ヒロアカ 第一部


いくつかのルールを決めるとその場は解散になった。寮に帰る二人を見送り、一人、残った先生と目を合わせる。

『なにかお話があったりしますか?』

「ひとつな。あまりお前は興味がないだろうが…」

一応ともう何回目かもわからない寮監室の隣の部屋に入り、ずっと持っていたその紙が差し出され受け取る。

インターン学習の実施にあたってと書かれたそれに目を瞬いて、表の概要を流し読みして顔を上げた。

『強制参加ですか?』

「いいや、まったく。これに関してはヒーロー科の生徒でも任意だ。そして、受け入れ先もかなり限られている」

『ヒーロー側に制限があるんですか?』

「ああ。例年であればある程度提携しているヒーロー事務所が対象で、基本的には体育祭のときに指名を受けたヒーロー事務所へそのまま向かうことが多い」

『なるほど。体育祭で目立った分だけ人脈作れて、そんときのヒーローにそのままお世話になれる。前回お邪魔してる分お互い勝手もわかりますし…みんな体育祭に気合い入れてたのはここに繋がってたからなんですね』

「そうだ。前回の職場体験。本来ならヒーローの仕事を身近で体験してもらい、また、ヒーロー側もどんな子なのか選定するための顔合わせだった。それがこのインターンでは仮とはいえ免許を持つ一人のヒーローとして活動してもらい、経験を培うことになる」

『一気に本格的なヒーローって感じですね』

「これを目的にヒーロー科のある学校に入る生徒も多い。インターンを経てそのまま卒業後はサイドキックとして入所する人間も多く、将来への一歩だ。インターンは賃金も出る。しかしその分学校は休まねばならず授業との並行が厳しくなるからある程度こちらでもインターンに参加する人間は限っている。…とはいえ、今回からは度重なる敵の脅威を考慮し、インターン先の事務所は雄英側からのかなり厳しい基準を設けているから今までのように職場体験でお世話になった事務所にそのままとはいかない」

まくし立てるほどではないけどすらすらと、俺が口を挟む間もないほどに勢い良く話した先生に内容を理解して頷く。持っていた紙を置いた。

流れはわかってる。つまりいつものあれだろう。

相変わらず回りくどいなと思いつつ、どうせ外堀は埋められてて今後のことはほぼ決まってるだろうから息を吐いた。

『それで?俺にそんなことまで話して今度は先生とインターンですか?』

「…………インターンは生徒から志願して、事務所に受け入れてもらう制度。今回はそのインターン先が限られているため、元から任意ではあるが参加者の少ないものになる…んだが、君に、強いオファーがきている」

『オファー??』

「資料の2ページ目だ」

読まずに置いてしまった紙をめくる。

電子メールのコピーらしいそれに、内容を確認して目を瞬いた。

『……ミルコって、誰ですか?』

「やっぱりわかってなかったのか…」

はぁーと大きなため息を零して寄った眉間の皺を揉む。先生の様子に首を傾げた。

「お前が仮免のときに二次試験で食い止めてた女のヒーローだよ」

『………………あ、むっちゃ蹴ってた人?』

「それだそれ。もう一人の火を使って止めてた方はシンリンカムイという」

『へー』

なんとなく見たことのあるような気はしてたけど、先生の反応的に有名なヒーローなんだろう。

後で出久に聞かないとなぁと思いつつ、もう一度紙面を確認する。

『“インターンで扱くからイキのよかった子供貸せ!”って本部に送るにしてはだいぶ気軽な内容ですね』

「ずいぶん気に入られたみたいだな、緑谷」

『はあ。何かした覚えないんですけどね』

「数分間ミルコの攻撃を凌いで退けたんなら十分功績を残してるぞ」

『退けたっていっても、他人の手借りましたし、俺だけ気に入られたのは謎ですね』

「理由を知るには本人に会うしかないだろうな」

『本人に…』

昨日の数分間だけ対峙したその人を思い出す。身軽すぎる体裁きと重くて強い攻撃。柔軟な動きは確かに勉強になるだろう。

『…これ、もし会うとしたらずっとインターン中お世話にならないといけないんですか?』

「基本はそうだ。ミルコの活動地域は中国地方だから週末にかけてや特別要請があったときに出向してもらう」

『ええ…遠い…』

「お世話になるヒーローの活動拠点だから仕方ない。人によっては九州方面や、沖縄、北海道に行くこともある」

『うわぁ、距離が旅行規模じゃないですか』

ここから新幹線を駆使したって数時間はかかる距離に頭を押さえる。

『これ、オファーの場合は強制なんですか?』

「任意だな」

『そうですか…』

何度見たって変わらない紙面に眉根を寄せる。

先生がなぜこれを見せてきたのか。それは俺のレベルアップのためだろう。あの人の動きに関しては俺も参考にできるし、興味はあるけど、それよりも気になることがある。

『……………』

目の前の先生を見据える。息を吸ったところで、先に先生が言葉を吐いた。

「急な話だろう」

『え、はい、そうですね』

「そこでだが、よかったら一度、今度の週末にかけて三日間だけ会ってきたらどうだ?」

『三日間ですか』

「金曜の授業が終わり次第向かい、日曜の夜に帰ってくるようなイメージだな」

『実質二日間ないくらいですね』

「ああ。ミルコとの相性もあるだろう。他の生徒が職場体験で概要を掴んでいる中、それがない君への救済措置だ」

『………三日、間…』

思いがけない小旅行に指に力を入れて、唇を一度結んでから開く。

『回答期限はいつですか』

「早いほうが助かる」

『…明日、まで時間ください』

「ああ。じっくりと考えてくれ」

今日は終わりだと席を立った先生に同じように立ち上がる。

扉に向かって歩き始めた先生の背中を睨んだ。

『先生は、どう思いますか』

「……必ず君の成長の糧になるだろうから行ってこいと言いたいところだが、こればかりは無理強いはしない。しっかりと考えてミルコのもとに行くか決めなさい」

『…そう、ですか。わかりました、ありがとうございます』

先生が開けた扉を押さえらてるから先にくぐって、先生も外に出たところで一礼してその場を離れた。

部屋に駆け込むようにして中に入って、すぐに携帯を取り出す。

発信すれば2コールも待たずに通話が開始された。

「兄ちゃん?どうしたの?」

『ごめんな、遅い時間に。今ちょっと時間平気?』

「うん。大丈夫だよ!…あ、これから購買に行く予定なんだけどもし兄ちゃんさえよかったら外で会う?」

『…ありがと。出久に会いたいから俺も外出る』

「わかった!じゃあ寮の前で待ってる!」

『ん、急いでいくね』

「はーい!」

元気な出久の声に笑みがこぼれて、財布だけ持って窓から外に出た。

一度慣れると楽な外出方法に地上に降り立ち、歩き出す。B、A組と二つ分の寮の距離は五分もかからず、見えてきた寮の出入り口にいた人影は俺を視認した瞬間に走り込んできて飛びついたから受け止める。

「兄ちゃん!」

『出久〜』

ふわふわした髪の毛を撫で回して、顔が上がって額が晒されたからキスを贈る。満足そうに笑って一度離れたからそのまま手を繋いだ。

『購買行こうか』

「うん!」

そのまま二人で歩きだして、購買にたどり着く。一緒に買い物を終えて昔からよく食べてたアイスを一つ選んだ出久と外に出た。

歩いて、A組の寮の裏手に回りベンチのようになっているそこに腰掛ける。

アイスを開けた出久は二つに割って片方を差し出した。

「一緒に食べよ!」

『ありがとう、出久』

もらったアイスのキャップを取って、口に入れる。広がるカルピスに似た味に息を吐いて、出久がこてりと首を傾げた。

「兄ちゃん、どうしたの?」

『んー…』

アイスを一度口から離して、言い忘れてた言葉を思い出す。

『出久、仮免試験合格おめでとう』

「うん!ありがとう!兄ちゃん!!というか兄ちゃんもおめでとう!心操くんから聞いたよ!?」

『ありがとう。てか人使から聞いたの?』

「そうだよ!帰りのバスで心操くんと発目さんとミッドナイト一緒だったんだ!兄ちゃんは用事があるからって別に帰っちゃったって相澤先生から聞いてたし、夜はあんな感じだったから言いそびれちゃったんだけど、本当に兄ちゃんおめでとう!!」

心底嬉しそうに笑う出久に口元が緩む。手を伸ばして頭を撫でれば目を細めて、少ししたところで手をおろした。

『出久は仮免試験合格したし、これからインターン?』

「ああ、うーん。その予定だったんだけど、まだ本決まりしてなくて…」

『職場体験のときにお世話になったところは駄目だって?』

「うん。グラントリノのところはだめだった…。それで今度、通形先輩って三年生の人がお世話になってるオールマイトの元サイドキックのサーナイトアイ事務所に挨拶に行ってみて、もしオッケーもらえたらそこでインターンすると思う…」

『大丈夫大丈夫。出久なら平気だよ』

「うーん」

大丈夫かなぁと零した出久の頭をなでて、悩んでいた出久は視線を上げた。

「兄ちゃんがそんなに詳しくヒーロー科のシステムを知ってるって珍しいね。もしかして兄ちゃんもインターンするの?!」

『察しがいいなぁ。するかどうかはともかく、俺も一応対象みたい』

「すごい!え、相澤先生??」

『んー、俺もそうだと思ってたんだけどちょっと別方向からオファーが来てて…』

「オファー?!!そんな制度あるの!?」

『え?ないの??』

「多分それ兄ちゃんだけだよ!流石兄ちゃん!すごい!!え!?誰々!?なんてヒーロー?!」

『ミルコ?って人』

「ミルコ!!?あの上期ヒーロービルボードチャートで八位!女性の中じゃトップのヒーローだよ!個性は兎!鍛え抜かれた身体は俊敏だし、その中でも脚を使った技は敵を一撃で吹き飛ばして気絶させられるくらい強力なんだよ!兎らしい生存本能の高さで危機察知能力がすごく高くて、情報収集やいざってときの直感も優れててるヒーロー!!!」

ぱっと目を見開いて、勢い良く話す出久はとてつもなく前のめりになっていて、握りつぶされそうなアイスを咄嗟に引っこ抜いて避難させた。

「ミルコは事務所を持ってないソロヒーローだから職場体験もインターンも積極的には募集してないらしいのに兄ちゃんにオファーしたってことは兄ちゃんが優秀すぎて後進育成したくなったってこと?!あ!そういえば心操くんがミルコとシンリンカムイが会場に現れて敵役してたって言ってたね!?兄ちゃんの動きを見てミルコが気に入っちゃったってことか!!」

『うーん、そのへんは謎なんだけどね…というか出久、一旦落ち着こうか。はい、アイス』

「ありがとう!兄ちゃん!」

気温で溶けかけてるアイスを飲み込んだ出久は息を吐いて、俺もアイスを飲み込む。

出久はアイスのゴミを置くと、口元に手をやった。

「兄ちゃんのスタイルは手足を使った直接戦闘。そこで行くならミルコの脚力をメインにした技はインターンで学ぶに値するよね。合わせて体の使い方も学べるだろうし、いいこと尽くしだ」

『中国地方まで行かないといけないんだけどね』

「あ、そっか。ミルコの拠点広島だもんね。いろんなところで活躍してるからすっかり忘れてたや」

目を瞬いた出久は口の中でなにかをつぶやいて、そっと俺を見上げる。

「兄ちゃん、受けるか悩んでるの?」

『…うん。どうしようかなって』

「………もし兄ちゃんが受けるって言ったら、長期でインターンに出向くようになるの?」

『んー、たぶん…土日とかの休みメインで活動らしいけど、ちょこちょこあっちにいってお世話になるっぽいよ』

「そっかぁ」

『……けど、とりあえずはまだ本決まりじゃなくて、今度の金曜の夜から土日、三日間様子見してからインターンするか返事してみればって言われてる』

「様子見…会ったことのない相手だからってこと?」

『そうみたい』

出久はうーんと悩むと手を伸ばして、俺の手を取る。包み込むように両手で握るとじっと目を合わせた。

「兄ちゃん、僕は兄ちゃんの決めたことならなんでも肯定するし、応援するよ」

『…うん』

「だけど、せっかく僕を頼って相談してくれてるなら僕も一緒にたくさん考えて、少しでも兄ちゃんの助けになりたい」

『…出久のおかげでいつも俺は助かってるよ』

「ふふ。そう言ってくれると嬉しいなぁ」

ふわりと笑った出久は目を瞑るとゆっくり開く。

「兄ちゃんは今、何に対して悩んでるの?」

『………ミルコの動きは、たしかに俺の成長には必要だけど…距離が遠くて時間がかかるのが気になるかなって。それに、これはヒーロー科の行事だから普通科の俺が受けるのはなんか違う気がするし…』

「………んー、そうしたらまず兄ちゃん、インターンはヒーロー科に限らずとも受けられるシステムだから、2つ目のそれは気にしなくていいと思うよ」

『…そうなの?』

「うん。普通科、経営科、サポート科…どの学科でも雄英はインターン制度があるからたぶん発目さんも職場体験のときにお世話になった企業でインターンとかしてるんじゃないかな?」

『へー、そうなんだ…』

「それから一つ目の距離だけど……兄ちゃんのそれは、本当の悩みごとじゃないよね?」

『、なんで?』

「たとえ距離が近かったとしても兄ちゃんは渋ったはずだ。…兄ちゃんは、僕達から離れるのが嫌でしょう?」

言葉に目を見開く。固まった俺に出久は眉尻を下げて、繋いでた手を解くと頬に添えた。

「兄ちゃん、僕もかっちゃんも、三人で一緒にいることが一番だけどね。たとえ距離が離れてたとしてもずっと一緒だよ。大丈夫、僕達は変わらない。三人で一つだよ」

『…うん』

昔から、出久と勝己が唱えてくれる言葉に目を瞑る。夏だからかぬるい風が吹いてて、出久が頬を撫でるようにして手を離した。

瞼を上げれば首を傾げたところの出久と視線が目があう。

「………兄ちゃんがそんなに不安になるなんて珍しいね。何かあったの?」

『……うんん、なんにもないよ。ただ、なんとなくそう思っただけ』

「そっかぁ」

目を細めた出久に目を逸らす。もう全部終わったことだし、今更掘り返す気にはならない。

それでも、

視線を戻して、口を開いた。

『俺には、ミルコのとこにお世話になるか、ならないかしかないのかな』

「………ふふ。ああ、そういうことかぁ」

笑った出久はすべてを察したらしい。

携帯を取り出した出久はいい?と首を傾げるから頷く。画面に触れた出久が携帯をおいて、俺の額に口づけてから笑った。

「そういうことならみんなで考えよう!大丈夫、全部兄ちゃんの望むようになるから!」

『……けど、嫌がられるかもしれない』

「んなわけねぇだろ」

『勝己…』

「かっちゃん、来てくれてありがとう!」

「来ねぇわけねぇわ。おら、作戦会議すんだろ。さっさと決めんぞ」

ある程度の内容は伝わってるらしく勝己は俺の横に座って、で?と覗きこんだ。

「出留、てめぇのしたいことはなんだ」

『…言ったら、怒られるかもしれない』

「ああ?さっきも言ったけどそんなわけねぇだろ」

「大体、そんなことで怒るような人でもないと思うよ」

「出留、大丈夫だ」

「兄ちゃん、兄ちゃんの願いはなぁに?」

二人の視線に、ずっと抱えていたそれを吐き出した。






朝のHRを終えたところで担任に手招かれた。相澤先生からの伝言らしく、夜にまた寮に来てくれるらしい。

昼に時間をもらって担任と少しだけ話して、担任は目を瞬いたあとに嬉しそうに笑って大きく頷く。手配しておくわ!と親指を立てるから先生にはくれぐれも内密にと伝え、広島のお土産だけリクエストを確認した。

授業が全て終わったところでまっすぐ寮に帰り、残っていた課題と風呂を済ませてから晩御飯を用意して、ぼろぼろの勝己と轟くんと夜食を取り、二人を見送った。

タイミングを測ってたかのように書類を持って現れた先生についていって、いつもの部屋に入る。

向かい合って座って、先生はゆっくりと口を開いた。

「それで、答えは決まったのか?」

『はい。三日間お世話になってきます』

「、そうか」

息を詰めた後にほっとしたように表情を緩めた先生は、すぐにミルコに返事を出しておくと続ける。

持っていた資料の一つを差し出し、詳しい話はミルコから連絡が来たらと勝手に終わらせて立ち上がった先生に頷く。

先生が扉に向かうために背に向けたから、息を吐いた。

『先生』

「どうし、」

『先生、このインターンって、俺にはどうしたらメリットがあると思いますか』

掴んだ裾に先生は振り向かない。言葉を考えるような間のあとに音が溢れる。

「君の技術の向上を目的とするなら、ミルコのところに行くのが一番だな」

『そうですか』

「対峙したならばわかっているだろうが、彼女の技は本当に強い。お前の成長に役立つから奪えるものは全て奪って学んでこい」

『わかりました』

予想していた言葉に心は揺れない。先生も想定内の質問だったのかあっさりと返して、体をひねってこちらに向けた。

「………話は終わりだな?それなら服を、」

『先生』

さらに強く掴んで、睨む。

『先生は、俺にどっちを選んでほしいですか』

「、」

見開かれた目が逸らされる。扉に相対するように俺に背を向けた先生の言葉を待つ。

十秒、二十秒。じっくりと時間を置いて、先生は視線を落としたのか頭が下がった。

「君はなんて返してほしいんだ」

『望んでるのは先生の意思確認です。先生が何を言ったって俺の意見は変わりませんから安心してください』

「…そうか」

俺に渡されなかったもう一つの書類を持つ手に力が入り、音を立てる。ファイル越しに皺が寄るほど力の篭ってる右手は少し震えていて、左手が上がると先生はたぶん顔を覆った。

「………君が選んだ方を応援する」

『それは当たり前でしょ。先生は俺の先生なんですからちゃんと応援してもらわないと困ります。…俺が聞きたいのはそういうんじゃないってわかってますよね』

「…………」

『相澤先生は、どっちにしてほしかったんですか』

微かにふるえてる右手を眺める。なにかを抑えるためにか口元に力を込めたようで歯が軋む独特の音が聞こえて、左手が力なく落ちた。

「緑谷」

『はい』

「……俺は教師だから…生徒がどうしたら一番良く育つのか、それだけを考えている」

右手からもこもってた力が抜けて、足を引いて体の向きを変えようとしたから裾を捕まえてた手を離す。

向かい合った先生は困ったような顔をしていて、ずっと持ってたそれを俺に差し出した。

「…もしもまだ、君の気持ちが揺れてくれるのなら…考えてみてくれ」

『はい』

ファイルを受け取れば先生は目を逸らして扉に近づく。邪魔をしなければ今度はきちんと扉を開けられて、先生の横を抜けた。

『お時間ありがとうございました。おやすみなさい』

「……ああ、おやすみ」

廊下を抜けて部屋に入る。

冷蔵庫からペットボトルを一本引き抜いて、いつもどおりの部屋のデスクに座って、先に渡された資料を開く。

まとめられているそれはミルコの数少ないインターンや職場体験の履歴で、受け入れたときの生徒の個性や指導内容がまとめられてた。合わせてミルコの普段の活躍も載っていて、これはたぶん、ヒーローに疎い俺に向けてわかりやすく活動地域や傾向をまとめておいてくれたんだろう。

昨日のうちに出久からもらった情報と脳内で照らし合わせて、更に三人のグループにいくつか言葉を入れてやり取りをする。

大まかに、二人の反応は昨日話したときの通りだった。

息を吐いて、水を飲んでからもう一つのファイルを開く。

こちらの流れは少し違う。いつもの訓練内容にプラスして課外の活動としてヒーロー活動についてくるという内容から始まり、近頃あった要請内容の概要。そこには俺が居たとしたらこうして活動させたかったという要望が混ざっていて、過去数件の事件についても記載されてた。

学校を起点としているためか活動範囲は地方に行くよりは幾分近いものの、抹消という個性の希少性から引っ張りだこになりやすいため、教師になる以前は海外任務などにも駆り出されていたらしい。

意外だなと少し思いながら息を吐いて、二人にメッセージを送る。

わかっていたんだろう二人は驚きの少ない反応で、広島土産のリクエストが届いた。


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