ブルーロック


一つ歳下の冴とそのさらに二つ下の弟の凛は五つ隣の家の子で、俺が引っ越してきてからかれこれもう三年くらいの付き合いになる。

二人は仲睦まじい、近所でも有名な仲良し兄弟だ。

「睡、もっと体力つけろ」

今日も途中から見学し続けてた俺にむっとして言葉をこぼすのは冴で、頬張ってたアイスから顔を上げた凛もへにゃりと笑う。

「たいりょくつけろー!」

きゃっきゃと笑う凛にアイス溶けちゃうよと繋いだ手を結び直して伝えれば、わ!と慌ててアイスを舐めた。

『これでもだいぶ体力ついたんだけどね』

「そんなんじゃ一試合保たない」

『一試合しないからいーんだよ』

毎日のように向けられる言葉に息を吐く。冴がじっとこっちを見てくるから持ってたそれを差し出して、水を飲んでも冴はむっとしたままで何を考えてるかよくわからない。

「すいちゃん!てぇべとべとなった!」

『はいはい』

アイスを食べ終わって、空になった右手を見せてくる。べとべとと言うからには洗うか拭くかしないといけなくて、目についた近くの公園で手を洗うことにした。

水道で両手をびしょびしょに濡らした凛がこちらに手を向ける。

「すいちゃん!あらえたよ!」

『きれいに洗えたね。それじゃあ次は拭こうかー』

「うん!」

一生懸命にタオルで手を拭く凛を眺めていれば、冴は暇なのかとんとんとボールを膝で上に跳ねさせてる。

安定したリズム、同じ高さでボールを操る冴はそのうちつま先や背中でも同じようにボールを当てて跳ねさせて、手を洗い終わった凛が冴を見るなり目を輝かせた。

「にいちゃんすごい!」

「こんぐらいできて当たり前だ。凛もはやくできるようになれよ」

「うん!」

七歳の冴と五歳の凛じゃボールを扱うための手足の長さも違うし、クラブチームに入ってる冴と入ってない凛じゃサッカーにかけてる時間も違うのに冴はなかなかに無茶を言う。

凛はそれをまだわかる歳ではないから純粋ににこにこと笑っていて、冴はふんっと鼻を鳴らすとボールを一際大きく上げて、降ってきたそれを手に乗せ、また小脇に抱えた。

きれいになった凛の両手が行き道と同じく俺と冴に繋がれて、間にいる凛はるんるんと歩く。

「凛ね!よーちえんたのしかったの!」

「ふーん」

「きょうね!みんなでヒーローごっこしたの!凛はヒーローしたんだよ!」

『ヒーローかぁ。かっこいいねー』

「こまってるひとがね!ヒーローっていうの!そしたらね!すべりだいのうえからね!さんじょうって!てをね!ぱってしてポーズするの!」
 
「凛、話はもっとわかりやすくしろ。ぜんぜんわかんね」

『そんなことないよ。凛は話上手だ』

「んへへ」

最初の冴からの言葉は右から左に流れたのか、褒められた部分だけ拾って柔らかく笑う凛に冴はきゅっと眉根を寄せて俺を睨む。

「睡、あんまり凛を甘やかすな」

『冴は知らないかもしれないけど、五歳にしては凛はちゃんとしてるし話の筋が通ってるからな?』

「すいちゃん!すいちゃん!もっとほめてー!」

『凛はすごいねー。お話もまとまっててわかりやすいし、サッカーもボールの扱いが丁寧』

「えへへ」

ふにゃりと緩んだ表情と嬉しそうに蕩ける瞳には俺もつられて笑えば冴は一人むっとして、さっきよりも物言いたげに見据えられた。

非難がましい目に気づいてない凛はぎゅっと繋いでる手に力を入れる。俺の手とおそらく同じように冴の手も握って口を開いた。

「凛ね!にいちゃんとすいちゃんといるの、すっごくすきなの!!」

「、」

『ん、俺も冴と凛と居るのすごく好きだよ』

「ほんと?!にぃちゃん!にぃちゃんは?!」

きらきらの大きな目と興奮したことで少し赤らんだ頬。

周りの他人や俺に対しても多少の傲慢な応対をする冴ではあるけど、凛に対しては大変弱くて案の定少し視線を迷わせてから諦めたように地面を見た。

「俺も、凛と睡といんのは、嫌じゃない」

「すいちゃん!すいちゃん!にいちゃんも凛たちだいすきだって!!」

『嬉しいなー、凛』

「うん!!」

冴の言葉を正しく理解して笑う凛の頭を撫でる。驚きで固まって、それから顔を真っ赤にした冴は勢い良く視線を上げて俺を睨みつけると顔を背けた。

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