DC 原作沿い
『すっごくきれいで美味しかったんだよ!』
「ふふ、パリくんが楽しそうでよかった」
「また甘いものばかり食べて…将来糖尿になっても知らないわよ」
『サンドイッチとかも食べたから大丈夫!!』
嬉しそうに笑ってくれる明美ちゃんと息を吐いた志保ちゃんはいつもどおり対象的で、バックミラーに映る二人に声を弾ませる。
この間行ったアフタヌーンティーは楽しくて美味しかった。キーちゃんとキューちゃんの話を聞きながら過ごした三時間は充実していて、帰ってからアイくんにたくさん話してみれば今度はアイくんが一緒に行ってくれると約束まで取り付けられた。
次の約束を楽しみにしつつ、ハンドルをきって曲がる。
「それで?今日はどこにいくの?」
『楽しいとこ!』
「貴方ね…」
「パリくんが選ぶ場所はいつも楽しいものね」
『二人が楽しんでくれてよかった!』
大抵二人と一緒に行くのは一度行って楽しかったところで、俺が楽しいと思ってるところを楽しんでもらえるのはとても嬉しい。
志保ちゃんは明美ちゃんの話を聞きながら外を見ていて、右折して建物の中に入ったところで俺を見た。
「だから…貴方、糖尿になるわよ?」
『今日は甘いものメインじゃないよ!』
「あら、志保はどこに行くか検討がついたの?」
「ええ…」
呆れ顔の志保ちゃんと対象的ににこにこ笑う明美ちゃん。駐車して扉を開ければ二人は降りて、エレベーターに乗り込んだ。ロビーで一旦降りて、また乗り換えて、今度は高層エレベーターで一気に上まで向かってちょっとした浮遊感と気圧の変化に耳に違和感を覚えたところでエレベーターを降りた。
受付のスーツの人に名前を伝えればお待ちしておりましたと中に進み、香りの横を抜けて窓際の席に誘導される。二人が一旦向かいの椅子腰掛けて、案内を軽くしてもらえば後は自由時間だ。
「ビュッフェだったのね!」
『いっぱい食べよーね!明美ちゃん!』
「うん!そうね!パリくん!」
『志保ちゃん!取り行こ!』
「ええ。…あ、食べれる分だけにするのよ?」
『はーい!』
今回も前回と同様に来たのはホテルだった。でも前回のキューちゃん、キーちゃんが招待してくれたのはアフタヌーンティーで、今回俺達がやってきたのはビュッフェだった。
フェアなのか海外の料理が一画に並んでいて、明美ちゃんと志保ちゃんはそこから攻めるらしい。俺の目的は季節のフルーツをふんだんに使ったデザート類で、二人とは逆サイドから回りだす。
好きなだけ気になった甘いものを取って、それからホットのダージリンティーを用意して戻る。
好きなものを相談しながら悩んでいる様子の二人はまだ折り返しよりも手前辺りに居たからぼんやりと透明のポットを眺める。お湯を注いだため、中で回っている茶葉を見つめていればじんわりと葉っぱから色が溶け出し始めて、向かいに人が座った。
『おかえりー』
「はぁ。やっぱり甘いものしか取って来なかったのね」
『美味しそうだったから!』
「ふふ。パリくん、ご飯ものも美味しそうなのいっぱいあったからあとで見に行きましょ」
『うん!美味しかったの教えてね!』
「もちろん」
帰ってきた二人は一枚の大きめの皿に少しずついろんなものを盛り付けていて野菜や卵料理、パスタと彩りもきれいだ。
揃ったから手を合わせていただきますと挨拶をして、フォークを持った。
「ビュッフェの後は買い物って、本当に元気ね、貴方」
『食後の運動的な?』
呆れ顔の志保ちゃんに首を傾げる。ご飯を終えて一息ついたところで近くの大きなショッピングモールに来た俺達は、今は俺と志保ちゃんで選んだ洋服を明美ちゃんが試着しているところだった。
一式揃えたからか着替えるのに手間取ってるらしい明美ちゃんに、志保ちゃんが珍しく俺に話しかけてきて、志保ちゃんは興味なさそうに触ってたブラウスから手を離す。
『志保ちゃんは見たい服とかないの?』
「ないわね」
『あんまりアクセサリーもつけないもんね』
「必要ないもの」
『そうなんだぁ?志保ちゃん似合いそうなのにね』
「………はぁ〜。買ったって着飾っていく場所もないし、無駄になるでしょ」
深いため息の後に落ちた視線に目を瞬いて、それってと言葉をつなげる。
『いく場所があれば欲しいってこと?じゃあ俺と遊び行くときはそうしようよ!』
「え?ちょっと、そうは言ってな、」
『志保ちゃんは何がいいかなぁ〜』
口元を緩めたところで扉が開いて、中から明美ちゃんが出てくる。
さっき俺と志保ちゃんとで選んだワンピースの裾を揺らしてる明美ちゃんはどうかなと笑っていて、志保ちゃんがべた褒めた。
その間に洋服を集めてアクセサリーを吟味して、明美ちゃんの着ていたのと同じワンピースとそれに合いそうな小物や上着を集めたところでレジに向かった。
『これください!』
「ありがとうございまーす」
間延びした喋り方の店員さんは受け取るなり全部確認して計算をしていく。お願いして袋を2つに分けてもらって、両手に紙袋を受け取ったところでため息が後ろから聞こえた。
「貴方また勝手に買ったの…?」
「パリくんったら…勝手に買っちゃだめって言ったでしょ?」
『そうだっけ?覚えてないや』
「自分に都合のいいところだけ忘れる便利な脳みそね」
『えへへ』
店内で騒ぐのも申し訳ないからお店を出て、他に見たいお店はないと首を横に振られたから車に戻る。荷物は一度トランクに入れて、帰り道を安全運転で帰っている最中に携帯が鳴ったから一度止まって降りた。
ちょうどよくサービスエリアだったから二人はお手洗いに立って、その間に携帯を確認する。
つい最近連絡先を交換したばかりのスーくんが、これから任務なんだけどバイクがエンストしてて、車が出せたりしないかなんて大変深刻そうな相談で、メッセージできてたそれに了承を返す。
道順的にこれから帰る予定だった場所のその先にいるようで、明美ちゃんと志保ちゃんを送った後の30分後に待ち合わせることにすればちょうど二人が帰ってきた。
目が合うなり明美ちゃんが心配そうに眉尻を下げる。
「パリくんお仕事?」
『んーん。俺は送迎係』
「あれ?珍しいね?」
『なんかスーくんのバイクがエンストしちゃったんだってー』
「スーくん?」
明美ちゃんの不思議そうな顔にあれと付け加える。
『大くんの同期の人!』
「大くんの?…もしかしてスコッチって人かな?」
『そうだよ!』
車に乗り込んでエンジンをかける。さっきと同じように二人が乗って、帰り道を走る。
サービスエリアからは大体二十分とかからずにたどり着いて、車を停めれば二人が降りたから俺も一度降りてトランクから荷物を取り出した。
『はい!明美ちゃん!』
「ありがとう、パリくん」
『それでこっちは志保ちゃんの分!』
「え、」
差し出せば志保ちゃんは目を丸くして固まる。
『今度遊び行くときに着てきてね!』
「…貴方、本気にしてたの?」
『楽しみにしてる!二人とも今日も時間くれてありがと!また行こうね!』
固まってる志保ちゃんの手にかけてあげて、車に乗り込む。時間と次向かう場所を確認していれば、志保ちゃんが助手席を開けた。
「全く…忙しない…。…これ、夜ご飯、抜かないように。後水分補給はしっかりしなさい」
『買ってきてくれてたの?!ありがと!』
「残したら許さないわ」
『うん!ちゃんと食べるね!』
さっきのサービスエリアで用意してくれていたのか、ちらっと見えるのはペットボトルの頭で隣に入ってるのは食べ物らしい。
助手席のシートに袋を置いた志保ちゃんは一度視線を落とす。その先の右腕にかかった紙袋を確認するような間のあとに体を起こして、ドアに手をかけた。
「………嬉しかったわ、ありがとう」
『…ん!今度着て見せてね!』
返事の代わりにドアが閉まる。志保ちゃんは明美ちゃんの隣に並んで、二人がゆるく手を振ってくれた。窓を開けて手を振って、挨拶を返してから走り出した。
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