ヒロアカ 第一部

あくびを溢してから一度伸びをする。窓から差し込む太陽光はまだなく、気温も低い。

ベッドから出て、準備を済ませる頃には約束の時間の30分前で荷物を持って家を出る。少し早足で目的地に向かえば既に人影があって、ポケットに手を突っ込んだ姿で俺を見るなり眉根を寄せた。

「遅え。寝坊かよ」

『支度に手間取って。おはよ』

「ん」

むっとした表情が直らないことに苦笑しながら勝己を見る。黒色の布地と深紅のラインが入ったトレーニングウェア姿。二週間程度見てないだけで随分久しぶりに感じる。

「いくぞ」

『今日はどれくらいやんの?』

「気が済むまで」

勝己が両腕の筋を伸ばすように軽くストレッチをするととんとんと靴の調子を確かめて走り出したから俺も続けて駆け出した。

日の昇りきらない、まだ薄暗い町を二人で走るのはもう小学生高学年の頃からの習慣だ。ヒーローを目指すに置いて体づくりは永遠のテーマだろう。筋トレを一緒にすることはないけど、代わりに持久力向上の有酸素運動と個性練習は一緒にやってる。

はっと短く息が出る。普段通りならだいたい今は5kmくらいだろう。横を走る勝己は顔色一つ変わっていない。体の熱さと息の上がり方に最近運動をサボりすぎたと痛感する。

「この程度でヘバッてんじゃねぇぞ!」

『あ〜』

姿勢やリズムが崩れたら意味がない。背筋を伸ばして元のリズム通りに勝己の横を走る。

空がほんの少し明るい紫色になってきた頃に次の目的地につく。

深夜には不良のたまり場にもなっているそこは今は使われていない工場で、工場だったためか防音効果がある壁に囲われたここは勝己の爆破音が周りに聞こえない。

「お前、最近個性使ったんか」

『んーや。元から勝己との練習ぐらいでしか使わないし、俺がおおっぴらにやるわけないじゃん』

「それもそうか」

ウエストポーチに入れていた飲み物を取り出して口をつける。ほんのり冷たい液体が喉を通っていって、二口飲んだところで離せば準備を終えたらしい勝己と目があった。

「さっさとやんぞ」

『ん』



日が昇りきる少し前。同じようにランニングして帰ってくれば出久の靴は玄関になく、早朝のトレーニングに出かけてるらしい。

靴を脱いでまっすぐ風呂場に向かい、シャワーで汗を流す。さっぱりしたところで水を拭い、服を着た。

思い出したように零れ出たあくびを噛み殺しながら歩いて部屋に戻る。朝出て行ったときと特に変わった様子はない。

ベッドに腰を下ろして流れるように上半身も倒せば天井が映る。目を閉じてるうちに少し離れたところから音が聞こえて母さんが起きてきたらしい。そろそろ朝ごはんの準備の時間かと体を起こして部屋を出た。




電車を降りて学校へと向かう道を歩く。左側の出久。右側の勝己。時折俺に声をかけてくるけどお互いに話すことはなくて、タイミングがかち合うことが多い。

そんな何回目かのタイミングで出久が俺の制服を引いた。

「兄ちゃん、今日朝何処か行ってた?」

『ああ、勝己と朝練してたよ』

「え!今度僕も一緒にしたい!」

『ん。そうだなぁ』

「ああ?!ざっけんな!誰が一緒にやるか!!」

「ひぃ」

唐突に凄んだ勝己に勢いで負けてる出久に頭を撫でて、勝己を引き離してからまた歩き始めた。

見えてきた学校と増え始めた制服にそろそろ離れる頃かとぼんやり思う。

校門を過ぎ、昇降口を抜けて廊下を進む。階がわかれるため階段のところで二人の背に向かって手を振った。

『じゃ、がんばれー』

「ん」

「うん!」

鼻を慣らした勝己と笑顔の出久の違いに苦笑いを浮かべて、俺も自分の教室に向かうため足を進めようとした瞬間に、あ、と大きな声が聞こえた。

「そうだった!兄ちゃん、かっちゃん!ご飯食べようね!」

『うん。楽しみだな』

「ああ!?なんで俺がお前と、」

「じゃあ今日は食堂集合だ!みんなにも伝えておくね!」

『おっけー』

「デク!!」

出久は叫ぶ勝己から逃げるように、軽やかな足取りで教室に飛び込んでいき教室内から賑やかすぎる喧騒が響いてる。

たまに知らない声がするのはきっとクラスメイトのはずで今日の昼にでも挨拶ができるだろうと階段に足をかけた。



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