ヒロアカ 第一部
『ただいまー』
「おかえり。出留」
靴を脱いでいれば顔を出したのは母さんで、キッチンにいたらしい。眠ったためか目の下のクマや青白かった顔色もマシになってた。
『うん、ただいま。出久は?』
「寝てる。疲れたみたいで…」
『出久は頑張り屋さんだなー』
不安そうに揺れた瞳を流すように手を洗って、冷蔵庫を開ける。買ってきたものを収めていく。
「ありがとう」
『欲しいもの見に行くついでだから大丈夫だよ。今日は何作ろうか』
「出留は休んでてね」
聞こえてきた声にちょうど荷物を収納し終わったから顔を上げる。
別に料理当番が決まっているわけじゃないけど、俺の手が空いているときは一緒に作ることが多い。更にここ数日は母さんも体調がよくなかったから必ず手伝っていたのに。
母さんはにっこり笑ってガッツポーズを見せる。
「今日のお母さんは休んだから元気だよ!出留、ありがとう!」
『…ん、そっか。じゃあリビングいるから何かあったら声掛けて?』
「ありがとう」
にこにこしてる母にここは任せようと空になったエコバッグを片して、部屋に置いてるタブレットとペンを持ってリビングのソファーに腰を下ろす。
そのまま足も上げて体操座りのようにして、太ももの上にタブレットを置いて電源をつける。アプリを開いて、ペンを持った。
勉強のためにタブレットを開くのはもう随分と昔からで、出久は授業も自習もノート派だけど俺は私生活はほとんどタブレットに纏めてる。
後から見直しやすいし、外でも確認が取れるからそうしてると言ったときに出久と勝己は何故か形容しがたい表情を浮かべていたけどアレはなんだったんだろう。
とんとんとペン先をあてて、文字を書いたり記号を選んでいく。課題をいくつか終えたところで足音が聞こえて顔を上げた。
「あ、兄ちゃん!おかえりなさい!」
早足で隣に座った出久に、タブレットとペンを横において頭を撫でる。
『おはよう出久、ただいま。それと、お疲れ様』
「ありがとう!」
へらりと笑った出久の表情に違和感を覚えて首を傾げる。
『なにか変わったことあった?』
意外にもぱちぱちと瞬きをした出久は心当たりがなかったようで視線を彷徨わせた。
「うーん。かっちゃんが兄ちゃんに会いたがってたくらいかな」
『勝己が?珍しいね』
「口には出してなかったけど、ずっとご飯別だったからかっちゃんも寂しいんじゃないかなぁ」
『前は一緒だったもんなー』
「あのね、僕もA組のみんなに兄ちゃんを紹介したいし、今度お昼一緒にとろうよ」
『そうしようか』
「ほんと!?いつにする!?」
目を輝かせて服を握った出久の笑顔の可愛さに胸が苦しい。両腕を出久の背に回して笑う。
『出久の好きなときでいいよ〜!』
「えっと、そうしたら…」
恐らくクラスメイトの名前であろう人名を呟きながらスケジュールを整理する出久は自分の世界に入ってる。髪を撫でてから腕を下ろせばまだ呟いているらしくその間にタブレットとペンを仕舞った。
「みんなに聞いたら兄ちゃんに教えるね!」
『うん、待ってる』
きらきらした目の出久の頭を撫でてから立ち上がる。
出久と勝己と昼を一緒にするなら、課題は前倒しで済ませて時間を作っておくべきか。
「出留、出久〜運ぶの手伝って〜」
『はーい』
「わ!今日はからあげなんだね!」
「二人とも好きでしょ?」
『母さんの作るからあげおいしいもんね』
「うん!」
大皿に盛られた大量のからあげに嬉しそうな出久の横をサラダボウルを持って歩く。最近はより一層体を鍛えてる出久は前より更に肉を食べるようになった。
摂取量がだいぶ増えているのに体型が以前よりも細くなってるのは鍛えてるからだろう。
そういえば最近勝己のトレーニングに付き合っていないし、俺も久しぶりに体を動かすべきかもしれない。ヒーローを目指してる人使もあれだけ身長があってそれなりに体格がいいから、鍛えてるなら声をかけてみるか。
誘うなら明後日の学校かなとぼんやり考えながら皿を置く。
並んだからあげにサラダ、味噌汁とオムレツ。
笑顔の出久を眺めて箸を取る。母さんと出久が食べ始めたのを見て俺も箸を伸ばした。
夜ご飯を終え、風呂を済ませて部屋に入る。通知ランプの光る携帯を取ると勝己から約6時間後の時刻と地名だけが送られてきていて、少し考えてから了解のスタンプを押した。
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