DC 原作沿い

ぐてーとテーブルに突っ伏して船を漕ぐ。ここ最近の俺は暇人を謳歌していて、気のせいじゃなく帰ってきたあたりから仕事が減ってる。

アイくんいわく、組織入から約一年ちょっとでコードネームをもらった有望株が三人ほどいて、その面々の力試しも兼ねてそっちに仕事が割り振られてるらしい。

その三人がヘマをしたら俺の仕事ができるそうだけど、中々に優秀だそうでたいへん時間を持て余してた。

キャンねぇとコルにぃは基本ペアでお仕事だし、狙撃手がもっと必要なときはそこにカルにぃくんも駆り出されてしまって更に暇になる。

ベルねぇさんとジンくんは新人教育担当らしくてウォくんはその補佐。

キューちゃんとキーちゃんの連絡先をもらって、もっと遊べるようにしようかなと思ったところで扉が開いた。

顔を上げるよりも早く押し当てられた冷たいそれに唸る。

『つめてー…』

「随分とつまらなそうだな」

『ひまー。ねージンくん、遊び行こー』

「行かねぇ」

銃をおろして代わりにタバコを咥えたジンくんを横目に体を起こす。目元をこすればジンくんの横にウォくんがいて、首を傾げる。

『ウォくんは遊び行ける?』

「うえ、…ほんと、勘弁してください…」

何故か怖いものを見たみたいに肩をはねさせたウォくんの返事はつれない。

もう一回声をかけようとしたところでぐっと頭が押さえられて上を向く。見上げた瞬間にジンくんに煙を吹きかけられて盛大に噎せた。

『んん、いじわるしないでよーもー』

「目は覚めたか」

『ういーす』

まだ喉に残っている気がする煙を咳で追い出して、そうすればジンくんがくいっと顎を動かして向こうを見た。

「おい、顔合わせだ」

『顔合わせ?』

ずっとそこに待機してた気配の方に振り向く。

立っていた三人の男性はそれぞれ俺を見ると目を丸くしたり細めたりして、とりあえず見覚えのない顔にジンくんの服を引いた。

『ジンくん。みんなだれ?』

「左からバーボン、スコッチ、ライ。覚えておけ」

『んー、ばーぼん、すこっち、らい…』

あいにくと酒の種類には明るくない俺じゃ聞いただけではなんの酒かわからず、カクテルの類なのかも不明だ。

とりあえず復唱して一人ずつ見据える。

金髪褐色肌のタレ目。ほどよい短髪黒髪、あごひげ。黒髪ロン毛、ニット帽。

はて、と、最後の一人の顔に首を傾げる。

『んー、』

「どうしました?」

『んー、…んーん。なんでもないー…』

「パリジャンさん、一応役割分担を説明させてもらいますね」

『ウォくんありがとー!』

見覚えがあった気がするのは気のせいだろうか。たしかライと呼ばれてたはずのその人に不思議に思いながらウォくんの話を聞く。

諜報担当のバーボンくんこと安室透くんに、狙撃手のスコッチこと緑川唯と同じく狙撃手のライこと諸星大。

やっぱり最後の名前に首を傾げて立ち上がり、近寄る。

『んー?』

「どうした」

ジンくんが空気をぴりっとさせる。その瞬間に横の二人が気配を固くしたからわざとぽんっと手を叩いた。

『大くんだ!』

「あ?」

『あれでしょ、ライくんって明美ちゃんの彼氏さん!』

「あ、ああ、」

『なるほどー!すっきりしたー!』

笑ってそのまま三歩離れる。後ろのジンくんはそんなことかと興味を失ったみたいにタバコを吸って、横の二人は眉根を寄せてる。

へらっとした笑顔を浮かべた。

『俺はパリジャン。基本的にはここにいるから気が向いたら遊びに来てねー!』

「…パリジャン、ベルモットとジンをクレーム・ド・カシスと混ぜて作るカクテルか」

『そう!ジンくんとベルねぇさんが考えてくれた名前なんだー!いいでしょー!』

ライくんの言葉に大きく頷く。酒は詳しくないけど、俺の名前の由来はちゃんと教えてもらって覚えた。

「諸星大。ライと呼んでくれ」

『ライくんよろしくねー!』

差し出された右手を繋いで握る。大きな手はタコがあって、コルにぃにもあるやつと一緒だろう。

手を離してから横を見る。二人は一瞬目を合わせてから先にあごひげのスコッチくんが手を出した。

「俺は緑川唯。スコッチだ。仲良くしようね」

『するー!』

きゅっと手をとって繋いで離す。同じようにすっと差し出されたその隣の手を取った。

「安室透です。バーボンのコードネームをいただいてます。パリジャンさん、お噂はかねがね」

『俺の噂?』

「なんでも組織史上最短の半年でコードネームをもらったとか」

『俺って最短なの?』

「ええ、最短でしたよ」

『へー!そうなんだー!俺すごい!!』

「はい。みんなで祝ったのが懐かしいですね」

『あれ?俺の誕生日会ってそういうことだったの??』

「肝心なところは覚えてなかったんですね、パリジャンさん…」

ウォくんがつかれた表情をするから記憶を探る。たしかにあの日、俺の名前をつけてくれたときにみんなで誕生日パーティーをしたけど、あれが最短記録のお祝いでもあったかどうかは定かじゃない。

「おや、誕生日にコードネームを貰ったんですか?」

『うんん、コードネームをもらったから誕生日なんだよ!』

「もらったから誕生日…?」

ぱちぱちと目を瞬くスコッチくんや不思議そうなライくん、バーボンくんにあれ?とウォくんを見る。ウォくんがまだ言ってなかったみたいですねと返したからなるほどと頷いた。

『俺、記憶喪失ってやつでここ五年くらいの記憶しかないんだー』

「は、」

「え、」

『よくわかんないけど死にそうな俺をジンくんが助けてくれて元気になって、それで任務いっぱいして名前がもらえたから、その日に俺は生まれたの!』

「そうなのか」

ライくんがあっさりと受け入れる。二人は驚きからか目を丸くして固まっていて、まぁ記憶喪失ってあんまりないよねと頭を掻いた。

『記憶がないから昔の流行りとかのことだとちょっと話すの難しいけど、今の俺のことならいっぱい話せるから、仲良くしてね!』

三人の新人さんはそれぞれ頷いてくれて、今日からは退屈しないで済みそうだ。




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