DC 原作沿い


「もうつくわよ、起きなさい、わんちゃん」

髪が撫でられて優しい声が聞こえるから目を開ける。ちゅっと短い音がして顔が離れていくから口元を緩めた。

『おはよー、ベルねぇさん』

「おはよう」

目元を擦りながら起き上がれば外はいつの景色はいつの間にか止まっていて、一年ぶりの見慣れた駐車場だった。

降りて、大きく伸びる。

「よく眠れた?」

『ん!』

それはよかったとベルねぇさんが嬉しそうに笑って、運転席からカルバドスくんが降りてくる。カルバドスくんはじっと俺を見て眉根を寄せるからまた首を傾げて、聞こえた扉を開ける音に視線を向けた。

「お、帰ってきたな」

『アイくん!』

ほれと広げられた両腕に迷わず飛び込む。おーよしよしなんて頭が撫でられて頬を緩めれば笑い声が転がった。

「そうやって見ていると貴方達親子みたいね」

「勘弁してくれ」

『アイくんがお父さんならお母さんは誰ー?』

「誰でも貴方の好きな人を選べばいいと思うわ」

手を止めてげんなりとした顔をするアイくんに、ベルねぇさんがふふっと笑って指先を奥に向ける。

「ほら、わんちゃん。中に入って他のみんなにも挨拶していらっしゃい」

『はーい』

最後にもう一度アイくんに擦り寄って頭をなでてもらってから離れた。

『中誰いる?』

「大体いんぞ」

『じゃあお土産も渡せるね!アイくんの分もあるんだよ!』

「食いもんか?」

『うん!』

「なら後で食おうな」

『ん!』

ぽんぽんと頭が撫でられ大きく頷く。荷物を取って久しぶりの道を走っていき時折すれ違う顔見知りの構成員には挨拶をして、それから、認証でロックを解いて扉を開けた。

『ただいまー!』

「やっと帰ってきたね!おかえりー!」

「おかえり」

会議の時くらいしか使わない大きく広い部屋の中。手遊びしてたのか持っていた銃を置いてキャンねぇとコルにぃがすぐに挨拶を返してくれる。

「一人でやりきってえらかったじゃん!」

『んー!おれえらーい!』

「いいこ」

キャンねぇが俺のこめかみのあたりからを手を差し込んでわしゃわしゃと髪を撫で、コルにぃがぽすぽすと頭頂部に手を置く。

もみくしゃになってるだろう髪の毛にまぁいいかと思いつつ、お土産を渡して、視線に顔を上げれば目が合うなり眉根を寄せられた。

「おかえりなさい」

『ただいまー!』

任務中にご飯を作ってくれるくらいには仲良くなったキューちゃんはじっと俺の顔を見たあとにもう用は済んだのか部屋を出ていく。わざわざ挨拶のためにいてくれたのだろうキューちゃんはいい子だなと思いつつ、すっと立ち上がった影に目を向ける。

「長期任務、お疲れ様でした」

『ありがとー!』

ウオくんが会釈してくれて笑顔を返す。ウオくんの隣にいつもいるジンくんは見当たらず、仕事中なのかもしれない。

まずは今居る人にとお土産を配っていく。

ウオくんにジンくんのをまとめて渡そうとすれば慌てて首と手を横に振られた。

「うえ、ちょ、勘弁してください」

『??』

困ったような顔のウオくんに目を瞬けばため息が聞こえて、肩に手を置かれた。

「それは一回部屋に持って帰って、あとで渡してやれ」

『ん?うん、わかったー』

アイくんの言葉にウオくんがほっとして息を吐く。不思議な二人に俺の居ない間にウオくんとジンくんは喧嘩でもしたのかなと目を瞬いて、首を傾げた。

「パリジャン」

聞こえた声に顔を上げる。さっき出ていったはずのキューちゃんが扉のところにいて、近寄れば目の前に皿が差し出された。

『おにぎり!』

「さっさと食べて寝なさい。明日から忙しいんだし、食事を抜くのは許さないわ」

『ありがとー!』

お皿に乗ったラップに包まれたおにぎりは小さめですぐに食べきれそうだ。三種類のおにぎりは鮭とごまの混ぜ込み。それから刻んだこんぶ、最後はおかかと醤油の混ぜ込みらしくおかかから食べる。

『おいしい!』

「そう。…残さず食べきるのよ」

ふいっと顔を逸して部屋を出ていったキューちゃんにおにぎりをもぐもぐと食べて、ふたつ目のこんぶを半分食べたところでだいぶ苦しい。

『んん、アイくん』

「お前、余計少食になってねぇか?」

『飛行機の中でご飯食べたんだもん。半分こー』

「へーへー」

こんぶを渡して、鮭おにぎりも半分腹に収めてアイくんにあげる。実質ふたつ分を食したところでコルにぃがお茶をくれた。

『ごちそうさまでしたー!』

「ちゃんと食べきれたじゃん。よしよし」

キャンねぇに褒められて満足感に包まれ、歯を磨いて寝るようにとアイくんに伝えられたところで歩き出す。

部屋を出るところでウオくんが申し訳なさそうに俺に頭を下げるから不思議に思いつつ自室に向かった。

今日会えなかった志保ちゃんや明美ちゃんたちのぶんのお土産が入ったカートを引きながら歩く。荷物が重たい。

研究所にいる志保ちゃんや、学生の明美ちゃんとは違い、仕事でいつ帰ってくるかわからないジンくんのお土産はどうしたものか。

一年ぶりの自室の扉を開ける。

記憶とあまり変わらないこざっぱりとした部屋の中に進んで、カートを置し、出てきたあくびに目元を擦りながらベッドに向かう。

寝室に続く扉をあけて、目を瞬く。

『ジンくん?』

ベッドの上で眠る銀色の長髪に首を傾げた。声を出しても起きないジンくんに部屋の照明を落としてからベッドに近寄る。

すやすや眠るジンくんに珍しいこともあるもんだなと思うけど、仕事終わりで忙しかったから疲れてたとかかなと着ていたパーカーをを脱いで自分にかける。

丸まって横向きに眠るジンくんにくっつけば少しだけ身じろいで、まぶたが上がった。

「…パリジャン」

『起こしちゃった?ごめんねー、ただいま、ジンくん』

「…ん」

またまぶたがおりて、右手が上がる。できた隙間に潜り込んでくっつけば、すっかり嗅ぎなれたジンくんの香水の薫りに包まれた。

顔を上げるまでもなくもう眠ってるらしいジンくんに話しかけるのは止めて俺も目を瞑る。

お土産を渡すのは起きてからにしよう。


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