弱ペダ
[生徒会役員と自転車競技部と矢島さん]
「荒北ぁ、すーちゃんみなかったー?」
「はぁ?俺が知るわけ無いじゃナァイ」
「と、東堂く、さま!鈴彦くん見かけませんでしたか?」
「矢島さんか?見とらんよ」
「新開、矢島見てねぇ?」
「ん?見えないけど…」
「鈴彦どこにいるかしらないかな?」
「む?知らんが…」
「うわぁぁぁ、鈴彦くんどこいったのー!!」
「矢島ー、どこ隠れてんだー」
「すーちゃーん、どこー」
「出てこねぇと鈴彦の仕事増やすぞー」
毎週月曜日の昼は生徒会の定例会議というのは全校生徒周知の事実だ。
「矢島さんー、そろそろ会長の胃がやられちゃうんで出てきてくださーい」
「ギブアップなのです、すーちゃん先輩ー」
「ノート返してください鈴彦先輩ーっ!」
そしてこの矢島鈴彦捜索も定例である。
「今日は休み時間前に捕まえられなかったみたいだね」
「よくあんな人が生徒会やってられるよな」
「ユキったら仮にも先輩にそれはダメでしょ」
良く言えば自由奔放、天衣無縫。
悪く言えば自分勝手、ジコチュー。
そんな矢島は生徒会で書記を務める一応優等生とかいうやつだ。
しくしくと泣きながら腹をさすり始めた我らが箱根学園のトップ様に福チャンが見かねて捜索を半分手伝うのはもうお決まりで、部活の連絡網に矢島捜索の通知がきて腰を上げた。
こうなるともう、レギュラー、一年関係なく校内を駆けずり回り、東堂のファンクラブも新開のファンクラブも動いて全校生徒の六割が巻き込まれる一種のイベントだ。
くんくんと鼻を鳴らして歩いてく。
毎回毎回、どこから見つけてくるのか人気のない穴場で寝てたり飯くってたりだらけてる矢島を見つけるのは至難の業で、ウォーリーを探せより難しいかもしんない。
ローラー作戦を決行してるやつらを尻目に、甘い匂いにつられてついたのは裏庭の影。
よく俺が黒猫に会いに来る場所のすぐ近くだった。
穏やかな寝息を立てて食べ終わったパンのゴミを片手に、腹には黒猫を乗っけてる姿はため息しか出ない。
「矢島ぁ、起きなヨ」
猫には悪いけど一大事だから眠る矢島の脇腹を蹴った。
『ふぉぉ、矢島さんの寝込みを襲うなんて、あらあらだいたんやのぉ…』
「打ちのめされぇのかよてめぇ」
『ふぅぅぅ、ばくだぁん、あらあらは冷えぴただよね。いけずだよね』
「爆弾って何だヨ。ネーミングセンス皆無か!」
蹴られても逃げやしない猫は矢島によって変な名前を付けられてた。
それでも撫でられて目を細め喉を鳴らすんだから気に入ってねぇわけではないらしい
『あらあら、ばくだんをよろしゅうねぇ』
ふぎゃっとでぶちんの猫が腕にのせられて、立ち上がった矢島は校舎の方に歩き始めてた。
『今日の議題はぁー』
「矢島、貴様議事ノートを持ってふらつくなと言っておろうが!!」
「福富くんありがとう、本当にありがとう…」
「いや、いいんだが、胃薬は噛み砕くものじゃないぞ」
「すーちゃん見つかったよー、ありがとねぇ」
「気にすんなって、困ったときはお互い様だろ?」
「君たちもありがとうね」
「ちぇー、また荒北さんかぁー」
「いいトレーニングにもなりますし!」
「バシくんもユキちゃんも連絡つかないどうしよぉ」
「ご協力感謝いたしますのですよ」
「ワッハハハハ、この美形天才クライマー東堂尽八にry」
いつもどおりに矢島を見つけて生徒会に引き渡すと福チャンから自転車部全体に終了の合図を送った。
副会長が正座させた矢島の手にはノートがめくられていてほとんど説教なんて聞いてない。
二分も説教が続けられて足が痛くなったのか矢島が左右にもぞもぞしはじめて会長が腹をさすった。
「うう、いいからもう会議はじめよ…」
「会長の意見にさんせー」
「会長様がんばっ」
「ちっ、おら、早くしろ」
「次体育なので早く終わらせてもらいのです」
「なら先にに着替えとけよ」
「まーまー、はいはい、行きますよ」
ぞろぞろと生徒会室に流れ込んでいく役員共。
会長を除いた役員に頭を叩かれたり撫でられたりした矢島が最後に立ち上がった。
『ふ、ふぁぁぁ、あ、足が…っ』
「産まれたての子鹿かヨっ!」
『あら、あらあら!てて!おてて貸して!!』
「貸さネーヨ!」
文句を言っても伸ばした手が引っ込められるわけもなく、俺の肩にひっかけられる。
『よぉし、矢島さん、いっきまーす!』
「フザケンナ!ぶっ飛ばすぞ!」
『あらあら!はっしーん!』
ゴキゲンな矢島の声と福チャンの頷く様。
役員共と部活の連中の目に眉根を潜めた。
「だァァァァ!もう!」
結局矢島を背負って生徒会室に打ち込むまでが俺の仕事なんだからやってらんねー。
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