DC 原作沿い
単独任務はしばらく無しと言い渡された。どうやらライくんが電車で痴漢されてたのを誰かに溢したようで誰かが送迎ができない日の任務は当面禁止らしい。
本来、裏切り者や失敗者の始末がメインの俺にはペアやトリオの任務は早々にない。
また仕事なしの俺は大変暇で、時間があるときはキャンねぇとコルにぃ、カルにぃくんが遊びに連れて行ってくれるけど、俺が眠りこけてる間に仕事が溜まってしまったアイくんとベルねぇさんは忙しそうに飛び回ってた。
あまりに暇でまた自室でうとうととしていれば携帯が揺れたから手を伸ばして触る。
届いてるメッセージを見て、体を勢い良く起こした。
荷物を持って部屋を出て、車に飛び乗る。必要なものを買って目的の場所にたどり着いたから車を止めた。
荷物を持って中に入るともうすでに待っていた志保ちゃんがお茶を用意してくれていて、明美ちゃんが顔を上げてぱっと笑った。
「パリくん!」
『明美ちゃん、志保ちゃん、久しぶりー!』
「元気そうね」
『ん!もう全快だよ!』
「よかったわ…!」
ちょっと目を潤ませた明美ちゃんと視線を落とした志保ちゃんに申し訳無さが心をしめて、持ってたそれをテーブルに置いた。
『二人とも心配してくれてありがとう。もう大丈夫!』
「あまり無茶をしないようにね」
『うん!』
伸ばされた手がぶっきらぼうに俺の頭を撫でて、離れたと思うとじとりとした目を向けられた。
「あと、緊急事態とはいえおねぇちゃんを幹部と会わせないでちょうだい」
『あ、そういえばアイくんに連絡してくれたんだもんね?本当にありがとう、明美ちゃん』
「うんん、大丈夫よ。すぐ来てくださったし、あの方がパリくんのことをすごく大切にしてるってわかってよかったわ!」
『うん!アイくんすごく優しくて強くてかっこいいんだよ!!』
「ええ!そうね!」
「はぁ〜…」
頭が痛そうに押さえてため息をついた志保ちゃんは視線を逸して俺の持ってきた箱を開け、中身を確認すると一回向こうに行って微かな物音のあとに戻ってきた。
「いつも手土産を用意してもらって悪いわね」
『んーん!お詫びの品だから!いっぱい食べてね!』
「お詫びなんて要らないけど…でも、とてもおいしそう」
大きないちごがきれいに並んで、周りがさくさくした砕いたパイ生地をまぶしてあるそれは店頭で一目惚れしたミルフィーユで、志保ちゃんは上手に六等分すると皿に分けてくれてちょうどタイマーが鳴りポットを取って紅茶を注いでくれた。
ふわりと薫るのは花の匂いで目を丸くする。
『いいにおいする!』
「嫌いじゃなかったのなら良かった」
「パリくんの買ってきてくれたミルフィーユも楽しみ!」
「ケーキは冷たいうちに、紅茶は温かいうちにいただきましょ」
『はーい!いただきまーす!』
温かいいい香りの紅茶と美味しそうなミルフィーユ。明美ちゃんと志保ちゃんとの会話に口元を緩める。
二人といるときはとても落ち着いて、同じ落ち着くでもアイくんやベルねぇさんと居るときとはちょっと違う感覚だ。
スーくんとバボくんと居る時も好きだけど、頭が痛くなるし会いにいくのは桜を見るため、春まではちょっと控えるべきだろう。
「どうしたの?」
『んー?』
「手が止まってるわ」
「まだやっぱり体調悪いの?」
『ん?うんん、ぜんぜーん』
フォークを握り直してミルフィーユを崩し口に運ぶ。サクサクとした食感と柔らかなクリームに口元を緩め、不意に明美ちゃんを見て思い出したから口を開いた。
『あのね、明美ちゃん』
「うん?なぁに?パリくん」
『ライくんに今度お礼言っといてほしいの』
「大くんにお礼?」
「あの人と何かあったの?」
『この間電車乗ってたときに助けてくれて、ちゃんとお礼言いたいんだけど連絡先も俺知らなくて』
「電車で何があったの?」
『痴漢撃退してくれたー』
「「え」」
ぴしりと固まった二人。明美ちゃんは持ってたカップを落としたから咄嗟に手を伸ばして受け止めた。
『どうしたの?』
「ぱ、パリくん!大丈夫だったの?!」
『え?うん。なんもないよー?』
「貴方が返り討ちにしなかったなんて本当にただの痴漢だったの?」
『んー、普通の人なんじゃないかなぁ。別にどうでもいいかぁって放っといてた』
「……………はぁ〜」
痛そうに頭を押さえる志保ちゃんと顔を歪めて泣きそうな明美ちゃんの対比に目を瞬く。
『えっと、でも、…ライくんがそいつ追っ払ってくれて、その後にそういうのはエスカレートして他の人にも同じことするかもしれないからちゃんと始末するようにって言われたから大丈夫だよ!あと俺当面電車禁止されたし!!』
「…………おねぇちゃん」
「うん…大くんに連絡しておくね…」
『?』
二人は目を合わせて深く頷きあう。その様子に首を傾げればいいから紅茶でも飲みなさいと志保ちゃんに勧められて話はそこで終わってしまった。
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