DC 原作沿い
「わんちゃん」
『あ、ベルねぇさんー。お疲れ様ぁ』
出入り口のところで会ったベルねぇさんは片手に紙袋を下げてる。紙袋は分厚くしっかりとした紙で、表面がデコボコしてて、模様が入ってる。
「わんちゃんにお土産」
『いいの??』
「ええ、もちろん。この間の香水のお礼よ」
俺の買った香水とベルねぇさんのお土産は、丸の数が違うような気もするけど喜んで受けとる。鍵を開けて扉を押えればベルねぇさんは中に進んで、ソファに腰掛けた。俺も床に座って見上げる。
「聞いたわ?」
『んー?なにを?』
「この間デートしてきたんですってね?」
『デート…?』
「宮野姉妹よ」
『あ!うん!行ってきたよ!』
「ふふ。その様子だと楽しかったみたいね。良かったわ」
ぽんぽんと髪が撫でられて頬を緩めながら目を瞑る。
つい先日、約束したその次の日には外出許可を取り付けて、三日後に三人でもう一度フラワーパークに行って遊んできた。たくさん撮った写真は保管しているから後でベルねぇさんにも見せてあげよう。
「みんなと仲良くできていい子ね」
『俺いい子〜!』
「そうね。…あまりみんなと仲が良すぎて、一人物騒なくらいにいじけてる人もいるみたいだけど…」
『ん?』
ベルねぇさんの声音が下がったから目を開いて少し顔を上げる。ベルねぇさんは楽しそうに笑っていて、目を細めた。
『なんの話?』
「ふふ、なんの話かしらねぇ」
ベルねぇさんがわからないなら俺もわからないかと諦めてもう一度目を閉じる。ソファの座るところに頭を預けていればさらさらと細くて長い、きれいな指が優しく俺の髪を梳く。
「今度のお散歩はどこに行きたい?」
『んー?ベルねぇさんと一緒にいられるなら、俺はどこでも楽しいよ?』
「あら嬉しい。ありがとう」
ぽんぽんと最後に頭が撫でられて手が離れていく。
「それじゃあ私はこれからまた仕事だからまたね。いいこにしているのよ、私のわんちゃん」
『わん!』
立ち上がったベルねぇさんに俺も立って外のところまでついていき見送る。ベルねぇさんは忙しい人だから、俺の顔を合間を縫って見に来てくれたんだろう。
優先してくれたことに感謝と高揚を覚えながら来た道を戻って、部屋の前まで来たところで首を傾げた。
部屋の中に人の気配がする。ベルねぇさんはいまお見送りしたし、キャンねぇとコルにぃはフランス、明美ちゃんは学校、志保ちゃんは研究室からこっちに来るときは事前連絡をくれる。
気まぐれで遊びに連れて行ってくれるアイくんかなと扉を開ければすっと黒いものが持ち上げられて、額に押し当てられた。
ぐりぐりとされる銃口に目を瞬いて目の前を見つめる。
『?』
「………………」
あまりに押し付けられて、額に肉はそんなにないから骨にあたってごりごりとした音が頭の中に響く。
細められた目元と寄った眉間の皺。どうにも不機嫌らしいその様子に笑いを零す。
「…なにがおかしい」
『ん?このまま撃たれたら死んじゃうなって思って』
「……………」
『最期に見るのが不機嫌そうな顔のジンくんって、なんだか面白いよね』
「…………………イカレ野郎が」
『えー??』
どこに機嫌が直るポイントがあったのかはわからないけど、ジンくんは鼻を鳴らして銃を下ろした。それから銃をホルスターにしまって右手を伸ばすと俺の後ろの扉、鍵に指を引っ掛けて施錠する。
右手がそのまま俺の身が腕を取って引っ張るからついていってベッドに投げ出された。
転がった俺が顔を上げればジンくん越しに天井が見える。眉間の皺はすっかり消え失せていて、どうにも機嫌が良いジンくんに笑みを返す。
『ジンくん、明日はお仕事?』
「どっちだろうと関係ねえ」
『そっかー』
当人が気にしないなら俺が心配するのはお門違いってやつだろう。ジンくんが仕事をほっぽることはそんなにないし、最悪俺が代われば問題ない。
屈んで近づいた距離にジンくんの長い髪が頬に触れて、いつもこの瞬間はくすぐったいんだよなと思いつつ、目を閉じた。
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