DC 原作沿い
☓ 最新映画のネタバレあり
「よぉ、パリジャン」
にたぁっと笑いかけられて含みを持ったその笑顔に笑顔を返す。
『ピンガくん、おはよー。久しぶりだねー』
「ほんとになぁ?」
きゅっと目が細められて口元が弧を描く。テンション高いときのジンくんや作り笑い中のバボくんとは違ったその笑顔はまだ会って数回しかないけどやっぱり慣れない。
「ジンには会いに行くくせによぉ。俺んとこには来ねぇよなぁ」
『ジンくんも仕事忙しいから、そんなに会ってないよ?俺引きこもりだし』
「ふぅん?」
納得はいってなさそうなその声に笑みをはっつけて、ピンガくんは腰に手を当てた。
「パリジャンはつめてぇなぁ」
『んぇー?そんなことないと思うけどな…?』
「俺の扱いが他よりも雑だろ?」
『雑なんじゃなくて、まだあんまり会ったことないから緊張しちゃうの』
「へー」
ピンガくんはそれこそ組織にそこそこ長くいる人間で、コードネームだって貰ってからもう六年は経ってるらしい。
上昇志向の強いピンガくんではあったけど、大きめの仕事に関わることはそこまでなく、そのために俺との関わりもほとんどなくて、コードネームを貰ってしばらくした頃に初めましてをして以来直接会ってなかったし、表の会社に潜入してるらしくて最近まで名前を聞く機会もなかった。
名前を聞くようになったのはキューちゃんが居なくなり、ラムの側近という席が空いたところへピンガくんが自身を売り込みきっちり収まったからだ。
『ラムとは仲良くしてるの?』
「仲良くぅ?顔も知らねぇのにできるわけねーだろ」
『ピンガくんも会えてないんだ!おそろいだねー』
「…へぇ?パリジャンもラムを見たことねぇんだな」
『うん。たぶん知ってる限りだとラムに直接会ったことあるのジンくんくらいだと思うよ?…あ、でもベルねぇさんも会ったことあるのかな…?』
秘密主義で多忙らしいラムは顔と名前を変えてどっかで働いてるらしく、もとより下っ端の俺なんかと顔を合わせることは今後もないだろう。
首を傾げる俺にピンガくんはすっと目を細めて、口角を上げた。
「あのパリジャンも見たことねぇなら、そのラムと会ったら俺のがすげぇよなぁ」
『ん?そうだねー?』
「ふぅん?」
にまにまと、纏っていた空気が変わる。これはまた悪いことを考えてるんだろうなと思っていればピンガくんは口を開いた。
「ラムに会えたらお前にも教えてやんよ」
『ほんと?たのしみー!』
ラムの正体なんて知ったところでなんの特にもならないし、会っても仲良くできる気は全くしないけど教えてくれると言うなら教えてもらえばいいだろう。
喜んで見せればピンガくんが手を伸ばして、俺の顎を取った。
「教えてやったら、代わりにお前の時間貰うわ」
『時間?よくわかんないけどいーよ?なにするの?』
にやにやと悪い顔をしてるピンガくんが近づいてきて、これはたぶんろくなことを言わないだろうなと思ったところで増えた気配に視線を向ける。
「パリジャン」
『キーちゃん!』
聞こえた声は優しいから目を輝かせて、ピンガくんはぱっと手を離す。
自由になったから横を抜けてキーちゃんの前まで進み、あと三歩くらいのところで足を止めた。
『キーちゃん久しぶりだね!元気だった?』
「そう見える?ジンに撃たれた肩が痛んで仕方ないわよ」
『あ!それ聞いたよ!ジンくんがキーちゃん越しに撃ったんでしょ?!ちゃんとメってしといたからね!』
「もっとその調子で頼むわよ。この間はノックの嫌疑で左肩、今回は右肩って体が休まる日がない」
『んん、ごめんね…?』
「いいわ。貴方に撃たれた訳じゃないし。…それよりも、貴方この後時間ある?」
『うん!』
「そう。もしよかったらまた洋服選びにつきあってくれない?」
『ん!!いく!!!』
思ってもよらないお誘いに手を上げて喜ぶ。キーちゃんがふわりと笑って俺の手を取った。
「じゃあ行きましょうか」
『うん!あ、ピンガくん!またねー!教えてくれるの楽しみにしてるー!』
少し離れたところでじっとりとこちらを見てきてたピンガくんに振り返り大きく手を振ってそのまま歩き出す。
ちょっと早足なキーちゃんに合わせて廊下を進んでいって、車に乗り込んだところで大きなため息が響いた。
「…あなた、あんなところでピンガと何してたの?」
『たまたま会ったからーちょっと話してたー』
「はぁ。そう…」
『そんなのどうでもいいよ!ねーねー、キーちゃんどこ行く?何系の洋服にするー?』
「特に希望はないわ。貴方の好きなところに行きましょう」
『えー?俺あんまりブランドとか詳しくないんだよなー。どこがいいんだろ?』
エンジンをかけ、ナビを触ろうとして首を傾げる。キーちゃんは息を吐いて笑った。
「私、お腹が空いちゃったわ。ねぇパリジャン、よかったらショッピングじゃなくてお茶にしない?」
『おちゃ?!する!!』
「それなら私おすすめの場所があるの」
こっちよとささっとナビを操作しておすすめの場所という場所に近くらしい住所を打ち込む。
表示されたマーカーと道順にシートベルトをしめて、口元を緩めた。
『おいしいお茶に向けて!しゅっぱーつ!』
「ふふ、ええ。そうね。しゅっぱーつ」
案外ノリの良いキーちゃんの声に、アクセルを踏み込んだ。
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