弱ペダ


[二年生と天使と矢島さん]


「…………ちっ」

盛大に舌打ちをかましたのは荒北さんの前以外ではいつぶりか

心地よさそうに丸まって眠る人物がその腕に抱くようにして持ってるのは、考えたくはないが俺のだった。

「……矢島、さん、矢島さん」

見ていても埒が明かなそうだと声をかける。

そもそも、上着と荷物をおいて飲み物を買いに行った数分の間に誰が枕にされると想定できたのか

夢の中のこの人にため息をはいて、携帯を出した。

塔一郎に相談するか




ピロンと短い着信音がして携帯を出した。

珍しくユキからの連絡。

今日は一緒にご飯を食べる約束はしてなかった気がするんだけど

―「困った、どうにかできない?」

次に送られてきた写真を見れば目にも鮮やかな染めたばかりの緑の髪をしてる矢島さんが眠ってる。

写り込んでる背景は外なのか、矢島さんと同じように緑色の芝生が見えてた。

―「俺の上着取られた」

一体何をしたらそうなったんだろう

たしかに写真の中の矢島さんは上着を着てるのに別の上着を抱えてる。

首を傾げながら食べようとしてたパンをしまって立ち上がった。

ちょうど校舎裏と返事が来て鞄ごと向かった。




「わぁ、こんなところでなにやってるんですか?」

「―…真波」

昼寝スポットの一つでもある木陰に珍しい人がいるのに気づいて声をかければ深々と息を吐かれた。

俺が嫌というより、機嫌がわるいようだ

「どうにかできないか」

投げられた視線の先。要約すると、丸まって寝てる矢島先輩からジャケットを取り返したいらしい

「そういうことなら新開さんとか荒北さんとか東堂さんとかとか、呼んだほうがいいんじゃ?」

「……」

目を逸らして言いよどんだ黒田さんにああ、となんとなく察したものがあって、眠る矢島先輩の横に腰を下ろした。

「せーんぱい、起きてください」

顔を近づけて呼びかけても反応は返ってこない。

よっぽどぐっすり寝てるのか、揺れて鳴る葉音だけが響いてた。

「せんぱい」

今度は肩辺りに触れて揺する。

『…~』

もぞもぞと抱っこしたジャケットに顔を押し付けた矢島先輩はまた眠ったのか肩が上下し始めた。

「せーんぱーいーふぎゅっ」

的確に伸びてきた手が鼻を摘んだ。

痛くはないけど、息苦しい

『…まななんしぃー。せわしなぁね』

寝ぼけ気味なのかいつもより気怠そうに俺のアダ名を呼んで笑う。

「せんぱい、そのしゃけっとかえしてあげてくだはい」

『鮭?……おや、くろたんじゃないか』

上半身を起こした矢島先輩がやっと手を離した。

『んん?これ矢島さんのじゃなーい』

「あ、それ俺のです……ってなに匂い嗅いでんすかっ!」

抱っこしてたジャケットに顔をうずめた様子に黒田さんがぎゃーぎゃーいい始める。

少し向こうから困り顔の泉田さんとそれについてきてる葦木場さん走ってきててごろんと寝転がった。



『しきふっぷおはよーでる』

「は、はい」

えっと、葦木場です。

なんていつも心の中で訂正するものの一向に直る雰囲気がしない

「返してくださいっ!」

「ゆ、ユキ落ち着いて…矢島さんも」

「俺生きてる…」

これは、うんと

少し悩んでからどうしようもできないと悟って、昼休みもあと少し出終わっちゃうから携帯を取り出した。

ちょうど名前の順で一番上にある荒北さんを呼び出す。

どうかはやくきてくれますように



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