ヒロアカ 第一部
一次試験終了の合図が響く。定員に達したんだろうそれに、二次試験の合図を聞き逃す訳にいかないから中に入った。
随分と人気の増えた室内に彼奴らを探すのは諦める。
片耳だけイヤホンをつけて、壁に凭れて目を瞑っていればスピーカーのスイッチが入った。
イヤホンを抜いて顔を上げる。現れたモニターにはさっきまで使っていた試験会場が映っていて、その会場が爆発し始める。規模がでかい演出を眺めていれば倒壊は落ち着いて、上がった土煙に人影が映った。
「彼らはHUCの皆様です。二次試験は彼らの救出です。最後の要救出者が避難地区にたどりついた時点で試験が終了いたします」
ざわめき始めた会場内。誘導されて全員待合室から追い出されて、開始の合図が響きわたった。
『すぅ…ふぅ』
一つ、大きく呼吸をして。表情を切り替える。
ディスプレイ越しでも見ていたけど、先程までいた試験会場は悲惨だ。破壊されてそこから現れてる避難者役たちを探し出すのは索敵能力の高い人間がいないと厳しそうだった。
狼狽える人間と驚きで硬直する人間。すぐに表情を変えた人間と恐らくこの辺は経験の差だろう。
瞬間に動き出した複数人に混ざる。
「私は避難所を確保します!」
「それなら俺の個性でここら一帯まっさらにします!」
「必要なものが、」
『指定の形があれば薬品や金属製のものでしたら作製できます』
「ほんと!?ありがとう!」
医療系の個性なのか、テキパキと必要なものを指示されて溶液をいくか作り上げ、専用の器具も提供する。
「このへんで大丈夫!ありがとう!」
『いえ。では俺は救助活動にいきます』
「よろしく!」
「いってらっしゃい!」
聞こえた声に顔を上げれば三人がこちらを見ていたから頷いた。
避難所の確立ができればどんどん人を連れてくるべきだろう。
宙を飛んで、惨状を空から確認しながら進む。
「だれかぁ!たすけてぇ!」
聞こえた声にすぐさま降りて耳を澄ます。どうやら建物と建物の合間から反響して聞こえているらしい。
音を分析して、建物の瓦礫と瓦礫の間を進むと小学生くらいの女の子がいて目が合うなり大粒の涙を溢した。
「うぁあああん!」
『待たせてゴメンね。痛いところはない?』
「わかんないっ」
飛び込んできたその子を支える。見た感じ大きな怪我はなく、転んだのか少し膝を擦りむいていたくらいだった。
落ち着かせるように屈んで目を合わせる。
『そっか。君は一人でいたの?』
「ちょっと、前まで、おねぇちゃんといたの!でもっいなくなっちゃって!」
『ん。教えてくれてありがとう』
「うっ、うぇ、っおねぇちゃんっ」
思い出したかのようにまた泣き始めたその子の頭をなでて、取り出したティッシュで目元を拭う。
『一人でよくがんばった。えらいな。君のお姉さんは俺が見つけるからね』
「っ、ほん、と?」
『ああ。後は俺に任せて。大丈夫だよ』
「んっ!」
その子が大きく頷いたことに笑みを繕う。
『それじゃあ少しだけ、お姉さんを探すのに付き合ってもらえるかな?』
「うん!」
『お姉さんとはぐれて、君はどこから歩いてきたか覚えてる?』
「えっと、あっち」
しっかりと指された方角に曖昧さはなさそうだったから一緒にそちらに向かうことにする。支えていたその子が走り出そうとして転びそうになったから抱えた。
『足怪我してるし、このへんは危ないから、一緒に探そうね』
「う、うん!」
女の子が指す方向に走り出す。音を聞き分けながら進めば、微かに苦痛に歪むような声がした。
『どなたかいらっしゃいますか!』
「っ、たすけて!」
聞こえた声の方向に軌道を修正して進み、市街地らしいそこで、看板の下になっている女性を見つけた。
「おねぇちゃぁあん!!」
「妹ちゃん!」
そこは名前じゃないのかと急な演技感にそういえばこれ試験だったなと思い出した。
泣く女の子を少し離れたところにおろして、近寄らないよう伝えて、看板を見据える。
他に落ちてくるものはないか、二次災害がなさそうなのを確認したところで息を吐いて、看板を蹴り上げて飛ばした。
舞い上がって飛んだ看板は少し離れたところに落ちて、女性に手を差し出す。
下敷きにはなっていたようだけれど、見える範囲に血は見えない。
「おねぇちゃん!!」
「妹ちゃん!」
駆け寄ってきた女の子が泣く。その人は息を詰めながら起き上がって、飛び込んできたその子を抱きしめた。
「無事でよかった…!妹を助けてくださってありがとうございます!」
『当たり前のことですよ。…貴方はめまいや息苦しさはございませんか』
「は、はい、大丈夫です!」
『歩けそうですか?』
「えっと、」
ちらりと見た足元。ブーツのためわかりにくいけれど捻っているのかもしれない。
『わかりました。手をこちらへ』
「あ、でも大丈夫です!」
『いいえ、ここから先は足場も悪く、いつ崩壊するかわかりません。緊急事態ですし支えてもよろしいでしょうか』
「そ、そんな、悪いですし、」
『お気になさらないでください。さぁ、君も一緒に』
「わたしも?」
二人を支えられるか考えて、ふと思いついたから笑う。
『空、飛んでみたくない?』
「え?」
「お空!?おにいさん飛べるの!?」
『うん。一緒に空中散歩なんてどうかな?』
「したい!」
『よし、じゃあ兄ちゃんのところにおいで』
駆け寄ってまた同じようにくっついたその子に、さぁと女性にも手を伸ばす。ためらいながらもくっついたその人に、断って腰に手を回し、個性を発動する。
「うわぁ!!」
「す、すごい…!」
『気分が悪くなったらすぐ教えてください』
空を駆ける。出久と勝己を支えるのに比べたらだいぶ軽い二人ではあるけれど、あとどのくらい人を運ばないといけないかわからないから迅速に走って、見えた避難所に降り立つ。
「容態は!」
『女性は足を痛めてます。お二人とも意識ははっきりしていて外傷はさして見受けられません』
「それならこちらに!」
怪我の重度でわけられているんだろう。誘導されるままに指定された場所へ移動して、女性は椅子に座らせるようにおろした。
「あ、ありがとうございました!」
「おにいさんありがとう!」
『いいえ、こちらこそ。危険に巻き込んでしまい、誠に申し訳ございませんでした』
「そ、そんな!!大丈夫ですよ!」
「おにいさん!またお空飛びたい!」
『じゃあ約束だね』
女の子と小指を絡めて、笑ったその子に頷いて手を放した。
『それでは、お大事に』
「…………これは初恋キラーだわ」
「将来が怖いわ」
『え?』
二人が唐突に真顔になるから目を瞬く。演技を忘れたかのようなその二人は講評ですよと笑って、ありがとうともう一度礼をこぼした。
緑谷くんは宙を駆け回って、人を見つけると様子を確認して避難所へ適宜案内をする。
最初は器具の提供、それから救助と迷いのない動きは一年生にしては優秀すぎるほどで、例年に比べ高難易度のこの試験でも安心して見てられた。ずっと目で追って、避難所に運ばれてきた要救助者の人数が五、六十人ほどになったところで、大きな爆発音が響いた。
「な、なんだ?!」
「すごく大きな音がいたしましたけど…!」
真剣にメモを取りながら見据えていた心操くんも、備品片手にじっと見つめていた発目さんも会場を覗き見る。
避難所からほど近い、出入り口あたりから黒煙があがっていて、そこから人が飛び出してくる。
「っ、敵!!」
「ええ?!救助活動だけじゃなかったんですか!?」
「なんて難易度なの、この試験…!」
あからさまに捕縛弾が入ってるだろう筒の太い銃をもって、全身タイツの敵とかかれた面をつけた役者は数十人はいる。それからもう二つ、影が飛び出した。
「おせぇおせぇ!」
乱入してきた敵役のヒーローはミルコだった。まっすぐ避難所を狙い走り出して、腕に自信がある受験者が向かっては蹴り飛ばされていく。
「し、試験ってこんなにやばいんですか?!」
「………いいえ、例年よりも何十倍も難しくなっているわ」
たしかに試験は生易しいものではないし、合格率は半分以下と高い壁だ。それでも半分だったのに、一次試験ですでに一割を切る合格率を設定し、さらに二次試験のこの内容。
「要救助者を避難させながらの戦闘。こんなの現役ヒーローだって戸惑うし大変よ」
急激に上がっている試験レベルは、先日の神野事件や昨今の犯罪の悪質さに合わせたものだろう。
ミルコによって次々と蹴散らされていく受験者たち。受け身をとり損ねたり、当たりどころがよくなかったか、意識を朦朧とさせているようでどんどんとミルコは避難所に近づいていき、追いかけるように走っていたシンリンカムイが叫ぶ。
「まずは人質を取る作戦でしたよね!?」
「向かってくる蝿を蹴散らしてるだけだ!そっちはそっちでやれ!」
「全く…!」
標準が避難中の救助者に向けられて、手が構えられる。必殺技であろうその技は、放たれたら人質を取られてこのままじゃ被害が拡大する。
「ウルシ、」
ぱちんと音が響いて炎がうねる。蛇のようにしなやかに、それでいて素早くシンリンカムイを囲って飛び出そうとしていた技を押さえ込む。そのままシンリンカムイを球体状にした炎で覆って無効化し、飛び降りてきた人影が今にも受験者の一人を蹴り飛ばそうとしてたミルコの足を受け止めた。
『今忙しいんで、空気読んでご退場願えませんかね』
「お!イキがいいのがきたな!」
即座にもう一本の足で蹴り上げようとしたミルコに、攻撃を読んでいたのか視認して目の前で小爆発を起こして退かせる。
「いいねいいね!骨がありそうじゃん!お前!好きだぜ!」
『はあ。どうも』
攻撃を捌きながら交わされる雑談に手を握る。ミルコの攻撃は早く重く、受験者を軽々しく吹き飛ばせる。緑谷くんもわかってるのか脚が直撃しないよう勢いを逃しているようで、後ろの避難所の様子を伺いつつ、炎を調節してシンリンカムイの制圧をしてた。
「はやく救助者の避難を!」
「重傷者の移動を手伝ってくれ!」
避難所は残っていた受験者や騒ぎに駆けつけた受験者によって大移動している最中で、戦闘向きの個性持ち受験者は吹き飛ばされた際に気を失っていたり立ち上がれなかったりしてるらしい。
「このまま出留一人でなんて…」
「緑谷さん…」
あまりに偏っている分担に、心操くんは不安そうに瞳を揺らし、発目さんも手に持ってる工具を握りしめて眉尻を下げる。
繰り出されるミルコの攻撃への対応、常時発動してる個性は時折シンリンカムイが動こうとすればそれによって調整しないといけなくて、他の敵役が救助者側に行こうとすれば更に個性を使って炎で壁を作り、怯んだ隙に金属で拘束をかける。
敵は少なくなっているけれど、緑谷くんの顔も段々と眉根が寄り苦しそうになっていて、ミルコが笑った。
「スピード遅くなってんぞ!」
『あー、そうかもしれませんねー』
「…あら?」
「あれ?」
緑谷くんの言葉に違和感を覚える。間延びした喋り方。あの時と同じそれに心操くんと一緒に目を丸くすれば、ミルコは歯を見せた。
「もう息切れか!」
『早く来てほしいものですよね』
「ははっ!ヒーローが他人を頼ってんじゃねぇぞ!」
『そんなこと言われても辛いもんは辛いじゃないですか』
「いつまで一人で守れんか見物だなぁ!」
『勘弁してほしいですね』
顔に向けて放たれたハイキックを右腕で防御して、緑谷くんは挑発的に笑った。
『俺が、いつ独りだって言いました?』
「あ?」
「〜♪」
「あ、…?」
『やっと来たか』
聞こえてきた歌声に緑谷くんが息を吐く。
ミルコの膝が抜けて、頭を抱えようとした瞬間に手足に鈍色の金属がまとわりついて拘束された。
「炎が揺らいだぞ!」
「今だ!」
ミルコに個性をかけるため目を離したところで弱まった炎の隙間から避難所に向かおうとしてた戦闘兵は、にゃあの声とともに女の子に蹴り飛ばされて吹き飛ぶ。
「おまたせ!」
「第二避難所を設立し、皆さんの避難は完了しました」
現れた女の子たちは次々と敵を捕獲して、緑谷くんは額を押さえながら振り返る。
『来てくれてありがと。こっからは任せていいか?』
「まかせて!!一匹も逃さないよ!」
「シンリンカムイを頼みますね、出留くん」
『うん』
「あ、カナリア!」
「ええ、歌ってあげるわ。…出留さん、少し楽になさい」
『ありがと』
現れたのは女の子が三人。いずれも軍服と礼服を混ぜたようなきっちりとしたデザインの白色の揃いの服は制服だろう。どの子も帽子をかぶってるせいで顔は見えない。
活発な声色の子が戦闘兵を倒し始め、おしとやかそうな子が一人ずつ拘束する。最後に、カナリアと呼ばれていた子は確か避難所でずっと歌っていた子で、緑谷くんの横に立つと息を吸い、歌い始めた。
「わぁ…!とってもきれいな声です…!」
発目さんが目を輝かせる。原曲そのまま歌われる異国の賛美歌らしきそれに、響く声が柔らかく美しいのは感じ取れた。
いつの間にか握りしめてしまっていた手の力は緩んで早まってた心拍は落ち着いてる。隣の心操くんも口元を緩めていて、恐らくあの子の個性が込められていた。
間を開けず、ブザー音が響いた。
「最後の要救助者の避難が完了いたしました。これにて、二次試験を終了し、同時に、ヒーロー仮免許試験の終了を宣言いたします」
緑谷くん個性をとめ、女の子も歌うのをやめる。
「お、おわり…」
「おわった…」
発目さんと心操くんがほっとしたように息を吐く。二人の様子に肩を叩いて飲み物を差し出してから会場に視線を向けた。
カナリアと呼ばれてたその子は座り込んで頭を押さえている緑谷くんの頭を撫でて、横を抜けるように離れていった。
緑谷くんは息を吐いて、俯く。疲れてるらしいその様子に、大きな声が響いた。
「いずるーっ!!」
「あ、あれ…」
声の方向。叫んだのは試験前に見た中学の頃の同級生と言った友達で、緑谷くんは顔を上げた。
「しぬほどかっこよかったぞ!!おつかれさま!!」
緑谷くんは目を丸くして、一瞬瞳を揺らすと嬉しそうに笑った。
『……はっ、来年はお前だぞ、刈上』
「おうよ!出留と勝己に置いてかれねーようにすんわ!!」
『ばーか。俺の勝己に並べるわけねーだろ』
「じゃあバクゴー事務所で掃除係に雇ってくれ!」
『だぁめ。てめぇだけ楽すんなんて許さねぇよ』
「やっぱか!」
笑う二人に緑谷くんは痛みが落ち着いたのか立ち上がって、刈上くんを見据え、瞳を赤く光らせる。
刈上くんは目の前に出来たそれを咄嗟に受け取って、目を瞬いた。
『次会うときまでにそれ壊せるようになっとかねぇと入所拒否な』
「うわっ、相変わらずかよ!」
丸い金属のボールのようなそれに刈上くんは呻いて、緑谷くんは楽しそうに笑う。
『壊せるまで連絡してくんなよ』
「おう!またすぐ連絡すんわ!お疲れ様!ほんと!さすが出留!かっこよかった!」
『あんまでかい声でそういうの止めてくれる?』
「今更恥ずかしがってもおせーっつーの!」
緑谷くんは表情を緩ませて、手を振ると踵を返す。受験者が集まる待機場に向かうであろうその背中に、刈上くんはにこにこと見送って、緑谷くんが扉の向こうに消えたところで近くにいた同校らしき子達と話し始める。
どうやらさっきのやりとりに対して突かれているらしく、刈上くんは少し顔を赤くして話をしたと思うと動き始めた周りについていく。
帰るらしいあちらの学校に、刈上くんは何か言って流れから逸れる。
「しんそーくーん!発目さーん!」
「え、」
「はい!」
階段を降りて、まっすぐこちらに向かってくる彼に心操くんは背筋を伸ばした。
「おつかれー」
「はい!お疲れ様でした!」
「お、お疲れ様…?」
発目さんは元気に、心操くんは気圧されたように返して、刈上くんは心操くんの様子にけらけらと笑う。
「そー身構えないで、挨拶しにきただけだぜ」
「あ、うん…」
心操くんの雰囲気に諦めたのか刈上くんは苦笑いを浮かべてからそんじゃあ本題と笑みの質を変えた。
「二人は出留の友達っしょ?」
「、」
「はい!もちろんです!」
「……あれ?心操くんは違う感じ??」
発目さんに対して息を詰めた心操くんに刈上くんは目を細める。
心操くんは手を握って、眉根を寄せる。苦しそうなその顔はきっと、さっきの緑谷くんと目の前の刈上くんとのやり取りに壁を感じてしまったからだろう。
「っ、俺、は…」
「心操くんは緑谷さんのお友達ではありませんよ!」
横から聞こえた明るい声に刈上くんが目を丸くして固まる。心操くんも驚きで固まって、発目さんは胸を張って笑った。
「心操くんは緑谷さんの相棒です!最強ペアなんですよ!」
「………相棒?」
「ですよね!心操くん!」
にぱっと笑ってる発目さんは曇り一つない瞳で、心操くんは泣きそうになったのを我慢するように唇を噛んで、頷いた。
「っ…ああ…!俺は、出留の相棒だっ」
「…出留の…」
刈上くんが言葉を咀嚼するようにつぶやいて、それから嬉しそうに口元を緩めた。
「…そっかっ、そっか…!!よかった!あの出留に相棒が出来たんだな!!」
「はい!心操くんと緑谷さんの最強タッグはヒーロー科にも劣らないんですよ!」
「まじか!すげぇ!」
「は、発目さん、そのくらいにしてくれ…」
恥ずかしそうな心操くんに刈上くんは心操くんの肩をたたく。
「出留の相棒なんて初めて見た!ほんとすげぇよ、心操!」
「、いや、俺はそんな、出留にまだ全然叶わないし…」
「なーに言ってんだ!あの勝己でも緑谷でもなれなかった相棒の座を勝ち取ってんだ!もっと自分に自信持ったほうがいいぞ!心操!」
「か、勝ち取ったっていうか、先生がまとめて面倒みてくれてたからそうなっただけで…俺なんかより、アンタのが仲良さそう、だし…」
ぼそりと零された言葉に刈上くんは目を見開いて、はあ?と胡乱げな表情を浮かべた。
「俺と出留は仲良くねぇよ?」
「は?」
「え?そうなんですか??」
「まったくそうには見えなかったけど…」
「ミッドナイトまでなんで…?…俺は勝己のダチ。出留は勝己のダチとして俺を見てて、その上でちょっとの無礼くらいは許してもらえてんの」
「えっと、爆豪くんのお友達なら、それは緑谷さんのお友達ということではないんですか?」
「んーや、彼奴らまじめんどいしややこしいから、普通ならそうなるかもだけど、彼奴らには友達の友達は友達理論通用しねーのよ」
「そうなんですか…?」
不思議そうな発目さんに刈上くんは息を吐く。
「まっじで彼奴ら、特に緑谷がクソダリィから。あの三人の間に挟まろうもんなら存在消されんぜ」
何人消えたことかと溢れてる言葉に心操くんは青い顔をして固まる。刈上くんは息を吐いて首を横に振るとだからさ!と二人に目を向けた。
「出留が自分の友達を持って、その上で相棒までみつけてんのってまじ奇跡だし尊敬するし羨ましい!これからも出留と一緒にいてやってくれな!」
「はい!もちろん!」
「…ああ、そうする」
「ふふ。貴方も十分緑谷くんのいい友達だと思うけどね」
「俺は勝己から出留のお目付け頼まれてんだけなんで!!」
不思議な関係性だ。友達にしては義務感があって、ただの同級生にしては近すぎる。
刈上くんは発目さんと心操くんに笑って、いつの間にか三人は連絡先を交換してた。端末に触れながら、そういえばと刈上くんは顔を上げる。
「あのさ、わかれば一つ教えてほしーんだけど」
「なんだ?」
「なんでしょう?」
「出留のこと。彼奴、死ぬほど不機嫌だけどなんかあった?」
「私は特に何も心当たりはなくて…」
「俺も…」
「んー、そっか」
刈上くんは眉尻を下げて、ちらりと私を見る。目があって笑みを繕った。
「緑谷くんの不機嫌と直接関係があるかはわからないけど、昨日の訓練中に緑谷くん倒れちゃってね。そのことで大事を取って休むように伝えたら意見の相違があったみたい」
「え、そうだったんですか!?」
「緑谷さんそれで今日は試験受けられてたんですか!?」
「うん、あんまり言いふらしてもと思って貴方達には内緒にしてたんだけど、相澤くんがそう言ってたわ」
二人の驚いた表情に黙っててごめんなさいと続ける。二人はそれであれだけ動けるとかすごすぎないと顔を合わせていて、一人、刈上くんはあーとなにかに納得がいったような顔をして頭を掻いた。
「なるほど。彼奴らしいっつーか、なんていうか…」
「刈上、出留の不機嫌?はそのせいなのか?」
「あー、…80%くらいそれが原因だろうなぁ…」
「どうして緑谷さんは不機嫌になられたんでしょう?体調が悪いのに試験に参加させられたからですか?」
「あー、うーん」
どこまで言ったらいいんだこれと口篭る刈上くんは頭をがしがし掻いて、口を開こうとしたところで後ろから名前が呼ばれる。
「あ!わりぃ!もう行く!」
同級生らしきその子に慌てて返事をして、一歩離れた刈上くんは笑った。
「まぁ不機嫌の理由は人が聞いたら死ぬほどくだらなくてしょーもないことだろうから気にしなくて平気だ!」
「それはそれで気になるんだけど…」
「そんなことよりさ、出留の機嫌の治し方教えとく!」
「機嫌ですか?」
「おう!あのな、出留は頑張れって言われんのすげー好きで、頑張ったことを褒められんのがむっちゃ好き!」
「………出留はそんな子供っぽいことで喜ぶのか?」
「そ、彼奴はそれが一番なんだよ。だって彼奴の中身、」
「刈上ァアア!!いつまで雄英絡んでんだてめえええ!!置いてくぞおおおお!!!」
「だー!待ってって!!」
仕方なさそうに叫んで返して、じゃあ!と手を上げた刈上くんは走り出し、階段を駆け上がる。
待たされ怒り心頭のその子の近くに寄って、振り返った。
「ミッドナイト!」
「え?なぁに?私?」
「あの!さっき言ったこと!その相澤さんって人にも絶対伝えてください!!」
「相澤くんに?」
「絶対必ずっすよ!頼みました!!」
「え、ええ。わかったわ…?」
「あざっす!」
ぺこりと一瞬頭を下げて刈上くんはすぐに待たせてた人物に駆け寄る。頭を叩かれ、笑う刈上くんは待たせてた人物と歩き出して会場を出ていった。
残された私達は目を瞬いて、こてりと発目さんが首を傾げる。
「い、いったいなんだったんでしょう…?」
「さぁ…?俺にもなにがなんだか…??」
「私にもよくわからなかったわ…?」
青春とは違う、歪な三人に近い存在。爆豪くんの友達と言っていたけれど、あれだけ近いのなら緑谷くんと友達と言ったって差し支えないはずだ。
刈上くんが残していった伝言に、とりあえず息を吐いて携帯を取り出しメッセージを送る。相澤くんがいつ見るかはわからないけれど、刈上くんがあれだけ念を押していったのだから、きっとあの二人に必要なことのはず。
「受験者の皆さん、お待たせいたしました。只今より合格者の発表をいたします。受験会場へお集まりください」
「いよいよか…!」
「緑谷さんの名前どこにありますかね!」
「成績順なら上だな!」
はしゃぐ二人は合格者が表示されるであろう大きなスクリーンに視線を移す。
ぞろぞろと現れる受験者たちの中にひどく退屈そうな顔の緑谷くんを見つけて、揺れた携帯の画面を確認する。
「では、合格者を一斉に表示いたします」
ぱっと現れた画面。学校別らしいその記載順に一人で参加している緑谷くんの名前を探すのは難儀で、それでも、二人は同時に目を見開いた。
「「あった!!」」
「ふふ、さすが緑谷くんね」
「すごいすごい!!出留!合格だ…っ!!」
「おめでとうございます…!緑谷さん…!!」
二人が頬を赤らめて涙ぐむ姿に思わず一枚写真を撮って、それから二人の肩を叩く。
「おめでとうの言葉は、直接緑谷くんに…たくさん言ってあげましょうね」
「「はい!」」
喜んでいる二人に視線を落とす。緑谷くんは画面を見てもいないようで、隅で退屈そうにしていた。
周りはひどく賑やかで我先にと電子板に表示された結果発表を見に行ってる。
一応参加したからには結果を見なくてはいけないけど、あの人混みに飛び込むのは面倒くさくて、少し離れたところにいれば影が目の前に立った。
「こんなところでなにをなさっているの?」
『見に行くのめんどくさいなぁって。三人の結果は?』
「ばっちり合格だよ!出留!褒めて!」
『ん、よくできました』
「ふふ。出留くんも合格でしたよ。よくできました」
『…そっか。じゃあ資格証もらい行かないといけないね』
「二次試験の審査項目も確認が取れますから、興味がなくてもきちんともらったほうがいいと思います」
「面倒事を増やしても仕方ないでしょうし、このまま帰るなんてことはしないようになさい」
「仮免取ったならそのうち現場で会うかもね!てかまた連絡するよ!またねー!」
『うん。またな』
いつもどおり別れの挨拶を交して、仕方なく歩き始める。管理人に声をかけて渡された資格証と通知表を持って控室に向かいさっさと着替える。
見た携帯には相澤先生から連絡が入っていたから息を吐いて、聞かれたときのために通知表の中身を軽く確認して部屋を出た。
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