ヒロアカ 第一部
一夜明け、案の定バキバキな身体を筋トレとストレッチをして緩めてから学校に向かう。朝連絡をした人使も同じように体が痛いらしく、あちらは慣れない武器を振りまくって普段使わない筋肉を使ったからだろう。
学校について前日のうちに伝えられてた実習場に向かう。備えられてる更衣室に入ると既に人使が来ていて体操着に着替えてるところだった。
「おはよう」
『おはよー』
「筋肉痛がはんぱじゃない」
『俺も。気になって今日寝れなそうだしそもそも動けるか怪しいわ』
「ほんとそれだな」
並んで体操着に着替える。人使はマスクをつけているから、その間にベンチに座ってブーツに履き替え、グローブをはめた。
『そういえばマスクどうなの?』
「高性能すぎて戸惑ってる」
準備ができたからそのまま二人で演習場に入れば、昨日も見た相澤先生と、そろそろ見慣れた担任が待ってた。
「おはようございます」
『おはようございます』
「ああ」
担任に何かを伝えていたらしい相澤先生が頷いてこちらに向き直る。
「今日も引き続き心操は捕縛帯の取り扱いから始める。緑谷はミッドナイトと対人演習だ」
「よろしくね!」
『はーい』
今日は見える位置でやる気なのか部屋は移されず距離だけかなり離れて、目の前の担任が持っていた鞭を鳴らす。
「今日は鞭相手に貴方がどう動くのか見させてちょうだい」
『お手柔らかにお願いします』
「ふふ、私、演習で力は抜かないからそのつもりでね」
振るわれた鞭が腕を取ろうとしてたから避けて距離を一度取る。そのまま振るわれ方向が変わった鞭は地面を叩くとまたこちらに向かってきて、床を蹴って近づく。
長い物に関してはリーチの内側に入ってしまうのが定石で、しなる鞭をくぐりながら時には避けてを繰り返し、担任がにんまりと笑ったから手を開く。
ばしりと大きな音がして顔の目の前で鞭が止まる。グローブをつけてなければ握りこんだ手のひらは悲惨なことになってただろう。
ぐっと引っ張っられる感覚に手を離して距離を取る。
「反応がいいわね!」
『ありがとうございます』
「その涼しい顔崩したくなっちゃう」
『ええ、趣味悪いですよ』
「うふふ」
ぱしぱし音がしてる。ちらりと見た出留は相変わらずミッドナイト先生と訓練していて、鋭く早い鞭を避けながら近づいて離れてを繰り返してた。
投げた捕縛帯が的の少し上を見た掠めていく。
「心操」
「、はい!」
やらかしたと視線を向ければ相澤先生と目が合わず、相澤先生は向こうを見てた。
「視野を広く持つことは正しい。目の前の敵一人に集中していては状況判断が遅れる」
「は、はい」
「最終日前にはお前もアレと戦わせるから今のうちに彼奴の速さに慣れておけ」
「え、出留と戦うんですか?」
「動く的は捕縛帯の訓練に必須だからな」
「出留が的扱い…」
「最初からお前たちには互いに高め合ってもらう予定だと言ってあっただろ?」
「まぁそうですけど…」
「捕縛帯が使えなくなった場合はお前も個性だけじゃなく体術が必要になる。そのための職業体験だ。心して掛かれ」
「…はい」
今は集中するべきだ。プロヒーローにマンツーマンで指導を受けて、新しい力を身につけられる機会なんて普通科の俺にはもうないだろう。
息を吐いて気持ちを切り替えてから捕縛帯を振るう。まだ相澤先生のように思うようには動かせないけれどこの訓練も俺の今後につながるなら、全てを喰らうつもりで、技を盗まないと。
初日はエクトプラズム先生との多数対戦。二日目は担任の鞭使いとの対戦。三日目はセメントス先生と対戦。四日目はスナイプ先生から少し狙撃を習ってまぁ鞭よりは多少マシかなという結果に落ち着いた。
「マシ…?」
何か言いたげな先生たちに目を逸らして、明日はここ二日間別に訓練していた人使との対戦になるらしい。
対人練習というから普通に組手になるだろう予定に、今日は少し早めの解散になった。
着替えて、それから携帯を見ると連絡が来てる。光己さんから来ていたそれに返事をして人使より先に学校を後にする。家とは少し違う方向の駅で電車を降りて、駅の前で待っていれば足音が聞こえて顔を上げた。
「出留くん!」
『あ、お疲れ様です、勝さん』
「うん、お疲れ様です。本当にごめんね、急なお願いして…」
『全然。気にしないで。俺も勝己が気になってたし様子見て連絡入れるよ』
「ありがとう」
差し出された袋を受け取って、仕事中に抜けてきてる勝さんを見送る。それからまた電車に乗って普段降りない駅で降車した。
電車内で調べておいた地図をもとに歩いていく。有名なヒーローの事務所ともなれば大きなビルで、すぐに見つけられた。
ガラス張りの大きな窓がついている白色のビル。入らづらさを覚えるものの、足を進めて自動ドアをくぐる。ホテルのような静かさと清潔感に迎えられた。
「おはようございます。本日はどのようなご用件ですか?」
受付らしき場所にいるのは見事にぴっしりと髪をまとめてきっちり洋服を着込んだ人で、目を瞬いてから笑いかける。
『おはようございます。職業体験にお邪魔してる爆豪勝己くんに荷物を届けに来た緑谷と申します』
「かしこまりました。確認してまいりますのでおかけになってお待ちください」
誘導されたロビーのソファーに腰掛ける。スプリングのきいたソファー。天井についていて照明周りのブレードが回るのを眺めていれば静かな足音が近づいてきたから視線を元に戻した。
「お待たせいたしました。爆豪勝己くんはただいま市内パトロール中でして、スケジュール通りでしたら後五分で戻ります」
『そうなんですね。待たせてもらっても大丈夫ですか?』
「ええ、もちろんです」
失礼しますと離れていったその人に膝の上に置いた袋を抱え直して、携帯を取り出す。光己さんから来てる言葉にスタンプを返して、ついでに届いてた弔からのメッセージを見てオッケーを返しておく。
夜の散歩なんて小学生の頃に町内の肝試し大会をしたとき以来かもしれない。
集合は東京なんていうから帰り道を心配すれば個性で送り届けるから安心しろなんて返される。この間弔が観戦しに来た時の黒い霧のことなのだとしたら、移動時間は心配いらないだろう。
集合時間と場所を確認して、駅近くの建物の住所を指定されたところで自動ドアの開く音がしたから顔を上げた。
背の高い金髪の男性の後ろ、少し色素の薄い金髪が歩いていて俺と目が合うなり足を止めた。
「あ、」
『勝己』
「なんでここに、」
『忘れ物届けに来た』
「ババアが来るんじゃなかったんか?!」
『光己さんが届けられなくなって、勝さんがくる予定だったけど来れなくなったから俺が来たって連絡見てない?……ていうか、』
手を伸ばして、晒された額に触れる。
『勝己かわい〜』
「っ見んなや!!」
『え?やだ。すげぇかわいい』
真っ赤になって怒るから髪を崩さないように撫でて携帯を構える。数枚写真を撮って携帯を下ろした。
『光己さんと勝さんに送っとくね』
「ああ!?」
『出久と相澤先生には…』
「マジでやめろ」
『あはは』
携帯が壊される前にポケットにしまって額を撫でる。
『勝己の八二分けとか始めて見たよ』
「俺だって初めてしたわっ!」
『似合うから当分そのままがいいんじゃない?』
「ああ!??」
『あははっ』
怒り狂いそうな勝己の頭をまた撫でてから、置いてしまってた袋を取り差し出す。
『じゃ、これ頼まれてたやつな』
「…ん」
中身を確認したところで今まで見守っていたらしいその人が小さく笑い声を溢しながら近づいてきた。
「爆豪がされるがままだな」
『あ、……。ヒーローだ』
「お前またその適当覚えか」
『許してよ』
「一応ヒーローランキング四位だぞ」
『その辺は出久担当だからなぁ』
「はあ」
脇腹が突かれて苦笑いをすれば、どこかで見たことのある気がするヒーローは薄く笑って髪に触れた。
「初めまして。私はベストジーニスト。爆豪を指名した事務所のヒーローだ」
『初めまして。同級生の緑谷出留と申します』
佇まいからそんな気はしていたけれど、整然とした口調と所作。勝己とは噛み合わなそうな人物に挨拶を交わす。
ベストジーニストと名乗ってくれたその人はジーンズ生地の硬めの洋服の襟元で口が隠れてた。
「君のことは体育祭で見たよ。素晴らしい体捌きだった」
『ありがとうございます』
「職業体験はどこに?」
『雄英教師の相澤先生にお世話になってます』
答えたあとに普通こういうときはヒーロー名を伝えたほうがいいのかと少し悩んで首を傾げ、勝己を見る。
『相澤先生のヒーロー名って知ってる?』
「イレイザーヘッドな」
「おや、イレイザーヘッドが指名を?珍しいこともあるな」
『同じ普通科の心操と一緒に面倒みていただいてる最中で、学校施設内で組手メインに訓練してます』
「なるほど。君の今後の活躍期待してるよ」
『ありがとうございます。勝己のことよろしくお願いします』
「ああ、任せておけ。きっちり私が矯正してやろう」
「もう帰れや!」
『はいはい』
怒り始めた勝己の髪を撫でてベストジーニストさんに頭を下げて事務所を後にする。
携帯から撮ったばかりの写真を出して光己さんと勝さんに送り、少しやりとりをしていればうちの最寄りについた。