DC 原作沿い
「起きろ」
べしっと脳天が叩かれて痛みに呻く。目を開けると真っ暗で、ぼーっとしていればまた頭が叩かれた。
「寝ぼけてんじゃねぇ」
『ういーす』
ゆっくり離れて体を起こす。どれくらい先に起きてたのか、すっかり目が覚めてるらしいジンくんに対して、急に起きた俺はあくびが止まらない。
目元を擦っていればジンくんはさっさと服を着替えてタバコに火をつける。朝から煙を摂取するなんて不健康だ。ジンくんの死因が肺癌とかだったらどうしよう。
『部屋に臭いつくー』
「うるせぇ」
顔に煙が吹きかけられて寝起きに勢い良く吸い込んでしまったから噎せる。仕方なくベッドから降りて空調を強めつつ、窓を開けて換気を始めた。
どうせ起き上がったしとそのまま身支度を始める。歯を洗って、顔を洗って、着替えを終わらせたところでソファーに座ったまま、また火をつけたタバコを咥えてるジンくんに声をかける。
『ジンくん、お疲れだったんだね』
「あ?」
『俺が入ってきても全然起きないから驚いたよー。仕事詰めすぎじゃない?』
「…………詰めてねぇ」
珍しくちょっと言葉が出てくるのに時間がかかったジンくんはつけたばかりのタバコの火を消して俺を見た。
「来い」
『んー?』
近寄って、ジンくんが座るのは一人がけのソファーでスペースがないからそのまま床に座る。見上げればジンくんは眉根を寄せたまま俺の髪に触れた。
「………………」
『……ジンくん?』
じっと見てくるだけで何も言わない。眉根は寄ってるけど不機嫌ではなさそう。不思議な状況に目を瞬いていれば手が離れた。
「…土産」
『もちろんあるよ!!』
ふいっと視線が逸らされて新しいタバコに火をつけたジンくんに昨日置いたスーツケースを開けて買ってきたものを取り出す。
『はい!』
「……………」
差し出したそれをジンくんは目視すると口角を上げて、タバコを持ってない右手でこめかみあたりから髪を梳くように後ろに撫で付けて押さえた。
晒された耳に近づくためジンくんの右側に立ってソファーの肘置きに座り、お土産を開けてバックピンを外す。
安定しきってる穴にしっかり針を入れて、反対側にバックピンを通して留めれば手が離れ髪が落ちてきた。
『とっても似合ってるよ、ジンくん』
「そうか」
通した赤色は髪が風で揺れれば顔を覗かせるはずで、ジンくんの銀髪に映えるに違いない。
すっかりごきげんなジンくんの右腕が俺の腰に回される。
身支度をしながら確認した携帯にはウオくんから俺とジンくんの今日の予定が来ていたし、問題はないだろうけど一応確認のため口を開いた。
『ジンくん今日はお仕事?』
肘置きに座ってるから俺のが目線が高い。向こう側を見ながらタバコを吸ってたジンくんはゆっくり顔を上げると煙を吐いた。また勢い良く噎せてしまって、涙が浮かぶ。ジンくんは楽しそうに笑ってていじめっ子らしい表情だ。
「野暮な男はモテねぇぞ、パリジャン」
『んん、難しい…』
怒られてしまって、悩みながら両腕を伸ばす。少しだけ低い位置にあるジンくんの肩に乗せるように腕を回して覗き込んだ。
『ジンくん、今日一日俺に時間くれる?』
首を傾げればジンくんは呆れたみたいに眉と目の間の筋肉を弛緩させて、次には楽しそうに笑いながら左手を俺の後頭部に伸ばした。
「こっちは一年待たされてんだ。一日で済むと思うなよ」
開いた口から赤色の舌が覗いて、ばくりと唇が食べられる。触れた舌からは苦いタバコの味がして、やっぱりタバコは好きじゃないからジンくんには禁煙を勧めようと思った。
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