ヒロアカ 第二部


「緑谷!初っ端から飛ばしたらしいな!」

『なんの話ですか??』

次の日、また授業終わりに呼ばれて近寄れば随分と機嫌が良さそうに笑うプレゼントマイクに背を叩かれた。

「昨日の顔合わせ!ヒーロー論破したんだろ?!」

『論破なんてしてないですよ?なんでか出た質問を代わりに回答させられただけです』

「ガキって侮ってた連中たちに正論ぶちかまして黙らせたら論破したっつーんだよ!!」

わははと笑う姿に周りがえ、絡まれてる?と目を疑うようにこちらをちらちらと見てきてる。妙に集まってしまってる視線に息を吐いた。

『俺が何を言ったところでそんな簡単に批判的な目は変わりませんよ。それに元々、あのまとめ役の方は俺の立ち位置変えるつもりはなかったみたいですし…』

「おー、随分とあの堅物じーさんに気に入られてんじゃねぇか」

『堅物…?あの方、無駄が少ないから自然と言葉数も少なくて、上背があるから威圧的に見えるだけで結構優しそうな方に見えましたけど…』

「まじか。俺あのじーさんに会う度怒られんぜ??」

『え、何したんですか』

「声がうるせぇらしい」

『それは…仕方ないですね…』

「緑谷!?お前だけはそんなことねぇって言ってくれると思ったのに!なんだよ!相澤に似たのか!俺にも優しくしてくれ!!」

『ちょ、痛っ耳死ぬ』

「山田くん!校内で個性使わないの!!」

「ouch ! 」

持っていた教材の平面で目の前の頭を叩いた担任は片眉を上げていて耳をふさいでいた左手を下ろす。

「まったく、何騒いでるの?」

「緑谷と話してただけっす…」

「話してただけで無意味に個性を使わない。周りの子たちの迷惑にもなるでしょう!」

「はい…さーせん…」

怒られてるプレゼントマイクに耳の痛みが収まってきた。聞こえる香山さんの声と、周りの音に鼓膜はちゃんと生きてるらしいから安心する。

「緑谷くん耳は平気そう?痛みがあるようならリカバリーガールに見てもらったほうがいいわ」

『大丈夫だと思います』

手を外せば香山さんと山田さんはほっとしたように息を吐いて二人は顔を見合わせてから口元を緩め、頷いた。

「初日からお疲れ様。昨日は初合わせで睨まれちゃって大変だったみたいね?」

『特には…?先生もいらっしゃいましたし、心配なかったです』

「ふふ、それなら良かった!」

でもね!と言葉を続けると上げた右手を俺の頭の上に乗せた。

「現場で一緒になることもあるだろうから、そのときは私のことも頼ってちょうだいね!」

「もちろん俺でもいいぜぇ!!」

『、』

にっと笑う二人に思わず視線を泳がせて、落としながら首を振った。

『…はい』

「…っ!どうしましょ!山田くん!私たち到頭緑谷くんの内側に入れたのね!?嬉しいわ!!」

「あの緑谷兄がこんなあっさり素直に頷くなんて…?!…もしかして、熱でもあんじゃねぇか…?」

『俺のことなんだと思ってるんですか?失礼すぎません??』

「お前のそういうところだろ」

『、先生』

呆れ混じりの先生の声に顔を向ける。予想通り気だるそうに立っている先生は持っていた資料を持ち上げるとばしんとプレゼントマイクの頭を叩いた。

「なんで俺だけ!」

「校内での個性使用は禁止だ」

「げっ!どっから!」

「校内での出来事は大抵共有されるんだから当たり前だろう」

「目撃者多数の証拠ありありだものね!」

あははと笑った香山さんにプレゼントマイクが罰の悪そうに頬をかいて、相澤先生は息を吐くと俺を見据えた。

「耳に不調はないか?」

『はい、問題ありません』

「少しでも違和感を覚えたのなら授業中であろうとすぐにリカバリーガールのもとに行くように」

『は、はい』

先生の言葉に思わず首を縦に振って、そうすればにんまりと笑った香山さんが先生の両脇腹の辺りを肘で続き始めてにやにやと笑う。

「なんですかその顔」

「なんでしょうね〜」

「相澤〜、そのうち依怙贔屓でPTAに吊るし上げられるんじゃね?」

「縁起でもないことを言うなよ」

「だってよ〜」

「うるさい、山田」

ばしりとまたを立てて叩かれた頭に苦笑いを浮かべる。

口を開こうとして、響き始めたチャイムの音にあ、と別の音がこぼれた。

『予鈴ですけど、先生方次の授業は…?』

「、それじゃあまたね!緑谷くん!」

「…放課後、訓練場集合だ。心操に伝えておいてくれ」

「やべぇ!今から三年の教室間に合うか?!」

「廊下は走るなよ」

「シヴィー!!」

慌ただしく消えていった三人を見送って、次は座学だから居室の中に戻る。楽しそうだったねーとのほほんと笑う委員長と後二分ですよと一応声をかけてくれる副委員長に挨拶をして、自分の席に腰掛ければ人使が口元を緩めてた。

「すっかり溶け込んでるな」

『溶け込んではなくない?』

「なんかこう、末っ子っぽい」

『俺、お兄ちゃんなんだけど??』

「それはそれだろ。先生たちのが歳上なんだし」

『あー、たしかに』

圧紘のとんでもクイズでも兄の条件に歳上ってあったなと思い出す。その理論で行けば先生たちから見れば俺は末っ子も同然だろう。

『なら人使と双子かな』

「それ、必然的に緑谷とも双子になるんだけど」

『ん?たしかにそうだね?』

「…万一にもそんなことになったら…緑谷暴れそう…」

『んえ??』

二の腕を擦るように体を震わせてる人使に首を傾げて、そうすればチャイムが鳴って次の授業の教員が入ってきた。




しっかりとすべて終わらせて、迎えに来てくれた黒霧さんに入り出た先は、最近良く使ってる廃工場の中だった。

『おはよ』

「お、出留。今日早いねぇ」

『今日は誰の手伝いもないから、久々に長くみんなと話したいなって』

「そうか、そうか」

「出留くん!おはよ!」

「おはようございます!」

『おはよー、来週のピクニック楽しみだね』

「はい!」

コンプレスは笑って、くれるつもりらしく投げられたペットボトルを受け取る。ヒミコちゃんとマグネの近くを通り挨拶をかわして、真ん中あたりに立ってる弔の横の壁に寄りかかった。

『おはよ』

「ん」

つけた手の下で口元が緩んだのを見てよしよしと頷きながらペットボトルに口をつける。渡されたお茶は冷えていて、コンプレスのあの収納は本当に便利だなと思う。

お茶を飲んで、それから、なんだかんだ仲がいいのかよく同じタイミングでいないスピナーと荼毘さん以外はともかく、いつも俺が来るといる人が見当たらず目を瞬く。

『トゥワイスは?』

「連合に入りたいって奴を連れてくるところだ」

『え、俺帰ろうか?』

「気にすんな」

首を横に振られてそれから弔はポケットから携帯を取り出して操作を始める。トゥワイスからの連絡かなと思いながら近くのマグネを見ればうふふと笑った。

「出留くん、学校はどうなの?」

『最近はそんなに変わったことないよ。普通に勉強したり訓練したりしてる』

「ちゃんと勉強してて出留くん偉いですね」

『んー、時間が有り余ってるから』

足音が近づいてきてなんとなく喋るのをやめる。扉が開いて向こう側からトゥワイスともう一人、成人男性が入ってきた。口元には大きなくちばしみたいなマスク。パイロットジャケットのような丈の少し短いアウターに、白いゴム手袋が印象的で首を傾げる。

「連れてきたぜ死柄木!お!出留!おせぇぞ!早すぎんだろ!おはよ!!」

『うん、早く来てみたよ。おはよー』

大きく手を振る元気なトゥワイスに手を振り返せば一瞬、隣にいる男性が俺を見てすぐに弔に視線を戻した。

弔が息を吐いて眉尻を上げる。

「とんだ大物連れてきたな、トゥワイス」

「大物とは…皮肉がきいてるな、敵連合」

何故か一触即発の空気に目を瞬いてヒミコちゃんと顔を見合わせる。マグネも不思議そうに口を開いた。

「有名人?!」

「先生に写真を見せてもらったことがある。いわゆるスジ者…死穢八斎會、その若頭だ」

「極道!?やだ初めて見たわ!危険な香り!!」

『落ち着いて?マグネ??』

「極道…私達と何が違う人でしょう?」

興奮するマグネを宥めている向こう側でコンプレスが悠々とヒミコちゃんの疑問に答える。

指定敵団体と呼ばれる存在はニュースや新聞でも少しだけ目にしたことがあったけれど、実際に当事者を見るのは初めてだ。

「時代遅れの天然記念物」

「まぁ、間違っちゃいない」

仲間になりたい人選としては少し違和感のあるその人をぼんやり眺める。

既に一つの団体のトップであるなら、きっと団体の思想も成り立ちも違うはずだ。それが今更敵連合に入ったとして、この人が弔の下についてる未来が全く想像つかない。

「今は日向も日陰も支配者がいない。じゃあ次は、誰が支配者になるのか」

俺の違和感はあたってたらしく、おかしな方向になってる話題。段々と張り詰めていく空気に困惑する。

「次は俺だ。必ずこのヒーロー社会をドタマからぶっ潰す」

わかりやすくキレてる弔とおろおろするトゥワイス。不機嫌そうに眉根を寄せるマグネとヒミコちゃんに、それでもなお、その人は言葉を重ねる。

「今日は別に、仲間に入れて欲しくて来たわけじゃない」

「トゥワイス…ちゃんと意思確認してから連れてこいよ」

「えっ、」

困ってるトゥワイスを気にも止めず、資金繰りのためにここに来たというその人は淡々と告げていく。弔がいらだって首元に爪を立てた。

「俺の傘下に入れ。お前たちを使ってみせよう。そして、俺が次の支配者になる」

がりっと音がして、弔が眉根を寄せた。

「帰れ」

「ごめんね極道くん!私達誰かの下につくために集まってるわけじゃないの!!」

いつも持ってる磁石を担いで飛び出したマグネの向こう側、磁石に引きつけられてるはずなのに慌てることなく悠然と手袋に手をかけたのを見て、嫌な予感がしたから俺も床を蹴って近づく。

「私達の居場所は私達で決めるわ!」

振り回した磁石が避けられて、マグネに手袋を外したばかりの指先で触れようとした。咄嗟にマグネに足払いをかけて引き倒す。それでも間に合わなかったのか触れられたらしいマグネの足が、内側から膨れ上がって、破裂するように弾けとんだ。

びしゃりと、飛び散った赤が顔にかかる。

「ああ゛っ!?」

「マグ姉っ」

驚いたように叫ぶヒミコちゃんの声。

「ああ、汚いな…!これだから嫌なんだ…!!」

『マグネに触んな!』

汚いと自身に飛んだ血を落とそうと体をこすりながら目の前のそいつが手を伸ばそうとしてきたから蹴り飛ばして、痛みに叫ぶマグネを掴んで、触れられないように俺の後ろに置く。

「こいつはやべぇ…っ!出留!マグネを頼む!」

入れ替わるように飛び込んでいったコンプレスに弔がはっとしたらしく遅れて声を上げた。

「待てコンプレス!」

圧縮させるためか、庇うように俺達の前に立ったコンプレスがいつものように手を伸ばしてそいつに触れるけど、何も起きない。何故コンプレスの個性が発動しなかったのかはわからないけど、動いたそいつの腕に考えるより早く叫んだ。

『触られんな!』

「はっ」

「触るな!」

「ってぇえ!!!」

咄嗟に身をよじったため伸ばしていて逃げ切れなかったコンプレスの左腕が吹き飛ぶ。

「下がれ出留!」

後ろから聞こえた声に後ろに動けば弔が飛び込んだ。

「盾!」

叫んだそいつに呼応するように二人男が目の前に現れ、片方が弔の個性により崩壊していく。もう一人も痛みにもがく二人、もしくは俺に何かを振るおうとしたから舌打ちをして、思いっきり顎を殴れば吹き飛んでいった。

「危ないところでしたよ、オーバーホール」

「遅い」

「待て、どこから!俺は尾行なんてされてなかったぞ!」

聞き馴染みのない声がして動揺するトゥワイスの後ろ、壁が大きく壊れて複数の人間が入ってくる。

一人崩壊させたところで後ろに飛んだ弔に、腕を抑えてるコンプレスを引き掴んで距離を取った。

「なるほどね…ハナからそうしてりゃ、幾分かわかりやすかったぜ」

向こうは援軍が増え、こちらは二人やられてる状態。あいにくと血の気が多く戦闘力高めの荼毘さんやスピナーは来るかもわからず、これ以上続けたら不利なのは明らかだった。

「一発外しちゃいやしたが、即効性は充分でしたね」

なんのことか、現れた援軍の一人が吐いた言葉にそいつは顔に飛んでる血を執拗に拭いながら目を細める。

「穏便に済ましたかったよ、敵連合。こうなると冷静な判断を欠く。こちらは死体一つ、そちらは怪我人二人。大体平等だろう。頭を冷やして後日話そう」

殺意が目に見えて消えていく向こうに、俺が話を聞く義理はないだろうから纏めた怪我人の前に膝をつく。だらだらと流れ続けてる赤色を早く止めないといけない。上着を脱いで転がってた破片で半分に切り二人の患部の近くを強く結んだ。

「弔くん、私刺せるよ、刺すね」

「てめぇ殺してやる!」

「………」

ちらりとこちらを見た弔に首を横に振って、理解していたのか弔が頷く。

「駄目だ」

「責任取らせろ!」

「刺せるよ」

「駄目だ」

「賢明だ、手だらけ男」

「っ!」

『トゥワイス、ヒミコちゃん、二人の止血が先』

「でも!」

向こう側の妙に高い声が茶化すように言うから二人がまた声を上げようとして、息を吐く。太い血管が通っている部位を吹き飛ばされた二人の、特に圧紘は心臓に近いせいか血が止まらない。

言葉を抑えて、二人を見た。

『__早くしろ。殺す気か』

「っ、違います!」

駆け寄ってきてマグネの患部近くを縛るパーカーの残骸を強く引っ張るヒミコちゃんは怒りと不安で今にも泣きそうだ。

『仁』

「仁くん!」

「〜っ」

走ってきた仁が俺の持っていた布を代わりに強く引き、圧紘の止血を試みる。

「冷静になったら電話してくれ」

帰る気らしいその声に視線を向ければばちりと目があって、奴らは気絶した一人を担ぎ、さっさと出て行った。

『弔、医者を』

「……黒霧を呼ぶ」

携帯を取り出して連絡を取り始めた弔を横目に、圧紘の仮面、マグネのサングラスを外して二人の顔色を看る。マグネよりも圧倒的に顔色が白い圧紘は眉根を寄せた。

「なんで、個性が、使えねぇ」

『さっき言ってた即効性がどうとかのやつじゃね。そんなんどうでもいいから、とにかくなんでもいいから死ぬほどやりたいこととか楽しいこと考えて気をしっかり持って』

二人は一瞬黙って、不敵に笑う。

「そんじゃ、今度、出留にショー、ヒロインでもしてもらおう、かね」

「私は出留くんといちゃいちゃしたいわ!」

『…お前ら、案外余裕じゃね?』

「全然!死ぬほど痛い!痛すぎて願望垂れ流さないと気が飛びそうなの!」

「普段、余裕な顔してる奴の、怒り顔って、カッコイイなって、ほんとね」

瞳孔が開いてて大きな声を出してるマグネはともかく、新しい扉開きそうと白い顔でにたにた笑う圧紘の頭を叩こうか迷って、やめる。一応大怪我してる最中だし、楽しいことを考えろと言ったのは俺なので治ったらぶったたけばいいだろう。

止まる気配のない赤色に目の奥が熱くて、するりと顔が撫でられた。

『マグネ…?』

「アタシが飛び出したのが悪いの。そんな顔しないでちょうだい」

何かを拭うような指先に、そういえばさっきマグネからこぼれた赤色がかかったんだっけとぼんやりと思い出して、マグネは息を吐いた。

「ごめんなさいね、出留くん。ピクニックは今度になっちゃいそうだわ」

『、うん、平気。また予定立てて行こう』

マグネの言葉に唇を噛んでから笑みを繕って返す。目の前で小さな肩が不安そうに揺れた。

「出留くん…マグ姉と圧紘くん、死んじゃいませんよね?」

『…、さっきのは脅しだから、少なくともマグネは死なないよ。びびらせて悪い』

「そんな、圧紘くん死んじゃうんですか…?!」

「嘘だろ…っ圧紘!死ぬな!!」

「え、待って、トガちゃん、仁??勝手に殺さないで?」

『俺の兄妹泣かしたら許さねぇから、死ぬ気で生きろよ、圧紘兄さん』

「理不尽かよ!」

「ふふ、たいへんねぇ」

圧紘が割と元気に声を荒らげたところで黒霧さんが現れて、慌てながら二人をモヤで包むと患部を抑えてるヒミコちゃんと仁ごとどこかに転送した。

残されて、息を吐き立ち上がる。

近くに落ちてる名刺と赤色のなにかを拾った弔が顔を上げて俺を見た。

「お前の気持ちがちょっとわかった。大事なモンに手出されるのって、腹立つな」

視線を揺らした弔が口元を歪める。

「…絶対許さないぜ、死穢八斎會」

怒りに笑う弔は手の中のその二つを丁寧にポケットに入れて、目を閉じた。




「あれ?パーカーどうしたんだ?」

『あー』

大体風呂を出てから制服に着替えるまで同じような格好をしてる俺に、今日はパーカーを羽織ってないことに気づいてか眠たそうな人使が首を傾げた。

『昨日醤油ぶっかけたから捨てちゃった』

「どういう状況だ…?」

まだ寝ぼけてるのかそれ以上の言及されることはなく、人使はあくびをこぼして目を擦る。

朝食のために来た食堂で適当な食べ物を受け取り、いただきますの後、箸を取って食べ始めた。

ついさっき届いた連絡では二人は無事生きているそうで、とりあえず血は止まったらしい。患部はどうやったのか断面はきれいに球状に切り取られていたそうで、これからは義手義足での生活になるという。

体を支える必要のある足と、個性を使うための腕。二人は当面リハビリをしていかないといけないらしい。

大切な人の唐突な怪我に、苛立ちと後悔が襲ってくる。

もっと早く動けてたらマグネは足を無くさなかったかもしれない。もっと明確に伝えられてたら圧紘は腕を無くさなかったかもしれない。これが出久や勝己だったら、絶対に怪我をさせなかったはずで、いつの間にか大きくなってた彼らの存在に不安がよぎる。

いつか出久と勝己が彼らと敵対したとき、俺はどちらの味方をするんだろう。

「出留?」

不思議そうな声に顔を上げる。向かいの人使が目を瞬いて俺を見てた。

「進んでないけど、腹減ってないのか?」

『あー、ちょっとだけ考え事してた。ごめんごめん』

「謝ることでもないけど…」

心配される前にさっさと朝食を食べきり、一度着替えために部屋に戻る。

本来ならこんなときは出久をぷにぷにしたり、勝己を撫で回せばこんな気持ち吹き飛ぶけれど、生憎、出久はインターンで学校を空けることが増えるようだし、勝己は授業のあと仮免補習で触れることは出来ない。

何度か深呼吸をしてから気持ちを整える。

人の気持ちに敏い人使と相澤先生に気づかれてはいけない。

着替えてから部屋を出れば、待ち合わせの場所に人使は既にいて、笑い掛ければすんなりと頷いて歩きだした。


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