ヒロアカ 第一部
名前までは覚えていないものの見たことのあるような気がする、おそらく有名なヒーローに誘導されて歩く。
向かう先はひとまずの避難地と決められた職員室で、本舎の職員室とは別にこの競技場用の職員室が設立されてるなんて規模が大きいなと思った。
「ごめんなさい、落ち着くまではここにいてね?」
眉尻を下げてお願いされればため息まじりに頷くしかなく、行き道に取ってきておいた携帯で勝己にメッセージを送ってから扉をくぐる。
職員室の名前にイメージしていた通り、机がいくつか並んでいて普段は教師が座って作業ができるようになっていることがわかる。
「こんにちは」
『こんにちは』
中にいたのは宇宙服のようなものを纏った人で、少し高い声で挨拶をされたから同じように返した。
「緑谷くんですね、さぁ、こっちに掛けてください」
促されて足を運んだのはリビングに置くようなテーブルと四人ほど座れそうなソファーが二対置かれた場所で、職員室に置くよりは応接室に置くようなそれに目を瞬きながら腰を下ろす。
テーブルに煎茶とせんべいが置かれて、よかったらと秘蔵だという練切りも添えられた。
俺の向かい側に腰掛けたその人は13号と名乗り、ヒーロー名らしいそれは少し前に聞いた覚えがある。
『この間の敵襲撃の際に怪我をされたんじゃ…?』
「よくご存知ですね。ええ、なので今回の私は緊急連絡が来た際の受け入れと、司令役として職員室で留守番をしていたんです」
『そうだったんですか』
体育祭開催にあたり、連年よりもヒーローの警備に力を入れていると聞いたし、その分手薄になる街を案じての対応なんだろう。
先生は向かい側でお茶を飲んでからそういえばと溢した。
「緑谷くんは、A組に弟さんが在籍してますよね」
『ええ』
「緑谷出留くん。」
唐突にフルネームで呼ばれたことに不思議に思って、頭らしき部分が下がったことに目を丸くする
「ご家族である緑谷出久くんを敵襲撃の際、怪我をさせてしまい申し訳ありませんでした」
『ああ、なるほど』
そういえば出久は怪我をしたと言っていた。けれど俺はその姿を直接見ていないし、出久からもそれに関してなにか聞いているわけじゃない。
『顔を上げてください、先生。出久が怪我をするのはよくあることなんですよ』
「しかし、今回のは未然に防げた怪我です。管理に穴があった私達の過失です」
『出久が怪我をするのは確かに家族である俺には心配なことです。でも、敵の襲撃なんてどれだけ注意していたって防げないこともありますし、そもそも勝己…一部生徒がが飛び出したことにより敵に分離されてしまったんでしょう?先生は他の生徒を五体満足の状態で親元に返してる。それの何を謝ることがあるんですか?』
「それは…」
『それとも先生は、出久だけを守らず矢面に立て怪我をさせたんですか?それなら許しませんけど』
「いいえ、決してそんなことは」
『ならいいんじゃないですか?出久も自分はやりきったと満足気で、怪我のことも先生のことも非難してないんですし。今回のことに関してはその場にいるわけでもなく事後報告だけ聞いた俺が何か言う気はないです』
返した言葉があまりにも納得行かなかったのか、それとも意外だったのか、黙ってしまった先生に手を伸ばしてお茶をいただく。
お茶を飲んで、それでもまだなにか言いたそうな様子の先生に下ろした湯呑みを手のひらで包んだまま言葉を続けることにした。
『本人が気にしてないことを外野がとやかく言っても仕方ないでしょう?』
「…君は、大人ですね」
『そんなことないですよ。今日なんて出久の大怪我に俺のほうが吐いて死にそうになりました』
「確かにあれはショッキングな絵面でしたね…」
肩の力を抜いた声色にもうこの話は終わりかなと心の中で息を吐く。
お茶を啜って練切りを口に運んで、ゆっくりと穏やかに静かな空気が流れてる。時計の秒針だけが響く部屋の中で、向かいの先生が姿勢を正した。
「君は、本当に大人のような子です。……それだけに、君が何故あのような投げやりな行動を取ったのかがわかりません」
『そんなに気にすることでもないと思いますけどね』
「雄英は決して無個性を否定したりしているわけではない。それは社会だって同じで、確率として五人に一人は無個性がいるんですから無個性は決して異常でも不適合者でもない」
『確率で言えばそうですけど、あまり周りにいるものじゃないですよ、無個性って』
「君は正々堂々、きちんとしたルールに沿ってあの試合に臨んでいた。それを一部の人間による主観の押し付けにより害されてしまったのは止めきれなかった私達の責任です。けれど、君があの試合を投げたのは、なにか別の意図があったように見えます」
『実は常闇くんが強すぎて勝ち目がないなと思ったので便乗して諦めました』
「そんな訳ないでしょう」
宇宙服のため顔色は読めないけれど、低くなった声にきっと憤りを抱えてる。
それは無個性を排他しようとする群衆にであったり、防げなかった自身含む雄英の姿勢であったり、態度を変えた俺にであったり。
こんこんとノック音が響いて仕方なさそうに先生は腰を上げる。
引き戸の扉を開けると聞き覚えのある声がして、顔を上げれば眉尻の下がった人使がいた。
「出留」
『あ、やっほ〜。なに?サボり?』
「そんな訳ないだろ」
口角を上げて力なく笑う。茶化すような挨拶は効いたようで緊張は解れたらしい。
「様子見に来た」
『まじで?わざわざ悪いな』
「俺が見たくて来ただけだ」
先生が許可したのだろう。迷わず近寄ってきて先程まで先生が座っていた場所に座った人使に先生が新しいお茶を置き、飲んでいたが自身の湯呑みを持って最初見たときに座っていた自席に帰った。
『今体育祭どうなってんの?』
「轟対飯田が始まるところだ」
『ふーん。準決勝もう一組は?』
「常闇対爆豪」
『へー』
さっき無様な姿を見せてしまった上にメンタルを揺さぶってしまってもしかしたらと思ったけど、順調に勝ち進んでいるらしい勝己は本当に一位になれるかもしれない。
見渡す限り職員室にテレビは見当たらず、この後の状況を知るのは難しいだろう。
「お疲れ」
『人使こそ、お疲れさん』
「出留と俺は普通科の希望の星だってクラスメイトの奴らが言ってたぞ」
手に持っていた湯呑みを口に運ぼうとして固まる。
『なにそれ、なんで俺まで?』
「俺より上のベスト8なんだから当たり前だろ」
『敵前逃亡した無個性のベスト8に価値なんてないと思うけどね』
「そんなことない」
低くなった声にしっかり目を合わせた。
真剣な表情でどうしてか今にも泣き出しそうな顔。
「無個性だろうと没個性だろうと、ヒーローにはなれる、力は使いようって言ったのは出留だろ。体術だって対戦相手に劣ってなかったんだ。…だから、無個性だからなんて、自分を否定しないでくれ」
『……ああ、うん、気をつける』
「本当にそうしてくれ」
なんとなく言葉に迷ってしまって、お茶を飲んで誤魔化す。練切りに手を伸ばそうとしたところで横から伸びてきた手が練切りを掻っ攫って口に入れてしまった。
『どした?』
「自己否定しまくってる出留を見てたら甘いもの食いたくなっただけ」
『んぉう??』
固まる俺に満足気に笑うと用意してもらったお茶を啜った。
気を取り直してもう一つ練切りを口に運ぶ。今度は特に盗られることもなく、人使の心境が全くわからず、練切りの味がしない。
「仲が良さそうでよかったです」
近寄ってきた先生は穏やかな声色で追加の練切りといつの間にか少なくなってたお茶を注いでいってまた離れてく。人使はもうここにいる気なのか腰を上げる気配はなく、せんべいを食しながらぽつりぽつりと会話を続けた。
「出留があんなに動けるのは日頃のトレーニングのおかげか?」
『たぶん。昔から付き合ってやってたから自然と体が動くっぽい』
「ああ、朝練一緒にやってる奴がいるんだったか」
『そうそう。勝己とやってんと自然と基礎体力上がる』
「勝己?」
『A組の爆豪勝己』
「……彼奴か」
『そういえば人使に話したことなかったっけ?』
「ああ。出留の兄弟もA組だって知ったの今日だし」
『あれ?そうだっけ?』
「出留がブラコンで、その弟と学校に来てんのは知ってたけどそれ以上聞いたことなかったからな」
『ブラコンっていうか出久が世界一可愛いからそれを愛でてるだけっていうか…』
「それをブラコンって言うんだよ」
お茶を啜って息を吐いた人使はすっかり普通の顔でさっきまでの不明瞭さは見当たらない。
俺も同じようにお茶を啜り、せんべいに手を伸ばす。
ばたばたと走る音が遠くで響いて、賑やかだなと思っていればその足音はまっすぐ近づいてくる。先生や人使も顔を上げたところで扉が叩きつけるような勢いで開いた。
「緑谷さん!」
『発目さん?』
現れたのは体操着のままの発目さんで、驚いてる先生を無視して足早に俺の真横に来ると手を取られた。
「私のベイビーは!」
「ベ、!?」
『ああ、乱暴に扱ってごめんね。壊れてないとは思うんだけど…』
お茶が器官に入ったのか噎せた人使に首を傾げつつ、グローブとブーツを外す。グローブはともかく、最後にコンクリートに叩きつけてしまったブーツは壊れてしまってるかもしれない。
抜いで渡せば隣に腰を下ろした発目さんがアイテムをなめまわすように見つめて、笑顔を見せた。
「流石私のベイビー!ブーツはともかくグローブにはヒビの一つも入ってません!」
『ブーツはどうなってるの?』
「叩き割った際に支柱にした右の踵は若干欠けておりますが、これは想定内!むしろあれだけコンクリートを破壊したのにもかかわらずよく原型が残っていると私の技術力に感服です!」
『うん、本当に発目さんのサポートアイテムには助けられたよ』
「そうでしょう!そうでしょう!私のベイビーはすごいんですよ!!」
胸を張って声高らかに笑う発目さん。ようやく器官の飲み物が取れたのか落ち着きを取り戻した人使がじっと俺達を見つめてた。
「使ってたサポートアイテム、生徒の作品だったんだな」
『そう。同じ一年生の発目さん。トーナメントで飯田くんと対戦してたから見たでしょ?』
「ああ、すごい試合だったな」
「私のベイビーを存分に見てもらえて満足でした!貴方も必要になったら教えてください!緑谷さんのお友達なら私のベイビーを特別に貸し出して差し上げます!」
「ベイビー…」
苦笑いで俺を見るから頷いておく。言い回しはともかく、発目さんの技術は本物だし、将来ヒーローを目指す人使には繋いでおいて損はない繋がりだ。
『発目さん的には人使にはどんなアイテムがあったらいいと思う?』
「どんな補助を必要としているんですか?」
「そうだな、とりあえずは変声機みたいなものがあるといいかなって、個性を知られてても別の人間の声で呼びかけたら無意識に反応してくれる可能性が増える」
「ほほう、声が関係する個性なんですね。確かに変声機は中々市販されているものでもないですし、私も気になります!作ってみましょう!」
『マスクみたいになってたほうが両手も開いて楽だし、形は首とか口元に巻くタイプ?』
「あまり首元を固めると視野が狭くなるかもしれない…」
「それならば!」
乗り気なのか発目さんと人使が会話を弾ませはじめる。二人の会話を横目にお茶を飲んでせんべいをかじってく。
「そういえば緑谷さん!」
『ん?』
「足と手を見せていただけませんか!」
『ん?』
「グローブとブーツを透過して怪我をしていないか確認させてください!」
口の中のせんべいを飲み込んで頷き手を差し出す。右手からじっと指先や関節を見つめ、今度は左手。それから足もと促され、跪かせる訳にもいかないからソファーに足を上げた。
「叩きつけたのは右でしたよね?」
『そうだったと思うよ』
「私のベイビーが頑丈なのは当然ですが、あれだけ力を込めて痛みはありませんか?」
『特にないかな』
「そんなにサポートアイテムは硬いのか?」
「頑丈ではありますが、機動力と軽量化に重きをおいているのであそこまでの破壊力はないはずなんですよね」
『火事場の馬鹿力ってやつかもね』
つま先もかかとも傷はなく、打ち身特有の赤みもない。発目さんと人使が傷がないかとじっと見つめて手持ち無沙汰になったから手を伸ばして取ったせんべいをかじる。
「に、兄ちゃん!?」
『んぐっ、』
急に聞こえた声にせんべいがつまって変な声が出る。お茶で流し込んでから顔を上げれば目に見えて慌ててる出久と、何故かにたにた笑ってる担任がいた。
「にににに兄ちゃん、これ今どんな状況??」
『そんなに慌ててどうした?今は発目さんと人使とサポートアイテムのチェックしてるとこだよ』
「はい!もう大丈夫です!ありがとうございます!」
「そそそそうなんだ?」
足をおろして、呼吸を整えてから見慣れぬ白い塊に目を向ける。
『そんなことより、出久、腕』
「あ、うん」
とてとてと近寄ってきた出久が目の前に腕を差し出す。白い包帯が巻かれたそれに息を深く吐いて視線を落とした。
『痛くない?』
「うん、リカバリーガールがある程度治癒してくれてる…」
『包帯いつ取れんの』
「たぶん一週間も要らないと思う。明後日もう一回様子見てくれるみたい」
『そう』
手を取って、額にあてる。包帯越しで手の熱も何も伝わらないそれにまた息をして、それから顔を上げた。
『帰ったら母さんに言うことはわかってるな』
「心配かけるレベルの無茶してごめんなさい」
『大正解。よろしい』
「兄ちゃんも、心配かけてごめんね。切島くんたちがすごく顔色悪くなってたって教えてくれた。ごめんなさい」
『まったくだ。ほんと心臓に悪くて兄ちゃんが死ぬかと思った』
「兄ちゃんが死なないように今後は無茶しないようにするね」
『そうしてくれ』
手を離す。顔を上げれば目の前の出久の眉尻は下がりきっていて、不安そうな顔に手を伸ばして頭をなでた。
『出久としては、今回の怪我に見合ったものを得られたのか?』
「わからない。でも、無駄ではなかったと思う」
『ならいいや』
手を下ろせば少し手のひらに煤がついていて、飲みかけのお茶に手を伸ばす。
見守ってくれていたらしい人使がホッとしたように息を吐いて、それからあ、と女性の声が響いた。
「つい兄弟のやりとりを見守っちゃったけど!!そんなことより緑谷くん兄のほう!貴方に今すぐ来てほしいの!」
『はぁ、わかりました。…その兄のほうっていります?』
「同じ名字でややこしいんだからしょうがないでしょ?」
担任に急かされ、そうだったとなにか事情を知ってるらしく一緒に慌てる出久に背を押され歩く。
足早にここへ来たときの道を逆走していって、何故か会場まで戻ってきた。
観客は既に退席した後なのか人は少なく、生徒たちも疎らにしか見当たらない。
記憶では最終種目が行われていたステージがあった中心には台が用意されていて、その周りに教師らしいヒーロー数人がいる。高さが違う、階段のようなそれの一番高い真ん中に棒で括られてる人物を見て目を瞬いた。
『勝己、どういうプレイ中なの??』
「んな訳あるか!!」
『そうだよな、びっくりした。流石にちょっと高度すぎて肯定されたらもうなに言ったらいいかわかんなかったわ』
「んな!わけ!!ねぇだろ!!!」
腕を拘束され、口輪だったらしいそれを首元にかけ、体は縄で棒に括られていてとても不自由そうだ。
怒り狂ってるのか暴れてたらしい勝己に周りの先生は困り果てていて、隣の出久を見た。
『なんでこんな面白いことになってるの?』
「面白い…?」
理解できなそうにきょとんとしたのは実況をしていた片割れのテンションが高い方で、テンションが低い方の確か相澤先生は首を横に振る。
出久が目を逸らして答えた。
「かっちゃんが一位になったんだけど、結果に納得してなくて…それで轟くんに殴りかかろうとしたり、表彰台に登ろうとしなかったりして大暴れで、とりあえずミッドナイトの個性で眠らせて括って表彰式終わらせたのはいいんだけど、今度は外す前から暴れてて外したらあとが怖いなって状況…」
『そうなんだ』
担任の個性は知らないけど、眠らされて起きたら括られてたなんて、たぶん誰でも怒るんじゃないだろうか。
足を進めて勝己の前に立つ。出久が説明したくらいから暴れてはいないものの、眉根を思いっきり寄せている勝己に笑いかけた。
『一位になったんだね?』
「あんなもん一位じゃねぇ!!俺が目指すのは完膚なき一位だ!!クソ舐めプ野郎が!!」
『あー、轟くんの話?そんな決勝納得いかなかったんだ?』
「あの野郎俺との試合で左側使わなかった!!一瞬使おうとして消して爆風に吹き飛ばされやがった!!あんなもん舐めプ以外のなにもんでもねぇ!!」
持てる力すべてを使ってぶつかった相手に、その相手が余力を残した状態だったのは勝己にとって大変不服だったんだろう。
勝己らしい言い分にそっかと頷けば、歯を食いしばって俯いた。
「こんなん一番じゃねぇ。俺が、俺がいっちゃん、すごくなきゃいけねぇのに、…出留」
急に静かになった勝己に周りはざわつく。出久が心配そうに手を伸ばそうとして手を降ろしたから手を叩いてみた。
『そういえばさ。今回の俺、結局妥協の十位以内じゃん?』
何を言い出すのかとぎょっとした顔をした周り。勝己は少しだけ顔を上げて、赤色の瞳が髪の間からこちらを見てる。
『そんで勝己の一位も納得してない一番な訳でしょ?だから、今回の約束は持ち越しにしない?』
「……いいんか」
『うん。旅行はまた今度どっかで目標立てて達成したらにして、今回はそうだなぁ、痛み分けってことにして家族皆でお疲れさまパーティーでもしようよ』
「………ババアに言っとく」
『俺も母さんに言っとくね』
頷いた勝己はもう暴れなさそうで、足を進めて段差を登り棒の後ろに回る。予想はしていたけど縄はしっかり結ばれていて、どうしようかと考えるより早くハサミが渡され、紐を切った。
手枷は相澤先生が外してくれたらしく、鼻をすすった音がしてから勝己が不機嫌そうな顔で俺を見た。
『お疲れ様』
「ん」
『そんじゃ帰ろうか』
「荷物持ってくる」
『おう。出久も荷物取ってきなー』
「うん!」
先に競歩のような速度で歩いていった勝己を追いかけるようにぱたぱたと走っていく出久を見送って、顔を上げれば教師陣の視線が俺に集まってた。
『どうしました?』
「緑谷兄、お前猛獣使いだったのか」
『はぁ…?』
実況の明るい方が訳のわからないことを言うから首を傾げる。担任はなんでか腹を抱えて笑ってるし、相澤先生が深々と息を吐いて首を横に振って背を向ける。
「幼馴染なんだし、そんなもんだろ」
「そんなもんか?幼馴染ってそんなもんなのか??」
「まぁ私達にはわからないポイントもあるから仕方ないわよ」
三人の会話に察するところはあるものの、俺が突っ込むべきところじゃないはずで目を逸らして二人が消えていった方向を見つめる。俺も荷物は取りに行きたいけど、今動いて入れ違いになるのは避けたい。
メッセージを入れれば良いだけとはいえどうしたものかと悩もうとして、人影が近寄ってきたことに気づく。
「出留」
「緑谷さん!」
さっき職員室で別れた二人がいて、人使から差し出されたのは俺の鞄だった。
『あ、ごめん。ありがとう』
「気にするな」
「緑谷さん!緑谷さん!今度心操くんの変声機の作成と同時にこのブーツとグローブの改良版を用意しておきますので、できたらぜひ工房に見に来てくださいね!」
『楽しみにしてる』
勢いのある発目さんに笑って返して、ちょうど戻ってきた二人の姿を見つけ顔を逸らせば、察したと言わんばかりに人使と発目さんは手を振って離れていく。
入れ違いに俺の元にたどり着いた勝己と出久はお互い微妙な距離を保ちつつも喧嘩しなかったのか新しい怪我なく帰ってきた。
「今の女、サポート科のやつか」
「かっちゃんが他人のこと覚えてる!?」
「あんだけアイテム紹介するためにメガネこき使ってたら嫌でも覚えとるわ!」
『発目さんね。俺が使ってたサポートアイテムを作ってくれた人だよ。優秀な技術者だから二人も相談があったら声をかけてみたらいいんじゃない?』
「うん!僕も今回の体育祭で反省点はたくさんあったし、サポートアイテムの着用も視野に入れようと思って!」
「はっ、デクのくせに生意気な」
『勝己は悩みなしかな?出久は家帰ったら話そうね』
「ああ!?俺も話すわ!」
『うん、じゃあ帰ろうか。兄ちゃん疲れちゃった。反省は歩きながら話そう』
「兄ちゃんが疲れるなんて珍しい!!」
『出久と勝己の頑張ってるとこみたら俺も頑張ろうかなって。途中まで割と頑張ったからね』
「兄ちゃん…!」
きらきらと瞳を輝かせてる出久と鼻を鳴らしてそっぽ向いた勝己。
傾き始めてる太陽に二人の肩に触れてから振り返って、見守ってたらしい教師陣に目を向ける。
『先生、さよーなら』
「あ、さようなら!」
「さよなら」
挨拶をきちんとして三人で歩き出す。後ろからは戸惑いのような空気があったものの、実況の明るいほうが挨拶を大きな声で返したため空気が吹き飛んでいった。
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