ブルーロック
ピンポンとチャイムを鳴らす。そうすればすぐに扉が開いて、リュックを背負った冴が現れた。
『おはよー』
「…おはよ」
いつもどおり愛想少なめの、ぼそりとした挨拶。玄関から一歩出た冴を追うようにぱたぱたと軽い足音が走ってきて廊下から凛が現れる。
「にいちゃん!すいちゃん!おはよ!」
まだ幼稚園の凛は制服を着ていて、玄関のぎりぎり靴を履かなくていいところで止まると大きく手を振った。
「がっこうがんばってね!いってらっしゃい!」
「いってきます」
『ありがと。凛も幼稚園楽しんできてな。いってきまーす』
今日もしっかりと見送られて歩き出す。
引っ越してきて、学区が一緒だから毎朝同じ小学校に向かう俺と冴の間に会話はそんなにない。
サッカーが絡むこと以外はとことん興味がなさそうな冴に学校の話題を振っても微妙な返事しかないし、そもそも学年が違うとあんまり共通の話題もない。
それでもなんとなくずっと一緒に学校に通ってた。学校に使うのに糸師家の前を通るんだから手間はかからないし、チャイムを鳴らしたらすぐに冴は出てくるから、毎朝待ってる冴をわざわざ無視するのもおかしな話だ。
いつから一緒に学校に行くようになったんだっけ?と不思議に思いつつ、変わってしまった信号の色に足を止める。視線を逸らせば横にいる冴と目が合った。
「なんだ」
『んー?なんもないけど?』
「そうか」
じろりとした視線とうっすらと寄せられた眉根。突き放すように冷たい声。いつもどおりのそれらに視線を戻す。
『今日の給食なんだっけー』
「煮込みうどんとわかめサラダとイワシの竜田揚げ」
『へー』
迷い無く返ってきた言葉に、冴って本当に給食が好きだなと思う。いつ聞いたとしても答えられた献立メニューは、一度だって外れたことがない。
信号が変わったからまた歩き出す。あと十分もすれば学校で、今日の授業はなんだったかなと意識を飛ばしたところで腕が掴まれた。
「睡」
『ん?』
「別のこと考えんな」
『あ、うん?』
意識は飛ばしていたけど別に建物にぶつかるとか、転ぶとかそんなヘマをしたことはない。
それでも何故か、ほぼ毎日登下校中の意識を別のことに持っていった瞬間に服を掴まれた。
「ぼーっとしてると怪我する」
『そこまでドジじゃないんだけど…』
「一試合どころかハーフタイム分も走ってられないような奴が何言ってんだ」
『体力と運動神経って別じゃない?』
「十回リフティング続けられるようになってから言え」
『ぐっ…』
サッカー基準で話を引っ張りだされたら何も言えない。言葉に詰まったところで冴が鼻を鳴らして手を離した。
「俺との会話だけに集中しろ」
『それはそれで危なくね?』
「危なくない」
ぷいっと顔を背けた冴にまぁいいかといつの間にか止めてしまってた足を動かす。
坂を登って、たどり着いた見慣れた校門の前に立ってる先生に挨拶をして、相変わらずそっぽ向いてすたすたと歩いている冴に先生は苦い顔を見せた。
校門側から進んで、手前から低学年、中学年、高学年、更には一年生と二年生と別れてる昇降口で、冴はいつものように一番手前の一年生用昇降口につくと顔を上げる。
じっと見つめてくる目に手を上げた。
『じゃ、がんばって。また放課後』
二度往復させるように左右に手を振れば、一瞬目を細めた冴はくるりと体の向きを変えて昇降口へと吸い込まれていく。
手を下ろして俺も自分の昇降口に向かって、靴を履き替えたところで、あ、と声が漏れた。
『今日体育あるの忘れてた』
これは今日のサッカー練習は付き合えそうにない。
.
『おはよー』
「…おはよ」
いつもどおり愛想少なめの、ぼそりとした挨拶。玄関から一歩出た冴を追うようにぱたぱたと軽い足音が走ってきて廊下から凛が現れる。
「にいちゃん!すいちゃん!おはよ!」
まだ幼稚園の凛は制服を着ていて、玄関のぎりぎり靴を履かなくていいところで止まると大きく手を振った。
「がっこうがんばってね!いってらっしゃい!」
「いってきます」
『ありがと。凛も幼稚園楽しんできてな。いってきまーす』
今日もしっかりと見送られて歩き出す。
引っ越してきて、学区が一緒だから毎朝同じ小学校に向かう俺と冴の間に会話はそんなにない。
サッカーが絡むこと以外はとことん興味がなさそうな冴に学校の話題を振っても微妙な返事しかないし、そもそも学年が違うとあんまり共通の話題もない。
それでもなんとなくずっと一緒に学校に通ってた。学校に使うのに糸師家の前を通るんだから手間はかからないし、チャイムを鳴らしたらすぐに冴は出てくるから、毎朝待ってる冴をわざわざ無視するのもおかしな話だ。
いつから一緒に学校に行くようになったんだっけ?と不思議に思いつつ、変わってしまった信号の色に足を止める。視線を逸らせば横にいる冴と目が合った。
「なんだ」
『んー?なんもないけど?』
「そうか」
じろりとした視線とうっすらと寄せられた眉根。突き放すように冷たい声。いつもどおりのそれらに視線を戻す。
『今日の給食なんだっけー』
「煮込みうどんとわかめサラダとイワシの竜田揚げ」
『へー』
迷い無く返ってきた言葉に、冴って本当に給食が好きだなと思う。いつ聞いたとしても答えられた献立メニューは、一度だって外れたことがない。
信号が変わったからまた歩き出す。あと十分もすれば学校で、今日の授業はなんだったかなと意識を飛ばしたところで腕が掴まれた。
「睡」
『ん?』
「別のこと考えんな」
『あ、うん?』
意識は飛ばしていたけど別に建物にぶつかるとか、転ぶとかそんなヘマをしたことはない。
それでも何故か、ほぼ毎日登下校中の意識を別のことに持っていった瞬間に服を掴まれた。
「ぼーっとしてると怪我する」
『そこまでドジじゃないんだけど…』
「一試合どころかハーフタイム分も走ってられないような奴が何言ってんだ」
『体力と運動神経って別じゃない?』
「十回リフティング続けられるようになってから言え」
『ぐっ…』
サッカー基準で話を引っ張りだされたら何も言えない。言葉に詰まったところで冴が鼻を鳴らして手を離した。
「俺との会話だけに集中しろ」
『それはそれで危なくね?』
「危なくない」
ぷいっと顔を背けた冴にまぁいいかといつの間にか止めてしまってた足を動かす。
坂を登って、たどり着いた見慣れた校門の前に立ってる先生に挨拶をして、相変わらずそっぽ向いてすたすたと歩いている冴に先生は苦い顔を見せた。
校門側から進んで、手前から低学年、中学年、高学年、更には一年生と二年生と別れてる昇降口で、冴はいつものように一番手前の一年生用昇降口につくと顔を上げる。
じっと見つめてくる目に手を上げた。
『じゃ、がんばって。また放課後』
二度往復させるように左右に手を振れば、一瞬目を細めた冴はくるりと体の向きを変えて昇降口へと吸い込まれていく。
手を下ろして俺も自分の昇降口に向かって、靴を履き替えたところで、あ、と声が漏れた。
『今日体育あるの忘れてた』
これは今日のサッカー練習は付き合えそうにない。
.