イナイレ
予定通りパンナコッタを食べながら作戦会議と称していくつか確認と話をする。ようたの一瞬光った青色の目は次には元に戻っていて、そのまま一緒に眠った。
「がんばるから、応援してくれる?」
身支度を整えながら首を傾げるようたの髪を撫でて、額に唇を寄せる。
『当たり前だろ』
「んへへ。俺っちの天使が応援してくれるならがんばっちゃうぞぉう!」
飛びついてじゃれついてくるから息をいて身支度を無理やり終わらせた。
せいが用意してくれていた部屋から出て、イタリアの拠点に向かうためにバスに乗り込んで二人でゆったりと揺られる。何個目かの停車駅に止まって、人が乗り込んできた。
「ん?来栖?」
『あ?』
現れた不動、鬼道、佐久間、更に円堂の視線が刺さり、隣が吹き出した。
「あは!フィディオが言ってた助っ人ってもしかして日本代表さん??」
「お前は…イタリア代表の…?」
「俺っちオルフェウスでMFやってるの!栄垣耀太だよー!栄垣って呼んで!よろしくねん!」
「ああ!よろしくな!」
ようたがにこりと笑えば円堂も元気に返して、佐久間がああと頷く。不動と鬼道は俺を確認してから表情をそれぞれ変えたあとにバスが動き出すから手すりに捕まった。
「かいとん、今日せいたん何時に会えるの?」
『午後で仕事終わってるっつってたし、夜飯前だろ』
「じゃあ一緒にご飯だね!」
『せいのことだから店押さえてそう』
「たしかに!なにかなぁ〜!俺っちわいわい和食の気分!」
『言っとかねぇと会食かコースになんじゃね?』
「ん〜!それもありありだねぇ!」
これから代表決定戦があるとは思えないほどリラックスしていつもどおりのようたに、佐久間がこいつ大丈夫か?とわかりやすく疑いの目をかけてきてて、鬼道は目を細めたままだ。
俺について調べるついでにようたが誰なのかも知ってるんだろう。
円堂は緊張するなぁと零して、不動は目を瞑ったまま俯いてる。
バスは順調に進み、予定通りの時間に目的地についた。
ぱっと立ち上がったようたが俺の手を取る。
「かいとん!」
『行くかァ』
二人で降りて、ようたに先導されるように向かう。
懐かしいなと思いながら歩いて昨日も来た大きめの公園にたどり着く。その向こう側にいた紫味のある青色の選手たちにようたが手を上げた。
「おはよー!」
「あ!ヨータ!」
「よかった…今日は寝坊しなかったか…」
「んん!もう!俺っちだって流石に寝坊しちゃいけないときくらいは起きるよ!」
「まぁ試合の日は遅刻はなしでぎりぎりだもんな」
「えっへん!」
「褒めてないからね??」
アンジェロに呆れた目を向けられてるようたに不動と鬼道は心当たりがあったのか俺を見てくるから無視する。
息を吐いたフィディオはそっと視線を上げた。
「本当に来てくれたんだ」
驚いたように丸くされた目に、ようたは笑いながらねぇねぇと間に入って円堂たちを見る。
「フィディオってば日本代表さんに助っ人頼んでたの俺っちになんで教えてくれなかったのー?」
「はあ。昨日は話も聞かずに先に帰ったからだろ?」
「あれ?そうだっけ?」
「まったく、ヨータは…」
頭がいたそうなフィディオにアンジェロも周りのイタリア陣営も首を横に振って、ようたはあははーと笑って、フィディオたちと円堂たちを見比べるとにっこりと笑う。
「みんな練習しないの?」
「ヨータを待ってたんでしょ!」
「ごっめーんみっ」
舌を出して楽しそうに笑うようたに全員が肩を落とす。フィディオが大きく息を吐いて手を叩いた。
「すぐにポジション確認はじめるぞ!時間がない!」
「「はい!」」
「円堂、鬼道、佐久間、不動…それとカイトンも!今日はよろしく頼むよ」
「おう!」
「ああ」
『は?俺は出ねぇぞ』
「「え?!出ないの?!なんで!?」」
『なんでお前らが声揃えて驚いてんだよ』
ようたと円堂の声に目を細める。フィディオがあれ?と首を傾げた。
「ヨータからカイトンが助っ人してくれるって聞いてたけど…」
『…おい』
「だってだって、あれ確認するなら一緒に走ったほうが確実でしょ??」
『…………まぁ、それはたしかに』
「俺っちちゃぁんと考えてるもん!ね!ね!かいとん一緒に飛ぼ!」
『…お前がいるなら、今回だけな』
「わーい!」
ぴょんびょんと跳ねるようたにフィディオはえっと?と戸惑って、ようたが俺の腕を取って歩き出した。
「フィディオ!予定通りかいとんも参加だよ!準備してくる!」
「あ、うん、わかった…よろしく頼むね、カイトン」
『んー』
ベンチに近寄って荷物を置く。同じように円堂たちもついてきて荷物を片付けて、フィールドに入った。
「かいとーん」
『ほら、ようた』
「えへへ、楽しいねぇ」
『ん』
蹴られたボールを、受け取って、また蹴り返して、ゆっくりとしたパスを繰り返す。緩すぎるアップにフィディオや鬼道が眉根を寄せて、不動がじっと俺達を見てた。
呆れたように息を吐いた周囲はようたを抜きにして確認を始めて、外れ始めた視線にようたは笑う。
「かいとん、どうしたいの?」
『…わかんねぇ』
「あはは、かいとんったら相変わらず悩むと長考しちゃうねぇ」
『普段何も考えてねぇからな』
「そんなことないでしょー?考えないようにしてるだけだもん」
『……………』
「見えないふりするの大変だもんねー。でも、俺っちは悩んでるかいとんも応援したーい」
『……こういうのは、お前らがやってたから…どうしたらいいのか、わかんねぇ』
「んへへ、かいとんってばガチ悩みじゃーん。妬けちゃうなぁ〜」
『妬くところあるか?』
「うん。すごく、ね」
ボールを止めて、顔を上げたようたの目が光る。急に走り込んできたから構えた。左右の足を素早く動かして、フェイント、それから一歩引いて、惑わすようなそれにただ何も考えずに足を伸ばす。
とんっと足に触れたボールをそのまま持って走り出せばあはは!と大きな笑い声が響いた。
「まてまてー!」
『やだ』
「じゃあ奪っちゃうぞぉ!」
ぱっと足が伸びてきて、ボールと一緒に飛び退く。左に抜こうとすればやっぱりついてきて、右へ左へ、後ろ前とボールを持ってあちこちに走っていけば行く手を阻まれて、逃げ道がなくなったところで視線が彼奴を探そうとして、ばちりと目が合う。見えた色に、出そうとしてたパスに、足を、止めた。
「ふぅぅぅん??」
ようたの声が響いて、はっとしてそっちを見る。
唇を尖らせてたようたはボールを拾うと小脇に抱えて、俺にくっついた。
「はぁ〜???へぇ〜……妬けちゃうなぁ、なぁに?どれ??どいつ??…俺っちのポジション奪うなんて許せないなぁ」
『落ち着け』
「あ〜、やだやだぁ〜。かいとんの相棒は一生俺っちだもん〜!!!」
『お・ち・つ・け』
頭に手を乗せて押す。んぐぅと喉の奥で返事をするようたがじっと俺を見上げて、仕方なく髪に触れた。
『大丈夫だ。お前がいるときにしか俺は飛ばねぇ』
「…はぁ。じゃあ今はそういうことにしておいてあげる」
んっと顔を上げたようたに唇を落として、にぱっと笑ったようたはとりあえず機嫌が戻ったらしい。
「あ、えーっと、ヨータ…カイトン…?」
「ん?なぁに??」
「そ、その、そろそろ向かうから、準備してほしいなぁ…って」
気恥ずかしそうに頬を赤らめて視線を泳がしてるアンジェロに周りも顔色が悪い。おっけー!とようたが顔を上げて、さっきの俺と同じように額にもキスを贈ると一回離れた。
「かいとん!かいとん!アップ終わり!水分補給しよー!」
『おー』
腕を取られてまた歩き出す。相変わらずフィディオたちと会話をする気がそんなになさそうなようたは、目だけはらんらんとしていてテンションが高い。
「来栖ー!」
『なんだよ』
「来栖は今日どこのポジションなんだ?」
『あー』
「俺っちと一緒だからかいとんはディフェンダーだよー!」
「お!そうなんだな!」
「かいとんと俺っちの華麗すぎる連携見逃さないようにねっ!」
「おう!わかった!今日は頑張ろうな!」
誰もが遠巻きにしているのに円堂は変わらず笑っていて、安定してるその様子に息を吐いた。
☓
準備を終えて本来、イタリア代表たちが練習をしているホームグラウンドに向かう。先頭にいるのはフィディオで、その周りには同じくイタリア代表の面々。その中で一人、俺達よりも後ろにいる二人にそっと視線を送る。
「かいとん!かいとん!」
跳ねたり、手を振ったり、身振り手振りすべてが大きく明るい栄垣に来栖は怒ることも無視することもなく相手をしている。
「俺ともああやっていつも話してくれないかなー」
普段からうるさいと怒られては距離を取られ、絶対に同じ席につかないようにと徹底されてる円堂は羨ましーと零す。
佐久間と不動も二人を見ていて、フィディオたちもヨータ、テンション高くない?と目を瞬いてた。
栄垣が持ち上げた携帯に、来栖は慣れたように右手を広げた。
『ほら』
「うん!はいっちーず!」
肩を組んで写真をとった二人に目を丸くしたのは全員。視線が煩わしかったのか来栖は眉根を寄せて顔を上げた。
『なに』
「あー、お前ら、仲いいんだな?」
「試合前は絶対に一緒に写真撮らないとテンションあがんねーの!ね!」
『俺はそうでもねぇけど』
「またまたそんなぁ〜!かいとんったら恥ずかしがっちゃって!」
あは!と笑う栄垣がこのこのぉと頬を人差し指で突いて、来栖がそっと指を包み込むように掴めばひょぇっと栄垣が声を零して涙目になり、とっと足音が響いた。
「君たちは変わらず、仲が良いようだね」
含みのある声が響く。
二人と、それから俺達も顔を上げた。
いつついていたのか、大きなコートの向こう。サングラスに金髪のロン毛がいて、その後ろには影が11。
来栖は眉間の皺を深くして、栄垣はこてんと首を傾げる。
『「誰?」』
「………………」
揃った声に周りは、え?知り合いじゃないのと目を瞬いて、妙な空気感になる。しばらくお互いに黙ったあと、ゆっくりとサングラスを直した。
「ふむ。逃げなかったか」
「当たり前です!俺達が勝てば、イタリア代表の座は返してもらいます!」
「無論。……だが、そいつらは?」
「俺達、日本代表、イナズマジャパンのメンバーです!」
「負傷したメンバーに変わって、彼らが出てくれると言っています!」
知り合いの空気を匂わせたことをなかったように、フィディオと円堂と会話をしていたそれは、にったりと笑うぞわりと悪寒が走る。
「帰って来たか、鬼道。私の作品よ」
「!」
「お前は!」
「影山零治!」
「やはりか!」
俺達が睨み付ければ影山は歯を見せて笑みを深める。
円堂が険しい顔でフィディオに言葉を告げて、動揺しつつ睨み合う俺達に、来栖は鼻で笑い、隣に立ってた栄垣はぱちりと瞬きをした。
「めっ…ちゃイメチェンしてるね!あはは!一瞬誰かわからなかったよ俺っち!」
似合わなーい!と高笑いをするそれに来栖は眉間に皺を寄せる。
『いい年こいて金髪ロン毛とか痛ぇ』
「感性は人それぞれじゃなーい?」
どうにも以前からの知り合いであることを匂わせる会話に佐久間と不動の眉間の皺が濃くなった。
フィディオも首を傾げて栄垣に目を向けてる。
「ヨータ、ミスターKを知っているのか?」
「えー?!ミスターKってなにそれクソワロ!ネーミングセンス皆無だねぇ!!」
だっさーいと大笑いを始めた栄垣に来栖が息を吐いて、ベンチに向かう。
「あ、カイトンどこに行くの??」
『帰る』
「え?!」
置いたばかりの荷物をまとめだした来栖に栄垣もスキップするようについていく。
「暇になっちゃったねー」
『せいに連絡入れとくか』
「あ!ならせいたん来るまで昨日のデートの続きする?まだまだ紹介したいとこあるの!」
『ありだなァ』
二人が本気で帰ろうとしてることにアンジェロと佐久間がはぁ?!!と声を荒げた。
「待って!?何考えてるのヨータ!」
「えー?だって俺っちミスターKが絡んでるサッカーしたくないし〜」
「おい!来栖!お前何を勝手に帰ろうとしてるんだ!!」
『元々ようたが勝手に頭数に入れただけだろ。人数足りてんなら俺が出る必要はねぇ』
二人が同時に肩に鞄をかけて、そうすれば影山が口角を上げた。
「君たちにはいてもらわないと困る」
『聞いてやる道理はねぇなァ』
「面白くなさそうだから俺っちもぱーす!」
歩こうとした二人に、影山が囁く。
「……―カイアについて、知りたくないか?」
すぐさま、びりっと空気が張り詰めた。
元凶は来栖で、普段よりも数段冷たい目つきには苛立ちを込めていて、栄垣もさっきまでの笑顔は嘘のように無表情で影山をじっと見てた。
「そうこなくてはな」
影山が嗤えば来栖は舌打ちを零して荷物を持ってた手を緩め、栄垣も荷物を置く。
口元を歪めたままの影山にぴりぴりとした二人の空気は収まらないままで、けれどひとまずは帰らずにいるらしいから影山が目を逸らした。
影山が連れてきたデモーニオ・ストラーダという少年は、俺にそっくりだった。ドレッドヘアーを下で束ねて、それからゴーグルに、マント。あまりにも似通ってるその姿に不動でさえも目を見開いていて、佐久間と円堂はもう一人の、鬼道??と零す。
司令塔だという彼は俺達を一瞥して、それから鼻を鳴らす。
「すぐに試合を始める」
影山が指揮をとれば向こうはすぐにセンターラインに一列に並んで、フィディオたちも行こうと声を出す。
一人、動かない影にとんっと柔らかな足音を立てて寄り添った。
「かーいとん」
『……わかってるっつーの』
あれだけピリピリしてる来栖に声をかけるのは円堂でさえ躊躇いを覚えているのに、笑って抱きついた栄垣はいとも容易く来栖を落ち着かせる。
『あんま人をなめんなよ、クソジジイが』
「目にモノを見せちゃうぞ!ってかんじだね!」
来栖も栄垣も口角を上げて、コイントスが行われる。跳ね上がったコインを受け取ったデモーニオはボールを獲得して、影山による催促により試合が始められた。
☓
「見せてやろうと思ってもMF三人もいらないって言われちゃったらしょうがないや!あはは!かいとんあ〜そぼ!」
『何して』
「面白ければなんでもいいよ!」
スタメンにあぶれ、速攻でベンチに隣同士に座ってにこにことする栄垣といつも通り仏頂面の来栖は時折口を開いては少し考える前を置いて相手が口を開いてを繰り返している。
「んー、dの6〜」
『…g-5』
傍から見たら怪しいそれは、よく聞いていると規則性が見えてきて来栖がガムを膨らませ風船を割った。
『引き分けだなァ』
「だねー。もう一回チェス?それとも将棋?」
『だりぃ』
「ありゃ」
おどけてみせた栄垣は次にもう一度笑って手を伸ばし、来栖の目を隠した。
「疲れてるでしょ?ちっと休も?」
『………』
諦めたのかため息をついて足を組み直した来栖に、笑顔の栄垣は瞼が降りてるのを確認してから手を離して、来栖に寄りかかってだいじでーぶと微笑む。
「今は俺がかいとんの目になるよ」
『…節穴がなにいってやがる』
「そんな節穴に見ぬかれたのはかいとんっしょ」
ふふっと笑い声を転がした栄垣に来栖は息を吐いて、俺達はピッチに上がった。
.
「がんばるから、応援してくれる?」
身支度を整えながら首を傾げるようたの髪を撫でて、額に唇を寄せる。
『当たり前だろ』
「んへへ。俺っちの天使が応援してくれるならがんばっちゃうぞぉう!」
飛びついてじゃれついてくるから息をいて身支度を無理やり終わらせた。
せいが用意してくれていた部屋から出て、イタリアの拠点に向かうためにバスに乗り込んで二人でゆったりと揺られる。何個目かの停車駅に止まって、人が乗り込んできた。
「ん?来栖?」
『あ?』
現れた不動、鬼道、佐久間、更に円堂の視線が刺さり、隣が吹き出した。
「あは!フィディオが言ってた助っ人ってもしかして日本代表さん??」
「お前は…イタリア代表の…?」
「俺っちオルフェウスでMFやってるの!栄垣耀太だよー!栄垣って呼んで!よろしくねん!」
「ああ!よろしくな!」
ようたがにこりと笑えば円堂も元気に返して、佐久間がああと頷く。不動と鬼道は俺を確認してから表情をそれぞれ変えたあとにバスが動き出すから手すりに捕まった。
「かいとん、今日せいたん何時に会えるの?」
『午後で仕事終わってるっつってたし、夜飯前だろ』
「じゃあ一緒にご飯だね!」
『せいのことだから店押さえてそう』
「たしかに!なにかなぁ〜!俺っちわいわい和食の気分!」
『言っとかねぇと会食かコースになんじゃね?』
「ん〜!それもありありだねぇ!」
これから代表決定戦があるとは思えないほどリラックスしていつもどおりのようたに、佐久間がこいつ大丈夫か?とわかりやすく疑いの目をかけてきてて、鬼道は目を細めたままだ。
俺について調べるついでにようたが誰なのかも知ってるんだろう。
円堂は緊張するなぁと零して、不動は目を瞑ったまま俯いてる。
バスは順調に進み、予定通りの時間に目的地についた。
ぱっと立ち上がったようたが俺の手を取る。
「かいとん!」
『行くかァ』
二人で降りて、ようたに先導されるように向かう。
懐かしいなと思いながら歩いて昨日も来た大きめの公園にたどり着く。その向こう側にいた紫味のある青色の選手たちにようたが手を上げた。
「おはよー!」
「あ!ヨータ!」
「よかった…今日は寝坊しなかったか…」
「んん!もう!俺っちだって流石に寝坊しちゃいけないときくらいは起きるよ!」
「まぁ試合の日は遅刻はなしでぎりぎりだもんな」
「えっへん!」
「褒めてないからね??」
アンジェロに呆れた目を向けられてるようたに不動と鬼道は心当たりがあったのか俺を見てくるから無視する。
息を吐いたフィディオはそっと視線を上げた。
「本当に来てくれたんだ」
驚いたように丸くされた目に、ようたは笑いながらねぇねぇと間に入って円堂たちを見る。
「フィディオってば日本代表さんに助っ人頼んでたの俺っちになんで教えてくれなかったのー?」
「はあ。昨日は話も聞かずに先に帰ったからだろ?」
「あれ?そうだっけ?」
「まったく、ヨータは…」
頭がいたそうなフィディオにアンジェロも周りのイタリア陣営も首を横に振って、ようたはあははーと笑って、フィディオたちと円堂たちを見比べるとにっこりと笑う。
「みんな練習しないの?」
「ヨータを待ってたんでしょ!」
「ごっめーんみっ」
舌を出して楽しそうに笑うようたに全員が肩を落とす。フィディオが大きく息を吐いて手を叩いた。
「すぐにポジション確認はじめるぞ!時間がない!」
「「はい!」」
「円堂、鬼道、佐久間、不動…それとカイトンも!今日はよろしく頼むよ」
「おう!」
「ああ」
『は?俺は出ねぇぞ』
「「え?!出ないの?!なんで!?」」
『なんでお前らが声揃えて驚いてんだよ』
ようたと円堂の声に目を細める。フィディオがあれ?と首を傾げた。
「ヨータからカイトンが助っ人してくれるって聞いてたけど…」
『…おい』
「だってだって、あれ確認するなら一緒に走ったほうが確実でしょ??」
『…………まぁ、それはたしかに』
「俺っちちゃぁんと考えてるもん!ね!ね!かいとん一緒に飛ぼ!」
『…お前がいるなら、今回だけな』
「わーい!」
ぴょんびょんと跳ねるようたにフィディオはえっと?と戸惑って、ようたが俺の腕を取って歩き出した。
「フィディオ!予定通りかいとんも参加だよ!準備してくる!」
「あ、うん、わかった…よろしく頼むね、カイトン」
『んー』
ベンチに近寄って荷物を置く。同じように円堂たちもついてきて荷物を片付けて、フィールドに入った。
「かいとーん」
『ほら、ようた』
「えへへ、楽しいねぇ」
『ん』
蹴られたボールを、受け取って、また蹴り返して、ゆっくりとしたパスを繰り返す。緩すぎるアップにフィディオや鬼道が眉根を寄せて、不動がじっと俺達を見てた。
呆れたように息を吐いた周囲はようたを抜きにして確認を始めて、外れ始めた視線にようたは笑う。
「かいとん、どうしたいの?」
『…わかんねぇ』
「あはは、かいとんったら相変わらず悩むと長考しちゃうねぇ」
『普段何も考えてねぇからな』
「そんなことないでしょー?考えないようにしてるだけだもん」
『……………』
「見えないふりするの大変だもんねー。でも、俺っちは悩んでるかいとんも応援したーい」
『……こういうのは、お前らがやってたから…どうしたらいいのか、わかんねぇ』
「んへへ、かいとんってばガチ悩みじゃーん。妬けちゃうなぁ〜」
『妬くところあるか?』
「うん。すごく、ね」
ボールを止めて、顔を上げたようたの目が光る。急に走り込んできたから構えた。左右の足を素早く動かして、フェイント、それから一歩引いて、惑わすようなそれにただ何も考えずに足を伸ばす。
とんっと足に触れたボールをそのまま持って走り出せばあはは!と大きな笑い声が響いた。
「まてまてー!」
『やだ』
「じゃあ奪っちゃうぞぉ!」
ぱっと足が伸びてきて、ボールと一緒に飛び退く。左に抜こうとすればやっぱりついてきて、右へ左へ、後ろ前とボールを持ってあちこちに走っていけば行く手を阻まれて、逃げ道がなくなったところで視線が彼奴を探そうとして、ばちりと目が合う。見えた色に、出そうとしてたパスに、足を、止めた。
「ふぅぅぅん??」
ようたの声が響いて、はっとしてそっちを見る。
唇を尖らせてたようたはボールを拾うと小脇に抱えて、俺にくっついた。
「はぁ〜???へぇ〜……妬けちゃうなぁ、なぁに?どれ??どいつ??…俺っちのポジション奪うなんて許せないなぁ」
『落ち着け』
「あ〜、やだやだぁ〜。かいとんの相棒は一生俺っちだもん〜!!!」
『お・ち・つ・け』
頭に手を乗せて押す。んぐぅと喉の奥で返事をするようたがじっと俺を見上げて、仕方なく髪に触れた。
『大丈夫だ。お前がいるときにしか俺は飛ばねぇ』
「…はぁ。じゃあ今はそういうことにしておいてあげる」
んっと顔を上げたようたに唇を落として、にぱっと笑ったようたはとりあえず機嫌が戻ったらしい。
「あ、えーっと、ヨータ…カイトン…?」
「ん?なぁに??」
「そ、その、そろそろ向かうから、準備してほしいなぁ…って」
気恥ずかしそうに頬を赤らめて視線を泳がしてるアンジェロに周りも顔色が悪い。おっけー!とようたが顔を上げて、さっきの俺と同じように額にもキスを贈ると一回離れた。
「かいとん!かいとん!アップ終わり!水分補給しよー!」
『おー』
腕を取られてまた歩き出す。相変わらずフィディオたちと会話をする気がそんなになさそうなようたは、目だけはらんらんとしていてテンションが高い。
「来栖ー!」
『なんだよ』
「来栖は今日どこのポジションなんだ?」
『あー』
「俺っちと一緒だからかいとんはディフェンダーだよー!」
「お!そうなんだな!」
「かいとんと俺っちの華麗すぎる連携見逃さないようにねっ!」
「おう!わかった!今日は頑張ろうな!」
誰もが遠巻きにしているのに円堂は変わらず笑っていて、安定してるその様子に息を吐いた。
☓
準備を終えて本来、イタリア代表たちが練習をしているホームグラウンドに向かう。先頭にいるのはフィディオで、その周りには同じくイタリア代表の面々。その中で一人、俺達よりも後ろにいる二人にそっと視線を送る。
「かいとん!かいとん!」
跳ねたり、手を振ったり、身振り手振りすべてが大きく明るい栄垣に来栖は怒ることも無視することもなく相手をしている。
「俺ともああやっていつも話してくれないかなー」
普段からうるさいと怒られては距離を取られ、絶対に同じ席につかないようにと徹底されてる円堂は羨ましーと零す。
佐久間と不動も二人を見ていて、フィディオたちもヨータ、テンション高くない?と目を瞬いてた。
栄垣が持ち上げた携帯に、来栖は慣れたように右手を広げた。
『ほら』
「うん!はいっちーず!」
肩を組んで写真をとった二人に目を丸くしたのは全員。視線が煩わしかったのか来栖は眉根を寄せて顔を上げた。
『なに』
「あー、お前ら、仲いいんだな?」
「試合前は絶対に一緒に写真撮らないとテンションあがんねーの!ね!」
『俺はそうでもねぇけど』
「またまたそんなぁ〜!かいとんったら恥ずかしがっちゃって!」
あは!と笑う栄垣がこのこのぉと頬を人差し指で突いて、来栖がそっと指を包み込むように掴めばひょぇっと栄垣が声を零して涙目になり、とっと足音が響いた。
「君たちは変わらず、仲が良いようだね」
含みのある声が響く。
二人と、それから俺達も顔を上げた。
いつついていたのか、大きなコートの向こう。サングラスに金髪のロン毛がいて、その後ろには影が11。
来栖は眉間の皺を深くして、栄垣はこてんと首を傾げる。
『「誰?」』
「………………」
揃った声に周りは、え?知り合いじゃないのと目を瞬いて、妙な空気感になる。しばらくお互いに黙ったあと、ゆっくりとサングラスを直した。
「ふむ。逃げなかったか」
「当たり前です!俺達が勝てば、イタリア代表の座は返してもらいます!」
「無論。……だが、そいつらは?」
「俺達、日本代表、イナズマジャパンのメンバーです!」
「負傷したメンバーに変わって、彼らが出てくれると言っています!」
知り合いの空気を匂わせたことをなかったように、フィディオと円堂と会話をしていたそれは、にったりと笑うぞわりと悪寒が走る。
「帰って来たか、鬼道。私の作品よ」
「!」
「お前は!」
「影山零治!」
「やはりか!」
俺達が睨み付ければ影山は歯を見せて笑みを深める。
円堂が険しい顔でフィディオに言葉を告げて、動揺しつつ睨み合う俺達に、来栖は鼻で笑い、隣に立ってた栄垣はぱちりと瞬きをした。
「めっ…ちゃイメチェンしてるね!あはは!一瞬誰かわからなかったよ俺っち!」
似合わなーい!と高笑いをするそれに来栖は眉間に皺を寄せる。
『いい年こいて金髪ロン毛とか痛ぇ』
「感性は人それぞれじゃなーい?」
どうにも以前からの知り合いであることを匂わせる会話に佐久間と不動の眉間の皺が濃くなった。
フィディオも首を傾げて栄垣に目を向けてる。
「ヨータ、ミスターKを知っているのか?」
「えー?!ミスターKってなにそれクソワロ!ネーミングセンス皆無だねぇ!!」
だっさーいと大笑いを始めた栄垣に来栖が息を吐いて、ベンチに向かう。
「あ、カイトンどこに行くの??」
『帰る』
「え?!」
置いたばかりの荷物をまとめだした来栖に栄垣もスキップするようについていく。
「暇になっちゃったねー」
『せいに連絡入れとくか』
「あ!ならせいたん来るまで昨日のデートの続きする?まだまだ紹介したいとこあるの!」
『ありだなァ』
二人が本気で帰ろうとしてることにアンジェロと佐久間がはぁ?!!と声を荒げた。
「待って!?何考えてるのヨータ!」
「えー?だって俺っちミスターKが絡んでるサッカーしたくないし〜」
「おい!来栖!お前何を勝手に帰ろうとしてるんだ!!」
『元々ようたが勝手に頭数に入れただけだろ。人数足りてんなら俺が出る必要はねぇ』
二人が同時に肩に鞄をかけて、そうすれば影山が口角を上げた。
「君たちにはいてもらわないと困る」
『聞いてやる道理はねぇなァ』
「面白くなさそうだから俺っちもぱーす!」
歩こうとした二人に、影山が囁く。
「……―カイアについて、知りたくないか?」
すぐさま、びりっと空気が張り詰めた。
元凶は来栖で、普段よりも数段冷たい目つきには苛立ちを込めていて、栄垣もさっきまでの笑顔は嘘のように無表情で影山をじっと見てた。
「そうこなくてはな」
影山が嗤えば来栖は舌打ちを零して荷物を持ってた手を緩め、栄垣も荷物を置く。
口元を歪めたままの影山にぴりぴりとした二人の空気は収まらないままで、けれどひとまずは帰らずにいるらしいから影山が目を逸らした。
影山が連れてきたデモーニオ・ストラーダという少年は、俺にそっくりだった。ドレッドヘアーを下で束ねて、それからゴーグルに、マント。あまりにも似通ってるその姿に不動でさえも目を見開いていて、佐久間と円堂はもう一人の、鬼道??と零す。
司令塔だという彼は俺達を一瞥して、それから鼻を鳴らす。
「すぐに試合を始める」
影山が指揮をとれば向こうはすぐにセンターラインに一列に並んで、フィディオたちも行こうと声を出す。
一人、動かない影にとんっと柔らかな足音を立てて寄り添った。
「かーいとん」
『……わかってるっつーの』
あれだけピリピリしてる来栖に声をかけるのは円堂でさえ躊躇いを覚えているのに、笑って抱きついた栄垣はいとも容易く来栖を落ち着かせる。
『あんま人をなめんなよ、クソジジイが』
「目にモノを見せちゃうぞ!ってかんじだね!」
来栖も栄垣も口角を上げて、コイントスが行われる。跳ね上がったコインを受け取ったデモーニオはボールを獲得して、影山による催促により試合が始められた。
☓
「見せてやろうと思ってもMF三人もいらないって言われちゃったらしょうがないや!あはは!かいとんあ〜そぼ!」
『何して』
「面白ければなんでもいいよ!」
スタメンにあぶれ、速攻でベンチに隣同士に座ってにこにことする栄垣といつも通り仏頂面の来栖は時折口を開いては少し考える前を置いて相手が口を開いてを繰り返している。
「んー、dの6〜」
『…g-5』
傍から見たら怪しいそれは、よく聞いていると規則性が見えてきて来栖がガムを膨らませ風船を割った。
『引き分けだなァ』
「だねー。もう一回チェス?それとも将棋?」
『だりぃ』
「ありゃ」
おどけてみせた栄垣は次にもう一度笑って手を伸ばし、来栖の目を隠した。
「疲れてるでしょ?ちっと休も?」
『………』
諦めたのかため息をついて足を組み直した来栖に、笑顔の栄垣は瞼が降りてるのを確認してから手を離して、来栖に寄りかかってだいじでーぶと微笑む。
「今は俺がかいとんの目になるよ」
『…節穴がなにいってやがる』
「そんな節穴に見ぬかれたのはかいとんっしょ」
ふふっと笑い声を転がした栄垣に来栖は息を吐いて、俺達はピッチに上がった。
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