弱ペダ
あの子がいないなぁと思いながら部活を終わらせて自分の部屋に帰った。
[選抜直後のエリートと矢島さん]
小さく、小さくなって部屋の隅っこに置いてある俺の布団に丸まってる子に近づいて横に座り込む。
不法侵入とは茶化さずに様子を窺うと、だいぶ収まってはいるみたいだけどまだ少しぐずぐず鼻を鳴らしてた。
『よしよし』
多分頭を撫でればずずっと鼻をすすってあっち行ってくださいと震えた声が返ってきた。
『ここ矢島さんの部屋なんだけどなぁ』
「うっせ…ほっといてください」
エリートは折れやすいというのは今までの経験上理解してた。
しんきちくんしかり、ふっくんしかり、逆境に弱い気がする。
『いいこいいこ。頑張ってたね』
「っふ、」
また震え始めた肩と吐き出した息に気づかないふりをしてよしよしと頭を撫でた。
「最後、最後だったのにっ」
詰まるように吐き出された言葉に特に意味もなく、うんと返して頭を撫でればもそもそと動いて俺の腹に腕が回った。
ぎゅーぎゅー顔を押し付けて肩を震わせているのはたぶん声を押し殺すためなんだろうけど、あまり意味はなさそうだ。
綺麗なさらさらした髪を遊ぶように指に絡めながら撫でればさらに肩は震えた。
『ええ子やね。ようがんばっとったよ。』
「俺、の頑張りがたんねーから、負けたんだよ…っ」
あらあらと走る最後のチャンス。それを逃したくろたんの敗北感やら虚無感は俺にはきっと全部理解しきれないけど、似た気持ちは経験したことあるからわかると思う。
「あの人見返す、チャンスだった…のにっ」
『うん』
「アンタに、練習まで見てもらって、っ」
『せやね』
「俺が、おせぇからっ真波に抜かれたっ」
うんともう一度頷いて頭を撫でる。
『全部吐き出して、いっぱい泣いたらお腹すくからご飯食べて、寝ればええよ。今はお休みしようね』
子供みたいに声は大きくあげずとも、ぼろぼろ涙をこぼして泣き始めたくろたんの頭を撫で、よく頑張りましたとあらあらが聞いたら上から目線、お前何様と怒りそうな言葉をかけていく。
『今日だけは、俺のテリトリーに入れたる、だから、腐ったらアカンよ、…ゆきなり』
「ぅっ、はぃ」
撫でてたらいつの間にか泣きつかれて寝たようで、くろたんの体制を変えて俺も寝転がる。
朝起きたら怒られそうだけど腕枕してあげればくろたんの表情が和らいだ気がした。
顔に張り付いた髪を撫でればすっかり泣き腫らして赤くなった目元と鼻が見えて、涙の跡を拭ってあげる。
昔、しんきちくんがダメになりそうになった時も、ふっくんがダメになりそうになった時も、こうやって涙を拭った覚えがあるな
歴史は繰り返すっていうのが本当なら、来年も、再来年も、この子たちの涙を拭ってあげられる人がちゃんと現れてくれたらいいと思いながらくろたんを抱っこして寝ついた。
気分も重いし、瞼も重い、あと、苦しくて暖かい。
塔一郎が寝ぼけて俺のベッドに入ってきたことは何回かあったけど、塔一郎よりも薄っぺらくて、柔らかく大きい。
そもそも塔一郎が引っついてきたことはない。
目をゆっくり開けると俺よりもほんの少しくすんだ灰色が見えた。
「………やじ、まさん?」
声を荒げた覚えはないけど、叫んだあとみたいな掠れた声が出る。
染めたばかりでくろたんとお揃いだよと笑って見せに来た髪に触れると軋みはしないものの、細くなってる毛が絡まった。
昨日俺はあのまま寝ちまったんだっけ
思いだそうにも、昨日の最後のほうなんてほとんど覚えてなくて、ただ矢島さんがずっと俺の話を聞きながら頭を撫でてたことだけが印象に残ってる。
するすると髪を絡めても起きやしない矢島さんの寝顔は穏やかで、髪色も手伝ってかいつもより儚く見えた。
黙ってれば、この人もイケメンなのに
『んん…』
急に動いた矢島さんに手を止めれば左腕が俺の頭の後ろに回ってぽんぽんと寝ぼけながら撫でられて今何がどういう状況のかやっと把握できる。
視線を左にすれば矢島さんの右腕が俺の頭の下にあって、ふにゃと寝ながら欠伸をした。
『ええ子、やね…』
昨日、そうやって言われながら頭を撫でられて眠った。
一日寝たのにメンタルはぼろぼろのままだったらしくて、またぼやけはじめた視界に鼻をすすって顔を矢島さんの胸に押しあてる。
あとを追うようにして左手が後頭部に添えられて、腕が俺の体を包んだ。
『…ええ子やから、そない泣かへんの』
起きてたのか、起きたのか、よくわからないけど落ち着かせるように俺の頭を撫でる手が優しい。
『からからになっちゃせっかくのイケメンさんが台無しになってまうよ』
あまり聞いたことのないイントネーションで話す矢島さんの声はゆっくり耳に馴染んで溶けてく。
今日は学校も部活も休みだし、目が腫れてても部屋から出なきゃ問題ないだろう
だから、あと少しだけ
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[選抜直後のエリートと矢島さん]
小さく、小さくなって部屋の隅っこに置いてある俺の布団に丸まってる子に近づいて横に座り込む。
不法侵入とは茶化さずに様子を窺うと、だいぶ収まってはいるみたいだけどまだ少しぐずぐず鼻を鳴らしてた。
『よしよし』
多分頭を撫でればずずっと鼻をすすってあっち行ってくださいと震えた声が返ってきた。
『ここ矢島さんの部屋なんだけどなぁ』
「うっせ…ほっといてください」
エリートは折れやすいというのは今までの経験上理解してた。
しんきちくんしかり、ふっくんしかり、逆境に弱い気がする。
『いいこいいこ。頑張ってたね』
「っふ、」
また震え始めた肩と吐き出した息に気づかないふりをしてよしよしと頭を撫でた。
「最後、最後だったのにっ」
詰まるように吐き出された言葉に特に意味もなく、うんと返して頭を撫でればもそもそと動いて俺の腹に腕が回った。
ぎゅーぎゅー顔を押し付けて肩を震わせているのはたぶん声を押し殺すためなんだろうけど、あまり意味はなさそうだ。
綺麗なさらさらした髪を遊ぶように指に絡めながら撫でればさらに肩は震えた。
『ええ子やね。ようがんばっとったよ。』
「俺、の頑張りがたんねーから、負けたんだよ…っ」
あらあらと走る最後のチャンス。それを逃したくろたんの敗北感やら虚無感は俺にはきっと全部理解しきれないけど、似た気持ちは経験したことあるからわかると思う。
「あの人見返す、チャンスだった…のにっ」
『うん』
「アンタに、練習まで見てもらって、っ」
『せやね』
「俺が、おせぇからっ真波に抜かれたっ」
うんともう一度頷いて頭を撫でる。
『全部吐き出して、いっぱい泣いたらお腹すくからご飯食べて、寝ればええよ。今はお休みしようね』
子供みたいに声は大きくあげずとも、ぼろぼろ涙をこぼして泣き始めたくろたんの頭を撫で、よく頑張りましたとあらあらが聞いたら上から目線、お前何様と怒りそうな言葉をかけていく。
『今日だけは、俺のテリトリーに入れたる、だから、腐ったらアカンよ、…ゆきなり』
「ぅっ、はぃ」
撫でてたらいつの間にか泣きつかれて寝たようで、くろたんの体制を変えて俺も寝転がる。
朝起きたら怒られそうだけど腕枕してあげればくろたんの表情が和らいだ気がした。
顔に張り付いた髪を撫でればすっかり泣き腫らして赤くなった目元と鼻が見えて、涙の跡を拭ってあげる。
昔、しんきちくんがダメになりそうになった時も、ふっくんがダメになりそうになった時も、こうやって涙を拭った覚えがあるな
歴史は繰り返すっていうのが本当なら、来年も、再来年も、この子たちの涙を拭ってあげられる人がちゃんと現れてくれたらいいと思いながらくろたんを抱っこして寝ついた。
気分も重いし、瞼も重い、あと、苦しくて暖かい。
塔一郎が寝ぼけて俺のベッドに入ってきたことは何回かあったけど、塔一郎よりも薄っぺらくて、柔らかく大きい。
そもそも塔一郎が引っついてきたことはない。
目をゆっくり開けると俺よりもほんの少しくすんだ灰色が見えた。
「………やじ、まさん?」
声を荒げた覚えはないけど、叫んだあとみたいな掠れた声が出る。
染めたばかりでくろたんとお揃いだよと笑って見せに来た髪に触れると軋みはしないものの、細くなってる毛が絡まった。
昨日俺はあのまま寝ちまったんだっけ
思いだそうにも、昨日の最後のほうなんてほとんど覚えてなくて、ただ矢島さんがずっと俺の話を聞きながら頭を撫でてたことだけが印象に残ってる。
するすると髪を絡めても起きやしない矢島さんの寝顔は穏やかで、髪色も手伝ってかいつもより儚く見えた。
黙ってれば、この人もイケメンなのに
『んん…』
急に動いた矢島さんに手を止めれば左腕が俺の頭の後ろに回ってぽんぽんと寝ぼけながら撫でられて今何がどういう状況のかやっと把握できる。
視線を左にすれば矢島さんの右腕が俺の頭の下にあって、ふにゃと寝ながら欠伸をした。
『ええ子、やね…』
昨日、そうやって言われながら頭を撫でられて眠った。
一日寝たのにメンタルはぼろぼろのままだったらしくて、またぼやけはじめた視界に鼻をすすって顔を矢島さんの胸に押しあてる。
あとを追うようにして左手が後頭部に添えられて、腕が俺の体を包んだ。
『…ええ子やから、そない泣かへんの』
起きてたのか、起きたのか、よくわからないけど落ち着かせるように俺の頭を撫でる手が優しい。
『からからになっちゃせっかくのイケメンさんが台無しになってまうよ』
あまり聞いたことのないイントネーションで話す矢島さんの声はゆっくり耳に馴染んで溶けてく。
今日は学校も部活も休みだし、目が腫れてても部屋から出なきゃ問題ないだろう
だから、あと少しだけ
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