ヒロアカ 第一部


出久とは放課後。人使とは朝練。勝己とはどちらも。時間さえあれば組手をしてその甲斐あってか体力と技術は上がったと思う。

人使も身体の使い方に柔軟性が出てきており、今回の体育祭でいいところまでいけるだろう。

勝己は一位と目をギラつかせていたし、母に送り出された出久も気分が高揚してるのか朝からたくさん話をしてくれる。話題に出たクラスメイトの名前と個性を記憶しながら歩いて、今日は教室ではなく体育祭用の会場に登校した。

クラスごとに控室は分かれるようで出久の頭をなでてから別れ、C組の文字を探す。少し奥の方にでもあるのか足を進めていけば50mほど先に目当ての文字を見つけて、その下にいた人使がドアに手をかけながら俺を見た。

「おはよう」

『おはよ』

足早に近寄って一緒に扉をくぐる。中は教室というよりは講義室のようで、決められた方向に並んだテーブルと椅子は階段のように前に行くほど低くなり、一番低い場所に教卓とホワイトボードがあった。

すでにちらほら腰を掛けている生徒がいて、顔ぶれを見る限り席に指定はないのか自由に座ってる。

真ん中よりも後側に腰を下ろして隣の人使を見た。

『調子はどうよ』

「悪くない」

『二十位くらいはとれちゃいそう?』

「もっと上に行く予定だ」

体育祭の話を担任からされたときとはだいぶ変わった表情に頬を緩ませる。

『人使はクラス移籍、俺は現状維持。頑張ろうな』

「ああ」

人使が呆れたように頷いたところで担任が入ってくる。いつの間にかクラスメイトは揃っているようで室内は人が増えてた。

今日も担任はヒーロースーツを身に纏っていて手に持った鞭を振り、笑う。

「今日は待ちに待った体育祭!ぜひとも熱い死闘を見せてちょうだい!」

いくつかの注意事項と激励を受けて部屋を出る。時間からして開幕らしく、通路を歩いていけば段々と喧騒が近づいてきた。

すでに入場してるヒーロー科に続いて普通科、経営科、サポート科が進む。

周りはヒーロー科への期待が高まってるのか既に興奮状態で、ヒーロー科ではない生徒の表情は晴れない。

ヒーロー科への不満を零す人間もいるようで、所定の位置まで進み足を止めた。

ABCと順に並んでいるためここからは出久も勝己も見えずちょっと退屈だ。

ポケットに手を入れるわけもいかずぼーっと開会の挨拶をしている主審兼司会の担任を眺め、選手宣誓で呼ばれた名前に目を瞬いた。

「かっちゃんだったの!?」

「彼奴一応、入試一位通過だったからなぁ」

可愛い出久声と恐らくクラスメイトの声がして、それから大きなため息が響く。

「ヒーロー科の入試な」

普通科の生徒からの言葉には棘がある。どうにも鬱憤が溜まっている様子で先程、引き立て役かと不満を溢していた一人だろう。

ポケットに手を入れながらゆっくりと壇上に登った勝己が息を吸った。

「宣誓。俺が一位になる」

どこかでやるかなとは思っていたけど最初から飛ばす。

「せめて跳ねのいい踏み台になれ」

他クラスからはブーイングの嵐。同じA組は顔色を青くし、観客たちも担任も戸惑う。言い切ったとばかりに壇上を降りて元の位置に戻った勝己は周りのことなど知らん顔で、慌ててるであろう出久を思って苦笑する。

息を一度だけ吐いて、さっさと話題を切り替えた担任はマイクを通して声を張り、意識を自身へ集中させた。

「毎年ここで多くのものがティアドリンク!さぁ一種目は!」

大きな電子看板の映像が動く。間を置いて現れたのは障害物競走の文字とイラストで隣の人使を見た。

「全クラス参加の障害物競走!コースはこのスタジアムの外周約4キロ!」

早速怪我人が出そうな内容にテレビの前で母が気絶してないといいけどと頭が痛くなる。

「我が校は自由さが売り文句!コースを守れば、何をしたって構わないわ!」

個性ありの障害物競走なんて、今から恐ろしい。

「出留」

揺れた声色を不思議に思って横を見ればどこか引いた表情の人使がいて首を傾げる。

『ん?なに?』

「顔が怖い」

『え?そう?ごめんごめん』

一体どんな顔をしてたのかはわからないが頬を摘み横に引いて表情を崩す。

さっさと入場口へと急かされて足を動かし、一つしかない入場口の前は全クラスが集まってるだけあって人で溢れかえってた。

考える余地なく最後尾に近い隅に立ったところで隣に人使も並んでいることに気づく。

『前行かないんだ?』

「こういうのは派手個性が最初に妨害してくるって相場が決まってるだろ」

入場口の上に設置された三つの緑色のランプが一つずつ消えていく。最後が消える寸前に大きく息を吸う音が聞こえた。

「スタート!!」

ブザーが鳴り、地が揺れてるんじゃないかと錯覚するくらいに一斉に全員が駆け出して足音を響かす。

全員が入った頃に距離を取って中に入った。

中は予想していたとおり人で混雑していて団子状態であり、実況のプレゼントマイクとミイラマンと呼ばれた男の声がスピーカーから聞こえる。

「早速だがミイラマン!序盤の見どころは?!」

「今だよ」

ふわりと冷たい空気が通り抜けて咄嗟に人使の手を取り跳ねる。足元がみるみるうちに凍っていき、何人もの足が地面に縫い付けられた。

「初見殺しもいいところだな」

『避けられて良かった。まぁ、歩きづらいけど』

「なら次は俺がやる」

少し進んだ先で凍らず足を取られながら進もうとしていた人間に声をかけた人使は騎馬を組ませて上に乗る。俺もお零れに預かりもう一機組んでもらって体力を使うことなく進んでいく。

薄暗い通路を抜ける頃に実況の声が響いた。

「まずは第一関門!ロボインフェルノ!!」

破壊音が響く先頭で人使がこちらを見てくるから目を凝らして先を見る。

「1A轟!妨害も同時にこなした!!」

4mはある大きなロボットが何体も見えた。破壊音は倒して突破している生徒によるものらしく、息を吐く。

『さっさと抜けたほうがいい』

「だな」

氷を抜けたところで騎馬から降りる。洗脳を解いたのか呆然としてる生徒から離れて、先頭集団が壊したのか動きの鈍いロボットの横を滑りぬけながら走っていく。

序盤がわりと壊してくれてるのかかなり楽に通り超えていけた。

今が何位なのか、そして二回戦に上がれるのが何人なのかはわからないけど、せめて40か50位以内に入らないと次には進めないだろう。

「第二関門!落ちれば即アウト!それが嫌なら這いずりな!ザ・フォール!」

発目さんがサポートアイテムを駆使して抜けていき、それに誘発されたように個性を駆使して綱を渡る者と、這いつくばるようにして渡る者が出てくる。

『バランスはわりと得意なんだよね』

ちょうどよく風も吹いておらず、縄も緩まぬようきっちり結ばれている。助走をつけて縄に踏み出し、勢いで渡っていく。

「反則級のバランス感覚だな」

笑った人使は個性を使う気なのか誰かに話しかけにいくようで、何度か同じ手で先に進み、最後は落ちそうになったから少し反則をしたけれど誰にも気づかれなかったのか向こう岸に渡ってもどよめかれることはなかった。

「最後は地雷原!!」

聞こえてくる実況がこの先の障害を教えてくれるのは有り難い。

走りながら周りを確認する。目視する限り、今は大体二十位前後。俺の目指すのは上位ではなく二回戦進出。基準が明記されていないのは辛いけど、目標を三十位以内に設定してゴールを目指す。

既にいくつもの爆発音が響いていて、足元は穴が空いている。しっかり見ればたしかに色が違っていて見分けることも可能だろう。

足を踏み込もうとしたところで大きな音が響いて砂埃が舞った。

「1A緑谷追い越した!!」

観客の歓声と実況の声。

爆風と共に飛んでいったのは可愛い出久らしく、トップ争うをしている轟くんと勝己を追い越しにかかってるらしい。

弟が頑張ってるならそれ以上に頑張るのが兄だろう。被弾覚悟で走り始めたところで第二波の大きな爆発音が先頭で鳴り、出久がまた何かしたらしい。

「誰が予想できた!!一番に帰ってきたのはこの男の存在!緑谷出久!!」

素晴らしい出久の活躍を褒め称えるのは後にして、人の目が向こうに集まってるうちに走り、真ん中を越えたところで氷の道を見つけて笑う。先頭の轟くんとやらがトップになるため作った足場をそのまま走り、会場にたどりついて息を吐いた。

ざっと見渡すと二十人いるかいないか。目標とそこまで誤差がないそれにこれで二回戦に出場できなかったら辛いなと汗を拭う。

「出留!」

『あ、おかえり』

同じように会場に帰ってきた人使も周りを見据えていて、三十くらいかと零した。

『二回戦何人までいけるんだろうね』

「四十くらいはいけそうだけどな…」

汗を拭う人使と休憩所に向かう。一年生の参加者が全員がゴール、もしくは規定時間まで第一種目の障害物競走は終わらないらしく、水分補給のため用意されたペットボトルを受け取った。

そのまま隅に寄って腰を下ろす。

『乾杯しとく?』

「気が早いな」

笑ったのにペットボトルを掲げ俺の持つボトルにぶつけてから口をつけた。



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