DC 原作沿い


撒いたガソリンはちゃんと気化していて、遠隔でつけた火種は爆発音を伴ってあっという間に燃え上がる。

ビルの出入り口の見える公園のベンチで、買ったばかりのミルクティーを飲んでいれば少しして、野次馬が集まり始める。それから見覚えのある金髪が降りてきた。

燃え盛るビルは原型をとどめていたとしても高温に熱されて鉄が真っ赤に光っており、とても入れる状態ではない。

呆然と、何か二文字をつぶやいた彼は歯を食いしばって携帯を取り出す。耳に当てた瞬間に俺の携帯が揺れて、仕方ないから電話に出てあげた。

『こちらパリジャンー』

「今どちらに?」

『ひみつー』

「……………」

あからさまに苛立ってる表情の彼は地団駄を踏んでないのが不思議なくらいで、一呼吸置いてから笑みを繕う。

「かくれんぼが得意なんですね。随分と鼠を見つけるのが早い」

『えへへ。褒められたー』

「この火災は貴方が?」

『うん。中血まみれだし、ジンくんもいーよって言ってたからど派手にしてみた!』

「ええ、まったく。派手すぎじゃないですか?」

『えー?そう??』

少し前にもこのあたりはガス漏れだかがあって大騒ぎがあったし、ちょうどよかった。

金髪は一瞬俯いて、間ができてしまったからミルクティーを飲む。喉が渇いてたのかあっという間に空になってずずっと音を立てたからストローから口を外した。

「スコッチがNOCだったなんて驚きでしたね」

『んー、そうだねー』

「なにか情報は得られましたか?」

『んーん。全然。いっぱい質問しても話してくれないし、携帯も自分で壊しちゃってたんだもん。時間と弾の無駄だったよー。帰ったらキャンねぇとコルにぃに補充してもらわないと』

「…そうでしたか。組織に仇なすようなNOCが減るなら…少しでもスコッチが喋ってくれたら良かったんですけどね…」

『だねー』

「もしよろしければ壊れている携帯を回収させていただいても?」

『携帯?穴あいちゃってるよ?何に使うの?』

「メモリー部分が壊れていなければデータが復元できるかもしれませんから試してみたいんです」

『なるほどねー。いーよ。俺そういうの得意じゃないし今度上げるねー!』

「ありがとうございます。情報がわかりましたら貴方にも共有しますね」

『うん。期待しないで待ってるー』

とんでもない嘘つきだなと思う。

同じNOCでスコッチと仲がいいくせに本当に心底残念とでも言いたげな声色。それから握りしめられて赤色が滴ってる震える右手と、涙の溜まった目元に心中息を吐いて空を仰ぐ。

星明りでほんのりと明るい空は黒煙のせいでとても濁っていて空気も淀んでる。

遠くから聞こえてきたサイレンの音は誰かが通報した消防車の音だろう。

ベンチから立って、それからゴミ箱に空っぽの紙パックを捨てて一度伸びた。

まだ繋がってる携帯を再び耳に当てる。

『あのね、バボくん』

「はい」

『前にも言ったかもしれないんだけど…』

向こうの不思議そうな声。顔は泣くのと苛立たを堪えてて本当にアカデミー賞ものの演技力だ。

『俺、嘘つきが嫌いなの』

「おっしゃってましたね」

『…だから、…バボくんは、スコッチと違って、俺に嘘、つかないよね?』

「……―ええ、もちろん」

声は爽やかで、それでいてもう甘くとろけるような軽やかさを含んでる。

「俺はNOCではありませんから貴方に嘘を付いたりしませんよ」

『そっかー。うん、ならよかった!嘘つきだったスコッチと違うなら安心。これからもよろしくねー、バボくん!』

ああ、嘘つきはやっぱり嫌いだ。

『じゃ、お迎えのアイくんが来たからまたねー!』

「ええ、ではまた」

電話を切る。視線を戻せば彼は思いっきり右手を車の天井に叩きつけていて、体を震わせたと思うとすぐに車に乗り込んで発車した。

車を見送ってからポケットから携帯を取り出す。黒色のそれは俺のよりも薄くて軽い。

電源を付ければ初期値の飾り気のない待ち受けで、画面に触れればロックの解除が求められた。

少し考えてまずは彼の誕生日を入れる。エラー。次にもう一人の誕生日。それもエラー。それから心当たりのある誕生日を三つ入れてみて、それもエラーしたから息を吐く。

『そういえば俺、なーんにも知らないなぁ』

あと思いつく番号は何があるか考えて、そういえばヤケに執着していた日付を思い出す。

唐突にケーキを買ってきてみんなで囲んだ日付に、まさかと思ってる数字をよっつ入れれば画面が切り替わり、データフォルダが並んだ。

『…………ばかかよ』

つんとしてきた鼻に息を吐いて誤魔化して、設定をいじってから携帯をポケットにしまう。ちょうど聞こえてきた慣れたエンジン音に顔を上げればヘルメットを外して、アイくんが俺を手招いた。

「帰んぞー」

『うん!』

スキップするようにして駆け寄ればもう一つの俺用のヘルメットが渡されて、被ってから後ろにまたがりくっつく。

「腹は?」

『んー。すこしならすいてるかな』

「珍しいじゃねぇか。ならハンバーガーとか食い行くか?」

『あー』

走り出そうしてるアイくんに唇を噛んで、それから背中に頭を寄せた。

『ドーナツ食べたい』

「あ?まじかよ。ほんと珍しいな」

『なんか甘いものの気分。…半分こしよ?』

「おー。いーぜ。んじゃ、早速行くぞ。しっかりつかまれ」

『はーい』

走り出したバイクに目を閉じる。焦げた臭いから遠ざかるように走るから気持ちがいい。

服の中で揺れる携帯は二回の振動で止まる。大方頼んでいた内容の完了報告だろう。結果内容はわからないけど、無事に終わったのならなによりだ。




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