かして、そっと豪炎寺と鬼道が目をそらす。だいきとゆあとゆきやがわかると頷いて、あいなときょうじは察したように笑みを固めて、条助がにかりと笑った。
「なんかかっけーイナズマキャラバンみてぇだな!」
「いや、全然違うぞ、綱波。あれはバスで、これはリムジンだ」
「乗りゃーどっちもおんなじ車だろ?」
「それはそうだが…」
鬼道が訂正しようとして言葉を詰めてるからせいとようたがさっさと乗り込んで、ようたに手を引かれる。足をかけたところで振り返った。
『条助、来い』
「おう!ほら!どんどん乗ろーぜ!練習遅れちまうぞ!」
「え!?え、はい!!失礼します!!」
「お…おじゃまします?」
「…失礼します」
「………します」
連れられて虎、豪炎寺、鬼道、不動が乗り込んで、仕方なさそうにあいな、きょうじ、みき、だいき、ゆあ、ゆきやが続いて扉が閉まる。
ふかふかのソファーに虎が目を輝かせて、こてりと凭れてきたようたに視線を落とした。
『ようた?』
「………かいとん、アメリカ戦見に行くね」
『ん?ありがとォ。んじゃあ俺もアルゼンチン戦見に行くわァ』
「…うん。待ってる」
『ん』
随分と落ち着いてるようたは考え事をしてるらしい。あからさまなそれが気にならないわけではなかったけど、せいがぽんぽんと頭を撫でてやってるところを見るに俺に言える話じゃないんだろう。
諦めて髪に触れて、車が止まった気配に額に唇を寄せた。
『いってらっしゃい。がんばれ、ようた』
「………、うん!いってきます!ああああ!今日も俺っちの天使がかわいすぎて離れたくなーい!!!!」
『早くいけ』
「ういーっす」
ぱっと離れて開かれた扉から飛びだす。降り立つとくるりと回ってこちらを見た。
「いってきまーす!」
「耀太がんばってな!」
「がんばれよー!栄垣!」
「おーらい!もちこ!」
にぱっと笑ったようたはそれからすっと視線を動かして、眉根を寄せた後に顔を背ける。
「お前らもいつまでも甘えてないでさっさと天使の影くらい踏めるようになんなよ、鈍足鈍感ミッドフィルダー共」
「「、」」
「俺の天使は優しいけど俺は優しくないんだからね!!」
ふんっと鼻を鳴らしたようたはすたすたとグラウンドに向かっていく。アーチの向こう側にはどことなく見覚えのある青紫色のユニフォームが揃っていて、ヨータが時間通りに来た?!!と歓声が湧いてた。
虎と条助がなんでそんな当たり前のことで歓声が?と目を瞬くのを尻目に扉が閉まって、車が動き出した。
「次はイギリスエリアに向かう」
「あ、ありがとうございます!」
「よろしくおねがいしまぁーす」
「たのしみだね!お買い物!」
「ふふ。そうねぇ。いいものが見つかるかしらぁ?」
上機嫌な四人に車は順調に進んだようで、数分で扉が開く。ゆきやが最初に降りて三人が手を借りて順に降りて、こちらに振り返った。
「お土産買ってくるね!かいとぉ!」
「れ、練習、がんばってね!」
「怪我がないように気をつけてねぇ」
「ボディーガードは任せてね」
『お前が一番あっさり連れてかれそうだけどなァ』
「ふふ。そのときは助けに来てね、かいちゃん」
肩を揺らして笑ったゆきやがひらひらと手を振るのに合わせて、三人もそれぞれ手を振るから同じように返す。
扉がゆっくりと閉まって動き出した車にだいきときょうじが顔を見合わせた。
「俺達より先に日本代表送らなくてよかったんですか?」
「ああ。まだ少し時間が早い。それに各国のエリアを散策するのなら時間が多いに越したことはないだろう?」
「むっちゃゲームしたい!ありがとうございます!誠さん!」
「気にするな」
微笑んだせいにだいきは嬉しそうで、きょうじも口元をゆるめてる。穏やかな空気感に車はすっと速度を落として、扉が開いた。
飛び降りただいきが目を輝かせる。
「わ!恭司くん!恭司くん!アメリカって感じ!」
「日本の繁華街もこんなんじゃない?」
「全然!なんか匂いが違う!」
「あー、それはわかるかも?」
続いて降りたきょうじも笑って、二人はくるりと振り返ってこちらを見た。
「誠さん、ありがとうございます」
「ああ。楽しんでくるといい」
「はい!諧音!練習がんばれよ!」
『おー。楽しんでこいよー』
「鬼道くんまた時間あったらゲームしような!」
「あ、ああ、ぜひ」
「ふふ。諧音、また後で。それじゃあ日本代表のみなさん頑張ってくださいね」
「おう!」
「はい!」
「ああ」
二人が歩き出したところで扉がまたしまって、走り出した車の中は最初の半分ほどに人数が減ってる。
元よりゆったりとした作りの車内ではあったけど、圧迫感が減ったことでか緊張していたらしい鬼道と不動がそっと肩の力を抜いた。
「それにしても昼飯うまかったな!」
「はい!あんなにおいしいごはんがお腹いっぱい食べれるなんて思いませんでした!」
「だな!まじおいしかった!本当にありがとうな!誠さん!」
「そうか。手配した甲斐があるな」
「おいしすぎて毎日食べたいくらいだったな、虎丸、綱海」
「ですね!おいしすぎてたくさん食べちゃいました!」
「腹いっばいだし動けるか心配だぜ!」
「念入りに準備体操しないとな」
和やかに会話をする三人に、せいは目尻を下げていて、雰囲気も柔らかい。
会話の中で引っかかることでもあったのか鬼道と不動はそれぞれ怪訝そうな顔をしていて。今日一日ずっとそんな顔ばっかりしてるのはわかってるけど、聞いてこないのならば俺から聞く必要はないかと目を瞑る。
穏やかな車内は適温に保たれ、微かに揺れてる。満たされた胃にうとうととして、意識がほぼ無くなったところでぽんぽんと髪が撫でられた感覚に目を開けた。
「諧音、そろそろつくぞ?」
『んー…』
いつから気づいてたのか、せいのやわい声と遊ぶようにつついてくる指先にしかた無く体を起こす。
未だに楽しそうに会話してる三人にいつの間にか鬼道と不動も少しずつ会話に混ざっているようで、せいはそれを眺めていたらしい。
ゆるんだままの表情に、せいは結構こいつらを気に入ってるんだなと目を瞬いて、肩に頭を寄せた。
「どうした?」
『後どんくらい?』
「五分もかからないぞ」
『ふーん』
残り五分じゃせいは二度寝を許してくれない。
触れたままの手を捕まえて、指を絡めて節に触れたり手のひらを指で押して時間を潰す。もちろん怒るわけがないせいは俺を好きにさせたままで、ゴミもささくれも一つもない、爪の長さまできっちり整ったせいにマメだよなぁと弧を描いてる爪先をなぞった。
「…来栖?」
『ん?』
「なにをしてるんだ?」
『暇つぶし』
「ひま、つぶし…??」
俺の行動を眺めてた鬼道は理解ができなかったようで目を瞬いてる。すっと車が止まる感覚に一度手を離した。
「ついたな」
「わーい!」
「サッカー!サッカー!」
開かれた扉から飛び出していくのは条助と虎。続けて豪炎寺と鬼道、不動も降りて、せいが先に出ると手を差し出すから握って降りた。
「体調はどうだ?」
『平気。…見てくか?』
「どうした?珍しい」
『なんとなく?』
「………、ふ」
ふわりと笑ったせいは話したばかりの手を上げると目の下に指をおいて、撫でていく。
「あまり寂しがるな。俺ももう少し一緒に居たいところだが、天使を独り占めしては耀太が悔しがる。またあとできちんと迎えにくるからそれまではあの子達と遊んでくるといい」
『別にそんなんじゃねぇし』
「そうか」
いつの間にか外されてた帽子がそっと被せられて、降りた手に顔を上げればせいが目を細めた。
「
『
「
屈んだせいが頬に唇を寄せて、帽子越しに頭が撫でられる。宥めるみたいな手に眉根を寄せて払えばくすくすとまた笑われた。
「ほら、友達を待たせては可哀想だぞ」
『ん』
「仲良くしておいで」
『ああ』
とんとんと背が撫でられて送り出される。せいが車に戻って、走り出したのを確認して前を見る。
出入り口では帰ってきた条助、虎を筆頭に、ちょうど居たらしい立向居特訓グループと合流して賑やかになってた。
「お!来栖ー!おかえりー!」
「来栖さん、お疲れ様です」
『お疲れ』
後ろからやってきた円堂と飛鷹が俺を見て、すっと吹雪が横に立った。
「おかえりなさい、来栖くん」
『ただいまァ?』
どうにもたのしそうな吹雪が不思議で、首を傾げながらポケットからハンカチを取り出して顔についてた土汚れを拭った。
『お前まで疲れてんの珍しいなァ?』
「…ふふ。うん、すごく楽しかったから。次は来栖くんも一緒に訓練しようね」
『あー、検討で』
「え〜?僕とのシュート完成させないとでしょ?」
『ああ、たしかに』
「それじゃあ午後に練習しようね。ね、ヒロトくん」
「え、僕も?」
「みんなで遊んだほうが楽しいでしよ?」
「それは…そうかもしれないけど…」
急に話をふられて目を瞬く基山に吹雪はどうにも楽しそうで、妙に高いテンションに首を傾げていれば喧騒が近づいてきた。
「諧音ー!」
「諧音さーん!」
『あ?どうしたァ?』
「お写真撮りたいです!」
ぱっと笑うのは音無で、そういえばこの合宿中もちょいちょいカメラを首から下げてかまえてたなと思う。
日本にいる保護者への報告用やサッカー協会への提出用であろうそれに、にこにこしてる左右の二人に視線を落とす。
『あー…、これ使えねぇけど…』
「あ!大丈夫です!監督から聞いてます!」
『ん、ならいい』
そわそわしてる条助と虎の背に手を回して、目を輝かせた二人がくっついたところでカメラを見る。
「はい!チーズ!」
かしゃりと聞こえた音に二人はもう一枚!と声を合わせて、更に2枚撮ったところで手を下ろせば二人は音無に近づいて撮ってもらった写真を確認しにカメラを覗いてる。
たのしそうな姿を眺めていれば服が引かれて、近くにいた不動はすぐに手を離して眉根を寄せる。
『どーしたァ?』
「あれ、どうにかしろ」
『あれ?』
不機嫌な顔の不動の視線の先はおおはしゃぎの豪炎寺と円堂で、それに巻き込まれてる風丸、鬼道らしい。あまりの賑やかさに寮内にいたらしい数人が何事かと顔を覗かせ始めてて、ついでに見えた木野の苦笑いに頭を掻く。
更に巻き込まれそうになってる立向居を引っ張った。
『立向居』
「あ!諧音さん!お疲れ様です!おかえりなさい!」
『ん、ただいま』
穏やかな笑みにやっぱりアニマルセラピーと思いながら目を合わせる。
『立向居、この後はもうボール触らねぇ?』
「ええと、少し休憩したら自主練の予定でしたが…もしかして!」
『おー、体動かそうかなって』
「!!」
ぱぁっと明るくなった表情に頭をなでて、近くにいた飛鷹と吹雪、基山も話を聞いてるのを確認してから、さて、とあまりに騒いでて気づいてない奴らの片割れに手を伸ばして首根っこを掴んだ。
『おい、エースストライカー。さっさと用意してこい』
「え?」
『その格好で運動できねぇだろ』
「………、もしかして!」
『おー。…じゃ、あとはよろしく、風丸』
「はぁ…、まったく、仕方ないやつだな…。わかったよ。任せろ」
『んー、頼んだァ』
流れを把握して眉尻を下げる風丸を確認して、豪炎寺の服を離す。
喧騒を抜けて部屋に入る。静かになった空気に一度伸びをして、帽子を脱いでベッドに座る。
ちょうど揺れた携帯に画面を見れば風丸から30分後と指定が来ていて、アラームだけかけてから布団に入った。
目を閉じればすぐに眠気が襲ってきて、あっさりと意識を手放した。
