DC 原作沿い


大型新人が三人も一気に来たから暇を持て余して仕方ない俺は、最近はもっぱらアイくんやキャンねぇとコルにぃ、カルにぃくんと遊びに行くか、部屋で寝ているかだった。

今日も部屋でゴロゴロとしていれば足音が聞こえてきて、扉が開く。すたすたとこちらまで来て寝転ぶ俺を見下ろした。

「パリジャン」

『んー?なぁに、ジンくん』

「ゴミの始末だ」

『ほんと??』

久々のそれに目を瞬けばジンくんは頷いて十分と告げて外に出ていく。扉がしまったから起き上がって、すぐに仕事用の洋服と眼鏡を身に着けて部屋を出た。

長い廊下を歩いて駐車場にたどり着く。運転席に寄りかかるようにして外でたばこを吸っていたジンくんは俺を目視するなりたばこを落として靴の裏で踏みつけて消火すると扉をあけて乗り込む。

助手席に乗り込んで、そうすれば必然的に後ろを見て首を傾げることになった。

『あれ?』

「こんばんは」

にこりと笑うのは先日顔を合わせたばかりの顎髭で、たしかスコッチくんだった。

彼が同乗していることがというよりは、第三者がいることが珍しくて目を瞬き、隣を見る。

『今日は一人じゃないんだね』

「メインはこいつ。パリジャン、お前は保険だ」

『うええ、俺また仕事できないのか…』

思わず肩を落とす。ジンくんは鼻で笑うと左手でたばこを咥えて、近くにあったライターを取り、火を灯した。

空気を吸い込みながら火がついたところでスイッチから手を放して、ライターを片付ける。

その間に煙を吸い込んでそのまま吐き出したジンくんによって車内が曇ったから噎せて窓を開けた。

『あー、もう、窓開けてってばー』

「めんどくせぇ」

『においつくじゃん』

「今更だろ」

『んんー』

この会社は喫煙者が多い。ベルねぇさんとカルにぃくんも吸うし、キャンねぇとカルにぃもたまに吸う。吸わないのは明美ちゃんと志保ちゃんくらいだ。

窓を開けて煙を外に追い出したところで後ろを見る。

『スコッチくんも窓開けていいんだからね』

「あ、ああ、」

何故か驚いた顔のスコッチくんはすぐに笑って、首を傾げる。

「パリジャンはジンと仲がいいんだな」

『ん!そうなの!俺みんなと仲いいんだよ!!』

仲がいいのは良いこととベルねぇさんが教えてくれたからそれを実行できていることに胸を張ればジンくんはたばこの煙をこちらにかけてきて、いつもどおり吸い込んでしまってまた噎せた。

『なんで??』

「無駄口叩いてんじゃねぇ。もうつくぞ」

『ういーす』

喉の奥の煙を咳で追い出して、どこか緊張した面持ちのスコッチくんを見つめる。

『応援してる!』

「ありがとう、頑張るよ」

一瞬翳った瞳におや?と思いつつ、車が止まったから降りる。

スコッチくんは本来クラッカーらしく、スナイパーも一応兼業しているくらいの立ち位置らしい。それなのに今回の後始末係を任命されるなんてだいぶ大変そうだ。

ジンくんは俺達を降ろして、終わったら連絡しろと残して走り去っていく。残された俺と、ギターケースを背負ったスコッチくんは顔を合わせた。

『俺フォローするよ!なにすればいい?』

「ああ。えっと、パリジャンは何が得意なんだ?」

『んー、』

初めて一緒に仕事をするのに認識のすり合わせは重要だ。

俺がどんな仕事をしてるのか聞いていないのかもしれないスコッチくんに、ななめ上を眺めて唸る。

『得意なことはそんなにないかなぁ』

「え…」

『でもできないこともそんなにないから、なんでも程よくできるみたいな?』

アイくんに器用貧乏もそこまで行くと才能だななんて昔言われた。才能は選ばれた人しか持っていないものだから、俺は記憶すら持ってないのにそれはないよと流した覚えがある。

スコッチくんを見れば目を見開いていて、とにかく驚いたようなその顔に目を瞬いた。

『スコッチくん?』

「…あ、ごめん。……教えてくれてありがとう」

ぎゅっと眉根を寄せて視線を落としたスコッチくんはどうにも様子がおかしい。

なにか言ったほうがいいのか、口を開こうとしたところでスコッチくんは表情を戻して俺を見た。

「俺が撃つから、もし取り逃したときのために近くにいてもらえないかな」

『いーよ!』

頷いて、それじゃあ俺はあっちで準備すると狙撃スポットに向かったスコッチくんを見送って眼鏡に触れる。

現れたマークを数えてから歩き出す。

途中のコンビニでアイスを買って、口に含む。

スコッチくんの狙撃の腕がどのくらいなのかは知らないけど、普段は三人で組んでいてクラッカーメインなら万一に備えておくのは大切だ。

マークの位置を確認しつつ、携帯で今回の任務の概要を確認する。今回の相手は任務に失敗した人間の始末。愚連隊上がりの人間には重かったらしい任務に、盛大にミスって、警察に情報が吐かれる前に消してしまえということらしい。

逃亡中のそれは組織の情報通りの建物にいるらしく、建物の出入り口に近いところで待機する。

今回のこれは、処分でいいだろう。

ぴっと音がして、声が吹き込まれた。

「準備完了」

『んー』

食べかけのモナカアイスを囓りつつ、いつ狙撃するのかなとぼーっと待つ。

ターゲットの口論のような大きな声が響いてる。俺達が消さなくてもそのうち騒音被害とかで隣人に殺されそうな騒がしさに、モナカを食して、チュンっと音がした。

パキリとガラスの割れる音、それから短い悲鳴。ひどい足音が響きながら扉が開いた。

「っ!もう一人いた!パリジャン!!」

『ん』

インカムから聞こえる慌てた声。扉から転がり出るように現れたのはターゲットの男の友達。もう一つのマークの持ち主は俺を見ると邪魔だ!と叫んで、アイスを咥えたままポケットから仕事道具を取り出した。

「は、」

小さく、破裂音が響く。無事に開いた額の穴にさっさと道具をしまって、倒れたそれを掴んで開けたままの扉か屋の中に引きずり込んだ。靴を脱がずに中に入って、もう一つ倒れてるそれを踏まないように進み、窓に近寄りカーテンを開けた。

「パリジャン…」

『んー』

食べかけのモナカを全部飲み込んで、手を振る。

『もう一人もオッケーだよ!』

「あ、うん、ありがとう…」

引き攣った顔をしてそうな声が返ってくる。大方一人取り逃したことを気にしているんだろうその空気に窓から離れて部屋を出た。

『お疲れ様!とりあえず合流しようよ!』

「ああ、そうだね」

『俺そっち行くー。近くのコンビニしゅーごーね!』

転がっているものを踏まないように超えて、一度あたりを見渡す。なにも落としてないことを確認して最後に扉を足で閉めた。

来た道を戻ってさっきアイスを買ったコンビニに戻れば前にはスコッチくんがいて別れたときと同じようにギターケースを背負って立ってた。

『お疲れ様ー』

「お疲れ様」

口元を緩めてこちらを見たスコッチくんはそのへんを歩いている一般人と見分けがつかない。

「パリジャンがいると安心感がすごいね。フォローしてくれて助かったよ」

日本では黒髪黒目がやっぱり溶け込みやすいなとじっと見つめていればスコッチくんは目を瞬いた。

「パリジャン?」

『……………』

「おーい、どうした?大丈夫か?」

返事のない俺の目の前で手を左右に振って、どうしたと聞かれる。少しだけ甘くて優しい声は不思議と耳馴染みが良くて、俺も瞬きをして首を傾げる。

『スコッチくんってボイストレーニングとかしてた?』

「え?」

『声優とかナレーターとか?』

「どういうこと?」

『んー、』

スコッチくんの声は聞いたことがある。どこでかまでわからないのが気持ち悪いけど、この声はずっと聞いていたいなと思って首を横に振った。

『なんでもない』

「ええ…?すごく気になるんだけど…」

『たぶん気のせい』

「なにが?」

『んーん〜、』

悩んでも出てこない。諦めて顔を上げ笑う。

『疲れた!帰ろ!』

「え、うん」

『ジンくんに電話〜』

スコッチくんが驚いてる間に携帯を出してすぐに耳にあてる。呼び出した2コールで音が途切れた。

「終わったか」

『うん!ばっちり!』

「スコッチはどうだ」

『もっちろん!スコッチくんのお仕事完璧だったよ!』

「…そうか」

『ジンくん今どこー?』

「迎えが行くから待っていろ」

『あれ?ジンくんじゃないの?わかったー』

ぷつんと切れた音に隣を見る。

『ジンくんじゃないんだって!』

「聞こえてた。連絡ありがとう」

『んーん!大丈夫!』

あたりを見渡して近くのベンチに座る。スコッチくんもついてきて横に立つと俺を見据えた。

「隣座ってもいいかな?」

『うん!』

わざわざ聞かなくてもいいのに丁寧に許可を取ったスコッチくんが並ぶ。肩から下ろしたケースは添えるように立てかけて、スコッチくんは空を仰いだ。

「さっきも言ったけど、パリジャンのおかげですごく助かったよ。俺の仕事なのにごめんね」

『んーん!今回はフォローするのが俺の仕事だったから!スコッチくんすごかったね!あんな距離から撃てちゃうんだもん!』

「俺はまだまだだよ。ライなんてもっと遠くから撃つよ?」

『へー!ライくんと仕事するのが楽しみ!』

「予定があるの?」

『ない!』

「…ははっ、そうなんだ」

一瞬固まって笑ったスコッチくんは目尻が下がっていて楽しそうだ。笑うことで幼く見える表情に視界がぶれた気がして、眼鏡を外し、目元を押さえた。

「パリジャン?どうしたの?」

『ちょっと、目…ヘン…?』

「目が?ゴミとか入った?」

『違うと思う、痛くないし…』

そっと手を放して、顔を上げる。様子を見るためか近づいてたスコッチくんは思ったよりも近いところにいて、見上げた表情がぶれてないから眼鏡をかけ直そうとして止める。

『治ったみたい』

「本当に?違和感は残ってない?」

『ん、たぶん…?』

心底心配してくれてる様子のスコッチくんに頷いて、顔を見つめる。

『ねぇ、スコッチくん』

「うん?」

『変なこと聞くかもしれないんだけど、スコッチくんって俺と…』

ぱぱっとクラクションの音が響いて顔を上げる。入ってきたのは深い紅色の車で、見覚えのある車だったからすぐに立ち上がった。ちょうど降りてきたカルにぃくんに走り寄る。

『お迎えカルにぃくんなんだね!』

「おー。お疲れさん」

『お疲れ様ー!』

飛びついたところでわしゃわしゃと頭が撫でられて笑みが溢れる。手が離れてほら、と扉が開けられたから後部座席に乗り込んだ。席においてあった箱を取れば、カルにぃくんは煙草に火をつけた。

「サンドイッチ。どーせ飯食ってねぇんだろ」

『よくわかったね!ありがとー!』

迎えに来てくれる途中で買っておいてくれたのだろう箱を開く。大きめのバケットに野菜が挟まれたそれに目を輝かせて、口を開いてかぶりついた。

「うめーか?」

『ん!!』

「そうか」

緩んでる表情にカルにぃくんも嬉しそうで、もぐもぐと食べていればそっとスコッチくんが近寄ってカルにぃくんにこんばんはと挨拶した。

「初めまして、スコッチだ。よろしくね」

「おー、噂は聞いてる。とりあえず乗れ、帰んぞ」

「えっと、」

「荷物は前置いてパリジャンの横座れ」

「はい」

煙草を踏んで消したカルにぃくんは服を軽くはたいて車に乗り込む。スコッチくんも言われたとおり助手席にケースを置くと俺の反対側の席に座った。

「パリジャン、寄りてーところは?」

『んーん!ない!』

「ならまっすぐ帰るぞ」

ぬっと動き始めた車にスコッチくんはどこか緊張した面持ちでカルにぃくんを見てる。

サンドイッチを半分減らしたところで口を拭いて、スコッチくんの服を引いた。

『スコッチくん、スコッチくん』

「ん?なぁに?」

『お腹空いてる?』

「え?普通だけど…もしかして食べきれないの?」

『うん!お腹いっぱい!だから一緒に食べよ!』

「………」

一瞬目を見開いたスコッチくんは口角を上げてしょうがないなとやさしく俺の頭を撫でてサンドイッチを支えるように受け取った。

「好き嫌いで食べないんじゃないなら今回だけはいいよ」

『ありがとー。スーくんいい人だね!』

「、スーくん?」

『あれ?いや?』

「嫌ではないけど…いきなりでびっくりした?」

『じゃあ慣れてね!』

スコッチくんって長くて呼びづらいからと補足すれば頷いてサンドイッチをかじる。

「ん、おいしい」

『でしょー!カルにぃくんの用意してくれるものに外れはないんだよ!』

「そうなんだ…、あ、カルバドス、いただきます」

「おー」

カルにぃくんは特に怒ってる様子もなく運転してる。そっと見た外の景色から後一時間くらいで帰れるだろうなとぼーっとして、それから目元を押さえる。

さっきの目のブレはなんだったんだろう。

久々の仕事で気が高ぶってたのかもしれない。あまりに続くようであればアイくんにでも相談したほうがいいだろう。

手を放して横を見る。

スーくんはサンドイッチを食べながら、このドレッシング隠し味はなんだろうと呟いて、最後の一口を頬張った。



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