イナイレ



「それで、明日何時なら大丈夫なんだ?」

すっかり連絡を忘れてて、風呂を出たところで確認した携帯の不在着信に約束を思い出した。

繋がるなり挨拶もそこそこに首を傾げるような言い回しをされ、あーと時計を見る。

『別に何時でもいいけど、どこ集合だァ?』

「話ができればどこでもいいけど…せっかくなら昼食でも一緒に食べる?」

『ん』

「決まりだね!じゃあ…あ、11時に駅集合で!」

『はいよ』

「明日は遅刻しないでね!来栖!」

『へーへー。おやすみィ』

「ああ!おやすみ!」

切れた通話に、思い出したかのようにあくびが零れたから出かける支度は明日に全部回して眠りについた。



身支度を終えて間に合うようにたどりついた駅で、視界を広げてもまだ目的の人物は来てなかったから改札口の近くの壁に背を預けてゲームを起動する。

最近やってなかった音ゲーはダウンロードに時間がかかった。読み込みきっランダム選曲を押し、表示されたタイトルに機体を両手で持ち直す。

差し込んでるイヤホンから流れ始めた曲と動き出した画面に合わせてボタンを押していく。タタタンと押したボタンに連動して音が響いて、大体三曲目で黄緑色の髪が揺れたから顔を上げた。

「来栖!おはよう!」

『おー』

「待たせたか?」

『別に。で?どこに飯食い行くんだァ?』

視線を落としそうになった緑川に話題を変える。緑川はにっと笑って俺の腕を取った。

「この世界で一番美味しい料理が食べれるところ!」

『随分期待値あげんじゃねぇか』

「ふふん!来栖も絶対美味しいって言うぞ!」

『へぇ?楽しみにしてんわ』

「ああ!楽しみにしててくれ!」

嬉しそうな緑川に思わず口元を緩める。ゲーム機をしまってから歩き出した。

膝を負傷している緑川の歩調に合わせてゆっくりと道を進む。

『お前は足の調子どうなんだァ?』

「んー、単純な過労だから、一、二ヶ月様子見るようなってお医者さんは言ってたかなぁ」

『ふーん』

「せっかく来栖が鍛えてくれたから、早く回復してみせるよ!だから、また一緒にサッカーやろう!」

『…はぁ、気が向いたらなァ』

「うん!」

昨日の吹雪よりも随分と割り切ってるらしい緑川は明るい。和やかな空気で進む道になんとなく既視感を覚えて、あ、来栖と呼ばれたから意識を逸した。

「ちょっとだけ買い物しても平気?」

『あ?何買うんだァ?』

「あれだよ」

ガラスの戸、その向こうにはショーケースがあって段になったトレーの上には穴の間食べ物が色や形を変えて何種類も並んでた。店の中に入れば予想通りふわりと漂ったチョコレートや砂糖の溶けた甘い香りとかすかな油の匂いが届く。

『どんくらい買うんだ?』

「んーと」

トレーをとりあえず一つ取れば、更に三枚持って、目を瞬く。

『お前そんなに食うのか?』

「まさか!俺一人で食べるわけないでしょ?!差し入れだよ!」

『ふーん?』

記憶を遡っても緑川が甘いものを食べてるところは見たことがなかった。スポーツ選手としてそう大量に糖質は取らないだろう。

『ならいろいろ買うか』

「そうだね。みんながどれが好きかわからないし二個ずつくらい買えばいいかなぁ」

『期間限定のもん抜いたほうがいいだろ。取り合いになったら目も当てられねぇ』

「たしかに」

『そっちから回れ。俺はこっちから取る』

「うん、頼む!」

店内に客がほとんどいないからショーケースの端と端からトレーにドーナツを乗せてく。トレー四枚分のドーナツはだいぶ壮観で、レジに持っていけばスタッフに二度見された。

ドーナツの個数を数えてピッと金額が表示される。

「4250円です!」

「はい」

出された現金になかなか見ない金額のドーナツ屋での会計はトレー四枚から細長い箱三つ分に変わって、俺が一つ、緑川が二つ持った。

『こんなに買ってほんとに食いきれんのか?』

「大丈夫大丈夫!多分足りないよ!」

『どんだけ人数いんだ…?』

「あはは。じゃ、準備万端、行こうか!」

『おー』

また緑川の先導のもと道を歩く。どんどん記憶に重なっていく建物や標識に眉根を寄せて、口を開こうとしたところで記憶どおりの大きな建物の中から人が飛び出してきた。

「あ!リュウジ!」

「ただいまー!」

「わ!わ!何持ってるの!?」

「ドーナツだ!!」

「ほしい!!」

「あげるけど順番だよ!」

「「「「わーい!!」」」」

群がった子どもたちに緑川は笑って、子どもたちは目を輝かせて喜ぶ。

隣の緑川に眉根を寄せた瞬間洋服が下から小さく引かれた。

「こんにちわぁ。おにぃさんだぁれ?」

『…、こんにちは。…緑川の知り合いだ』

「リュウジのおともだち?」

『知り合い。んなことより挨拶ができて偉いなァ』

箱を持ってない左手で低い位置にある頭を撫でる。小さな子どもはまだ四歳くらいだろう。

「来栖!さぁさ、中入って!」

『…あー、やっぱ外で話さね?』

場所に気づいて目を逸らす。背中に汗が滲むから一歩引こうとしてるのに緑川は不思議そうに首を傾げた。

「え?なんで??」

『…それは、』

「おかえりなさい。リュウジ」

「あ!瞳子ねぇさん!ただいま!」

『、』

建物から出てきたその人は髪をはらって俺を見据えると口元を緩めた。

「おかえりなさい、諧音くん」

『っ』

目を逸らそうとして諦める。

『…ただいまァ』

「ふふ。いつまでも外にいても仕方ないでしょ?さぁ、入って入って」

瞳さんは楽しそうで緑川は目を瞬いたあとに同じように笑った。

「早く!来栖!」

『……はいはい』

「さぁみんなも、ご飯の時間よ!中に入りなさい!」

「「「はーい!」」」

外に出ていた子どもたちもはしゃぎながら足を進めれば、記憶とそう変わらない玄関に迎え入れられた。

緑川と一度広間に寄って、ドーナツの箱を置いた。子どもたちと同じように手を洗いに行く。手を洗いきれば食堂で後は待つだけだ。

年長組は配膳や調理の最終調整を手伝っていて、必然的に小さな子どもたちが俺と残ることになる。

「ねーねー!おにーちゃんお名前は?」

『諧音』

「諧音はおりがみ得意?」

「お絵描きしよー!」

「外で遊ぼ!」

『あー、手ぇ洗ったんだから汚れることはしねぇほうがいいんじゃねぇのォ』

「えー?」

「じゃあなにするの?」

「つまんない!」

ぷくりと頬をふくらませる子どもたちに記憶を探って、こういうとき瞳さんは何してたかなと考えて近くにあったそれ見た。

『おら、全員見えるように座れ。本読んでやんよ』

「やったぁ!」

「何読んでくれるのー?!」

『あー、』

視線を巡らせて、端っこでそわそわしてる子供にそこの子供と指す。

『リクエスト聞いてやんよ。何がいい』

「え!?えっと、じゃあ三人のやつ!」

走ってきて指されたそれを取る。黒い帽子に黒いローブをまとった三人の影と真っ赤な斧が写ったそれに近くの椅子に座って広げた。

『――すてきな三にんぐみ』

タイトルを読み上げてページを開く。俺はページを見なくても見えるから子供に見えるように広げながら文を読み上げていく。

三人は凄腕の泥棒で、誰もが恐怖するような見目と武器を持っていた。宝を奪っては家に集めていて、とある日、襲った馬車には宝はなく少女がいた。盗むものがない泥棒たちは仕方なく少女を連れて帰り、少女は宝を見て口を開いた。

『――まぁ、これどうするの?』

泥棒たちはそこで初めて集めた宝の使いみちを考える。なにかを買うのか、飾るのか、そのうち、泥棒たちは少女のような子どもたちを宝の代わりに盗み出す。それから宝をすべて使い大きな城を買って、それを子どもたちにプレゼントした。

『――おしまい。』

「諧音ほんよむのじょうずだね!」

「もじみないでどうやったよんでるの??」

『俺の目は特殊なんだよ』

「すごーい!」

「おめめみせて!!」

『別に見んのはいいけど見た目だけじゃわかんねーぞォ?』

きゃっきゃと騒ぎながら子供が近寄ってきて小さな手が顔を取って目をのぞき込んでくる。

変に外に出られるよりはましかと息を吐いて、さっきの絵本を立てた。

『俺の目なんかより楽しいこと考えね?』

「なぁに?」

『宝モンがあったらみんなはなにしてぇ?』

「はいはい!わたしはほうせきいっぱいかうの!」

「おれじぶんようのひこうきほしい!!」

「がいこくいってみたい!」

「くるまうんてんするの!」

出てくる大量の夢にへーと相槌を打つ。ちょうどよく現れた人たちに顔を上げた。

「相手をありがとうね、諧音くん」

『全くだ』

「みんないい子にしてたのね。年長の諧音くんのおかげかしらね」

『馬鹿言うな。こいつらが勝手におとなしかっただけだろ』

次々と運ばれてくる料理にどの子どもからか腹の虫が鳴って、響いたそれに瞳さんがそれじゃあみんなと号令をかけた。

「いただきます」

「「「いただきまーす!!」」」

それぞれの子供が皿に乗った料理を食べ始める。俺の前にも同じように皿が用意されていて、右隣には瞳さん、左隣には緑川が座って両方から視線を向けられた。

『…いただきます』

手を合わせて箸をとる。盛られたうどんをつまんで口に運んだ。

「どう??」

『うまい』

「ふふ、よかったわ」

「だろー!瞳子さんのご飯は世界で一番美味しいからね!!」

『ああ、だな』

添えられてる煮物や炒め物もどれも懐かしい。味わっていれば子どもたちは和やかに会話をしていて、さっきの夢の話を続けてた。

「あらあら。みんな夢がたくさんあっていいわね」

瞳さんが口角を上げれば予想していたとおりの緑川が首を傾げる。

「来栖はどんな夢がある?」

『ねぇわ』

「ええ?なんにも?」

『緑川はァ?』

「え?えっと、俺はそうだな…社長秘書とかになって美味しいもの食べたり色んなところに行ったりしたいかなぁ」

『秘書なァ。似合うんじゃね?』

「ほんと?似合う??」

『お前ちまちま計画立てたり影で働くの好きだろ』

「嫌いじゃないけど…いつから知ってたんだ?」

『なんとなく気づいたら』

「ええ、俺そんなにわかりやすいかな…」

思い出してるのか唸る緑川に息を吐いて皿の上を口に運んでいく。

「諧音くん、足りてる?」

『ん、平気』

「そう。それはよかったわ」

両サイドや向かい側からたまに子供に問いかけられつつ、賑やかな食事を終える。

「それじゃあみんな、おやつの時間まで好きに過ごしてきなさい」

ご馳走様の挨拶の後に解散を言い渡され、子どもたちははしゃいで外に出ていった。残された俺たちは片付けを手伝い、それから誘導されるままに部屋に入った。

「適当に座ってて!いろいろ取ってくる!」

『おー』

案内されたのは緑川の私室らしく、きれいに畳まれた布団と勉強机、そのすぐ横には汚れないようにか浅めのボックスにサッカーボールと磨かれたスパイクが入ってる。

ぐるりとあたりを見渡しても机の前か畳まれた布団の上くらいしか座るイメージのつく場所はない。

緑川が何を取りに行ったかは知らないが物を置くなら机の上になるだろうからその前に座り込んだ。

携帯を取り出して操作しながら時間を潰していれば数分もかからずに足音が近寄ってきて戸を叩く。

「入るぞ!」

『ご自由にどーぞォ』

自室にその掛け声は正しいのか。

入ってきた緑川はトレーにグラスを二つと皿にドーナツ、それから小脇に本を挟んでいて不安定に揺れるグラスにトレーを受け取って机に置いた。

『危ねぇ』

「ごめんごめん、ありがと」

グラスの中身は緑色の冷たいお茶らしい。添えられたドーナツが甘いから口直しを兼ねてるんだろう。ドーナツは全部色が違うものが四つ乗っていて手拭きも添えられてた。

「来栖どれがいい?」

『先選べ』

「えー、こういうのは年功序列だろ?」

『同い年のくせに何言ってんだァ?』

「えへへ、たしかに」

笑った緑川がどれにしようかなと悩み始める。

チョコレートの生地に白色のココナッツがついたものと、絞り金でひねり出した形で上がった飾りがないもの。球体が九つに連なっていてピンクのチョコレートがかかったものと茶色の生地にチョコレートが半分かかったもの。

恒常メニューのラインナップに緑川がぐぬ ぬと悩んでるから息を吐いた。

『全部食えば?』

「流石にそんなに食べれないよ」

『なら半分ずつにすればいいんじゃねーのォ』

「え、いいの?!」

『好きにしろ』

「やったぁ!ありがとう!」

『おー』

それなら早速とドーナツを全部半分に割った緑川はニコニコとまず白色のココナッツがついたのを一口食べる。

「んん!あまぁ!おいしい!」

『テンションたけぇな』

「ドーナツ久しぶりだからね!」

『ふーん』

飾りが一番ないやつを取って口に入れる。チョコレートのかかってないそれは生地のほんのりとした甘みだけが広がる。お茶を飲んで、今度は隣のいちごチョコのかかったものを球体一つ分食べたところで向かいを見た。

『で?』

「ん?」

『んじゃねぇわ。話がねぇなら帰んぞ』

「あ!そうだった!」

思い出したらしく口と手を拭って、正座をして姿勢を正すとまっすぐ俺を見て笑った。

「来栖。ずっと俺の訓練見てくれてありがとう。本当に感謝してもしきれないよ」

『見てただけだ。んな改まって礼を言われるほどでもねぇ』

「うんん、俺がちゃんと言いたいんだ。…言わないといけないんだ、俺は」

『あ?』

緑川は持ってきたまま横においていた本を持ち上げる。中身を把握していたのかすんなりとページを開くと本を見えるようにこちらに差し出した。

見開きの本は左右どちらにも写真が三枚貼ってあって、その横のスペースに人の名前と日付が書かれてる。

いくつか六枚の写真のうち、右側に貼られた三枚は同日に撮られていて、日付だけでなく登場人物も一緒だった。

『これ、』

「来栖にはお礼を言いたかったんだ。…ありがとう、ずっと見守っててくれて」

緑色の長い髪は目の前の人間も写真の中の人間も一つにまとめられてる。まっすぐとただ感謝だけを込めた視線がむず痒くて顔を下にする。見据えた写真の中で、緑色と一緒にボールを転がしている人物に目をつむった。

『別に礼なんて要らねぇし、お前のためだけじゃねぇから気にすんな』

「うん。来栖は大好きなサッカーを少しでも長くしたかったんでしょ?」

『……はぁ?誰がんなこと言ったァ?』

「んー、言われてはないけど、見てればわかるよ。来栖はサッカーが好きだって。だから俺だけじゃなくて飛鷹の練習も見てあげてたし、虎丸や吹雪、不動ともなんだかんだ練習してただろ?」

『…………好きじゃねぇし』

「え?そんなわかりやすい嘘つかれても…?」

『…ちっ』

広げられたままのアルバムを閉じて視界から隠す。書かれていた文字は丁寧で少しだけ細く丸かった。

『これ見せたの瞳さんかァ?』

「うん。瞳子ねぇさんに来栖の話したら嬉しそうに見せてくれて!なんで俺忘れてたんだろ?」

『んなガキの頃のことなんかほとんど覚えてねぇのが普通だろ』

「ガキって言ってもたった四、五年前だよ?」

『両手で足りる歳の一年なんてよっぽどのことなきゃ忘れんわ』

「そういうものか…?」

ぬぐぐと微妙な唸り声をあげた緑川はまぁ何はともあれと結んでいた口元を緩める。

「これで俺の記憶も完璧だし、これからはもっとよろしく頼むよ!来栖!」

『…ざけんな。何も頼まれたくねぇわ』

「一緒にサッカーしようね!」

『しねぇ』

「え?なんで??一緒にサッカーするって晴矢も風介も言ってたのに!」

『彼奴らが言うことはだいたい勝手で俺の許可は得てねぇから数にいれんな』

「そんな…!!」

絶望したように目を丸くして固まる緑川に息を吐いて、アルバムを閉じた。

『たとえ相手がお前だろうと晴矢や風介だろうと、俺は俺の気が向いたときにしかサッカーはしねぇ』

「じゃあこの間の試合は気が向いてたんだ?」

『……………はあ〜』

「顔見てため息吐かないでよ!もう!」

『うるせぇ』

皿から適当にとったドーナツを大きく開かれた口に押し込む。詰まった声をあげた緑川を無視して俺も食べかけの自分のドーナツを口に運んだ。

「ん、んぐっ、ぐふ。………喉に詰まって死ぬかと思った…」

『静かにしねぇからだ』

「どこの王様だよ…」

お茶を飲み息を整えた緑川はじっと俺を見て、刺さる視線に仕方なく目を合わせてやれば明るく笑った。

「来栖、またサッカーしようね」

『…気が向いたらなァ』

「向かせてみせるよ!」

緑川の宣言は冗談ではなさそうで、これからは晴矢と風介と手を組んで連絡をしてきそうだ。

あまり考えたくない展開に眉根を寄せればこんこんとノック音が響いた。

「はーい」

「リュウジ、諧音くん。私よ」

「瞳子ねぇさん?今開けるよ」

立ち上がった緑川は宣言通り扉の方に向かう。その間に残ってるドーナツを一つ取って口に入れた。

開いた扉から瞳さんの姿が見える。

「リュウジ、夜ご飯はどうするか諧音くんに聞いてる?」

「あ、聞き忘れてた!」

「ふふ、そうだと思ったわ。諧音くん、食べていかない?」

『あー、』

「それとも一緒に作る?」

『あー…』




なにがどうなってこうなったのか。瞳さん含む年長組と一緒にキッチンに立ちフライパンで食材を煽る。

「諧音すごいじょうずだね」

『慣れりゃあ誰でもできる』

一緒に料理をしていた子供がぱちくりと目を瞬くから軽く言葉を返して、出来上がった料理はどんどん皿によそわれ運ばれていった。

最後の調理分も炒めきったところで火を止めて、エプロンを外しながらキッチンから出る。

ちょうど帰ってきたのか玄関から廊下を歩いてきてたそいつは目を丸くして固まってた。

「え、」

『なに』

「あ、えっと、…え??どうしてここに来栖くんが…??」

「あ!ヒロトおかえりー!」

「ヒロト、ご飯だから早く手を洗ってきなさい」

「え?!う、うん…??」

促されるままに洗面所に消えていった基山に緑川が手招くから食堂に向かって、昼と同様に左右を瞳さんと緑川が座る。

戻ってきた基山は瞳さんの隣に座って、号令がかかれば全員が食べ始めた。

「諧音くんまた腕を上げたわね」

「おいしい!そういえば昨日のお疲れ様会!最後に追加で用意してくれたオムライスもすっごく美味しかった!」

「ふふ。機会があればぜひ私もご相伴に預かりたいわ」

『んな大層なものじゃねーし、いつでも作ってやるっつーのォ』

「あら、それは楽しみね」

子供同士の賑やかな会話の合間に雑談を交わす。

そんな様子を基山はちらちらと俺と緑川、瞳さんに視線を向けて窺っていたけれど、話に入ってこないからか瞳さんも緑川も必要以上触れることなく和やかな晩餐は進んでいった。



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