ヒロアカ 第一部
訓練後の食事会が終わり、普段より早めの入浴を済ませて自室に帰る。今日はもう疲れたし寝てしまおうと部屋に帰ったものの、目はとても冴えていて、鞄から携帯を取り出した。
目的の連絡先は昨日会話したばかりだから上から探すほうが早く、文字を打ち込む。すぐさまついた既読に迎えに行くの言葉。時間を確認して、お土産を用意するために30分後に時間を指定して部屋を出た。
以前と同じように購買で必要そうなものを買い集めて、指定の時間よりもだいぶ早く戻る。準備ができたと送れば予定よりも20分は早かったのに部屋の中にすぐさま靄が広がって、中に飛び込んだ。
広がった先はいつか見たバーによく似た、構造の部屋の中で、壁についたテレビと対面するよに置いてあるソファーに弔は座っていた。
「よお」
『お疲れ』
ぽんぽんと隣が叩かれたから一歩進んで、横にいた黒霧さんに挨拶を済ませてソファーに座る。
持ってきたお菓子はテーブルに乗せて、ごろりと腿の上に頭を乗せて寝転がった弔の髪を撫でる。
『もしかして眠い?』
「いや、まだ早いし平気だ」
『そうなの?』
「ん」
『…………』
「ふふ、出留さん。本当にお気になさらず大丈夫ですよ」
俺達のやりとりを見ていたらしい黒霧さんは穏やかに揺れるとフォークや皿を並べ、いつもありがとうございますとお菓子を広げる。
『あ、いつもどおり買ってきちゃったんですけど、みんな居ないならこんなに要らなかったですよね』
「おや、死柄木弔から聞いてませんか?」
『何をですか?』
「出留が来るって言ったら来るって何人か返事来てたぞ」
『え、』
「ふふ。元々お約束の時間より少し早かったので…ああ、やはり。では迎えに行って参りますね」
「ん」
ふわりと靄を広げた黒霧さんを見送る。一時的に二人になる。部屋の中で下にある弔の顔を見れば、弔は目尻を下げた。
「普段は集まりが悪いのに、返信率が一番良かったぜ」
『そう、なんだ…』
「人気者だな、出留」
『………』
「嬉しくないのか?」
『…うんん、すごく、嬉しい。…ありがとう、弔』
「ん。ガキは素直に喜んどけばいいんだよ、最年少」
たまに見せる年上の理論に思わず笑う。
気配の広がる気配と共にとんっと軽い足音。それから横から飛び込んできた衝撃。首元に腕が回って柔らかな香りが包んだ。
「出留くん!」
『ヒミコちゃん、久しぶり』
「元気になって良かったです!弔くんに聞いたとき本当に心配したんですよ!」
『心配かけてごめんね、ありがとう』
「今度から無理しちゃ嫌ですからね!」
『うん、気をつけるよ』
「はい!気をつけてください!」
ぎゅーぎゅーと腕に力を込めてくっつくヒミコちゃんにもう一度礼を溢して弔から離した右手で頭を撫でる。
ほっとしたように笑うヒミコちゃんにまた足音が響いて、おー、やってるねーなんて軽い声が聞こえた。
「出留ー、もう熱は下がったのかい?」
『コンプレス。うん、みんなのおかげでもう回復したよ』
「何も俺らはしてねぇけど…元気そうで良かった、無茶すんじゃねぇぞ」
『うん、ありがとう、スピナー』
「おじさんは安心したよ。よしよし」
年上ムーブが来てるのかコンプレスが頭に手を乗せて二回、優しく髪が撫でられる。
「あ!私も撫でたいです!」
「お前らなぁ、出留は小せえガキじゃねぇんだから止めてやれよ」
「子供だから撫でるんじゃなくて、帰ってきてくれたのが嬉しいから撫で撫でするんです!」
「そうそう。ほら、スピナーも撫でてみたらどうだ?」
「遠慮しとく」
息を吐いてスピナーは椅子に座って、コンプレスはまだ近くで立ったままくすくすと笑う。
いいこいいこです!と笑みを浮かべて俺の頭を撫で回すヒミコちゃんに、膝下の弔が顔の前にひらついてるスカートを邪魔そうに払った。
「出留ー!!」
「出留くーん!!」
慌ただしく近寄ってきた声は二つで、予想通りマグネとトゥワイスがコンプレスのように近くに立つなり俺達を見て笑う。
「元気になったのね!本当に良かったわ!!」
「もう苦しくねーのか?無理してねーか?」
『うん、大丈夫。心配をおかけしました』
「まったくだぜ!!出留が居なくてどんだけ寂しかったか!」
「弔ちゃんなんて連絡がつかない間とても機嫌悪かったものね」
「、マグネ」
マグネの言葉に体をすぐさま起こした弔は居心地が悪そうで、目が合いそうになったところで逸らされた。
『……そっか。……うん、みんな心配してくれてありがとう。もう大丈夫だし、これからも遊ぼう』
「おう!いっぱい遊ぼうぜ!出留ー!」
「はいはい!私お話もしたいです!」
「ふふ、とても楽しそうねぇ」
「やることが沢山で忙しくなりそうだ」
大きく手を上げてくれたトゥワイスとヒミコちゃん、笑ったマグネに頷いたコンプレス。スピナーも目を細めて口元を緩めた。
「おやおや、やることが多いのでしたらスケジュールを立てないといけませんね」
『…んー、いつがいいですか?荼毘さん』
「、」
「あら、荼毘ちゃんいたのね??」
「返事がなかったので来ないかと思ってました」
黒霧さんの横に立っていた荼毘さんは肩を揺らして、存在に気づいたみんなはぱちくりと瞬きをする。
荼毘さんにぎっと睨まれ、首を傾げれば視線が逸らされた。荼毘さんは椅子に座ってお菓子を手に取る。
「急に言われたって無理だからな」
『はい、そうですよね。いつがいいかと…あと、何がしたいか決めないと』
「遊ぶんだろ?」
「お話!」
「飯!」
『んー、遊べて話せて飯が食える…』
「遠足かよ」
「お、スピナー良いこと言うねぇ」
「ピクニックね!素敵!!」
「はい!素敵です!!」
「げ、まじかよ」
意見が採用されたことにスピナーが慌てて、トゥワイスがくるくると回って喜ぶ。黒霧さんは一連の流れを楽しそうに笑って揺れるだけで見守っており、イベント事に積極的なヒミコちゃん、コンプレス、マグネによって行き場所の選定が始まる。
立ったままだと話しづらいからかコンプレスとマグネも座って、残された弔はまた俺の腿の上に転がる。
『やっぱり眠い?』
「んや、起きてるのがダルいだけだ」
『それって眠いんじゃないの…?』
目を瞑ってしまった弔に諦めて頭に手を乗せる。少し丸まった足元から腹にかけて、黒霧さんがタオルケットをかけてあげて、取りづらいだろうと渡されたお菓子を口に入れる。
買ってきた塩気のある棒状のお菓子を少しずつかじっていれば横から伸びてきた手が俺な右手を掴んで摘んでるお菓子を口に運んだ。
『そっちに開いてないやつありませんでした?』
「そんなに要らねぇ」
『そうなんですね』
ソファーを挟むようにわざわざ椅子を引っ張ってきたらしく、後に腰掛けてるらしい荼毘さんは顔を背ける。
さっきまで荼毘さんがいた場所を見れば企画組に組み込まれたらしいスピナーが意見を出しているところで、巻き込まれないよう避難してきたんだろう。
お菓子をもう一つ摘めば視線を感じた。少し体をひねって後ろを見る。口元に差し出せば迷わず口が開いたからお菓子を入れて、もう一つ取ったものを自分に運ぶ。
咀嚼して終わったらしい荼毘さんはソファーの背もたれに右腕をおいて、その上に顎を乗せる。リラックスした様子は随分とこの空間に気を許してるのが見て取れて、なんだか意外だった。
『荼毘さん、ピクニックに来てくださいますか?』
「…俺は遊ぶためにいるんじゃねぇぞ」
『息抜きも必要じゃないですか?』
「……俺も忙しいから、都合が良い日で、どーしても来てほしいって懇願されたら考えてやらなくもねぇよ」
『なら予定合わせますね』
どうにも捻くれた返事に笑い掛ければ唇が結ばれて、一瞬視線を逸らそうとしたところで思い出したようにこちらを見ると手を伸ばす。
目元に中指が触れる。
『荼毘さん?』
「……………」
確認するかのように撫でられて、手は離れる。目を瞬いていれば荼毘さんは立ち上がって、俺の手の中からお菓子の箱を取ると黒霧さんの元に向かってしまい、そのまま二、三言話したと思うと靄の中に消えていった。
『あれ、荼毘さん帰っちゃったんですね?』
「ご予定があるみたいですよ」
『忙しい中来てくださってたんですね…』
「ふふ、出留さんの元気なお姿を確認して安心されたんでしょう」
『はあ…』
荼毘さんはそんなタイプじゃない気がするけど、黒霧さんの穏やかな空気に否定は憚られて曖昧に返す。
「そもそも出留の出てこれる日付を聞かないと予定が立てられねぇーだろ」
「は!そうですね!!」
「流石スピナーちゃん!よく気づいたわ!」
「出留ー!いつピクニックすんだ!?」
『どこ行くかと、何時からかによるかな?』
「てか、出留外に出れるのか?」
『あー、まぁたぶん…??』
「おやおや…、これはまた、攫ってしまいますか?」
「そうだな」
『今まで寝てたのに急に入ってきて怖いこと言うのやめね??』
「寝てない」
「今度は雄英にかちこみですね!」
『だから怖いこと言うのやめような??』
随分と元気な三人と、同意している様子の周りに大きく息を吐いて、手を伸ばしたところにあったお菓子の封を開け、箱を傾ける。出てきた黄色を弔の口に運ぶ。
ぱかりと開かれた口にカラフルなグミを入れてあげれば咀嚼をはじめて、それを見たヒミコちゃんがトガも!なんて横に来て口を開いた。
『はいよー』
「んんっ、甘いです!」
「は?俺のはちょっと酸っぱかったぞ?」
『これ色によって味が違うから。はい、トゥワイス』
「あー!…ん!すっきり!どろどろだ!!おいしい!!」
「白だからすっきりしてるやつだねぇ。はい、出留」
『はいはい。コンプレスは赤色、甘いやつだ』
「ねえねえ!私は!?」
『えーと…あ、紫、ヒミコちゃんと一緒だね』
「お揃いは嬉しいです!」
「そうね!お揃いで嬉しいわ!」
『スピナーは〜』
「いらねーぞ」
『黄色、弔と一緒だ』
「俺、スピナーと一緒なのか…!」
「あー……嬉しいわ」
ふんすと少しだけ嬉しそうに口元を緩めて鼻を鳴らす弔にスピナーは無下にできなかったのかグミを受け取って口に放り込む。
全員がもぐもぐと咀嚼を始めたところで自分の分も出して口に入れる。
甘い味に、そういえばこういう味してたなと思い出しながら飲み込んだ。
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