DC 原作沿い
駐車場から建物の中に戻ればさっきまでの静けさや薄暗さはなくなって一気に明るさに迎え入れられた。
相変わらず人の多い店内に携帯を取り出す。
『明美ちゃんと志保ちゃんどこかなー』
とりあえすまずはと明美ちゃんに発信して、いつもなら比較的早く出てくれるのに途切れず鳴り続けるコール音に首を傾げる。時間の限度を迎えたらしくアナウンスの流れ始めた向こう側に呼び出しを一度切って次は志保ちゃんにかけ直す。
志保ちゃんは仕事中だと電話に気づかないことも多いけど、こういう外出時に連絡がつかないのは珍しい。
長めのコール音にそろそろ切れてしまうんじゃないかなと思っていればピッと音が止まっった。
『もしもし?志保ちゃん?』
「……………」
返事がない向こう側に目を瞬く。通話が切れたかなと画面を見てもきちんと一秒分ずつ時間が増えていた。
耳を澄ませる必要もなく、聞こえてくる向こう側の音に口を閉じる。
_「さっさとこっちに来い!!」
_「志保に触らないで!」
_「お姉ちゃん、大丈夫」
聞き覚えのない男の声と威嚇するような大きな明美ちゃんの声。それから固い志保ちゃんの声。コンコンと叩かれる音は前に決めてそれきりだった合図の一つで眼鏡をかけスイッチを入れた。
耳を澄ませて周りの音を聞いて、足を進めていく。
_「後何人くらい集める」
_「車に乗せられるくらいだろ」
_「じゃあ三人くらい?」
_「そうね」
_「そういや新人は?」
_「もう来ると思うよ」
もし二人が巻き込まれているのがさっきバボくんが言っていた人間たちに関連してるなら、被害者が多くいる可能性が高い。
微かに聞こえる息を潜めているようなか細い悲鳴や泣き声に大体の人数を把握して、画面を切り替えてメッセージを一つ送る。
すぐ返事がくるかはわからないけどお互いの邪魔にならないように報告は大切だ。
一回トイレに入り、ささっとメイクで印象を変えつつ持ってたウィッグを被り、上着を裏返して柄を変え、布のマスクをつけた。
準備中の五分ほどでバボくんからはメッセージが来ていたからまたひとつだけメッセージを入れてトイレを出た。
袖口にセットしてあるそれの電源はしっかりと入ってるのを確認しつつ、目的の場所に向かう。
近づいていけばそこは位置的に展示会の裏口らしく、迷わず裏口の取っ手に手をかけた。
入ってまず見えたのはスタッフ用の入館許可証を首からぶら下げ、ついでにスタッフと腕章をつけた女性だった。
「あ、申し訳ありませんお客様!こちらより先はスタッフ専用となっております!」
『ご!ごめんなさい!あの、お手洗いを探してて…』
「お手洗いですか?そちらでしたら…」
申し訳なさそうな表情を浮かべれば女性は笑みを浮かべて近寄ってくる。写真で見たその顔に右手に持ってたそれを掴んだ。
「扉を、」
ばちりと音を立てた手の中のそれに女性は目を白黒させてふらつく。意識が飛んだ瞬間に腕を掴んで首と腕から必要なものを奪い、結束バンドで手足を止めて掃除用具入れに突っ込んだ。
取ったばかりの入館許可証と腕章をつけて歩き出す。
すれ違うスタッフらしき人たちへはお疲れ様ですとにこやかに挨拶すればなんの疑いも持たれない。特にこういう大きなデパートではイベント事で人の出入りが激しいから堂々としているほど怪しまれずに済む。
向かう最中にもう二人、見覚えのある顔があったから同じように拘束してしまった。
たどりついたそこは休憩室の一つで出入り口に見張りらしき、これまた写真で見た顔が一人立ってた。
さて、どうしたものかなと目を細めたところで、ふっと近寄ってくる気配と眼鏡に映りこむマークに振り返った。
「あれ?スタッフの方ですか?こんなところでなにを…」
俺と気づいてないらしく訝しみながら近寄ってくるから、ウィッグの前髪部分を少しだけ持ち上げた。
『バボくん、手伝って』
「え、パリ、」
入館許可証と腕章をポケットにしまって近寄る。
『中に入りたい、捕まえて』
「、わかりました」
察してくれるのが早くて良かった。後ろに回ったバボくんにすぐさま表情を変えて、バボくんがとんっと背をつついたから足を進めた。
バボくんがこんこんと扉を叩けば中から開かれた。
「あ?なんだお前か。おせぇぞ新人」
「ごめんなさーい。ちょっといい感じの子見つけちゃって!」
「ふーん?」
俺にじっとりとした視線を向けてくる見張り役にわざとらしく肩を揺らして目線を逸らす。あからさまに怯えてますという空気に笑ったそいつは俺の肩を掴んで部屋に押し込んだ。
「いい仕事すんじゃねぇか!新人!」
「ほんとですかー?よかったー!」
押し込まれるように入った部屋の中にいるのは隅に集められた女性が四人。うち二人は見覚えがあって、他の二人は泣いてる。
部屋の中にいるのは出入り口の男一人と男と女が一人ずつ。見張りなのだろうそいつらの持っている物を確認してわざとらしく悲鳴と涙を零した。
「あらあら、泣いちゃってかわいそー。大丈夫大丈夫。いい子にしてたら彼奴も撃ったりしないからねー」
「いい子にしなかったら、わかってるな?」
にこにこと笑いかけられて大袈裟なくらいに頭を上下させて頷く。そうすれば見張りたちは満足そうに口元を歪ませた。
「じゃあそっちに座っててね!」
「なにもしなかったら痛いことも怖いこともしないからさ!」
はいはいとバボくんに押されて志保ちゃんと明美ちゃんの近くに座らせられた。
見る限り誰も拘束はされていないらしい。
ちらりとこちらを見て目を見開くのは明美ちゃんで、志保ちゃんがぐっと顔をしかめたから寄り添うように座って二人の手に一度ずつ触れる。
安心したように緩んだ二人の肩の力にすぐ体を起こして、見張りを眺める。持っている物、いる場所。バボくんが出入り口に立ってる見張りの一人のすぐ横に立って話しかけていて気を逸らしてくれているから持ってたそれのボタンを服越しに押した。
「あれ?」
「何?」
着信のため揺れた携帯に驚いた声を出すのは見張りの片割れで、すぐ横にいたもう一人も意識がそちらに逸れる。
一瞬あれば、十分。
床を蹴って近づく。持ってたスタンガンを銃を所持した一人に押し付けて、もう一人に使い終わったスタンガンを振って殴打。ごっと鈍い音がしたのは目の前と横からでどさりと三つ音が落ちた。
静まった室内に泣いてた子も驚きで固まってるんだろう。
転がした二人に顔を上げて、バボくんと目があったから持ってたのを投げる。キャッチしたバボくんは目を見開いてすぐに半目になった。
「結束バンドって、お前…」
『持ち歩きに便利。強度もばっちり!じゃ、後始末はよろしくねっ』
転がしたそれらがしっかりと意識を飛ばしてるのを確認する。
気絶してるならどうでもいいから立ち上がって、二人に近づいて腰を落とし目線を合わせた。
『二人とも怪我はなぁい?』
「パリくん…っ!」
「…、大丈夫…っ」
『そっか、よかったぁ』
目元に水分をにじませてる二人にハンカチを添えて、押さえるように拭う。離して頬に触れた。
『明美ちゃん、志保ちゃん。行こ』
「「ええ…!」」
手を差し出せば意図を理解して明美ちゃんは手を取って立ち上がり、志保ちゃんは首を横に振り自分で立ち上がった。
二人の手を取って歩き出す。
『早く行こ!俺ね、行きたいとこあるの!』
「…全く、仕方ない人ね」
「ええ。パリくんの行きたいところに行きましょ」
伸ばした三人を結束バンドでしばってるバボくんの横を抜けてさっさとエレベーターで階数を降りて、停めていた車に入り建物自体からさっさと出た。
ミラーで確認した後部座席の二人はようやく肩の力が抜けたのか息を吐いていて、アクセルを踏みハンドルを切ってと遠くへと離れるように向かう。
一番近くにある安全な場所を向かい、車庫に入った。完全に中に入ったところでスイッチを押してシャッターを下ろす。エンジンを切って、顔を上げれば二人はきょとんとした顔で俺を見ていたから笑った。
『大丈夫!ここは安全なとこ!』
「えっと、」
『降りて降りて!お茶のもっ!』
シートベルトを外して車から降り、後部座席の扉を開ける。二人が出てきたからそのままこっちこっちと先導してロックをいくつか外して建物の中に入った。
「ここは…?」
『俺ん家!』
「「え?」」
『お茶とお菓子持ってくるから自由にしててね!』
リビングに通して見るかわからないけどテレビをつけとく。そのままキッチンに向かい、トレーにグラスやポット、それからお菓子も用意して戻った。
『おまたせー!』
居心地悪そうにソファーに並んで座ってる二人はぱっと顔を上げる。テレビと向かい合ってても全然見てなかったらしい二人の説明を求める目に配膳して向かいに座った。
『全部何も入ってないから安心して食べてね!』
「………もっと説明してほしいことがあるんだけど?」
『あ!消費期限も平気!』
「ううん。あの…えっとね、パリくん?話せる範囲でいいんだけど…まずここはどこか教えてくれないかな?」
『俺ん家!』
「それはさっきも聞いたわよ。…貴方の家ってあの場所じゃなかったの?」
『んーんっ、いつも俺のいるところは俺の部屋なんだよ!』
「部屋…?」
『うん!彼処はジンくんのお家で彼処は俺の部屋なの!』
「ジ、……え?どういうこと?」
『んん?どうしたの?』
「ご、ごめんね、パリくん。せっかく教えてくれたのにちょっとよくわからなくて…」
『?』
困惑した二人の顔に首を傾げる。喜怒哀楽をいつもはっきりと表現する明美ちゃんと同じくらいびっくりしてるらしい志保ちゃんは似た表情を見せていて仲良しだなぁと目を瞬いた。
「貴方、どうしてジンの家に住んでるわけ?」
『んー?どうしてって…俺がジンくんのものだから?』
「、」
『必要なものは手元に置いて管理しとくものなんだって!キャンねぇとコルにぃが相棒の銃を大切にしてるのとおなじだよってウォくんも言ってた!』
「「…………」」
ジンくんに拾われた俺はジンくんが管理するものだから、いつでもどこにいるかわかるようにしておくらしい。
『だからいつもあそこに居るんだけど、アイくんとベルねぇさんがジンくんにも内緒を作っておかないといい子になれないよって教えてくれたの!』
「「、」」
二人が息を止めて、目を丸くしてる。そっくりな表情に人差し指を立てて口元に置いた。
『ここはジンくんとウォくんにも内緒なの。志保ちゃん、明美ちゃん、一緒に内緒しようね??』
笑い掛ければ二人は顔を見合わせて、それからふふっと笑う。
明美ちゃんが俺を見つめて、志保ちゃんはお茶に口をつけた。
「もちろんよ!内緒にしましょう!」
『うん!内緒なの楽しいね!』
落ち着いて明美ちゃんもカップを手に持つ。代わりに口を離した志保ちゃんは俺を見据えた。
「貴方、ただのジンの飼い犬と思ってたけど…反抗することもあるのね?」
『アイくんとベルねぇさんが言ったことは全部正しいの!ジンくんは意地悪言ってくることもあるから困らせてあげなさいって!それがいい子への第一歩なんだって!!』
「………あの人たちに任せておけば安心そうね…?」
「ふふ。ええ、そうね。とてもパリくんにとても優しいわ」
二人の解けた空気に口元が緩む。
すっかりと緊張が解けたらしい二人に目を細めて、お菓子の乗せた皿を見せるように差し出す。
『明美ちゃん、志保ちゃん、いっぱい食べて!』
「ありがとう。一緒に食べましょ、パリくん」
「ほら、口開けなさい」
『うん!』
予定とは大幅に変わったけど、始まったお茶会に二人はいつもの笑みを浮かべていて、やっぱり女の子は笑顔じゃないとと頷いた。
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相変わらず人の多い店内に携帯を取り出す。
『明美ちゃんと志保ちゃんどこかなー』
とりあえすまずはと明美ちゃんに発信して、いつもなら比較的早く出てくれるのに途切れず鳴り続けるコール音に首を傾げる。時間の限度を迎えたらしくアナウンスの流れ始めた向こう側に呼び出しを一度切って次は志保ちゃんにかけ直す。
志保ちゃんは仕事中だと電話に気づかないことも多いけど、こういう外出時に連絡がつかないのは珍しい。
長めのコール音にそろそろ切れてしまうんじゃないかなと思っていればピッと音が止まっった。
『もしもし?志保ちゃん?』
「……………」
返事がない向こう側に目を瞬く。通話が切れたかなと画面を見てもきちんと一秒分ずつ時間が増えていた。
耳を澄ませる必要もなく、聞こえてくる向こう側の音に口を閉じる。
_「さっさとこっちに来い!!」
_「志保に触らないで!」
_「お姉ちゃん、大丈夫」
聞き覚えのない男の声と威嚇するような大きな明美ちゃんの声。それから固い志保ちゃんの声。コンコンと叩かれる音は前に決めてそれきりだった合図の一つで眼鏡をかけスイッチを入れた。
耳を澄ませて周りの音を聞いて、足を進めていく。
_「後何人くらい集める」
_「車に乗せられるくらいだろ」
_「じゃあ三人くらい?」
_「そうね」
_「そういや新人は?」
_「もう来ると思うよ」
もし二人が巻き込まれているのがさっきバボくんが言っていた人間たちに関連してるなら、被害者が多くいる可能性が高い。
微かに聞こえる息を潜めているようなか細い悲鳴や泣き声に大体の人数を把握して、画面を切り替えてメッセージを一つ送る。
すぐ返事がくるかはわからないけどお互いの邪魔にならないように報告は大切だ。
一回トイレに入り、ささっとメイクで印象を変えつつ持ってたウィッグを被り、上着を裏返して柄を変え、布のマスクをつけた。
準備中の五分ほどでバボくんからはメッセージが来ていたからまたひとつだけメッセージを入れてトイレを出た。
袖口にセットしてあるそれの電源はしっかりと入ってるのを確認しつつ、目的の場所に向かう。
近づいていけばそこは位置的に展示会の裏口らしく、迷わず裏口の取っ手に手をかけた。
入ってまず見えたのはスタッフ用の入館許可証を首からぶら下げ、ついでにスタッフと腕章をつけた女性だった。
「あ、申し訳ありませんお客様!こちらより先はスタッフ専用となっております!」
『ご!ごめんなさい!あの、お手洗いを探してて…』
「お手洗いですか?そちらでしたら…」
申し訳なさそうな表情を浮かべれば女性は笑みを浮かべて近寄ってくる。写真で見たその顔に右手に持ってたそれを掴んだ。
「扉を、」
ばちりと音を立てた手の中のそれに女性は目を白黒させてふらつく。意識が飛んだ瞬間に腕を掴んで首と腕から必要なものを奪い、結束バンドで手足を止めて掃除用具入れに突っ込んだ。
取ったばかりの入館許可証と腕章をつけて歩き出す。
すれ違うスタッフらしき人たちへはお疲れ様ですとにこやかに挨拶すればなんの疑いも持たれない。特にこういう大きなデパートではイベント事で人の出入りが激しいから堂々としているほど怪しまれずに済む。
向かう最中にもう二人、見覚えのある顔があったから同じように拘束してしまった。
たどりついたそこは休憩室の一つで出入り口に見張りらしき、これまた写真で見た顔が一人立ってた。
さて、どうしたものかなと目を細めたところで、ふっと近寄ってくる気配と眼鏡に映りこむマークに振り返った。
「あれ?スタッフの方ですか?こんなところでなにを…」
俺と気づいてないらしく訝しみながら近寄ってくるから、ウィッグの前髪部分を少しだけ持ち上げた。
『バボくん、手伝って』
「え、パリ、」
入館許可証と腕章をポケットにしまって近寄る。
『中に入りたい、捕まえて』
「、わかりました」
察してくれるのが早くて良かった。後ろに回ったバボくんにすぐさま表情を変えて、バボくんがとんっと背をつついたから足を進めた。
バボくんがこんこんと扉を叩けば中から開かれた。
「あ?なんだお前か。おせぇぞ新人」
「ごめんなさーい。ちょっといい感じの子見つけちゃって!」
「ふーん?」
俺にじっとりとした視線を向けてくる見張り役にわざとらしく肩を揺らして目線を逸らす。あからさまに怯えてますという空気に笑ったそいつは俺の肩を掴んで部屋に押し込んだ。
「いい仕事すんじゃねぇか!新人!」
「ほんとですかー?よかったー!」
押し込まれるように入った部屋の中にいるのは隅に集められた女性が四人。うち二人は見覚えがあって、他の二人は泣いてる。
部屋の中にいるのは出入り口の男一人と男と女が一人ずつ。見張りなのだろうそいつらの持っている物を確認してわざとらしく悲鳴と涙を零した。
「あらあら、泣いちゃってかわいそー。大丈夫大丈夫。いい子にしてたら彼奴も撃ったりしないからねー」
「いい子にしなかったら、わかってるな?」
にこにこと笑いかけられて大袈裟なくらいに頭を上下させて頷く。そうすれば見張りたちは満足そうに口元を歪ませた。
「じゃあそっちに座っててね!」
「なにもしなかったら痛いことも怖いこともしないからさ!」
はいはいとバボくんに押されて志保ちゃんと明美ちゃんの近くに座らせられた。
見る限り誰も拘束はされていないらしい。
ちらりとこちらを見て目を見開くのは明美ちゃんで、志保ちゃんがぐっと顔をしかめたから寄り添うように座って二人の手に一度ずつ触れる。
安心したように緩んだ二人の肩の力にすぐ体を起こして、見張りを眺める。持っている物、いる場所。バボくんが出入り口に立ってる見張りの一人のすぐ横に立って話しかけていて気を逸らしてくれているから持ってたそれのボタンを服越しに押した。
「あれ?」
「何?」
着信のため揺れた携帯に驚いた声を出すのは見張りの片割れで、すぐ横にいたもう一人も意識がそちらに逸れる。
一瞬あれば、十分。
床を蹴って近づく。持ってたスタンガンを銃を所持した一人に押し付けて、もう一人に使い終わったスタンガンを振って殴打。ごっと鈍い音がしたのは目の前と横からでどさりと三つ音が落ちた。
静まった室内に泣いてた子も驚きで固まってるんだろう。
転がした二人に顔を上げて、バボくんと目があったから持ってたのを投げる。キャッチしたバボくんは目を見開いてすぐに半目になった。
「結束バンドって、お前…」
『持ち歩きに便利。強度もばっちり!じゃ、後始末はよろしくねっ』
転がしたそれらがしっかりと意識を飛ばしてるのを確認する。
気絶してるならどうでもいいから立ち上がって、二人に近づいて腰を落とし目線を合わせた。
『二人とも怪我はなぁい?』
「パリくん…っ!」
「…、大丈夫…っ」
『そっか、よかったぁ』
目元に水分をにじませてる二人にハンカチを添えて、押さえるように拭う。離して頬に触れた。
『明美ちゃん、志保ちゃん。行こ』
「「ええ…!」」
手を差し出せば意図を理解して明美ちゃんは手を取って立ち上がり、志保ちゃんは首を横に振り自分で立ち上がった。
二人の手を取って歩き出す。
『早く行こ!俺ね、行きたいとこあるの!』
「…全く、仕方ない人ね」
「ええ。パリくんの行きたいところに行きましょ」
伸ばした三人を結束バンドでしばってるバボくんの横を抜けてさっさとエレベーターで階数を降りて、停めていた車に入り建物自体からさっさと出た。
ミラーで確認した後部座席の二人はようやく肩の力が抜けたのか息を吐いていて、アクセルを踏みハンドルを切ってと遠くへと離れるように向かう。
一番近くにある安全な場所を向かい、車庫に入った。完全に中に入ったところでスイッチを押してシャッターを下ろす。エンジンを切って、顔を上げれば二人はきょとんとした顔で俺を見ていたから笑った。
『大丈夫!ここは安全なとこ!』
「えっと、」
『降りて降りて!お茶のもっ!』
シートベルトを外して車から降り、後部座席の扉を開ける。二人が出てきたからそのままこっちこっちと先導してロックをいくつか外して建物の中に入った。
「ここは…?」
『俺ん家!』
「「え?」」
『お茶とお菓子持ってくるから自由にしててね!』
リビングに通して見るかわからないけどテレビをつけとく。そのままキッチンに向かい、トレーにグラスやポット、それからお菓子も用意して戻った。
『おまたせー!』
居心地悪そうにソファーに並んで座ってる二人はぱっと顔を上げる。テレビと向かい合ってても全然見てなかったらしい二人の説明を求める目に配膳して向かいに座った。
『全部何も入ってないから安心して食べてね!』
「………もっと説明してほしいことがあるんだけど?」
『あ!消費期限も平気!』
「ううん。あの…えっとね、パリくん?話せる範囲でいいんだけど…まずここはどこか教えてくれないかな?」
『俺ん家!』
「それはさっきも聞いたわよ。…貴方の家ってあの場所じゃなかったの?」
『んーんっ、いつも俺のいるところは俺の部屋なんだよ!』
「部屋…?」
『うん!彼処はジンくんのお家で彼処は俺の部屋なの!』
「ジ、……え?どういうこと?」
『んん?どうしたの?』
「ご、ごめんね、パリくん。せっかく教えてくれたのにちょっとよくわからなくて…」
『?』
困惑した二人の顔に首を傾げる。喜怒哀楽をいつもはっきりと表現する明美ちゃんと同じくらいびっくりしてるらしい志保ちゃんは似た表情を見せていて仲良しだなぁと目を瞬いた。
「貴方、どうしてジンの家に住んでるわけ?」
『んー?どうしてって…俺がジンくんのものだから?』
「、」
『必要なものは手元に置いて管理しとくものなんだって!キャンねぇとコルにぃが相棒の銃を大切にしてるのとおなじだよってウォくんも言ってた!』
「「…………」」
ジンくんに拾われた俺はジンくんが管理するものだから、いつでもどこにいるかわかるようにしておくらしい。
『だからいつもあそこに居るんだけど、アイくんとベルねぇさんがジンくんにも内緒を作っておかないといい子になれないよって教えてくれたの!』
「「、」」
二人が息を止めて、目を丸くしてる。そっくりな表情に人差し指を立てて口元に置いた。
『ここはジンくんとウォくんにも内緒なの。志保ちゃん、明美ちゃん、一緒に内緒しようね??』
笑い掛ければ二人は顔を見合わせて、それからふふっと笑う。
明美ちゃんが俺を見つめて、志保ちゃんはお茶に口をつけた。
「もちろんよ!内緒にしましょう!」
『うん!内緒なの楽しいね!』
落ち着いて明美ちゃんもカップを手に持つ。代わりに口を離した志保ちゃんは俺を見据えた。
「貴方、ただのジンの飼い犬と思ってたけど…反抗することもあるのね?」
『アイくんとベルねぇさんが言ったことは全部正しいの!ジンくんは意地悪言ってくることもあるから困らせてあげなさいって!それがいい子への第一歩なんだって!!』
「………あの人たちに任せておけば安心そうね…?」
「ふふ。ええ、そうね。とてもパリくんにとても優しいわ」
二人の解けた空気に口元が緩む。
すっかりと緊張が解けたらしい二人に目を細めて、お菓子の乗せた皿を見せるように差し出す。
『明美ちゃん、志保ちゃん、いっぱい食べて!』
「ありがとう。一緒に食べましょ、パリくん」
「ほら、口開けなさい」
『うん!』
予定とは大幅に変わったけど、始まったお茶会に二人はいつもの笑みを浮かべていて、やっぱり女の子は笑顔じゃないとと頷いた。
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