DC 原作沿い
今回の任務は役に立たない下っ端の整理。裏切り者の抹消とかだと相手が逃げ惑って追いかけるのが面倒だけど、相手が末に近い下っ端ならそう力もないから片付けるのは楽だった。
整理完了と報告して、近くのデパートに足を運んでトイレに入るなり被っていた帽子を脱ぐ。ゆるくやわいニット帽とはいえ半日ほど仕舞い込んでいた髪は軽く跡がついてしまっていたから手ぐしでざっぱに整えて鏡を見ながら調整する。
伸びてきた髪は目元を越えて頬までかかろうとしていて、後ろ毛も肩を越えていて邪魔だから、放置してたけどそろそろ切ってもいいかもしれない。
つまんでた前髪を離して、被ってた帽子は丸めて鞄に詰め、携帯を確認してからトイレを出た。
迎えが来るまでの間時間を潰さないといけない。平日の夕方はそこそこ人で賑わっていて騒がしい。
仕事終わりなのかラフな格好の男性やスーツ姿の女性。放課後らしく遊ぶ小さな子どもや制服を着た学生。年齢層もばらばら通行人たちは各々が目的の店を覗いたりしていて、今も五人組の制服を着た、高校生くらいの男子たちがタピオカ片手にはしゃぎながら前を通っていった姿があまりの自由さと賑やかさの象徴で、むず痒くなった腹を擦る。
時折痛むのではなく痒くなる傷口は大体こういうところにいると存在を主張してくる。
こんなときは同じことをすると少しだけマシになるから、列に並んでタピオカを注文する。受け取った特徴的な蓋をされたカップの中にはたっぷりのミルクティーと黒色の粒が入っていて重たい。
さしてもらったストローでひと混ぜしてから吸い上げれば口の中に液体と固形物が一気に入り込んできた。
咀嚼して嚥下すれば少しむず痒さが落ち着く。
タピオカを噛んで、ミルクティーで流し込んで、ぼーっとしていれば大きな影が目の前に立った。
「待たせたな」
『待ってないよー』
「だろうな」
『アイくんも飲む?』
「いらねぇ」
『そっかー』
迎えに来てくれたのはアイくんで、車の鍵を指先でくるくる回したと思うと行くぞと進む。いつからかわからないけど座ってたベンチから立ち上がって追いかける。
身長が高く足も長いアイくんに置いていかれないよう早歩きで後ろについて、そうすればアイくんはまっすぐ車には向かわずにエスカレーターで階層を替えて、ちらっとこちらを見たと思えば俺の手の中からカップを抜き取った。
ストローに口をつけて一気に中身を吸い上げる。半分くらい入っていた液体は空になるなりずずっと音を響かせて、氷が入るだけの空っぽのカップをすぐ近くのゴミ箱に押し込むと同時にごっくんと大きく喉仏を動かしてタピオカを飲み込んだ。
「くそあめぇ」
『それねー』
「口直ししにいくぞ」
『ういーす』
甘さと冷たさで飲みきれずに荷物になってたタピオカが消えて、アイくんが並んだ列についていく。
アイくんがささっと注文を済ませて、窓口から渡されたそれを受け取り、一口頬張る。
焼き立てで温かい衣は外はカリッとしていて、中はほんのりふわふわしてる。中からあふれ出してきた大量の餡が熱くて思わず口を開けて息をし、涙を堪えながら噛んで飲み、アイくんを見た。
『甘いものの口直しが甘いのはなんで??』
「気分」
『ほへー』
たっぷりのあんこが入ったたい焼きに目を瞬いていれば息を吐いたアイくんが持ってた新しい他のたい焼きを手渡してきて、手の中からあんこ味のたい焼きが消える。
渡されたたい焼きを頬張れば今度は塩味と少しの辛味があふれ出して、目を丸くした。
『ピザ!』
「おー、ピザだなぁ」
『しょっぱい!これは口直しだ!』
「良かったな」
ほんのちょっと辛いピザソースとウインナーの入ったたい焼きを食べていく。俺が一つ食べ終わるまでにアイくんは買っておいた四つのたい焼きを食べきって包みを丸めながら満足気に息を吐いた。
「腹ごなしも終わったし帰んか」
『帰る!』
程よく満たされた腹に上機嫌な俺を見てガキくせぇとアイくんは笑って、今度はゆっくり車に向かう。
アイくんは今日はバイクで迎えに来てくれていたらしく、投げられたヘルメットをかぶって、バイクにまたがる。
「今日の夜飯は肉だとよ」
『ええ?食えないんだけどー』
タピオカとたい焼きで満たされてる腹に、それを見越したようなアイくんの笑い声が響いた。
「あの女が用意した高級肉だ。ちっと食ったら後は寄越せ」
『おっけー』
走り出したバイクに腕をしっかり回して、落とされないように捕まった。