ブルーロック



「「しよみくん!いっしょにやろー!」」

『う、うん』

学校も一ヶ月も経てばある程度仲良くしたい子が決まるのか声をかけられる相手が固定化された。

俺は最初に話しかけてくれた隣の席の金崎さんと前の席の砂原くんに頷いて、それから斜め前の丘山さんと四人一組になることが多かった。

金崎さんと砂原くんは明るくて元気で、左右を見てあたふたしてる俺や、一人になりがちな丘山さんの手を引っ張ってくれる。

丘山さんは俺と似ているけど、あまり関心がわかないのか、授業中も興味がなさそうにしているぼーっとしていて、休み時間は一人で本を読んでいたり文字を書いていたりと好きなことをしてることが多い。

元気いっぱいの金崎さんと砂原くんは休み時間は外に遊びに行くことが多いから、必然的に丘山さんと俺は教室に残ることが多くて、とはいえ丘山さんは集中しているから俺も余計に話しかけたりせずに教室の後ろにある本棚から適当な本を取って読んでみたり、渡されたプリントを見直したりとして短い休み時間を自由に過ごしてた。

学校が始まったことで、変わったのは生活リズムで、俺は午前から午後の2時くらいまで学校にいる。もとはお昼をすぎれば、冴か凛ちゃんと一緒に出かけたりサッカーをしたりしていたからそれが帰ってからの短い時間になった。

凛ちゃんは会うたびに今日は楽しかった?とキラキラした目で聞いてくれて、冴は今日も嫌なことはなかったかと確認してくれる。

今の時間は凛ちゃんはお昼寝の時間かなと時計を見上げたところでかたんと音がして、視線を向けた。

「……………ねぇ、」

『…あ、俺?』

聞こえた小さな声。こちらを振り返ってる体と合わない視線。きょろきょろと周りを見ても近いのは俺しかいなくて、口を開く。

『丘山さん、なぁに?』

「………、」

視線は相変わらず合わないけど、迷い無く伸ばされた手が俺の持ってた本を指した。

「…本、好きなの?」

『本…うん。いろんな本を読むよ』

「…それ、読んだことある」

『あ、そうなんだね。俺も今も読み終わったところ。可愛いお話だったよね』

「…うん」

こくりと頷いた丘山さんは満足したのかくるりと前を向く。なにか変なことを言ってしまっただろうかと目を瞬いて口を開こうとして、響きわたったチャイムの音に諦めた。

パタパタと元気な足音を響かせながら帰ってきた金崎さんと砂原くんと話して、今日も学校が終わる。

教科書や筆箱をしまって帰り支度を済ませ立ち上がった。

近くの席の子にまた明日と声をかけて教室を出る。昇降口できちんと靴を履き替えた。

今日も冴と凛ちゃんは家の前で待ってるに違いない。

「しよみくん」

『?』

顔を上げれば丘山さんが立っていて、すっと持っていたものが差し出された。

「あのほんすきなら、これもたのしいとおもう」

『かしてくれるの?』

「うん。よめたらかんそうおしえて」

『…!』

頷かれるから両手で丁寧に受け取る。表紙には文字。誰かから物を借りるのははじめてで、どくどくと大きく音を立てる心臓に顔が熱くなる。

本を抱きしめて顔を上げた。

『あ、ありがとう!読み終わったら言うね!』

「うん」

こくりと頷いた丘山さんはこのためだけにここにいたのか、ばいばいと手を振って校舎に戻っていく。

手を振って見送って、それから抱えてた本を折れないように鞄にそっとしまって、改めて歩き出す。

軽い足取りにいつもより早足で帰路についたようで、ぱっと顔を上げた凛ちゃんが俺を見つけて飛び込んできた。

「すいちゃんおかえり!!」

『ただいま、凛ちゃん』

「きょうはやいね!」

『そうかな?』

「いっぱいあそべるね!」

『うん。今日もたくさん一緒に遊ぼうね、凛ちゃん』

頬をすり寄せて笑いあって、飲み物を取りに行ってたらしい冴も合流して三人で遊ぶ。

いつもどおり体力が尽きてしまい後半は見学に落ち着き、陽が落ちてきたから別れて、家に帰って入浴と食事を済ませて、さてと本と向き合った。

借りた本はそこそこ分厚くて重たい。そっと開いた本は文字が多くて、一つずつ文字を音にして頭の中に再生していく。

丁寧な言葉選び、やわらかな表現。それから明確な話筋。少しだけと思っていた本は気づいたら最後の作者のあとがきになっていて、パタリと閉じて大きく息を吐いた。

『す…っごくおもしろかった…!!』

普段あまりファンタジーは読まないけれど、それはとてもおもしろかった。

文字を読んでいたからか脳が働いていて、目がさえてる。はっとして見上げた時計はもう日付が変わっていて、さすがにまずいとつけたままだった電気を消して、ベッドに潜り込み、それから本の表紙をなぞる。

『…明日、丘山さんに伝えないと…!』

初めて出来た、本を貸してくれる友達に口元が緩む。目を閉じれば読んでいた物語の情景が浮かび上がって、思わずランプをつけて本を照らす。

眠気が襲ってくるまでと本を開き直して、結局電気をつけていなくても変わらないくらい外が明るくなる頃に気づいたら眠りについてた。
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