弱ペダ
[山神と、狼と矢島さん]
『世界の果てってなんだろーね、ばくだぁん』
俺のお腹の上でごろごろしてたばくだんがにゃぁ?と鳴いて指に擦り寄る。
『なんてね、俺はもう世界の果て見てきたんだ。特別に教えたげる――――――…なんだよ』
首の下を撫でればゴロゴロ喉を鳴らしはじめた。
『ばくだんはいいこやね、…俺も猫になりたいなぁ』
ごろごろ、ごろごろ。
そのうち寝息を立て始めたばくだんにならって目を閉じる。
このまま寝ちゃおうかな
目を閉じて耳を澄ませて一分もしないうちに結構前からいたその人が、短い草を踏みしめる音がして少しずつ窺うように近づいて来る。
目は開けない俺を寝たと思ってるのか枕元まできた足音はとまって、多分俺を見下ろした。
「自分が知ろうとする限り、世界の果てはないよ、きっと」
「己の諦めたところが世界の果てなのだろうな」
「…矢島先輩は、」
「…―矢島先輩、猫になる時は俺も連れていってくれよ。」
「猫になった矢島先輩じゃ今以上に心配になってしまうからな」
「…………おやすみ、矢島先輩」
言いたいことだけ言って遠くなっていく足音。完全に離れて聞こえなくなったところで目を開けた。
ばくだんは変わらず寝息を立ててるし、見上げた木々の隙間から見た空はとっても青い。
『………………知ることを辞めた、そこが世界の果てなんて、中々哲学的だぁ』
強くはないけど吹いてる風に言葉が溶けて、ついでに染めたての赤色が舞って視界に入った。
俺が猫になったら、きっと誰も知らないところに行くんだろうな
『慣れ親しんだ生まれ街に帰るなんてのも一興かも』
いつの間に起きてたのかばくだんかにゃっと手を顔に乗せてきて息が詰まる。
『ふぉぉ…ばくだぁん』
「なに情けねー声だしてんだよ」
『あらあらぁ、ばくだんが反抗期なのだよ』
「けっ、もっとやっちまえばくだん」
にゃっ!と返事をしてぺちぺち顔を叩き始めてきたばくだんにあらあらが楽しそうに笑って、声に釣られたのか向こう側から足音が近づいてきてた。
「荒北」
「あ?なんだヨ」
「世界の果てとはなんだと思う」
「はぁ?知るか」
「まぁいいから答えてくれんか。」
「…ちっ、んだよ急にダリィ…世界の果て?んなもん―――――――だろ」
「………そうか、なるほどな。」
「ああ?ソーイウお前なんだと思うんだよ」
「…知ることをやめたそこが世界の果てだと思う」
「へー」
「聞いておいてその返事は何なのだ!」
「んや、随分と哲学的じゃナァイ」
「…お前も、そういうのだな」
「あ?」
「………いや、」
“『「自分が死んじゃったそこが果て」』”
「なんでもないよ」
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