DC 原作沿い
「パリジャン、うめーか?」
『ん、おいしい!ありがとー、カルにぃくん』
もう半分減ってるパフェにカルにぃくんはそうかそうかなんて頷いて、コーヒーを飲む。
食べに来たのは高いビルの上から数えたほうが早い場所にあるカフェで、食べに来たフルーツパフェは早起きをして食べたかいがある。
大きな器に盛り付けられたカラフルなフルーツはそれだけで彩りがいいのに、皮も実もカットされていて形もきれいだ。
たまにカルにぃくんにも分けて、グラスが空になったところで俺の紅茶、カルにぃくんのコーヒーもからっぽになった。
『ごちそーさまでしたっ』
「おう。満足できたんなら連れてきて良かったぜ」
楽しそうに笑うカルにぃくんはそういやーと俺の前髪をつまんだ。
「髪切らねぇのか?」
『んー、たしかにそろそろ切らないとあれかなぁ』
目にかかって邪魔だから左右に流してる髪の毛。最後に切ったのはいつだったかなと思いだそうとして諦める。
「いつも自分で切ってんのか?」
『んーん。ベルねぇさんがお出かけの前に連れてってくれるの』
「ベルモットさんが!?」
『うん。ご飯とか買い物とか行く前に毛繕いしてくれるんだ!』
「毛繕いってよ…」
『トリミング?』
「犬かよ」
『わんっ!』
「ほんと謎だよなぁ」
カルにぃくんは頭を掻く。最初あれだけベルねぇさんのことが大好きな俺を警戒してたのに、いつの間にか俺のお世話をしてくれるようになったカルにぃくんは、ベルねぇさんと一緒にいても怒らないようになった。
ベルねぇさんから何か聞いたのかもしれないし、純粋に俺を敵とみなすのが馬鹿馬鹿しくなったのかもしれない。
どちらにしてもそのおかげて俺はおいしいお菓子にありつけるし、色んなところに遊びに連れて行ってくれる人が増えたわけだから万々歳だ。
前髪を自分でも摘む。長いそれはいつもベルねぇさんが連れて行ってくれるけど、ベルねぇさんは仕事が忙しいだろうから自分でなんとかしないといけない。
『カルにぃくんハサミ持ってる?』
「自分で切る気か??」
『ん』
「おいおい、大丈夫かよ」
『ハサミで切ればいいだけなら俺でもできるよ!』
「そういう問題じゃ…ちょっと待て、今聞くから!」
『ん?誰に??』
カルにぃくんは携帯を取り出して操作を始める。連絡を取ってる姿に首を傾げて待てと言われたからぼーっとする。
連絡が取れたのか、カルにぃくんが顔を上げたから視線を戻した。
「よし、んじゃあ行くぞ、パリジャン」
『ん!どこ行くの??』
立ち上がったカルにぃくんについていく。乗ってきた車に乗り込んで、ナビを操作したカルにぃくんは迷わず走り出して助手席で渡された飴を口に入れて転がし、どこに行くかは教えてくれないカルにぃくんとお話しながら景色を眺める。
すっと止まった車にシートベルトを外せばカルにぃくんは携帯を確認しながらこっちと歩きだして、進んでいく道はガラス張りだったりするブランド店やカフェが多い。
「お、あった、ここだ」
『美容室??』
「ベルモットさんがここだったら良いってよ」
『ベルねぇさんのおすすめなんだね!』
近づけば扉のところに立っていた女性が扉をすっと開けて招き入れてくれた。
名前も伝えてないのにお待ちしておりましたなんて言われて俺とカルにぃくんは顔を見合わせて目を瞬いて、きれいな建物に入る。
淡い石鹸みたいな香りのする室内にカルにぃくんは冷や汗を流し始めて、俺はベルねぇさんはやっぱおしゃれなお店を知ってるなぁと納得する。
「こちらへどうぞ」
「は、はい」
『カルにぃくん大丈夫??』
「なんでお前は平常運転なんだよ…」
『ベルねぇさんいろんなとこ連れていってくれるから!』
「ぐっ、そーかよ…!」
うらやましいとこぼすカルにぃくんに、今度ベルねぇさんへみんなでご飯に行こうと伝えることにして、誘導されるままに席についた。
「お客様もこちらへ」
「あ、切るのはそいつだけなので」
「シャロン様より、お二人とお伺いしておりますのでご安心を」
「ひ…っ」
なんも安心できねぇとカルにぃくんの顔には書いてある。座らされてケープをかけられたカルにぃくんはがちがちで、ベルねぇさんの準備の良さに感心する。
座っていれば声をかけられて、いろいろ説明を受けるけどよくわからないからとりあえず頷いておく。
髪が濡れて、なんか塗って、流して。鋏が入って、乾かして。ぼーっとしてる間にさくさくっと終わったようで前髪は邪魔にならないように流され、後ろのばらばらになってた毛先も長さが整えられてた。
「続けてこちらへどうぞ」
『はーい』
それが終わればベルねぇさんといるときと同じで着替え。これもまたよくわからないうちに決まった服を纏って、扉を開ければおんなじように着飾られたカルにぃくんがばっと顔を上げた。
『カルにぃくん、おまたせ〜』
「全くだ…!一人にすんじゃねぇよ…!!」
声を震わせてるカルにぃくんはよっぽどここの空気が合わなかったらしい。
ぷるぷるしてる様子に思わず笑えば睨まれて、カルにぃくんも俺も正装になってる。
『ベルねぇさんとご飯のときはこの格好だけど、なんで今日もこの格好なんだろー?カルにぃくん知ってる?』
「知らん…!」
落ち着かねぇとそわそわしてる指に、煙草を吸いたいのかなと目を瞬けば、こつんこつんと穏やかなヒールの音が聞こえた。
ふわっと届いた香りにあれ?と首を傾げれば足音は近づいて、カーテンに遮られたそこからブロンドが覗いた。
「はぁい。わんちゃん、カルバドス」
「べっ、ベルモットさんっ?!」
『ベルねぇさん、どうしたのー?』
予想していた人物にカルにぃくんは飛び跳ねる勢いで驚いて、近寄ると切ったばかりの髪が撫でられてベルねぇさんはふふっと笑う。
「せっかくだからご飯でも行こうかと思って」
『ベルねぇさん仕事忙しいでしょ?』
「あら、タイムスケジュールが管理できてこそのプロよ?」
『そっかー!』
俺なんかじゃわからないけど、何でもできるベルねぇさんが大丈夫というなら大丈夫なんだろう。
頷いてみればベルねぇさんは微笑んで、指が頬を撫でた。
「わんちゃん、準備はいいかしら?」
『わんっ』
「ふふ。いいお返事ね。…さぁ、行くわよ、カルバドス」
「はははい!!」
後ろで硬直してたカルにぃくんも返事をして三人で歩き出す。
車はカルにぃくんの車で、後部座席にベルねぇさんと座ればベルねぇさんはカルにぃくんにささっと目的地を伝えて車が進んでいく。
『ベルねぇさん、どこいくの?』
「わんちゃんの好きそうな場所よ」
『俺の好きそうなとこ?』
頬が撫でられて口元が緩んだ。
『ベルねぇさんが連れて行ってくれるところ全部楽しいから楽しみ!』
「ふふ、ええ、楽しみにしていてね」
笑ったベルねぇさんにカルにぃくんがぐぅっと変な声を出して、前を見れば唇を噛み締めてる。
よくわからないその表情に声をかけようとすればベルねぇさんが放っておきなさいなんて流すから、目を瞬いて頷いた。
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