ブルーロック



『冴…!かっこいい…!』

「にぃちゃんかっこいいね…!!」

「……………」

きらきらの目が二つ。俺とおんなじ水色と、それからちょっと淡い緑色。宝石みたいに美しく輝く二人の瞳と興奮で少し赤くなってる頬に、頭を撫でて頷く。

「当然だろ」

「にぃちゃん!凛ちゃんとすいちゃんとおしゃしんしよ!」

『写真とりたい…!』

「もちろんだ」

俺の正装を見てはしゃいでる姿は大変愛らしい。

表情を緩めて頷けば二人は喜んで、ずっとこちらを眺めている父さんと母さん、それから累さんに目配せする。

待ってましたと言わんばかりにカメラを構えた父さんに二人を横に並べれば、母さんと累さんが微笑んだ。

「ほら、りんちゃーん」

「睡、こっち向いてー」

ひらひらと手を振って父さんに視線を集めるから三人でそちらを見て、父さんが指に力を入れる。

「撮るよー」

「ちーず!」

にぱっと笑った凛に睡と俺も口元を緩めて、三人で写真を撮っているうちにぴぴっと電子音が響いた。

母さんがさっと音を止めると俺達を見る。

「それじゃあ、冴ちゃん、行きましょうか」

「ああ」

そろそろ向かわないといけない時間らしい。隣を見れば睡がふわりと微笑む。

『いってらっしゃい、冴』

「…………すぐ迎えにくるからいい子にしてろよ」

『うん』

納得はまだいってないけど、人数の上限がと言われてしまえば譲らざるを得ない。

累さんと並んで俺を見据えて微笑む睡に顔に力が入って、眉根が寄る。

「まあまあ。ほら、冴ちゃん、怖いお顔しないの」

「不機嫌な顔だ」

「ふふ。そうねぇ。睡ちゃんと離れてるときはいつもそのお顔してるものね」

「冴は睡ちゃん大好きだもんな」

にこにこと笑ってる二人に累さんが相変わらずの苦笑いで返す。

このあとはお祝いの食事会が控えているからまた会うとはいえ、一瞬たりとも離れていたくないのが本音で、不服な俺と同じく凛がやわらかくてふにふにのほっぺたを膨らませて睡にくっついてた。

「すいちゃんいっしょー!」

『ごめんね、凛ちゃん。またあとで一緒だから、今は許してくれないかな?』

「やー!」

『うーん。…凛ちゃん?』

ぷりぷりと怒る凛に睡は累さんとよく似た苦笑いを浮かべて、それから少し屈んで凛の顔を覗き込むように見上げた。

『あのね、凛ちゃん。実は俺しなきゃいけないことがあるの』

「?」

『凛ちゃんにだけ特別に教えるから、お耳かして?』

「こしょこしょはなし?」

『うん。内緒のお話』

睡とおなじように膝を折って小さくなった凛に、睡はそっと右耳にかかっていた髪を撫でるように梳いて押さえると口を近づける。

小さい声でなにかを伝えて、そうすれば凛は目を丸くして、睡を見上げた。

「ほんと?」

『うん。これは凛ちゃんにしか言ってないよ。だから凛ちゃんにしかお願いできないことなの。駄目かな?』

「〜っ、めじゃないよ!!」

ぴょんっと立ち上がった凛はむふんと鼻を鳴らして、大きく息を吐くとぱたぱたと駆け寄ってきて俺の手を握った。

「凛ちゃんいってくる!!」

『うん。凛ちゃん、ありがとう。よろしくね』

「う!!」

とんでもなく大きく頷いた凛に母さんも父さんも楽しそうに笑っていて、さぁと俺と凛の手を取った。

「いってきます、睡ちゃん、累さん」

「いってきまーす!」

「いってくる」

「はい!」

『いってらっしゃい』

「留守を頼みます」

最初は母さん。最後は父さん。二人に見送られて歩き出す。学校までは数十分の道のりで、隣を見れば凛はるんるんと調子外れの鼻歌をこぼしながら満面の笑みで歩いててさっきまでのふて顔は面影もない。

出かけ際の二人を思い出して、口を開いた。

「凛」

「なぁに?」

「睡と何話したんだ?」

「すいちゃん!凛ちゃんにおねがいしてくれたの!」

「ああ、してたな。何を頼まれたんだ?」

「にぃちゃんのひーろー!」

「、俺のヒーロー?」

「あのね!凛ちゃんにしかできないの!」

「……凛、兄ちゃんに睡から言われたとおりに話してくれ」

「??」

「睡になんてお願いされたんだ?」

「えーっとね、すいちゃんとかさねさん、おうちでにぃ…あ!!!」

「あ?」

ぱっと目を見開いた凛はあわあわとしてから、誰もも繋いでない右手を口に置いて首を横に振った。

「凛?」

「め!」

「?」

「凛ちゃん、すいちゃんのおねがいできるの!!」

「それ俺のヒーローのことだろ…?」

「んーむ!」

言わないようにか口元にまた手をやる凛に、仕方なく上を見る。父さんも母さんもにこにことしていて、これは事情を知ってるか察してるやつだろう。

「凛、兄ちゃん、仲間はずれか?」

「!!!」

はわわっと慌てる凛が目を泳がせて、これはもう一回言ったら行けるなと目を細めた瞬間に喧騒が聞こえた。

「なんだ…?」

「ないてる??」

ぎゃーぎゃーと響いてるそれは元気が良すぎる泣き声で、凛が不思議そうに上を見る。

「パパ?ママ?なんで??」

「そうだねぇ。初めての場所でびっくりしちゃったのかもね」

「びっくり!凛ちゃんもしらないとこびっくりする!でもなかないよ?」

「ふふ。凛ちゃんはいつも冴ちゃんと睡ちゃんがいるから、寂しくないからじゃないかしら?」

「うん!凛ちゃん、にぃちゃんとすいちゃんいっしょ!」

にぱぁっと笑う凛は、昔から怖いもの知らずでどんどん先に進むし新しいことに躊躇わない。きっと俺と睡が隣にいないときでも泣くまではないだろう。

俺も迷子になっても泣かないタイプだから少し新鮮で、母さんはふふっとまた笑んだ。

「いろんな子がいるから、冴ちゃんもなかよしさんができたらいいわね?」

「要らねぇ」

「お友達いらないの?」

「俺には凛と睡がいる」

「あらあら。冴ちゃんは本当に一途ね」

母さんと同じように父さんもふわふわとしたゆるい空気をまとってて、ぎゅっと空いてた左手が掴まれる。俺よりも小さな手のひらに少し下を見た。

「凛ちゃん!にぃちゃんといっしょ!」

「ああ」

「すいちゃんもずっといっしょ!」

「そうだ。三人ずっと一緒だぞ、凛」

「ん!!!」

嬉しそうな凛に後で睡にもちゃんと伝えてやらないと口元を緩めて、喧騒に近づいた。

「ご入学おめでとうございます!」

ぱっと明るく挨拶をされる。母さんと父さんがにこやかにありがとうございますと返して受付を始めたから隣を見た。

「凛」

「なぁに、にぃちゃん」

「俺のヒーローするのか?」

「うん!すいちゃんおねがいだって!」

「ふーん?」

「にいちゃんこわいこわいあったらいってね!」

「こわい…?」

「ん!にいちゃんこわいあったら凛ちゃんがぎゅーってしてあげるの!」

「こわいあったら…、それ、睡が言ったのか?」

「すいちゃんが凛ちゃんまかせてくれたの!つよい凛ちゃんしかできないの!」

「強い…??」

相変わらず、元気によく話してくれる凛だけど肝心なことが伝わってこない。

凛の言葉を読解するためにもっと情報を引き出そうとしたところで右手が引かれた。

「冴ちゃん」

「ん」

一度離れるらしい。繋いでた手を離して、それから見知らぬ目の前の人があっちにと指した。

「あそこに見える赤色のカーテンのところから冴くんは入ってもらえるかな?」

「……」

行き道を確認して、左を見る。

「凛」

「なぁに?」

「いってくる」

「にいちゃんどこいくの?」

「あっち」

「凛ちゃんは??」

「凛は母さんと父さんとそっちだ」

「にいちゃんないない?!!!」

「ああ。また後でな」

右手で丸い頭を撫でてやる。

ショックを受けてるのか固まってる凛ははっとして、それから繋いだままの父さんの手を引いた。

「パーパ!!」

「ん?どうしたの?凛?」

「凛ちゃん!にいちゃんいっしょめ?!」

「冴はこれからお話を聞きにいくから、ちょっとの間だけ僕達と別々に移動するんだよ」

「ぶーっ」

「さぁ、凛ちゃん。冴ちゃんにいってらっしゃいしようね」

「…はぁい」

不服そうに俺と手を解いて、それからじっと見つめられる。

「にいちゃん、こわいあったら凛ちゃんのとこきてね」

「ああ」

「にいちゃんいってらっしゃい!」

「いってきます、凛」

頭を撫でてから、母さんと父さんとも目を合わせて歩き出す。

指定されたとおりに進んでくぐったカーテンの先はサッカーコート一つ分もないくらいの広さで、中にいた先生らしき人間に促されて椅子に座る。

周りには俺と似たような洋風を着せられてる子供がたくさんいて落ち着きがない。

行くことができなかったけれど、睡も入学式のときは周りの奴らのようにそわそわしてたんだろうか。

小さな肩を不安で竦ませながら、あの大きな瞳をこれから始まる学校生活に期待で輝かせてたに違いない。見てもいないのに目に浮かぶ様子に口元が緩む。

ぼーっと睡のことを考えているうちに話は進んでたようで、いつの間にかステージには知らない人間がたくさんいて、入れ替わり立ち替わり話してる。

俺は興味がないから聞く気はないし、きっと凛も今頃飽きて寝てるかおもちゃをかじってるかだけど、睡はこの辺もしっかり聞いてたに違いない。

睡は今まで他人と過ごす時間が少なかったから、何もかもが新鮮で楽しいらしい。

好奇心は人並みにあるようだけど、自分の身体が気持ちについていかないからと諦めて目を逸らしてしまう癖があるから、それを凛がぶち壊して俺が引っ張っていくのが日常で、三人で一つのそれはこれからもずっと続いていく。

大きな拍手の音に意識が戻される。

いつの間にか式は終わってたようで、わらわらと人が動き始めてた。

俺は赤色のカーテンをくぐったけれど、隣は青と黄色で、それがすでにクラス分けだったらしい。俺と同じく赤色をくぐってきていた子供が促されて立ち上がり先生についていく。

通されたクラスは2組で、名前の順だからか俺は廊下に近い、前かは二番目の座席だった。

「にいちゃん」

「凛?」

聞こえた声に下を見れば、教室と廊下を隔てる壁の下側に穴があった。空気の入れ替え用らしいそれは凛が覗き込むにはちょうどよかったらしく、手を伸ばして頭をなでた。

「洋服汚れるから見えないなら父さんに抱っこしてもらえ」

「ん!」

ぱっと下から消えた凛は次には父さんのよいしょっとの掛け声と共に上側に現れる。

「にぃちゃんみえた!」

「そうか」

嬉しそうな凛に頷いて、そうすれば人が集まったからか、それとも時間だったからか前に先生が立った。 

「こんにちは、はじめまして!」

自己紹介から始まるらしいそれをぼんやり眺める。さっきも前にいたような、いなかったような、そんな曖昧な先生が話す内容は耳を抜けてなにも頭にはいってこない。

「それじゃあみんなもあいさつしましょう!せっかくなので名前とお誕生日、あと好きなものをいってください!」

この先生は明るいやつらしい。大きな声のそれにつられてか立ち上がった目の前の席の奴も明るく、言われたとおり名前と誕生日を言い、続けて好きなものに食べ物を上げてた。

「次は糸師冴くん!」

「…」

仕方なく立ち上がって、息を吸う。

「糸師冴。10月10日。好きなものはサッカーと凛と睡」

口にして座る。ぽかんとしてる先生ははっとしてから笑顔を作った。

「冴くん、好きなものをいっぱい言ってくれてありがとう!ええと、サッカーとあと2つはお名前かな?」

「ああ」

「あ、えっと…お友達、」

「俺の睡と弟の凛」

「凛ちゃんもにぃちゃんとすいちゃんすき!」

「ん。ありがとな、凛。睡にも後で言ってやれ」

「う!!!」

固まりかけてる先生と空気をものともせず、可愛らしい凛の声が響いてにぱっと笑う。母さんと父さんがあらあらと笑い、他の人間も家族愛が強いのねぇと空気を和らげたところで先生も口元を緩めて次のやつの名前を呼んだ。

時折詰まることはあったものの自己紹介は終わって、必要な話をした先生に、大きな音が響く。保育園で聴いてたのと似た、時間を報せる音に先生がそれではと言葉をまとめた。

「また明日もみんなと会えるのを楽しみにしてます!」

立ち上がって、挨拶をして、さっさと教室を出る。

「にぃちゃ!!」

どんっとぶつかってくるように抱きついてきた凛を受け止めて、頭を撫でながら顔を覗き込めば凛がじっと俺を見た。

「にいちゃんこわいない??」

「ああ。凛がいたから怖いもんなんかなかった」

「凛ちゃんすごい?」

「凄いぞ、凛」

えへへと笑う凛の頭をもう一度撫でて、しっかりと手を繋ぐ。

少し離れたところで見守ってたらしい母さんと父さんに近寄って、四人で学校を離れる。

「冴、お写真とろうね」

「ん」

「凛ちゃんも!」

「当たり前だ」

いつもどおり隣同士、笑う凛につられて口元を緩めて、シャッターをきる父さんがよしと頷く。俺達が離れればまたすぐに違う奴が写真を撮り始めてた。

「睡もここで写真撮ってたな」

「入学式と卒業式は看板の前で写真撮るのが慣習だからかな?後から見たときに思い出しやすいからね」

「ふーん」

俺は特に今日という日に思い入れはないし、さっき撮った写真もきっといつもと同じ顔をしてる。

けど見せてもらった去年の睡は蕩けるように累さんと笑っていて、ふわふわとしたそれに入学式が睡にとって大きな思い出になったのはひと目で理解できた。

睡は保育園もほとんど行ってなかったらしいし、こういう人が大勢いるイベントは初めてだったろうし、睡が少しでも笑えてるならそれでいい。

来た道を歩いて戻る。凛は式の最中に昼寝をしてご機嫌らしく、母さんも父さんも穏やかに笑ってて、いつもならば道草をする凛がまっすぐと俺を引っ張るように家に向かっているのに気づいて首を傾げた。

「凛」

「んー??」

「今日はおかしいいのか?」

「きょうはめなの!はやくすいちゃんとかさねさんにただいまする!」

「なるほどな」

それならと俺も余計なことを言わずに歩く。

行き道よりも早く景色が流れていって、見慣れた道、我が家が見えてきたところで足を止めようとした俺に凛がそのまま手を引っ張った。

「凛?」

「にぃちゃ!はやく!はやく!」

「どこ行く気だ?」

「ふふ。冴ちゃん、凛ちゃんについていってあげてちょうだい」

「いい事があるよ」

「いい事…」

引かれるままに足を進める。家を通り過ぎて、一軒、二軒、三軒。そのあたりで凛が向かいの家に近づき始めてたからなるほどと一緒に歩いて、五軒分歩いたところで足を止めて、いつものように凛を抱える。

「えい!」

凛が押したスイッチにピンポーンと音が響いて溶けて、すぐにぴっと返事が聞こえた。

「今開けますので中へどうぞ!」

珍しく迎えたのは累さんの声で、下ろしてやった凛を父さんが抱え直して、母さんが柵を開ける。

中に入ったところで扉が開いて、ひょこりと睡が顔を出した。

『冴』

「睡」

俺を映して輝く瞳に、うっすらと赤らむ頬。会えて嬉しいのを隠そうともしないその表情に胸も頭の中も睡でいっぱいになる。

手を伸ばして頬に触れれば擽ったそうに目を細めて口元をふやけさせるから、すぐに近づけて一度触れさせて、瞳を見つめる。

「ただいま、睡」

『うん、おかえりなさい。冴』

ふにゃりとした柔らかすぎる表情に俺も口元が緩んで、珍しく睡が手を伸ばして俺の頬に触れた。

「、」

『えっと、冴、入学式どうだった?』

「別に、なんもない」

『その、怖かったり、嫌だったりとか、なかった?』

「…? 」

今日何度も聞いたようなそれに目を瞬く。

不安そうに見える睡の表情に、ああ、と納得がいった。

「凛がいたし、なんもなかった」

『!』

「な、凛」

「うん!凛、ちゃんがにいちゃんこわいめするの!すいちゃん!凛ちゃんがんばったよ!」

『凛ちゃんすごいねぇ…!ありがとう!』

「凛ちゃんにいちゃんのヒーローだもん!すいちゃんのおねがいできるの!」

胸を張って報告をする凛に睡も嬉しそうで、二人してにこにこしてる姿に母さんと父さんが頷いて、さてさてと凛の頭を撫でた。

「軒先でお話させていただくのも累さんに悪いから、お邪魔させてもらいましょうね」

「あい!」

「ほら、冴も」

「睡、入るぞ」

『うん!』

笑った睡が手を差し出す。

『冴、凛ちゃん、おかえりなさい』

「ただいま」

「たーいま!!!」

俺と凛が同時に手を取って中に入ればふわりといいにおいがして、顔を上げた俺に凛もにぱっと笑った。

「おいしいのにおい!」

『母さんといっぱい作ったからたくさんたべてね!』

「、睡が作ったのか?」

『うん!お手伝いしたんだよ!』

テンションが上がってるらしく、少し赤い頬に高い声。可愛らしいそれに俺の睡は最強だなぁと繋いでる手をしっかりと握り直して歩く。

「すいちゃんおいしいなぁに?」

『えっとね』

凛とにこやかに話す睡の横顔にうんうんと頷いて、開かれた扉にいつぞやかに入ったらリビングに招かれた。

テーブルの上にはたくさんの皿が置かれていて、室内には温かな匂いが漂ってる。

「累さん、おじゃましまーす」

「いらっしゃいませ!どうぞおかけください!」

「お手伝いしますよ」

母さんと父さんが累さんに近づいて、向こうから累さんの声が響いた。

「睡ー、冴くんと凛ちゃんと手洗ってきてー」

『うん』

こっちと手を引かれて洗面所に向かい順番に手を洗う。睡に手を拭いてもらってた凛がほえほえと笑って、また手をつなぎ直してリビングに戻ればテーブルの上の料理が更に増えてた。

「準備万端ですね!」

「ふふ、とても楽しみですわ」

「ホームパーティーなんて初めてでこれで良いものなのか…」

賑やかなリビングに色とりどりの料理。見覚えのあるのはうちから用意したものだろう。

促されるままに、珍しく俺を真ん中にして並んで横一列に座れば向かいに母さんたちも座った。

「冴ちゃん」
「冴」

穏やかな二人の声にぱっと凛も顔を上げて、俺を見る。

「にいちゃん!」

『冴』

「冴くん」

『「「小学校入学式おめでとう!」」』

「おめでと!!!」

ワンテンポ遅れて響いた凛の声。全員の笑顔に息を吐いて、口元を緩める。

「ありがとう」

「今日は累さんと睡ちゃんがたくさんお祝いの準備してくれたんだよ!」

「さぁさぁ冴ちゃん!いただきますしましょ!」

「お、お口に合うといいんですが…」

そわそわしてるのは累さんと睡で、母さんと父さんが大皿から料理をすくって俺に差し出す。凛は専用のプレートに最初から取り分けられてる食事にフォークを持った。

「いぁたます!」
「いただきます」

同時に挨拶をして掬い上げた食事を口に運ぶ。

ふわりとした匂いが広がって、咀嚼して飲み込む。斜め向かいの累さんが俺の行動を見守ってて、隣の睡もおんなじ顔で緊張してる。

「うまい」
「おいしい!」

「っ、」
『よ、よかったぁ…!』

同時に肩の力を抜くから母さんと父さんがそっくりだなぁと笑って、フォークを持った。

「私達もいただきましょうか」

「楽しみだね」

「ぱーぱ!凛ちゃんこれおいしい!


「ハヤシライスかぁ、凛が食べるのは初めてだもんね」

「あまいの!」

「じゃあ僕もそれからいただこうかな」

和やかな父さんと凛の声。いつの間にか母さんと累さんが会話を弾ませてて、隣を見る。

「睡」

『ん?なぁに?』

「睡はどれを作ったんだ?」

『えっと、これのお野菜切るのと、こっちの混ぜるのと…』

一つずつ料理を見て話す睡は楽しそうで、聞くだけでもかなりの量の手伝いをしていたらしい睡に、入学式に行く前に凛にお願いをしていた姿を思い出した。

「入学式の間、用意してたんだな」

『うん。せっかくのお祝いだから、俺も冴にできることないかなって思って』

「俺のため?」

『うん、冴のため』

「…そうか」

ふわりと笑う睡に頷く。

「凛が成人したらすぐ結婚しよう」

『…うん??』

「本当は俺が大人になったらでもいいけど、凛が拗ねるから凛が大人になったらすぐにだ」

『大人???』

「でも凛の誕生日が結婚記念日…よし、睡の誕生日にするか」

『さ、冴?』

「凛には2ヶ月待ってもらおう。俺は二年待つんだし凛も頑張れる」

この名案は後で母さんと父さん、累さんにも伝えておこう。

「睡」

『え、はい』

「これからもよろしくな」

『う、うん、よろしく…?』

こてりと首を傾げた睡に胸が満たされる。

話がまとまったから安心して食事を再開するためにフォークを持ち直した。


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