イナイレ


シャンシャンと耳にはめたイヤホンから押すボタンにあわせて音が鳴る。

よし、あと少し。

画面にはパラメーターが満タンになりかけている。流れてくるものをタイミングよく消していき、あと7つでコンプリート。

シャンシャン、あと、一つ。そこで目の前から画面が消える。

『は?』

顔をあげるとそこには俺のPSPを左手に持った風丸がいた。

深い溜め息をつく風丸を見上げているとつけたままだったイヤホンから曲の終了した音が聴こえて、俺のオールパーフェクトが潰えた。

しかたなくイヤホンを外してもう一度息を吐く。鞄を肩にかけ直した風丸は眉根を寄せたまま、口を開いた。

「何時までゲームしてる気だ?」

『風丸…お前…それコンプリートすんのに1時間かけてたんだぞ』

今やっとそれが報われようとしてたんだぞ
あァ?

最後辺りの言葉は溢さずに睨み付ける。

「なんだよその睨み。お前、1日中下向いてゲームなんかしてるから根暗なんて言われるんだぞ?」

『言いたいやつは言わせとけ』

名簿順なせいで、もう二年も席が続いている俺と風丸は、風丸のお節介な性格が手伝ってか何かと交流が続いてる。

なんとも残念なことに陸上部のエース様であり、さらにはつい先日来た帝国中との再戦のために弱小サッカー部まで兼部してる風丸は忙しいくせして俺の世話をやめない。

飯は一緒に食わされるし、授業中にゲームは取り上げられるし、かと言って授業をサボれば次の時間はうるさい。

中学からはやっと口煩い保護者から離れて自由に過ごせると思っていたのにとんだ誤算だ。

息を吐いてPSPを取り返し、画面を覗き込もうとしたところで額が押された。

「ほら、もう放課後だぞ」

『…あっそォ』

呆れたように息を吐く風丸にゲームを始めるのを止めた。

イヤホンとゲームをポケットに入れて立ち上がる。置き勉派だから筆箱とファイルくらいしか入ってない軽い鞄を肩にかけた。

いつもと同じように風丸と教室を出て階段を降りる。特に会話もなく横に並んで歩き、今日はサッカー部に行くらしくグランドに向かう風丸と別れようとしたとき、大きな声が響いた。

「お、風丸!来栖!」

オレンジのバンダナは俺の得意じゃない相手で、それだけじゃなくどこか見覚えのあるやつら数人はサッカー部の面々が並んでる。運が悪く全員外に出るために玄関にいたらしい。

「よ!お疲れ!」

笑うサッカー部員たちは早くサッカーがしたくて仕方ないといった様子で会話を弾ませる。

不意に、いつの間にかサッカー部の一員になったらしい白いつんつんとした頭のやつが俺を見た。

「珍しいな、来栖がこんな時間にいるなんて」

サッカー部のやつらは仮にも二年同じ学校に通ってたから俺のことを知っているとして、いつの間にか転校してきてからさして経ってもないこいつが俺のことを知ってるのは何故か。俺は知らないのに。

「ああ、そうなんだよ。帰りもしないでずっとゲームしてたんだ、こいつ」

「はっ。そんなこったろうと思ったぜ」

困ったような顔の風丸に呆れ混じりの声色で返す周りに目をそらす。

「来栖はもう少し体を動かした方がいいんじゃないのか」

「体育の授業もよくというか基本いないからね」

うっせーなァ。
いいんだよ、体育以外で運動してんだから。

決して言葉は吐き出さずに唇を結う。そうすればお決まりのように肩に重みがきた。もう見なくてもわかるから目は向けない。

「サッカーやろうぜ!来栖!!」

『はぁ…』

なにが琴線に触れたのか、バンダナは暇さえあればその呪文を吐いて笑いかけてくる。手を払って、鞄を持ち直した。

『やだ。帰ってミ●クリアすんだっつーの』

「「ミ●?」」

首を傾げるサッカー馬鹿を放置して校門へと歩き出す。右手で電源をつけながら左手でイヤホンをつけようと取った。

「じゃ、また今度一緒にやろーなー!」

後ろから何か聞こえたが無視をしてイヤホンをつけた。

×

染 「つかよ、彼奴運動できんのか?」
豪 「どうなんだ?風丸?」
風 「体育にも出てないから知らないな」
半 「どう見てもオタク根暗だし」
目 「人間、誰しも得意分野と苦手分野がありますからねぇ」

豪 「ただの悪口じゃないか?」

円 「よーし!サッカーやろうぜ!」





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