DC 原作沿い
のんべんだらりと任務をこなしつつ適度な休息を取ってすごしていたのに、来月からマレーシアに行けと言われて、ぽかんとしてしまったのは仕方ないことだった。
何でも海外拠点に不穏な動きがあるそうで、その種を摘みつつ、遊んで来いとのこと。
一緒にキューちゃんとキャンねぇ、コルにぃが来てくれるらしく、キューちゃんは死ぬほど嫌そうな顔をしてた。
みんなは仕事道具やらなにやらの準備に忙しそうだけど、あいにくと俺はこの身一つで海を渡っても困らないからやることがなく、新人の大量雇用をしたらしい日本支部はばたばたで俺はとても暇だった。
今日も今日とて、大変暇なので自室でうとうとしていると扉が開く。
「ひまじーん」
『んー?』
振り返った先のアイくんはにぃっと歯を見せて笑っていて、首を傾げればこれなーんだと髪が揺らされる。
『んん、チケットー?』
「おうよ。ピスコがくれんだ。スポンサーの遊園地なんだと。お前飛ぶの明後日だろ?付き合えや」
『うん!』
遊園地なんて楽しみすぎて一気に眠気が吹き飛び起き上がる。上着を羽織ってアイくんのバイクにまたがり、かっ飛ばしてもらう。昼前にはたどりついたそこは平日だけど人でそこそこ賑わっていて、目を輝かせた。
『遊園地…!』
「どんどん回んぞー」
『何から乗るの!!?』
「あっちからグルってまわってくぞ」
アイくんの先導を元に順番にアトラクションに乗り、時折売っている物を買って食す。何種類もあるから一口二口食べて、あとは全部アイくんにお願いし、気づけば最後のアトラクションになってた。
『最後は観覧車だね!』
「観覧車って野郎二人でかよ」
『え?だめなの??』
「あー、俺はパス。乗りてえなら一人で乗ってこい。そこでチュロス食ってる」
『ういーす』
フリーパスをお姉さんに見せて一人で観覧車に乗りこむ。徐々に上がっていく景色に目を丸くして、写真を撮って、アイくんに送った。
観覧車がまだ頂上まで半分ほどのところで何やら下が騒がしくなって、覗き込む。出入り口のところに大量のスーツ姿の人がいて首を傾げる。
『なんかの撮影…?』
ぱちぱちと瞬きしていると観覧車の周りからスーツ姿の人たち以外はどんどん逃げるように距離を取っていって、何かがおかしいと首を傾げたところで携帯が揺れた。
着信相手はアイくんで、携帯を耳に当てる。
『もしもし?ねーねー。下なんかすごくない??』
「流石に気づいてたか」
『うん、だってすごくうるさいもん』
「よく聞け、パリジャン。その観覧車には爆弾が仕掛けられてる」
『ふぁ??』
「今おまわりの一人が該当の機体に乗ってて、お前の7つ後の赤色の機体だ。いつ爆発すんのかは知らねえが、爆発したらただじゃ済まねえ。パリジャン、出られるか」
『んー、できないことはないと思うけど、こっから出て逃げようとしたらむっちゃ怪しくない??』
「出られるかだけ分かれば十分だ。爆発の規模によっちゃあ死なねぇ可能性もあるし、目撃者消しゃあこっちのもんだろ」
『たしかに』
「とりあえず電話はこのまま、何かあったらすぐ連絡取れるように。非常口の確認しとけ」
『はーい』
携帯を持ってるストラップで右腕に巻きつけてベルトで固定する。そのまま非常口の場所と、開くかどうかを確認して、それから扉を開けた。
頂上まで行っていない今がチャンスだろう。人目につかない場所といえば上しかなく、とりあえず非常口から降りて、合間の柱につかまりながら降りはじめた。
『一個隣に移動ー』
「順調そうだな」
『結構作りしっかりしてるし、安心設計って感じ。…と、二つ目到着ー』
足の裏が屋根を踏みしめる。下の警察は俺に気づいてないのか騒がれることもなくて、三つ目に移る。
ちらっと確認した腕時計の時刻はぴったりにするにはまだ少しずれいて、犯人がどんなやつかは知らないけどタイマーがついてるタイプなら八割方ピッタリの時間があやしい。
時間を測りつつ、降りて、それからまた降りて、とりあえず六つ目まで降りて、ねえアイくんと声をかける。
「なんだ」
『俺いま気づいたんだけとさー』
高度を下げつつ、目立たないように上に乗れる場所を選んだ。時計回りに回転する観覧車を下がってる順に降りていくなら、必然手に反時計回りで動く訳だ。
『これ、爆弾ある観覧車の上通らないといけなくない??』
「はあ???なんでそっち回りで動いてんだぁ???」
『えへへ、ミスっちゃった』
よっと足を伸ばして、着地。少し揺れた機体だけど大丈夫だろう。そのままいそいそともう一個隣に着地して、そうすればばんっと窓ガラスを叩く音がした。
振り返ると観覧車の機体の中にいたスーツマンがガラスを叩いたところらしく、サングラスにスーツなんて随分と強面の警察もいたものだ。
まぁ危ないとかそんな感じで怒られてるんだろうから無視して、もう一個下に降りる。がんっともう一回音がして顔を上げればたぶんサングラス越しに目があった。
「待てやゴラ!!!」
『ええ?むっちゃ怒ってる。こわー』
「怒鳴り声下まで聞こえてんぞ」
『なんかすごい怒ってる。こわいしすぐ降りるねー』
「おー、そ〜しろ」
「おい!待て!っくそ!なんでこんなとこすいすい降りれんだよ!相変わらず猿みてぇなやつだな!!」
ドスの聞いた声と言葉遣いは警察というよりヤクザっぽい。斜め上から聞こる怒鳴り声を無視して降りていく。下の喧騒はどうやら上の人の声に気づいた人たちのどよめきらしく、俺も目視されてしまってるだろう。
「逃げんじゃねぇ!!」
『んー、アイくん。どうにかして視線そらせない??』
「はあ。無茶いいやがって…ちっと待て」
目を凝らすとアイくんは右手に相棒を構えた。俺よりもずっと上に構えたアイくんは息を吸う。
「生きてんなら顔見せろや!!」
「3」
『うええ、まさか、』
「2」
『アイくん無茶振り激しい!!』
「1」
「待てっつってんのが聞こえねえのか!!」
チュンっと音がした。サイレンサーつきの仄かな音の後に風が通り、かんっと何か硬い鉄製のものにぶつかる。
その瞬間に上から大きな破裂音と風が吹いて、最近もこんなことあったなと思いつつ飛び降りた。
「ぐっ」
俺とは違う方向に飛ばされたその人が視界に入る。爆風で飛ばされたサングラスが隠してた青色の瞳が俺を見つめて手が伸ばされる。
「はな、」
きゃーという誰かの叫び声。落ちてくるぞ!というのは俺達のことか、それとも爆破の勢いに堪えられず今にももげそうな機体のことか。
「パリジャン!」
腕の携帯から聞こえたアイくんの声に顔を上げて、勢いを殺すように転がって着地し、そのまま走り出す。人目を避けるように、それら警察の包囲網を掻い潜って、アイくん合流しアイくんが用意してくれてた服に走りながら着替えてフードを被った。
「全く無茶すんなぁ、お前」
『だっしゅつせいこー』
「おー。よくやった」
フード上から頭ががしがし撫でられる。うへへと笑いながら二人でバイクに飛び乗り走り出した。
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