DC 原作沿い




スコッチが消えたことで、僕やライにも疑いの目が向けられた。それはほぼ常に三人一緒に仕事をしていたから怪しい動きがなかったかの確認と、僕達が結託してるNOCではないかと確認するためのもので、特にジンやウォッカ、それからベルモットの空気がひりついていた。

処刑した当人のパリジャンに関しては、NOCとわかるまではそういった探り合いをする気はないといつもどおり眠たそうな目元を擦ってあくびを零していて、まるで彼奴のことは忘れたような、そんなあっさりとした物言いに手を握り締めれば塞がったばかりの傷口のかさぶたが剥がれた。

「それにしても随分とあっさりと処刑されましたね」

『んー?どういう意味ー?』

「貴方、スコッチにかなり世話を焼かれていて仲が良かったじゃありませんか。情が移ったりしていないのかと思いまして」

『ぁー…うー…』

問いかけた先のパリジャンは視線を伏せる。長いまつげが影を落として、あれ?と思ったところで恐る恐るといったように俺を見上げた。

『あのね、あのね、バボくん。こっちきて』

「なんですか?」

手招くような動き。周りを伺って、それから俺の耳元に口を寄せた。

『みんなには内緒だよ』

「なにを…」

『さみしい』

「、」

『でもね、あんまりそういうのは言っちゃいけないの』

「…なぜですか?」

『んー』

捨てられた子犬みたいな目。それから視線を揺らして、落として、そっと音をこぼす。

『俺は仕事しないと生きてちゃいけないの』

「、」

『パリジャンじゃなくなったら俺は捨てられちゃうの。パリジャンでないとここには置いてもらえない』

「お前は…」

『…、うん!スコッチのことは残念だったけど!俺には遊んでくれる人いっぱいいるから大丈夫!バボくんもこれからも俺と遊んでね!』

「……僕は仕事があるのでその合間にしか話しませんし、貴方にわざわざ料理を振る舞ったり遊びに連れて行ったりしてはあげませんからね」

『えー!やだやだ!俺と遊んでー!』

「はぁ。まったく」

いつもどおりにぱっと笑った後に駄々をこねるパリジャンに手のひらを握りしめようとして、ちょうどよく揺れ始めた携帯を持った。

「仕事のようなので失礼します」

『んー、仕事じゃ仕方ないか…』

テーブルに突っ伏したパリジャンは、あ、と声を零して立ち上がると箱を開けて、袋に入ってるそれを差し出した。

『スコッチの携帯、あげる!』

「…ありがとうございます。いただきますね」

『うん!それじゃあ仕事頑張ってねー!』

手を振られて見送られる。扉を閉めて早足で家を出て、それから車に乗って、エンジンをかけて車を走らせる。家から離れて、車を止めたところで顔を覆った。

「ヒロ」

同期の5人は、卒業前に一人欠け、卒業してから一人、眠りにつき、さらにもう一人も眠ってしまって、また一人失った。

やっと彼奴が帰ってきたと思ったのにどうしてこうなってしまったのか。

渡されていた携帯は簡易的な使い捨ての袋に入っていて、密閉のためかスライダーがついていたからそっと開く。

壊れていると言われたとおり、取り出した携帯は真ん中に穴が開いていて、その穴についた赤黒い染みからは微かに鉄の臭いがする。

唇を噛んで、それから、もう一度言葉が溢れる。

「どうして」

ずっと、彼奴は、ヒロと仲が良かったのに。あんなにも楽しそうにしていたのに消えてしまった存在に胸は張り裂けそうなくらい痛い。

殺されたのは俺の大切な幼馴染で同志のヒロで、ヒロを殺したのはヒロたちが大切にしていた彼奴。

信じたくない真実に涙は出てこないのに目頭は熱くて、ぼろぼろと言葉が落ちる。

「なんで殺した。殺さないと生きていけないんだよな。どうして殺されたんだよ。彼奴のことを誰が守るんだ。お前は、誰に………」

ぐっと握りしめた携帯が音を立てて、そっと力を抜く。真っ黒で何も言わない携帯に目を細めて、あの日の言葉を思い出す。

一番最初に一人欠けたあの日。泣いている萩原、怒り狂った松田。それから無言になってしまったヒロ。僕と伊達は翻弄されて、それから三人は落ち着いたと思うと顔を上げて同じ言葉を口にした。

“死体が見つかってないなら彼奴は生きてる。必ず見つけ出して、俺達が守る”

僕も伊達も、信じることで精神が安定するのならばと手伝うことを約束したそれに、まさかこんなことになるなんて思っていなくて。

顔を上げて、空の隣席を見る。

「………僕が引き継ぐよ、ヒロ」

あの日誓っていた三人は今全員もう守れるような状況にない。伊達をこちらに関わらせるわけにもいかない。それならば彼奴らの願いは俺が守るしかない。

大きく息を吐いて、目を瞑った。

「ヒロ、安らかに眠ってくれ」



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