暗殺教室


『オリジナル
自覚の時間』



「清水!」

報復作戦を遂行させた俺は他校の女子と食事と称して清水との待ち合わせ場所に走った。

約束してた場所にもう清水は待ってて、俺に気付き笑った。更に足を早める。

「わりぃっ、待たせたか?」

息を吐く俺にハンカチを差し出した清水はやっぱり笑ってて、口を開いた。

『いいや。僕がこの場所についたのはほんの五分前だし約束の時間までにはまだ10分以上ある。君が謝る必要も焦る必要もないよ。それにしてもレインコートを羽織ったままだなんてよっぽど急いで来てくれたんだね。僕のためではないとわかってはるけれど嬉しいかな。君は最低でも待ち合わせの15分前には来ていそうだと思ったけれど僕の読みは外れていなかった。泥や葉がついているからそのレインコートはそろそろ脱いだほうがいいんじゃないか?』

普段から待ち合わせには相手を待たせないようたしかに早く来てるけど、初めて待ち合わせした清水に悟られてて苦笑いした。

レインコートを脱いで中と外をひっくり返して丸めると清水がビニール袋を差し出してきてくれる。

いれる袋ないだろ?と微笑まれそこまでバレてたかと笑う。

「よし、準備万端」

『うん。そうみたいだね。』

口角を上げてる清水に言葉を軽くつまらせた。

人を待せたなんてのが本当に久しぶりすぎて罪悪感で押し潰されそうだ。

「待たせてごめんな。」

大抵の女子なら、ここで待ったよーと乗っかるとか、大丈夫だとはぐらかして笑うかだけど清水は笑みを少し困らせてみせた。

『先程も言ったけれど、僕は気にしてなんていないよ、前原陽人。そもそも前提があれだよ、僕も君も遅れてきたわけじゃないだろう?たしかに君よりも僕のほうが早く来た、君からしたら待たせてしまったかもしれないと感じるね。でも僕は君が来るまでの五分間でコーヒー牛乳を2つ飲めたし僕がその時間に来たのは君を待たせてしまわないようにと君との食事が楽しみだからという意味がある。
僕としては君には謝ってほしくない。どちらかと言えばこれからどこに行くのか決めてもらいたいな。もしも罪悪感が未だぬぐえないのならば君に、これから行く先で楽しめるようにプランを考えてもらいたいかな?』

なるべくなるべく、自分への利点を説明して俺の罪悪感を払拭させながら次へと意識を移させるよう喋る。

清水かっけーな

「……おう、楽しみにしてろよな!」

『もうこの時点で楽しいんだけどね、僕としては』

ちょっとだけ、清水は俺と価値観がずれてる

待ち合わせしただけなのに楽しいだなんて、

「し、清水甘いもん好き?」

まるでデートみたいだと顔が熱くなった。





「ここ、俺のお気に入りの場所なんだよな」

案内してきたのは人通りの少ない道にある店の前。

正直、女子と遊びに行ける場所ならたくさん知ってんけど男同士、大人数でいく場所なんて選べるほど手持ちがない

だから結局来たのは女子と来る場所。

『こんな路地裏に喫茶店なんてあるんだね』

飯食いにいくと言っても中学生が放課後に出入りできる場所なんてのはたかが知れてる。 時間も30分とかからないだろうし。でも、そんなんじゃ折角なのにもったいない

コーヒー牛乳好きの清水は甘いものも好きらしく、飯よりも先にデザート食いに行こうと言えば笑って頷いた。

俺よりも先に手を伸ばして扉を外開くと清水は当たり前のように入らないのかい?と呆けてる俺をみた。

扉を開けて後から入るのがいちもだからこう、開けといてもらうってのが…久しぶりすぎる。

『前原陽人?』

「ん、あ、うん。ありがと」

礼を言って入った俺を清水は不思議そうに見つめてた。

なんだかんだ人のことを優しいだの天性のフェミニストだの言ってきた清水だったけど、こいつのほうが絶対に優しいを通り越してる系のやつだ。

身に付きすぎだろ。自然すぎだろ。

ショーケースの中に並ぶケーキを二人で選ぶ。

『コーヒー系のデザートの種類が豊富だね。店内もコーヒーの薫りがしていて力を入れているのがわかるし…
因みにおすすめはなんだい前原陽人』

中腰になってて俺を見上げた清水は表情を綻ばせてた。

「えーと、俺がいつも食べんのはティラミスとか期間限定のケーキかな」

ティラミスっても種類がたくさんある。

俺も腰を折って、ガラスに触れないようにショーケス越しのケーキを指差してく。

『どれも美味しそうだね。悩むよ』

見てるだけで幸せ、みたいに笑ってる清水の横顔は今まで付き合ってきた女子がケーキ選んでるときに見せてた顔よりも綺麗で、渚が可愛い系なら清水は美人だ。

身長があと10cmくらい小さかったら女にしか見えない気がする。

「清水いつもなに食うの?」

『…そうだね、僕は普段ケーキ類を一人で食べないから誰かと半分にしたりするかな。だから相手の食べたいものを頼んで交換しながら食べているよ。勿論好みがないというわけではないけどね?強いて言うならばチョコレート系やタルト系、コーヒー系だね』

「へー…、?」

誰かと半分こって、交換って

「…清水って…すっげー御人好しじゃね?」

言葉がこぼれでてて、聞こえたみたいで清水は首を傾げ気味に笑った。

そうかい?と困惑してるっぽくて、いつも余裕の笑顔を見せてる清水の初めてみる表情を知って、ちょっと嬉しかった。

こいつも表情崩すんだ

「失言?した。わりぃ。」

気にしないでくれと笑えば清水も切り替えてくれたみたいでいつもと同じ笑みを浮かべた。

ほんと、なんつーかさ

「清水どれとどれで迷ってんの?」

『…申し訳ないことにね、普段ひとつになんて決めないから全く絞れていないんだ。こんなところで僕の優柔不断さが露呈されるなんてね。参ったよ』

ふぅと息を吐いてショーケースの向こうを見つめてる清水。

「……すみませーん、注文いいですか」

店員さんを呼んで、俺は清水の目線がさっきから行ったり来たりしてる二つのケーキを頼んで席に座る。

笑みを消してびっくりしたみたいに目を開け閉めする清水に笑いかけた。

「半分こしよーぜ」

『…君はそれでいいのかい?前原陽人』

「清水となら半分こしても構わねーよ。俺もどっちにしよーか悩んでたし、半分こな、な?」

『……君にそう言われてしまうと僕は言い返す言葉がないよ。ありがとう感謝している前原陽人。僕のほうこそお願いするね。
実を言うと君の洞察力に驚いていたりするんだけれど、僕は一応全ての商品を見ていたつもりだったんだけどな、気づかれたなんていたなんてね、ポーカーフェイスを保てるように究めようかな』

右の目尻あたりを撫でながら笑う清水に自然と表情が綻びた。

やっぱりずれてて面白い。

本当、新しい価値観に会える。

「ポーカーフェイスて…今でも十分そんなじゃんか」

だから今のままで頼む

来たケーキが二つテーブルに並べられた。

俺がいつも食うティラミスと季節のフルーツタルト

「清水どっちから食いてー?」

『そうだね…君がいつもたべているというティラミスのほうから先に頂こうと思うんだけど、いいかな?』

「もちろん!」

ケーキを半分こ、なんて滅多にしたことない。そりゃケーキうまそうって言われて一口二口あげることはあるけどもらうことなんてない

女子って変なとこ食い意地張ってる

その点、清水はなんか違ってて新鮮。

『ここのティラミス本当においしいね。このマスカルポーネチーズの酸味が気に入ったよ。上のココアも苦くておいしいしコーヒーの風味が全体をまとめている。』

普通にうまいとかじゃないんだ

でもおいしいって思ってくれたらしい。紹介したかいはあった。

「清水ティラミス好きなんだ」

『そう…かな、多分好きだよ。よく食べるし』

好みの話になると清水はなにか考えてから喋る。

いつだかにコーヒー牛乳について語ってた清水はどこいったってくらいに普段の饒舌さはなりを潜めてた。

「へー…、あ、こっちのタルトもうまいぞ」

皿を渡せば清水はありがとうと礼を言ってフォークをさす。

あー、なんかこれほんとデートっぽい

……男子同士でもデートって言うよな?うん、言うよな!

『どうかしたのかい?』

「え、な、なにが!?」

反射的に声を出した。

清水は持っていたフォークを置いて笑った。

『先程からフォークを持つ手が進んでいないようだし、なにか考え込んでいるようで表情も険しい。もしかして今日の報復作戦が失敗したのかい?殺せんせーやクラスメイトの協力を経て行ったらしいじゃないか。とても面白そうな内容だったと僕は感じたけれど君にはあまり気分の晴れるものではなかったのかな?たしかに君は優しい人間だと僕は思っている。
そうだね、そう感じている君に楽しめだなんて無理な話だ。今日も僕が無理矢理誘ってしまったようなものだし君の都合を聞けていないからね、本来ならばそっとして置いて欲しいという時間に引っ張りだしてしまってすまない。』

ん、あ、あれ、なんか誤解させてね?

いつもの笑顔が眉尻が下がってるせいで困ってるというか、申し訳なさうに見えて、そんな表情の清水を見れて驚く反面、そんな顔をさせたくはなかった。

ずっともったままだったフォークを握る。

「全然ちげぇ、そんなんじゃなくてさ、今頃清水いなかったら部屋ん中で塞ぎ込んでた。俺自分のことそんな弱いとか思ってねーけど強くはなかったみたい、昨日のことも下手したらずっと引き摺ってた。今日目腫らさないでいんのは清水のお陰で、清水は昨日人を元気づけるのが苦手だって悲し気に笑ったけど、それは清水からしたらで俺からしたら滅茶苦茶嬉しくて元気戻った。
今日清水と出掛けんのすっげー楽しみにしてたし、清水何が好きなのか悩んだり会ったらお礼言おうって思ってたし、清水といきてー場所多すぎて授業なんて入ってこなかった。昨日清水が天然だって気づいたらなんか、俺、」

『…………』

珍しく、本当に珍しく、清水は口と目を軽く開いて驚いた表情を見せてた。

今俺はなにを言おうとしてた。

言葉を続けようとしてた口を閉じる。

少し、いや、結構顔が熱い。

デートみたいだと思った理由は最初から、正確には昨日自分の傘を渡して俺の前に立ったびしょ濡れの清水を見たときからわかってた。

急に黙った俺に清水はゆっくりと瞬きをしていて堪えられず顔を下に向ける。 テーブルの上にある食べかけのタルトとティラミスがぼんやりとした目の前に映ってた。

『……それは、なんといえば良いのかな。僕のとらえた通りに受け取っても問題はないのかい?君の言い方では誤解を招きそうだよ?それも主に僕がだけれど。人の気持ちなんて言うのは難しいからね、特に僕のように人の気持ちを感じ取ったりするのが下手な人間ではあらぬ誤解をする。今の僕のように。君は現国の成績が悪くないし僕よりも語彙力はあるだろう。実際勉強で使う言葉と日常生活で使う言葉は違うけれど全く関係がないわけではない。だからではないけどね、もう少し考えてから話したほうがいいよ。でなければ誤解されてもしかたないというようなことになりかねない』

上手にそれは気のせいだって俺に伝えるみたいに、勘違いをさせるような言葉を使うのはやめろって

けどもう気づいちまったんだから今さらそんなことを言われても無理だ。

「……、今はなんにも言わねぇでおく、俺まだ言葉になんて出来ないから。けど、清水が感じたそれは誤解なんかじゃないからな」

残ってたタルトを一口で食って咀嚼して飲み込んだ。

『そうなのかい?じゃあ君が言葉に表現出来るようになるまで僕は待っていることにするね?いつか表現することが出来たのならまた二人で出掛けよう。その時まで僕は先程の君の言葉を覚えておくから』

普段の笑顔に戻った清水は残ってるティラミスを掬って差し出してきた。

『これからもよろしく頼むよ?前原陽人。』

恥ずかしさよりも嬉しさのが勝って、差し出されたティラミスを口の中に入れた。
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