ヒロアカ 第二部


よくわからないうちにすれ違っていたらしい俺と相澤先生ではあったけど、無事になんとか和解できてインターンを受領してもらえた。今後は外の仕事にも一緒に行くことになるらしく、その都度連絡すると伝えられた。

とはいえ、インターンが決まっても特にやることは変わらない。

「出留、今日の体育外らしいぞ」

『えー、なにやんだろー』

「さぁ…?」

朝から出久や勝己、もしくは人使と朝練をして、授業。夕方からは基本自由時間だけど課題をかたしたり人使と一緒に先生と訓練を受けたり、勝己と轟くんが仮免補講があるときは晩飯を用意して一緒に取ったりする。

「出留、無理してないか?」

『ん?ぜーんぜん?』

今日は社会科のレポートの関係で図書室で人使と勉強していればそんなふうに心配そうに聞かれて首を横に振った。

全寮科に伴い、移動時間が減ったし夜も自由にできる時間が増えた。そう考えると前よりも正直、時間に余裕があるし今のところ人使が心配するようなほど疲れを感じたりはしてなかった。

「……はぁ。ならいいけど、少しでも気になることあったら教えてくれよ」

『もちろん』

人使が手を伸ばしたから近くにあった資料を差し出す。礼を溢して受け取って、二人でこつこつとレポートを作っていればあれ?と声が聞こえて顔を上げた。

「あ!やっぱ緑谷さんだ!こんちゃ!」

『こんにちは、切島くん、上鳴くん』

「うっす!心操もこんにちは!なにしてんだ?」

「勉強」

「なるほどなー!」

二人も同じように勉強しにきてたんだろう。手元には鞄があって教材を持ってる。きょろきょろすると上鳴くんがにぱっと笑った。

「折角なんで同席いいっすか!」

『うん。いいよ』

「ああ」

人使も頷いたから四人がけ席の向かいに二人は座る。

二人が広げたのは数字の並んだもので、数学の勉強を始めるらしい。

「出留、ありがと」

『はいよ』

受け取った資料は端に寄せて置く。意見交換しつつレポートを書いていき、最後の一文を書いたところで人使が両腕を上げた。

「おわ、った…!」

『お疲れ』

上に向かって大きく伸びをする人使は開放感に満ち溢れてる。レポートをしまった人使は顔を上げると俺を見た。

「まだ時間平気か?」

『ん?うん。なにやる?』

「今日出た数学の課題、いいか?」

『おっけー』

「ごめん、ありがとう」

『いーよいーよ。今後ノート借りるだろうし、お世話になるから』

「…インターン中の授業分補習あるんじゃなかったっけ?」

『できることならそれ受けたくないから今から詰めて、万全にしとく』

「なるほどな」

インターンで学校を離れる間も授業は進む。本来はその補填として補習が行われるけど、補習を受ける時間を取られることを考えたら人使に頼らせてもらって授業を確認し、自力で終わらせたいところだった。

「ずっとノートはしっかり取ってるから安心してくれ」

『ん。頼らせてもらうね。ありがと』

雑談している間に取り出されたノートを覗き込む。

「ここの長さ出すやつ」

『あー』

「途中で死んだ」

『だね。止まってる…んー、仮定は問題な…、あ、使う方程式これ三平方』

「え、まじか」

『うん、まじ。ちょー凡ミス』

「あー…ごっちゃになってる…計算しなおしてみる」

『がんばれ』

顔を歪めてすぐに方程式を書き換えると黙々と計算を始める。作った式を展開して、まとめて、値を出したところでぐぅと声をこぼす。

「13と12…」

『大正解』

「なにに躓いてたんだ俺は…」

『まぁそんなこともあるよね。そんで、そっちはメネの方だよ』

「……ちょっと全部やり直す…」

『終わったら教えてー』

「ん…」

詰まった他の問題も解き直すつもりらしい。カリカリとシャーペンが紙をひっかく音が微かに響いて、使う方程式さえ理解してしまえば後は計算ミスに気をつけるだけだ。

たまに手を止めつつもすぐにペンを走らせる人使に、そういえばと顔を上げた。

『え、』

死屍累々。まさにそんな感じで机に溶け出してる。俺の声に気づいてか顔を上げたことでばちりと目があって、上鳴くんは勢い良くプリントを差し出して頭を下げる。

「っ〜、緑谷さん!一生のお願いです!勉強教えてください!!!」

『え、勉強?』

プリントに視線を落とす。俺達がレポートを終えて今に至るまでそこそこに時間はあったはずだけど、だいたい半分ほどしか埋まってない。

後半に進むにつれて空白の目立つプリントは応用に躓いてるんだろう。

隣の切島くんはすでに別に用意したノートがぐちゃぐちゃの頭を抱えている状態で、隣を見る。

人使はまだ解き直しをしている最中だし、今日は勝己と轟くんが補講じゃない日で夜ご飯を作る必要はない。

立ち上がれば上鳴くんは視線を揺らして、二人の間に立って手元を覗く。

『そんな心配しないで。人使が終わるまでならいいよ』

「っ!あざいますっ!!!」

『それじゃあサクサクやってこうか。ね、切島くん』

「ほんと申し訳ねぇ…っ!!」

「お礼にお菓子持ってきます…!」

『平気平気、気にしないで?』

二人の手元、上鳴くんのノートとプリントを見つめる。それから以前勉強会でも見た切島くんのも確認して、なるほどと頷いた。

『切島くん、夏頃よりも応用できるようになってきてるね。いい感じ。ただまだどの公式を使えばいいかが判断しきれてないから…今回は公式どれ使うか書いとくね』

「っす!あざっす!!」

『上鳴くんは…んー、全体的に諦めるのが早いかなぁ。この辺とか合ってるのに途中で計算やめちゃっててもったいない』

「え、こんなぐちゃぐちゃなのにあってんですか??」

『うん。あってる。ぐちゃぐちゃなのは余分な計算があるからだね。えっと…』

切島くんのプリントへは右上に公式を書いて判断できるように番号を問題一つずつに振って渡して、計算を始めたのを横目に上鳴くんのプリントに移る。

『ここ、わざわざ計算で出さなくても呼応するところから引っ張ってくれば簡単だよ』

「あ、え?!ちょっとまって緑谷さん!」

慌ててメモを取りはじめる上鳴くんに一つずつ確認しながら伝えていく。視野が狭いわけではないだろうけど、計算をしないといけないという先入観で必要のない計算をしてしまって体力を使ってるからそこを削ってあげて、必要な情報を拾ってから式に当てはめる。

計算は正確に行えばそこから導き出される数値に誤りはない。シャーペンが止まって、上鳴くんが信じられないものを見るような目で俺を見た。

「…………解けた?」

『うん。解けたね』

「っ〜!あざいます!!」

ぱぁっと明るくなる表情に俺も思わず笑みが溢れる。嬉しそうな顔は見ていて悪い気はしない。

『上鳴くんは計算が得意そうだね。じゃあ残りもやっちゃおうか』

「はい!!」

テンション高めにシャーペンを走らせ始めた上鳴くんと、黙々と問題を解いていく切島くん。ふと顔を上げればちょうどよく人使も顔を上げて目を瞬くと口角を上げた。

「出留先生、答え合わせお願いしまーす」

『先生じゃないんでやり直しですねー』

「頼むよ、相棒」

『はいはい』

差し出されたノートを受け取ってやり直したであろう問題を確認していって、最後の問題の解答は空欄だったから首を傾げた。

『最後のは?』

「お手上げです」

『わかる。俺もこれ詰まったもん』

「あの出留が??」

『どの俺かはしらないけど、たまに先生コアな問題出すよね』

数学のエクトプラズム先生はテンションが上がると鬼みたいな難易度の問題を出す。

これもそのうちの一問だったなぁと授業を思い返しながらヒントを出して、人使は少し考えた後にシャーペンを動かしだした。

三人が問題に向かい合ってるのを眺めていればあれ?と声が聞こえて顔を上げる。

「お兄さん?こんにちは!」

「こんにちはー!」

『こんにちは、芦戸さん、葉隠さん』

「「こんにちは!」」

「あ!切島くんと上鳴くんと心操くんもいるんだ!」

「ていうか…みんなで勉強会してるの??」

元気な二人は目を瞬きながらこちらによってきて、切島くんと上鳴くんの手元を覗いて目を丸くした。

「これ今日の難問だったやつ!!」

「切島と上鳴が問題解けてる!?」

驚愕したような声に勉強中の二人は顔を上げて、上鳴くんは頬を膨らませた。

「なんだよ芦戸ー。俺が問題解けてちゃ悪いのかよー」

「悪くはないけどよくわかったね!?天才じゃん!」

「私にも教えてー!」

「俺が一人でできたわけないじゃん!緑谷先生様のおかげ!!」

『先生も様も要らないからね?俺は手伝っただけで上鳴くんの実力だよ』

「ぐっ、これからは兄貴と呼ばせてくれ…!」

『普通に緑谷でいいからね?切島くん』

テンション高めの上鳴くんと涙を浮かべる切島くんに笑って目をそらす。

きらきらとしてる芦戸さんの瞳に、おそらく葉隠さんも同じような表情をしてるんだろうなと苦笑を溢した。

『人使、まだ少し時間いい?』

「ん…これ解くのに時間かかりそうだから平気だ…」

『りょーかい。ありがと』

「「おにーさん!!ありがとー!!」」

会話に察したらしい芦戸さんと葉隠さんが手を上げて跳ねる。二つ増えた教材に二人の現状を確認して、同じようにヒントを出しながら問題を解いていってもらって、たまにつまってしまったら少しだけ助言をする。

「っ、よし、出留、確認してもらえないか?」

『ん、おつかれ』

窺うような視線にノートを受け取る。途中式を確認して解答を見て、頷いた。

『完璧じゃん。さすがだね』

「先生がいいんだ。ありがと、出留」

『煽てても何も出ないよ?』

「出留からはもらってばかりだろ?次は俺が出す番だから安心してくれ」

『ははっ、何も要らないよ』

「だめだ。感謝と誠意はちゃんとするって決めてる」

首を横に振る人使は意見を曲げてくれそうにない。

『んー、お礼楽しみにしてるね』

「ああ!」

目を輝かせた人使にノートを返す。受け取るなり辺りの教材をまとめて鞄に詰め始めた人使に四人を見る。

四人はそれぞれプリントを埋めていて、もうほとんど完成に近い。

その中でも一番終わりそうな葉隠さんが手を止めて、たぶん顔を上げた。

「お兄さん!ありがと!!後は自分たちで頑張ってみる!」

『ん?そうなの?もう少しで終わりそうだから見ておくけど…』

「大丈夫っす!後はお互いに教えあって埋めてみる!本当にあざっした!」

葉隠さんの言葉に首を傾げれば三人も顔を上げる。

「お兄さんありがと!今度お礼にお菓子でも持っていくね!ていうかお兄さんお菓子食べれる??」

『食べれるけど、お礼はなくて平気だよ?』

「安売りはだめっすよ!忙しい中時間割いてもらって教えてもらったんだからお礼くらいちゃんとさせてください!!」

『ええ…?』

あまりの勢いに助けを求めようとしても人使もそうだなと頷いていて味方してくれそうにない。

「緑谷さん何好きっすか!?」

『え、なんだろ、急に言われると出てこないかなぁ…』

「じゃあ飲み物とかは??お兄さん何好きー?」

『うーん、……炭酸?』

「思ったよりアバウトっ!!」

『あはは、ごめんね。ほんとにお礼は大丈夫だから気にしないでよ。最後まで見れてないしさ』

荷物を持って人使の肩を叩く。

『夜飯行こ』

「ああ」

『じゃあまたね。頑張ってね』

手を振って歩き出す。四人の視線から外れるように部屋から出ていった。

隣を歩く人使が不思議そうに俺を見上げる。

「出留って好物あんまり教えないよな」

『んー、教えないっていうか、すごく嫌いっていうのがあんまないから好物って聞かれてもすぐ答えられないんだよね』

「あー…確かにそんなこと言ってたな」

納得したような人使に目を逸らす。

俺が好きなものはなんだったか、考えても思い出せないから諦める。

『夜飯何にしようかなー』

「野菜ばっか食べるなよ?」

『ん?肉と魚も食べてるよ?』

「ほっとくと野菜しか齧ってないだろ?」





今日の夜ご飯は回鍋肉定食を選ぶ。お肉をたくさん、それから一緒に温野菜をトレーに乗せた。

「緑谷くーん!」

ぱたぱたと足音が聞こえる。顔を上げれば向こうから浮いてる洋服が近づいてきて、葉隠さんかと目を瞬いた。

「どうしたの?葉隠さん」

「あのね!お兄さんの好きなもの教えてほしいの!」

「、兄ちゃんの?」

唐突な質問に思わず顔がこわばる。僕と同じようにご飯を食べにてたかっちゃんがちらりとこちらを見た気配がして、ばたばたとまた足音が響き始めた。

「あ!爆豪ー!」

「かっちゃーん!教えてほしーことあんだけどー!!」

「あ?」

「ねーねー!爆豪!お兄さんの好きなお菓子ってなに?!」

「…あ?」

ぐっと眉根が寄ってかっちゃんの不機嫌オーラが増す。ご飯時に騒がしいのが嫌いなかっちゃんに、駆け寄った上で脈絡なく兄ちゃんの話をするなんて地雷だ。

どんどんとわかりやすく機嫌が降下していくかっちゃんに慌てて近寄って三人との間に入る。

「ええええと!か、かっちゃんは今ご飯食べてるから!よかったら兄ちゃんのこと僕が聞くよ!」

「じゃあみんなでご飯食べよ!」

「アタシなににしようかなー!」

「私も選んでくる!」

「緑谷の回鍋肉定食うまそうだから俺それにしよー!」

「俺かっちゃんの食ってる焼き魚定食!」

四人が離れていく。ちらりとかっちゃんを見れば僕を見ていたらしく、顔を逸すと隣の空き椅子に視線を移してから手元に戻す。

添えてある小鉢を手に取り、箸でつまんだかっちゃんは食事を再開することにしたらしく、隣の席にトレーを置いて腰を下ろした。

「……また肉かよ」

「ちゃ、ちゃんと野菜もあるよ!」

呆れたみたいに視線をそらすかっちゃんにやっぱり魚にしたほうがよかったかなと考えてやめる。

一日三回しかない食事なんだから食べたいものを食べるべきだ。

「兄ちゃんも好きなものを食べなさいって言ってたもんね!」

「出留が言ってたんは最低限の栄養バランスが備わった健康管理のできる品目を選んでんなら腹いっぱい食ってもいいってことだ」

「つまりこの定食はセーフだよね!」

「アウトだわ」

かっちゃんは息を吐いて、野菜を入れると口を閉じてしっかりと咀嚼する。音を立てず、ひとつひとつ丁寧に食事をするかっちゃんの姿に昔から食べてるときは静かなんだよなと卵スープをすすった。

「爆豪と緑谷、今日は一緒に飯食ってるんだな」

「あ、轟くん…」

「好きで食ってる訳じゃねぇわ」

「そうなのか?」

ぱちぱちと目を瞬いた轟くんは隣いいか?と僕の横に座って、かっちゃんは口を開こうとして、近寄ってきた気配に言葉を止めた。

「爆豪ー!またせたな!」

「かっちゃん!お待たせ!」

「待ってねぇ」

「あ!轟くんも一緒?!めずらしいねー!」

「みんなでわいわいご飯楽しーねー!」

「おう」

「楽しかねぇわ。静かに食え」

「「「「いただきまーす!」」」」

揃って手を合わせたみんなは箸を取る。

それぞれ好きなものを取ってきたようで僕と同じ回鍋肉やかっちゃんと一緒の焼き魚。轟くんと同じロールキャベツ。それぞれ好きに食べはじめて、あ!と上鳴くんが顔を上げた。

「爆豪!緑谷!緑谷さんの好きなもの教えてー!」

「そうだった!回鍋肉おいしいとか思ってる場合じゃなかった!教えてー!」

「好きなものって…さっきも言ってたけど、みんな急にどうしたの?」

「出留?」

こてんと首を傾げた轟くんに僕も不思議で、かっちゃんはやっぱり眉根を寄せてる。

あのね!と芦戸さんが目を輝かせた。

「お兄さんに勉強教えてもらったの!」

「私達お礼したくて!」

「二人に聞いたらわかんかなって!!」

「、兄ちゃんに勉強を…?」

「………出留に無理強いしてねぇだろうな」

「無理強い…はたぶんしてない、よな…?」

「うーん、心操くんの勉強中に一緒に見てくれてたけど…」

「割り込んで四人は図々しかったかな…」

「んん!迷惑かけたのわかってるからお礼したいんだって!」

「謝罪と感謝の意を込めてって思ってるの!だから教えてー!!」

向かいの四人にちらりとかっちゃんを見る。かっちゃんは眉根を寄せたままで箸が止まってた。

「えっと…」

「緑谷さんにお菓子とか飲み物とか聞いてみたんだけど、あんまり好きなもんないみたいでさ、二人なら緑谷さんのことなんでも知ってるっしょ?」

「ううん、もちろん兄ちゃんのことならだいたいのことはわかるけど…ねぇ、かっちゃん」

「…出留は無理矢理でも嫌なことはやんねぇ。大丈夫だろ、デク」

「…うん、そうだったね。…あ、ありがとう、かっちゃん。はい」

「ん、サンキュ」

渡された飲み物に手拭きを渡して、僕はお茶を飲んでかっちゃんは口を拭う。

「お前ら仲いいよな」

「あ?よかねぇわ!」

「ちげぇのか?」

「ふふ、どうだろうね」

轟くんがぱちぱちとまばたきをして、四人も不思議そうにしてるから空になったカップを置いて笑う。

「兄ちゃんにお礼するなら、物よりもありがとうって言葉をもらったほうが兄ちゃんは喜ぶよ?」

「んー!でもやっぱ形でも返したい!!」

「食いもんか?飲みもんか?」

「どっちでも緑谷さんの好きなもん!」

「食いもんで甘いのならチョコレートとキャラメルじゃねぇもの。プレーンクッキーとかいい。飲みもんならさっぱりした強い炭酸。甘い炭酸は得意じゃねぇ」

「塩気のあるお菓子ならおかきとかの味濃いものより個別包装されてるおせんべいとかすきだよ!薄焼きの塩せんべいが一番好き!」

「わー!やっぱ緑谷くんと爆豪くんに聞くとすぐ出てくるね!すごい!」

「出留って甘すぎるものは嫌いなのか?」

「うんん。兄ちゃん甘いのも好きだけど、あんまり量食べるのは得意じゃないんだよ。甘いものに限らず、味の濃いものとかもそんな得意じゃないかなぁ」

「緑谷さんって健康志向なんだな!」

「その反動でかたまにファーストフード爆食するけどな」

かっちゃんは空っぽのカップ二つにお茶を注いで、自分の分を飲み始める。入れてくれたお茶に礼を言って半分飲んだところで向かいを見た。

「兄ちゃんの好きなものはこんな感じだけど…、参考になりそう?」

「うん!ありがと!緑谷くん!爆豪くん!」

「二人のおかげで検討ついたよー!」

「よし!じゃあ購買行こうぜ!」

「だな!二人ともありがとな!!」

四人は食べ終わった食器を乗せたトレーを持って、ありがと!と溢して離れていく。上鳴くんの言葉通りなら全員で購買に向かうんだろう。

残り半分のお茶も飲んで、口元を緩めた。

「兄ちゃん、喜ぶかな」

「さぁな」

僕の分と合わせて空の食器を重ね始めたかっちゃんは二人分の食器を乗せたトレーを持つと立ち上がる。

「まぁなんかあれば連絡来んだろ」

「ふふ、そうだね。ありがと、かっちゃん」

「貸しだわ」

「えー??」

鼻で笑ったかっちゃんに頬をかいて、隣の轟くんが首を傾げた。

「お前ら、なんで仲悪いフリしてるんだ?」

「え?僕達仲が悪いフリなんてしてないよ?」

「…してないのか??」

「うん。僕達は昔からこうだ。何も変わってないし、なにも偽ってないよ。僕達はいつも一緒にいるときに本音で話してるだけ」

「…………、緑谷と爆豪がよく喧嘩するのは、本音をぶつけてるから反発してるときもあるってことか?」

「そんなところ」

へーと頷いた轟くんは僕の言葉を疑ってないらしい。僕とかっちゃんの関係性に対して深追いすることなくトレーを持った。

「お前らのそういうところ、すげーよな。最初から全力でぶつかって、和解して…。…そういう人が身近にいるのは…なんか、羨ましいな」

「、」

轟くんの言葉に咄嗟に言葉が出なくて、ばっと轟くんの手元にあったトレーが横から奪われる。ぽかんとして二人でそちらを見ればいつの間にかいたかっちゃんが片眉を上げてた。

「いつまでもだらっだら喋ってんじゃねーよ。さっさと片付けねぇと迷惑だろうが」

「、そうだな」

「あ、えっと、」

「全力でぶつかんのも本音で話すのも話したきゃ勝手に話せ。そうすりゃデクでも眼鏡でも丸顔でも、テメェの話をクソ真面目に聞いてくれんだろーよ」

「、」

「ここにはそういうお人好しで大真面目な奴しかいねぇ。羨む暇あんなら好きな奴にぶつかってこい」

「………」

トレーを持って歩いていってしまったかっちゃんに轟くんは目をぱちぱちと大きくまたたいて、ぱっと表情をあからさまに明るくすると僕の腕とトレーを置いたところのかっちゃんの手を取った。

「緑谷!爆豪!話聞いてくれ!」

「うん!」

「はぁ?!いやだわっ!!」

「なんでだ?さっき聞いてくれるって言ったじゃねぇか」

「俺はお人好しの中に入ってねぇんだよ!そういうんはクソ暇人のデクに言え!!」

「轟くん!僕もかっちゃんも君の話聞きたい!どうしたの!」

「ああ?!勝手に人を頭数に入れんじゃねぇよ!!」

「この間の補講のことなんだが…」

「仮免補講!うんうん!それで?!」

「補講の課題が、」

「だから!話を!勝手に!始めんじゃねぇ!!」




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