ブルーロック
道の端を歩く小さな体。左手にもった荷物が重たいのかそっちに重心が取られているその様子と端を歩くのを優先していたとしても端すぎる位置取り。
「にぃちゃ、ねちゃあうない?」
それに気づいたのはずっとご機嫌で話していたはずの凛だった。
普段なら話すのに夢中になるあまり車が来ても気づかないのに、珍しいこともある。大きな目が俺を見上げてた。
「ああ、危ねぇな」
どこか覚束ない足取り。夏場に練習してた奴が倒れる直前に歩いてたときあんな感じだったなと思い出して、凛の手を引いた。
「凛」
「う!」
ふらつくそいつに近寄る。聞こえてきた呼吸音は苦しそうで、途切れ途切れで、膝が抜けたのかかくんっと頭の位置が変わったから咄嗟に手を伸ばして崩れないように押さえた。
「おい、大丈夫か」
『は、はっ、かひゅっ』
「おい」
「ねちゃ、だいじょう?」
『かはっ、』
まずそうな音がしてる。滲んでる汗と苦しそうな表情。すぐに凛から手を離して両手を自由にし、持ってた鞄からボトルを一個取り出して開けた。頭の上にまで持っていって、ひっくり返す。
ばしゃりと音を立てて、きれいな髪に水が滴った。
驚きでか一度大きさ肩を揺らして、2回噎せて息を整えるとそっと顔を上げる。
俺と凛とは違う、澄んだ緑色の目が髪の隙間から俺達を見つめて、ぐっと心臓が掴まれたように痛む。締め付けられた痛みに思わず眉間に皺が寄ったけど、口を開いた。
「落ち着いたか」
『、い。あ…が、と…ござ、……す』
「飲め」
『あ、え』
掠れてる声は空気を大量に吸って吐いたせいだろう。
まだ水の残ってるボトルを渡せば迷いながら受け取って、それでも本当に飲んでいいのかわからなそうなそれを見ていれば諦めたみたいに口をつけた。
体温が上がってるのか血色が良すぎて赤い顔に、それよりも赤い唇。昨日食べたりんごみたいだなと思って見つめて、落ち着くまでしっかりと水分補給をしたらしいからボトルを受け取ってキャップをしめた。
しまうついでにタオルを一枚引っ張りだす。いつも母さんが予備に入れておいてくれるタオルは使ってないからきれいのはずだ。
ぽたぽたと水が垂れていて頬や首元にくっついてる姿は、他の奴に見せたくなかった。
「拭け。風邪ひく」
『え、はい…?』
「…ちっ」
ぽかんとしててよくわかってなさそうな顔と荷物の重みにギリギリで堪えてるのか妙に力の入ってる左手。荷物を置く気配がないから仕方なく代わりに両手を上げて挟むようにタオルで髪を拭う。凛にやってやるのと同じようにタオルを動かして、水分がちゃんとタオルに移ったところでタオルを肩からかけてやった。
「ん、終わり」
『ありがとう、ございます…』
水気が減ったことで晒された顔はまだどこか赤いけど、息もちゃんとできているしさっきまでよりはだいぶマシになってる。
上から下まで確認する。後ろ姿から思っていけたど見たことのない奴で、持っている袋とこの場所から察するに近くのスーパーにいたんだろうけど一体誰だろうか。同い年くらいなのに幼稚園で見た覚えがない。
「にぃちゃ!」
「どうした?」
「くしゅなる!おうちよ!」
「そうだな、凛。着替えないと風邪ひく」
「ん!」
考え込んでしまってたらしく、凛がそいつの服を掴んで風邪を引くと慌ててる。
可愛らしい弟の言葉に、凛以上に体が弱そうなそいつを連れて帰るために見据えた。
「行くぞ」
『え』
「家どっち」
『あ、あっちです…』
「ふーん」
指した方向はどこか曖昧で、不思議に思いつつ凛の手を取る。凛がぱっと顔を上げてもう片方の手を差し出した。
「帰るぞ、凛」
「う!」
「ねちゃ!おてて!」
『え』
「りちゃとね、おててぎゅーよ!」
歩くときは必ず家族と手を繋ぐようにと教えられてる凛だけど、他人と手を繋ごうとするのは珍しい。
最初に凛が気づいたことといい、こいつはなにか凛のセンサーに引っかかったのかもしれない。
「ねちゃ、りちゃとぎゅーや??」
渋ってる様子に追い打ちをかける凛に、慌てて手を取る。凛と同じか、それよりも白い手は普段から日を浴びてない証拠だろう。
「にぃちゃ!ねえちゃとおててぎゅよ!」
報告を受けて歩きだした。
体が小さい分歩幅も小さくて狭い凛に合わせて歩くのはいつものことだけど、その向こう側も歩くペースは遅い。
微かに震えてる左手は重たさで限界を迎えていそうで、それなのに止まらずきちんと凛と会話をしている姿は凛がボールと一緒に転がってしまってるときくらい可愛かった。
会話の切れ目だったのか向こう側から視線が上がって、緑色が俺を捉える。
『あ、あの、どこに向かってるんですか?』
「家」
『え、誰の…』
「お前の。あっちなんだろ」
『あっちですけど、えっと、ひとりで大丈夫です』
「さっきまで死にかけてたやつの言葉とは思えねーな」
図星だったのか、ぴしりと固まって丸くなった目に思わず息を吐く。
「住所は」
『すみません、引っ越してきたばかりでまだ覚えてなくて…』
「なら方向転換するからこまめに教えろ。あと、」
足を一歩前に出して近づいて持ってたそれを奪う。そこそこ重たいけど、凛を抱っこするよりも全然軽い。
白すぎる肌といい、ほとんど筋力もない様子からいって、凛とかけっこさせたら完敗しそうだ。
「俺が持つ。お前は道案内と凛と手を繋ぐことに専念しろ」
『いや、けど』
「早く歩け」
歩き出せば荷物を取り返すことは諦めたらしい。さっきよりも歩く速度に気をつけながら歩いて、不意に凛が大きく目を瞬いて声を出した。
「ねちゃ!」
『あ、はい』
「りんよ!」
『えっと、凛ちゃん?』
「う!」
『お名前教えてくれてありがとう』
凛はいつもにこにこしてるけど、自分から名乗るのは珍しい。よっぽど気に入ってるらしい。名前を認識されたことに嬉しそうな凛に、名乗られたことに目を瞬いて、それからそいつもふわりと笑う。
あまりに柔らかい表情に目を奪われた。
『凛ちゃんいくつ?』
「、凛は二歳だ」
「にぃ!」
『そっかぁ』
凛に向けられてる穏やかな表情。凛も自分の話が聞いてもらえていること以上に嬉しそうで、そいつはこてりと首を傾げた。
『凛ちゃんはお兄ちゃんとお出かけしてたのかな?』
「にぃちゃボールぽんなのっ!」
『ボール?』
「う!」
『野球?』
「や!」
『えーっと、じゃあサッカーかな?』
「ぽん!」
「合ってる。サッカーだ」
「ぽんなるの!!」
『そっかぁ』
凛と話しながらも俺の様子も確認して、元から視野の広いタイプなのかそれとも周りが気になるタイプなのか。話題の選び方も言葉遣いも凛が話しやすいように気を遣ってる。
好物を目の前にしたときと同じくらいご機嫌な凛がたくさん話して、時折通訳してやって、大きな分かれ道を前に足を止めた。
家は左だけど、こいつの家が右だったらしっかり送ってから帰るのに母さんには遅くなると連絡するべきかもしれない。
「どっち」
『えっと、たぶん右…?』
連絡しないといけないなと思いながら、あまりに自信のなさそうで不安がるその表情に心臓がそわりとする。
「…お前、いつ越してきたんだ」
『今日です』
「目印になるもんとか、近所の人間の名前とかわかるもんねぇのか」
『家の壁がは灰色で、えっと、周りもおんなじような家…』
不安そうにしながらも視線を揺らして懸命に考えて、動かしてた視線を止めた。
『家の人は……あ、道路挟んで向かいの、五軒くらい隣に、たしか、いとし?さんて方が住んでいらっしゃって、お子さんにご兄弟がいるって…!』
きらきらとした目。よっぽど思い出せて嬉しかったんだろう。
このあたりに糸師の名前を持ってて兄弟がいる家は一軒しかない。
『……あ、えっと、さっき挨拶回りにお伺いたしただけで一回しか話せてないからお名前間違えてるかも、すみません』
「大体どのへんかわかった。安心しろ」
なるほど、これが運命ってやつか。
少し前に母さんと電話したときに聞いた話を思い出す。近所に引っ越してきた親子がいて、その息子が俺の一つ上でとてもしっかりしていて、可愛らしかったから今度挨拶にいきましょうね。と笑ってた。
母さんには今後のことについて話をつけておかないといけない。
大きな分かれ道を左に進む。
こっそりと肩を落とした姿に右でも帰れないことはないけど遠回りになるのはまた今度教えてやればいいだろう。
「ねちゃ!」
『ん?なぁに、凛ちゃん』
「くしゅない??」
『く…?あ、えっと、大丈夫。凛ちゃんのお兄さんがタオル貸してくれたから寒くないよ』
「にちゃしゅごい!」
凛のきらきらした目。弟にすごいと言われて嬉しくならない兄はいないし、その上遠回しに褒められて気分はいい。
『凛ちゃんのお兄さんはすごいね。助けてくれた上にタオルも貸してくれたし、荷物も持ってくれて道案内までしてくれてる。引っ越したばかりで知らない人しかいないから、こんなに優しい人がいてすごく助かっちゃった』
「、」
しっかりしている子供は、人タラシになるのかもしれない。
思わず見つめてしまった横顔は本心なのかほんの少しだけ頬を赤らめて嬉しそうに笑っていて、凛もぴょんぴょんとはねてしゅごいのとはしゃぐ。
凛を見て頷いてたはずなのに、すっと上がった緑色が俺を捉える。手を伸ばしそうになったから目を逸らした。
「あっちだ」
『あ、はい』
「にちゃしゅごいねー!」
「…ん」
道はもうわかってるから、分かれ道はすべて正解を進む。それに気づいてないのか凛と話しながらゆっくりと歩いてる横顔を眺めて、
家まであと数m。家の屋根が見える距離で凛がぱぁっと笑った。
「りちゃ、おうち!」
『凛ちゃんのお家もこの辺なの?』
「う!ねちゃは?」
『うん。もうすぐそこ』
迷い無く歩いて、家の前で足を止めた。
『あの、』
「凛、母さん呼んでこい」
「あい!!」
手を離せば反対側も驚いたように手を離す。凛はすぐ目の前にある門をくぐって、いまー!と帰宅の挨拶を口にしながら扉を開けた。
『え』
隣から声がこぼれた。
『ここ、?』
不思議そうな声。頭の中で情報が完結してなさそうな様子にそういえば凛は名乗ったけど俺は名乗ってなかったなと思い出す。
「糸師冴だ」
目を丸くすると、頭を下げられた。
『本当にありがとうございました。糸師さん』
「冴」
『さ、冴くん?』
「冴」
『あ、ありがとうございます。…冴…?』
「敬語もいらねぇ」
呼ばれた自分の名前に心の中が満たされる。緑色は困惑しているけど俺だけを映していて、手を伸ばそうとしたところで扉の開く音がした。
「あら!凛ちゃんが呼んでるからどうしたのかと思ったら冴ちゃんもうご挨拶したのね??」
「した」
「ねちゃ!くしゅなる!」
「ほんと、髪が濡れてるわ?どうしたの?」
『あ、えっと、手違いで水を被ってしまって』
「手違い…??」
母さんは目を瞬いて俺を見る。説明を求めようとして、俺の持つものに更に目を瞬いた。
「冴ちゃん、それは…?」
「こいつの。死にそうになってたから拾って持って帰ってきた」
「え??」
『その、お恥ずかしながら買い物帰りに体力が尽きかけていたところ冴くんに、』
「冴」
『…冴に助けていただき、道案内してくださったんです。荷物はその時に代わりに持ってくれました』
「あら、冴ちゃんが??珍しいわね?」
欲しいの?と目が聞いてくるから頷いて、手を伸ばす。細い体は引っ張ればあっさりとふらついて腕の中に収まった。
「拾ったから俺のモン。な、凛」
「う!」
『!?』
「あらまぁ」
うふふと笑う母さんに凛もにぱっと笑って、腕の中で理解が追いつかなそうに固まってる緑色に口元が緩む。
俺のものにするからにはさっさと周りからと思ったところで何か音が聞こえてきた。腕の中の、更にはポーチの中からしてるらしいそれに意識が戻ってきたのか、あ、と声が零された。
「もしかしてお母さんじゃない?」
『かもしれません。ちょっと失礼します。……もしもし?』
電話の相手が母親なら俺が口を挟むべきじゃない。顔を上げれば母さんとばっちり目があって、母さんはにこやかに親指を堪えててくるから頷く。
「なにがいる?」
「まずは親御様に挨拶しないとね」
「わかった」
「あとパパにも教えてあげないと」
「まーま!りちゃなのよ!」
「あらあら、凛ちゃんと参戦するの?冴相手じゃ大変そうねぇ」
「凛ならいい」
「にちゃ!」
ぱっと明るくなった顔にあらまぁと母さんは笑って、電話が終わったのか携帯をおろしたから視線を移す。
「お母さんのご体調は…?」
『だいぶ良くなったみたいです。夜ご飯食べて寝たらもう大丈夫かと』
「夜ご飯…?もしかしてそのお買い物袋…」
『はい。今日の夜ご飯です』
「そうだったのね。お手伝いしましょうか?」
『お気遣いありがとうございます。簡単なものですませるので大丈夫だと思います』
「ねちゃ?だいじょう?」
『うん。大丈夫。心配してくれてありがとうね』
会話の内容的に自分で二人分の食事を用意するらしい。
ついさっき道端で倒れかけてたのに大丈夫なのかと腕の中を見て、ちょうどよく緑色が俺を見上げた。
『えっと、』
「送る」
「そうね。冴ちゃん見送ってあげてちょうだい」
「りちゃも!」
「ふふ。じゃあ二人で仲良く行って帰ってくるのよ」
「う!」
「ん」
さっきと同じように凛と手を繋いで三人で横並びになる。
「気をつけてねー」
『は、はい。ありがとうございました』
慌てたように頭を下げたそいつに、母さんは微笑んだまま、俺を見て今日はだめよと口を動かすから頷く。
流石に寝込んでいる人間を叩き起こしてまで挨拶はしない。そんなことをして印象が悪くなったら良好な家族関係は築けない。
五軒先、たしかについ最近まで空き家だった気もする灰色の壁の家の前で立ち止まったから横を見た。
「ここか?」
『はい。ここです。ありがとうございます』
「ねちゃおうち?」
『うん、そうだよ』
凛と繋いでる手を解いて、そのまま凛の髪を撫でてから離す。
『冴、本当にありがとうございました』
「一人で動くな。どこか行く前に家に来い」
『それはさすがに申し訳ないので大丈夫です』
「道が覚えられるまではすくなくとも出歩くな。今日みたいに野垂れ死ぬぞ」
『今日のがたまたまだっただけです…』
「お前体力ねーだろ」
『、』
「筋肉もほとんどついてねーし、日焼けもしてない。体が追いつかねぇのにムリしたら倒れるに決まってる。そんなんでふらふらしてたら攫われるぞ」
『それは…』
言葉が詰まったからふんっと鼻を鳴らす。
隣の凛がきょろきょろと俺と兄の顔を見比べて目を瞬いた。
「にちゃ、ねちゃわるい、メよ!」
「いじわるはしてねぇ。凛と同じで一人で外に出たら危ないって教えてた」
「ねちゃ!りちゃいっしょ、あうない!!」
メッと人差し指を立てて合わせ、×を作った凛に頷く。
こんなに細くて弱々しいのに人目を引く緑色は凛と同じくらい一人でいさせたら危ない。
苦笑いを零したと思うともう一度凛の髪をなでて、それから俺が持ってた袋を受け取った。
『毎回は申し訳ないから、たまに頼らせてもらってもいいですか?』
「毎回」
『たまにで』
「毎回だ。な、凛」
「あい!」
「わかったな」
『うーん…』
まだ納得いってなさそうなその様子に口を開こうとして、凛と繋いでる手に力がこもったからそちらを見た。
「ねちゃ!おなまえ!」
『ああ。そういえば…睡だよ。凛ちゃん。よろしくね』
「うぃちゃ!」
『んはは、惜しいなぁ』
一生懸命に名前を呼ぶ凛に表情を緩ませて、嬉しそうな顔に、俺も名前を呼びたくなった。
「睡」
俺と凛と同じ、短く少ない音で完成された名前。
凛から俺に向けられた緑色に、挨拶はまだしてないけど、どうせ俺のものになるんだし結果は同じだろうからと先に顔を寄せた。
母さんと父さんが言っていた。家族への口づけは口以外に。口は本当に大切で好きな人にだけ贈るように。
初めての感覚。体温が少し低いらしい睡と重ねた唇に、じんわりと心の奥から何かが広がって口角が上がる。
そっと口を離して、目を見開いてはくりと口を動かすその様子に俺が一番乗りだったのを確認して満足感に頷く。独り占めは良くないから、隣にいる凛を抱えた。
「凛」
「うぃちゃ!うぃちゃ!!」
凛の手が伸びて睡の頬に触れる。
「ちゅー!」
さっきの俺と同じように唇を押し付けて、それから離した凛は俺を見上げた。
「にぃちゃ!」
「よくできた」
頬をすり合わせて褒めてやって、向かいを見れば相変わらず睡は固まったままだ。
凛がにぱぁっと笑った。
「うぃちゃ、おんみ!」
『おん…?』
「おやすみなさい、だ」
『ああ、なるほど…?』
「おんみ!」
『うん、おやすみなさい…?』
「おやすみ。しっかりと休めよ」
『あ、はい…』
処理落ちしてるらしく言われたことに頷いて、目標は達成したから名残惜しいけど凛を抱っこしたまま歩き出す。
「にぃちゃ!うぃちゃしゅきよ?」
「ああ。好きだ」
「うぃちゃ!りちゃしゅきよ!」
「三人で幸せになろうな」
「あい!」
きゃっと笑う凛に口元が緩む。
俺には凛とサッカーしかなかったけど、今日からはもう違う。
弾むように早足で家に帰れば母さんがにっこりと笑って迎え入れてくれた。
「あらあら、冴ちゃんも凛ちゃんもご機嫌ねぇ」
「りちゃ、うぃちゃしゅきよ!」
「ふふ。初恋は先生じゃなかったのね」
母さんがふふっと笑って、凛と一緒に手を洗う。手を拭きながら、そういえばと顔を上げた。
「母さん、睡がふらふらしてたら教えてくれ」
「あら、睡ちゃんアウトドアなの?」
「ちげぇと思う。だからあんなに細くて弱っこいのに外出てたら危ねぇ」
「そういえば外で会ったって言ってたものね。どんな状況だったの?」
「買い物帰りらしい睡が体力尽きてぶっ倒れそうになってんのを凛が見つけて捕まえた」
「え、倒れそうだったの?」
「あうないのよ!」
「ああ、危なかった。彼奴凛より体力ねぇと思う」
「たしかに睡ちゃんすごく色白で線も細かったものね…」
母さんが心配そうに視線を落とす。俺も凛も滅多に風邪をひかないし、かかっても凛がたまに鼻つまりがあるかどうかであれは風邪というより鼻炎らしい。
「住所もちゃんと覚えてなかったし、あんだけ目立つから変な奴に連れてかれるかもしれねぇ」
「ううん、そうね…。明日一度詞詠さんにご挨拶してみようかしら」
「俺も行く」
「冴ちゃんはサッカーの試合でしょう?」
「…………」
「ふふ。睡ちゃんがいるとも限らないし、短めにご挨拶だけ伺って、今度改めてみんなでご挨拶しましょ」
「……そうする」
「凛ちゃん、明日は冴ちゃんの試合見に行きましょうね」
「にぃちゃ、ぽんなのよ!」
ぱっと手を広げて笑った凛は、母さんの横からこっちに走ってきて俺の前に立つとまた両手を広げる。
「にぃちゃ!おっきい!ぽんよ!!」
「ああ、もちろんだ。たくさんシュート決めてくる」
「にぃちゃ、りちゃ、れーよ!」
「応援頼むな」
「う!」
大きく頷いた凛に頼んだぞと頭を撫でた。