暗殺教室
「清水くん一緒に帰ろー」
一つ年下であり僕の後継、現生徒会役員二年会計でもある小林兼治のお誘いに僕は頷こうとしてから止めて口を開く。
『うん。君と帰りたいのは山々なんだけれど、僕は一度E組校舎に戻らないといけないんだ。君も1kmの登り坂に付き合ってくれるのなら一緒に帰れるけど無駄な労力は嫌だろう?』
「山登りかー、僕最近運動だから行く」
E組には見られたら不味いものもあるから運動嫌いな彼に山登りという労力を提示して断ったんだけど流石だね。空気を読んだ上で壊していくだなんて
本校舎から外へ出てE組校舎へ続く坂を登っていく。
「ぅー、疲れたー」
坂の中間ほどの位置で小林兼治は道の端にある大きな石に腰かけた。
疲れたというより、だるくなったんだろうね
運動嫌いではあるが体力や腕力、脚力といったものは野球部やサッカー部のようなメジャースポーツを行っている生徒たちにもわけないだろう彼だけどなにかと面倒くさがりだ。
『だから言っただろう?
僕が急いで取ってくるから君はここで休んでいてくれよ。10分もかからずに戻ってくるから』
「はーい」
手をあげ返事をした彼の頭を撫でてから走り始める。
揺れて音を鳴らすコーヒー牛乳のはいったビニール袋にこれならば荷物と一緒に置いてくればよかったと少し思った。
校舎が見え始めたところで、向かいから何かを抱えた白い人影が現れる。
五歩分ほど離れたところで足を止めるとやはりそれはシロと名乗った人で、肩には気絶しているらしき堀部イトナを担いでいた。
「おや?」
『どうもこんにちは。堀部イトナがあなたの肩の上にいるということはもう決闘は終わってしまったようですね。 どのような内容だったのか気になりますがそれは明日にでもクラスメイトに聞いてみることします。
本日は初登校お疲れさまでした』
世辞や社交辞令で作り固めた言葉だったのだがシロと名乗る彼は恐らく笑った。
「いやぁ、本当に面白いね。ご覧の通りイトナは今回負けてしまってね、まだ学校に通うには早すぎたっていうのもあるから転校初日だけどしばらく休学をすることにしたよ」
やっぱり殺せんせーは勝ったのか。
本音を言えば堀部イトナが勝ってもよかったと思うよ。
『それは随分と急ですね。折角転入してきたばかりで僕は勿論、クラスメイトたちもまだ彼の趣味すらわかっていないのに。けれど学校、集団生活がまだ出来ないと保護者の方が判断したのならば僕が意見することに意味なんてないですけど。
ああ、いきなり話は変わってしまうんですが堀部イトナの目が覚めたらこれを渡していただけますか?これしか手持ちがなくてとても申し訳ないんですが彼も気に入ってくれたようでしたので。こっちのものはなんとなく彼の食生活に不安を覚えたからなんていう身勝手な理由で押し付けますね。よろしくお願いします』
走ったことで少々振ってしまったけど、生来よく振ってから飲むもののはずだし品質上問題はないはずだ。
形状も容量も内容物も違う紙パックをビニール袋ごと差し出す。
「イトナが起きたら渡しておくよ」
受け取ってもらえたことに息を吐き安堵した。
ぽつりと鼻先に水滴が落ちてくる。
今日の天気は不安定だ。
『降ってきてしまいましたね。僕は人を待たせているのでここら辺で失礼します。堀部イトナにもよろしくお願いしますね』
髪が湿気を含み膨張しはじめてしまったし傘を取りにいかなくてはならない
彼らも傘をさしていないため直接雨に打たれているし話を切り上げたほうがいいだろう。
「清水くん」
『はい?』
彼は僕の顔前へ手を伸ばし指を鳴らしたのにも関わらず、ぽんっともっともらしい効果音が鳴りそれとともに一輪の花を出してみせる。
数えかたは一輪であっていたかな
赤い小ぶりの花弁が連なった花に僕は目を見開いた。
ただのマジックの類いならば僕もたしなむから驚かなかったけど、差しだされた花が11月から4月の冬や春をイメージさせるに相応しい時期に咲くものだから驚かざるをえない。
どうやって丁度満開の花を用意したのだろうか
「イトナも私もこういうものだから。気をつけて」
呆ける僕の頭、耳上に花を差し飾ると二人は坂を下っていく。
姿が見えなくなる頃には雨が止んでいた。
なんだったかな、この花は。たしか僕の覚えたものだと花言葉は“内気”“はにかみ”“遠慮”“疑い”
そして赤だから“嫉妬”だったね。
全く意図の伝わってこない去り際のあの挨拶はなんだったのかな
「あれ?清水くん用事終わったの?」
振り返ると声をかけてきた潮田渚を筆頭に赤羽業、磯貝悠馬、中村莉桜といったE組の面々が僕とは違いジャージ姿で集団下校をしていた。
「わっ、清水雨で濡れてんじゃん」
「寒くないの?」
ああ、そういえば雨が降ってきていたんだったな
とはいっても三分にも満たない小雨で、濡れたのは髪と肩ぐらいだ。
問題なんてないよと笑めば全員がさっと顔を逸らした。
一体何事だろうね
「……似合ってるからなんともいえない…」
「清水くん忘れ物したっしょー、はい」
茅野カエデの言葉に被せるように赤羽業は僕の筆箱を渡してきた。
決して忘れ物ではなかった物だけど折角彼が気にして持ってきてくれたらしい。ありがとうと礼を言ってから受けとる。
「あ、終わったんなら一緒に帰ろうぜ!」
杉野友人が表情も声も明るく告げてくるものだからすっかり僕はあの二人組のことを頭の片隅に置いた。
『…お誘いも嬉しいし僕も君達と帰りたいのはたしかなんだけど、今坂の途中で後輩ってやつを待たせていてね。彼と一緒に帰る約束をしているんだ』
「よし、後輩も連れてジェラート食べいこう!大丈夫大丈夫!」
中村莉桜がぽんっと手を叩き笑う。
彼は僕並みに面倒な奴だと思うけど大丈夫かな
坂を下っていくと案外距離があり、僕はそれだけ走っていたようだ。
石の上に座り足をぱたぱたと振っている小林兼治は、両手に開いた四六判ソフトカバーを眺めていた。
近づけば気づいた彼は本を閉じ顔を上げる。
「あ、清水くんきたー」
腰掛けていた石から立ち上がり僕の鞄と自分の鞄を持った。
「さっき待ってる間に思ったんだけど一緒にブルーベリーソフト食べいこうよ」
『うん、そうだね、最近一緒に出かけていなかったから行こうか。君は変わらず冷たいものが好きのようだ。それは良いんだけど君はわかっていてあえて触れてないよね』
「服濡れてる」
『道中で雨が降ってきたからだが君は濡れていないね。傘でもさしていたのかな』
「清水くん花似合うー。はい、チーズー」
『その写真を彼に送るのだけはやめてほしいところだけどもう送ったんだろう?』
「勿論だよー」
『君はもう流石としか言いようがないね。返信もその内君と僕の両方に来るだろうね。見たくないかな』
「あ、清水くん友達いっぱいだね」
二度、三度の曲折を経て漸く彼は僕の隣に並ぶ赤羽業、後ろでどこか渇いた笑いを溢すE組の面々に触れた。
「遠くからでも見つけられそう」
潮田渚や赤羽業、茅野カエデといった頭髪の色が明るい面子のことをさしてか笑う。
「し、清水くん、えっと」
『彼は僕の知り合いで後輩でもある小林兼治だ。見てのとおり空気を読んであえて壊していく才能を持っていてね?今のようにいきなり話題の矛先が変わることや核心を後回しにしたり触れてこないことは多々ある難儀な性格をしている。彼には僕やもう一人の知人もよく振り回されていてね。参るよ』
「こんにちは先輩。二年A組の小林兼治です。よろしくおねぎゃ、お願いします」
大事な場面で言葉を噛むのも常だから僕はもう気にとめないけどね
朝に僕が教室に入っていったときのような空気が流れる。
やっぱり大丈夫ではなかったようだ。
「清水くん冷たいもの食べいこうよー」
「清水くんジェラート食べいかないの?」
目の前と隣から似ているような内容をほぼ同時に告げられ心中で息を吐いた。
赤羽業は然程最初は乗り気ではなかったようだが小林兼治を前にして急にやる気をだしてきたように見える。
「ジェラート食べいくー」
ブルーベリーソフトから冷たいものへと観点が変わっていた小林兼治はジェラートに標的を定めたようだ。
「よ、よし?じゃあ食べいこーぜ!」
「遅くなるとまた雨降ってきそうだし早くいこ」
「はい、歩いた歩いた」
これ幸いと磯貝悠馬と前原陽斗が先導し片岡メグが背中を押す。
冷たいものが食べれると小林兼治は期待に目を輝かせていた。
『冷たいものを好んで食べるのは構わないけど、君はすぐにお腹を壊すんだからあまり食べ過ぎないようにね』
好きなものと得意なものは違うように適性がないのだろう。
ジェラートは半分こかな
「返信きたよ。詳しくだって」
『そのことを思い出したくなかったから話をしていたというのに君は素晴らしいよ』
「これからデートだからって返しておいたよー」
『もう尊敬の域に値するね、僕も君を見習おうかな。お陰で今日は携帯を見れそうにないけど』
「ジェラート半分こ」
『そうしようか。僕も丁度そう考えていたところだよ。』
しっかりと自制して偉いね。
彼の頭に手を置き撫でていれば小林兼治はにこりと笑った。
「その花誰に貰ったの?
なんか一人ばっかし連想できてやだなー?」
飄々としており、よく殴りたいだの嫌いだのと言われる彼はどうしようもなく聡く、人の見たくない場所に目を向けさせる。
『君の考えている人物ではないことと、君の知り得ている人物ではないことはたしかだよ。また、この花とはにてもにつかない人物から渡されたんだ』
耳の上に差し込まれた一輪の花を抜き取り茎を指先で摘み花を眺めた。
綺麗な赤い花はとても美しく、篝火草の和名の通り燃えているようだ。
「なんていうか、清水くんは厄介な人と仲良くなるの得意だよね」
愉快げに笑った彼にため息を吐く。
『その厄介な人の中には勿論君も入っているからね、小林兼治?』
「ぅー、返された…」
わざとらしくも本気で肩を落とす彼は年相応に見え、ジェラートは僕の奢りでいいかなと思ってしまう。
「清水くんはやくー」
ずっと先で手を振り僕を呼ぶ赤羽業に、小林兼治の手を引き走り始めた。
「ジェラートおいしいねー」
「あれ?清水くん食べてる?」
『うん、最初に一口いただいたよ。』
「はい、イチゴ味ー」
『ありがとう、赤羽業』
「清水くんもう一個食べよー」
『お腹を壊すんだから君はもうやめなよ、小林兼治』
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名前
身長 172cm
得意科目 理科
苦手科目 数学
特技 空気を読んで壊す
将来の夢
清水くんと浅野くんのペッt…秘書(怒られた)
好きなもの
冷たいものと清水くんと浅野くんと一緒にいるとき
嫌いなもの
溶けたアイスと清水くんの(ryネタバレ)
死ぬまでにやりたいこと
清水くんと浅野くんとかき氷作りたいなー
キャラクターBGM
virgin suicides/Nem様
Love logic/daniwell様
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