イナイレ
元同校同士、会っていない期間の話で盛り上がる三人に、プラス音無。途切れない四人の会話をひたすら聞き流す。
途中退席なんてマナー違反をかます訳にもいかず、時折振られる言葉に適当な言葉を返して、そうすれば携帯が揺れた。
「来栖さん電話鳴ってませんか?」
「気にせず出てきなよ!」
『あー…』
確認した名前は今出ると長引きそうだったから画面を伏せて、そうすれば全員が目を瞬いて首を傾げる。
止んだ携帯の揺れになんで出ないの?と成神の純粋そうな目が俺を見てる。返す言葉を考えるより早く切れた着信に嫌な予感がしたから視界を広げた。
ふらりと人影が出入口側から入ってくるとまっすぐ近づいてきて、眉根を寄せた。
『わざわざ掛けてくんじゃねぇよ』
「絶対出ないだろうなって思ったけど一応ね」
「こんちはー!」
「こんにちは!」
「こ、こんにちは」
勢い良く手を上げた大貴に成神と源田が押されたように挨拶を返して、鬼道は目を瞬き、音無は不思議そうに俺を見上げた。
『二人でなにやってんのォ?』
「ゲーム!時間潰しに恭司くんが連れてきてくれたんだ」
「このあと幸哉くんたちも合流予定だよ」
『へー…あ?たちって誰が来んだ?』
「優愛ちゃん!未紀ちゃんは大会前だからだめだった!」
『だろうなァ』
にこにこしてる恭司と明るい大貴。人当たりの良さがツートップの二人に成神はキラキラとした目を、源田はそわそわとしていて息を吐いて立ったままの二人を見上げる。
『お前らまだゲーセン行く?』
「幸哉くんと優愛ちゃんが来るまでやる予定だけど、諧音もやる?」
『4マルチ』
「珍しいね。もしかしてそっちの子たち、仕事の友達じゃないの?」
『繋がりは。今日の目的はゲーセン』
「お、諧音特攻ステだ!」
からからと笑った大貴は成神と源田に視線を移して、にっと笑う。
「俺、大貴!諧音のゲーセン友達!もし時間あったら一緒にゲームしねぇ?」
「するする!」
「いいのか?」
「マルチの称号集めてるゲームもあるからさ!」
一瞬戸惑ったものの源田も頷いて、恭司は鬼道と音無を見た。
「はじめまして、恭司です。鬼道有人選手とサポーターの音無春奈さんですよね。ご活躍拝見しております。ご挨拶が遅くなり申し訳ありません」
「、はじめまして、鬼道です。こちらこそ挨拶が遅くなり申し訳ありませんでした」
「は、はじめまして!音無春奈です!」
慌てる二人に恭司はにっこりと笑っていて、大貴がきょとんとして恭司を見上げた。
「恭司くんどこで知りあったの?」
「諧音のチームメイトだよ」
「へー、そうなんだ」
「大貴ってば興味なさ過ぎない?」
「俺サッカーわかんないし、諧音も試合でねーんだもん。あ!でもこのあいだの試合は見てたから…えっと、諧音と絡んだ不動選手と宇都宮選手は知ってる!!」
「あはは、たしかに。諧音その二人くらいしか一緒にいなかったもんね」
「そそ!」
清々しいくらいに試合に興味のない大貴と逆にサポーターまでフルネームで覚えてる恭司は能力値が極端すぎて、鬼道が固まって音無は俺を見上げる。
「えっと、来栖さんのお友達さん…サッカーあまりお好きじゃないんですか?」
『スポーツに興味ねぇ奴だからなァ』
意外と言いたげに目を瞬く音無にグラスの中身を空にして、口を拭ってからテーブルの向こう側の相手を見据える。
『成神と源田はゲーム行くんだよな』
「うん!」
「ああ」
『鬼道と音無は買い出しの途中だったんだろ。どうすんだァ』
「そうだな…」
「お兄ちゃん!私もゲームしてみたい!」
「ゲームか…」
「来栖さんがいつもゲームしてるって話、冬花さんから聞いてて気になってたの!お買い物もほとんど終わってるし、この後何も行くところ決まってなかったし、お兄ちゃん!お願い!」
「うんん、春奈がそこまで言うなら…俺も源田と成神とはもう少しいたいしな」
鬼道の首が縦に振られたことで音無は嬉しそうに笑い飛びつく。立ち上がって店を移動することにして、自然と近寄ってきた二人に視線を動かした。
『急に悪いな』
「んー?諧音のそっち側の人に興味あったの俺達だし、声かけたのも俺達なんだから諧音が気にすることじゃなくね?」
「俺達もそっち側の子たちと遊んでみたかったから。機会をくれてありがとうね、諧音」
『俺なんかいなくてもお前ら交友広いだろーが』
あっさりとした二人に後ろについてきてる四人。それぞれが好きに話しているようで、そんなに離れていないゲームセンターへは10分もかからずに戻ってこれた。
『なにやんの?』
「任せる!えっと、成神くんと源田くんと…あと、音無さん…と、鬼道さんも一緒にやります?」
「え、いや、俺は」
「お兄ちゃんもゲームするの!?」
「鬼道さんもゲームしますか!?」
「ぐ、一度だけなら…初めてやるから簡単なもので頼みたい」
「あ!そしたらあっちのゲームしにしましょ!」
成神に引っ張られていく鬼道に音無もついていき、源田がにこやかに笑う。
隣の大貴と恭司が俺を見るから無視して足をすすめる。たどり着いたのはさっきまでやっていた音ゲーの中でもダンスゲームに分類されるタイプで、鬼道が眉根をしかめた。
「本当に簡単なのか?」
「難易度選べますよ!」
「マーカーも見やすいからやりやすいと思うぞ。よかったら音無さんも一緒にどうかな?」
「はい!やってみます!」
「それなら俺と来栖で鬼道と音無の補佐に入るか」
「いーんじゃない?俺プレイする!」
「話がまとまったならはじめるよー」
硬貨を入れて、持っている人間は情報を読み取らせてボーナスを受け取っていく。その間に鬼道と音無に軽く内容を伝えてるために画面をのぞき込んだ。
『出てくるマークに合わせてここのボタンを叩くか、画面にタッチする』
「はい!」
『ピンクは一つ、黄色は同時押し。丸は一瞬で離して、縦長のは終点がくるまで長押し。星マークが来たら一旦タッチしたあとに青いマークに沿って画面をなぞる』
「う、一気にやることが増えましたね…!」
『やってくうちに慣れる。最初は目が慣れるまで少し遅いスピードにしておけ。画面はごちゃつくけど見逃すことが少なくて済むぞ』
「んん、はい」
チュートリアルをしつつ大丈夫かなぁと不安がる音無。隣の鬼道はルールは把握できたようだけど動きについて行けるかが心配のようで、大貴が顔を上げた。
「最初だし音無さんから曲選んでー!」
「え?!私ですか!?」
「色々あるから好きなのどーぞ」
「え、えっと、」
『よく聴くジャンルは』
「JPOPとか、あとは有名なアニメの曲とかです…!」
横から手を伸ばして画面に触れて曲のジャンルを変える。表示された楽曲一覧と流れ始めた曲に音無がぱっと顔色を明るくした。
「知ってる曲あります!」
『ん。なら最初は特に好きな曲にしとけ。音も取りやすい』
「はい!ありがとうございます!」
つんつんと覚束ない手つきで曲を送っていき探す。時折隣の鬼道に知ってるかどうか確認して、二人がお互いに知っていた曲で手が止まった。
「あの!この曲でも大丈夫でしょうか?」
「平気だよー」
「鬼道さんもこういうの聴くんですね!」
難易度はそれぞれ設定できるから、大貴と成神は最高位、鬼道と音無は肩慣らしも兼ねて低めの難易度を選んだ。
読み込み画面が終わって、すぐに画面が一瞬真っ暗になり真ん中に選んだ曲のジャケットが映って消えた。
流れ始めた曲。難易度の違いでマーカーが流れるタイミングは違うから、すでにマーカーが現れてるらしい右側二つから聞こえてくる音と動きに二人が動揺してる気配がするものの左側二つにゆったりと現れはじめたマーカーに指をさした。
『マーカー見てタイミング合わせて押す』
「は、はい!」
『音無は速い、鬼道は遅いな。もっと音にあわせろ』
「む、」
二人のたどたどしい動きを眺めつつ時折慣れない特殊マーカーが出たら口を挟んで、一曲終わったところで音無が笑った。
「楽しいです!」
『そうか』
「鬼道はどうだった?」
「楽しいかどうかはわからないが…これはなかなかに動体視力や神経を求められるな。いい訓練なりそうだ」
「鬼道らしいな」
源田と鬼道の会話に大貴が意識高いなぁと目を瞬いて、成神はにっと笑った。
「次は鬼道さん!曲何にします?!」
「春奈、さっき迷っていた曲でいいか?」
「お兄ちゃんいいの?」
「ああ」
さっきよりも難易度を一つ上げた二人はまたゲームを開始する。右二つの賑やかさはもう気にならないのか、鬼道も音無も画面に集中していて、マルチ故に四曲ワンセットを終えて二人は息を吐いた。
「ふあぁ〜…腕がつかれました…!」
「春奈には慣れない動きだったか」
「荷物持ったりとかするのと腕を上げ続けてるのはやっぱり違うね!難しいけど…でも、すごく楽しかった!」
二人の会話に成神がよかったよかったと微笑んでる。恭司と少し話していた大貴がそのまま俺を見るから頷いた。
『次どの組み合わせでやんだァ?』
「鬼道さん、音無さん、もっかいやりますか??」
「確認したいことがあるから俺は見学をしたい」
「私も一回休憩でお願いしたいです!」
「なら源田くん一緒にやる?」
「ああ!ぜひ!」
「諧音、いってらっしゃい」
『ん』
慣れたように差し出された手に荷物を渡して場所を交代する。さらっと隣を陣取ってきた大貴にまぁいいかとプレイを開始して、源田から曲を選ばせる。
選んだのはこのゲームがコラボしてる曲の一つで、流れてくるマーカーと音にあわせて手を動かす。
全員同じ難易度でやっているから動くタイミングも同じで、音が止まればいつもどおりのリザルト結果が表示されるからスキップを押す。四回同じことをして、最終的なスコア画面が現れた。
「あーっ、くっそ、負けたぁ!!」
『俺に勝てんとでもォ?』
「今日は!いけると!!思ったのに!!」
隣から聞こえる元気すぎる声に髪を払う。
「お疲れ様。大貴残念だったね」
「ほんとだよ、もう。あ、恭司くんありがと」
「諧音も、はい」
『ん、サンキュ』
渡されたペットボトルで水分補給をして、妙におとなしい向こう側を見れば鬼道と音無は成神と源田にやり方のコツを聞いてるらしかった。
「そういえばこの後、諧音も合流でいいのか?」
『あー、なんも考えてなかった』
「え?来ないの?幸哉と優愛ちゃんも喜ぶし俺もいてくれたら嬉しいよ??」
『先約あんから予定次第だ』
「それもそっか」
「うんん、先連絡いれとけばよかったね」
「なー」
大貴と恭司が仕方なさそうに首を横に振って、近くで揺れた髪に揃って視線を向けた。
「すごいです!すごいです!来栖さん!どうやったらフルコンボできるんですか!!」
『慣れたら』
「練習あるのみってことですね!」
「何事も反復練習…来栖、画面のどのあたりを見ているのがいい。教えてくれ」
『源田と成神に聞け』
「既に聞いたから来栖にも聞いておこうかと思ってな」
『とりあえずデータ作ればァ?実績残ったほうがやりやすいだろ』
「それもそうだな」
どうやらゲームにハマったらしい鬼道に成神がこれ幸いと携帯を出させてアカウントを作り始めた。
アカウントをつくった鬼道と源田、それから大貴と俺の組み合わせでゲームを再開させる。組み合わせを少しずつ変えつつ、五セット目が終了したところで鬼道と音無の腕が上がらなくなった。
「ぐっ…無念だ」
「明日筋肉痛です…」
「わかります!俺も初めてすぐは全然うまく行かないしすぐ腕上がんなくなっちゃって辛かった!」
「このあたりも慣れだな」
顔を見合わせて笑う四人に時間を確認する。カフェを出てからもう一時間ほど経っていて、恭司がちらりと手元の腕時計を見た。
「二人ともついたみたい」
「お、もう二人とも終わったんだ」
「優愛ちゃんの仕事がすんなりいったんだって。車置けたみたいで建物入ったってさ」
『ふーん。なら顔だけ見て帰んかなァ』
俺達の会話を聞いていたのか腕の上がらない組と一緒にいた源田と成神が俺たちを見ていて荷物を持った。
「いい感じにゲームできたし!今日はもう終わりにする!」
「とりあえず外に出ようか」
源田に促されてゲームセンターの外に出る。ずっと響いていた音楽が遠くなって、耳が慣れていないのか辛そうにしてた鬼道が静かに息を吐いた。
「大貴さん!一緒にゲームしてくれてありがとうございました!」
「ん?あ、いーのいーの。俺も楽しかったし!源田くんも時間くれてありがとなー!」
「こちらこそ!とても楽しかったです!な、鬼道、音無!」
「はい!とぉぉっても楽しかったです!私もっともっと楽しめるように練習しますね!」
「貴重な体験ができました。これからも時間を作って継続し、訓練していこうと思います」
「鬼道くんストイックだな…?ま、楽しめたのなら何より!なっ、諧音!」
『そーだなァ』
楽しそうな顔をしてる大貴にこの時間は無駄にならなかったようで安心する。
俺の口元が緩んだところでタンっと足音が響いて、思いっきり駆け寄ってきたロングヘアーが靡いて飛び込んできた。
「きゃー!こんなとこで会えるなんてうれしい!元気だった?かいとぉ!!」
『普通。つかテンション高けぇなァ?』
「ふふ。会えるだけで嬉しいけど、予想外のところで会えるとより嬉しいでしょ?ねぇ、かいちゃん」
『お前らサプライズとか好きだっけ?』
「それはそれ、これはこれー!!」
ぴったりとくっついてる優愛と寄り添うように立って微笑んでる幸哉に息を吐く。大貴と恭司はいつもどおり笑っていて、向こう側の四人は目を丸くして固まってたから説明する義理もないかと両サイドに意識を戻した。
「ねーねー、このあと時間ある??かいとぉ」
「かいちゃん、忙しい?みんなでご飯行こうかなって思ってるんだぁ」
『検討』
「そっかぁ」
「んん〜っ」
ふわふわと笑う幸哉とぷくりと頬をふくらませてる優愛は対象的で、二人の様子に恭司と大貴はいつも通り笑ってる。
いつもと変わらない四人の言動にくっついてる二人の頭を撫でて、そうすればすぐに笑みを溢して離れたから歩いて離れた。
『じゃ、気が向いたら連絡すんわ。楽しんでこいよ』
「うん!いってらっしゃい!!」
すっかり機嫌のなおった優愛が飛び跳ねて手を振って、見送られながら固まってる集団に近づき眉根を寄せた。
『なに突っ立ってんだ?』
「あ、えっと、…来栖さんってお友達が多いんですね!」
『別にィ?』
「なんかこう…、あの人たちと仲良くしてる来栖おとなしくなかった?」
『普通だろ』
「あの姿を風丸が見たら悪いものでも食べたのかと慌てだしそうだ」
『彼奴ん中の俺のイメージどーなってんだよ』
息を吐いて首を横に振る。的はずれな言葉たちに唯一口を開かなかった一人を見据えた。
『で?この後どうすんだァ?』
「ああ…特に考えてなかったが…結構遅い時間だし、解散するか?」
「ゲームむっちゃやったし!俺は満足!」
「春奈、あまり遅い時間は危ないから送ろう」
「ありがとう、お兄ちゃん」
『ふーん』
駅まで向かうらしい四人に見送ると告げて歩きだす。人目を避けて触った携帯で連絡を入れておく。すぐに来た返事にポケットへ携帯をしまった。
改札口の前で全員が一度足を止めて、成神がぱっと笑う。
「来栖!時間作ってくれてありがとな!またゲームしよ!」
『おー』
「来栖さん!そのときは私もご一緒させてください!!」
『ん』
「新しい世界が知れて楽しかった。またぜひやろう。だが、春奈がいるときは必ず俺も同伴できるときにしろ」
『だる』
「鬼道らしいな。…来栖、また会おうな。今日は本当にありがとう」
『ああ。時間が合えばな。……だいきの相手してやってくれてありがと。また遊んでやってくれ』
「もちろん!」
「はい!またみなさんでゲームしましょう!」
明るく笑うのは成神と音無で、鬼道は静かに頷き、源田は穏やかに笑む。
わざと視線を逸して見上げた電子掲示板を指す。
『早く行かねえと乗り過ごすぞ』
「ああ、そうだな」
「行こう、春奈」
保護者のように二人が先導して改札をくぐる。くるっと振り返るのはやはり二人で、大きく手を振られたから仕方なく右手を少し上げて返事をして、四人の姿が見えなくなったところで踵を返す。
まっすぐ進んでずっと待ってたそれに近づけばにっこりと微笑まれた。
「おかえりなさい」
『ん』
迎えにくると言って聞かなかったきょうじはにこにことしながらみんな居るよと歩き出す。店の場所は知っていたけどエスコートしたいらしいきょうじを先に歩かせて、不意に、きょうじが俺に見えないように視線を落とした。
『どうした』
「……なにも、」
『はあ?』
「え、そんな凄まなくてもよくない…?」
『俺に隠し事しようなんて五年早ぇんだよ。気になることがあんなら言え』
「………うーん、なんか…そうだなぁ…」
視線を揺らしたきょうじは言葉を飲み込んで、表情を繕い直した。
「たぶん、明日ではっきりすると思うから、今はまだいいかな」
『へぇ?』
「明日はえっと、来るのは不動くんだっけ?」
『ああ』
「用意しておくものある?」
『バイク関連のものだけでいい。頼んだ』
「うん、任せておいて」
いつもと同じ顔に戻ったきょうじに、ちょうどよく待ち合わせの店についてしまって、なにか言うよりも早く扉に手をかけて開かれた。
明るい室内の逆光で、きょうじの歪んだ口元しか見えない。
「諧音、今日は楽しんでね」
『…はぁ。お前らといてつまんなかったときなんかねぇつーのォ』
手を伸ばして、髪をかき混ぜる。ぐしゃぐしゃにしてから手を離して足を進めた。
『仕方ねぇから待っててやるよ。迷惑かけんけど、明日は頼むな』
「……うん」
「あー!かいとぉ!!」
賑やかな声と共に飛びついてくるゆあを抱える。だいきがこっちこっち!と手招いて、きょうじの横にそっと近づいたゆきやが乱れた髪を撫でるように整えてやってた。
「髪以外は大丈夫そうになったね?恭司くん」
「…今大丈夫になったところ。ありがとう、幸哉」
「はい、どういたしまして」
おっとりとしたゆきやはふらふらと俺の方に寄ってくると、ゆあごと背を押して席へと進める。
確認したきょうじの表情がいつもと同じになっていたから、息を吐いて開けられていた場所に腰を落ち着けた。
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