あんスタ

検索した結果、あのモデル瀬名泉と鳴上嵐が所属してるのはKnightsという高校生ユニットらしく、一緒にいたオレンジ色はリーダーの月永レオ。赤髪は朱桜司。眠たそうな黒髪の子は朔間凛月といい全員が同じグループの子だった。

confectioneryに挨拶をするつもりで行けなかった俺達はリハーサルに向かうにしては早すぎる時刻に暇を持て余すことは承知で会場に足を踏み入れる。

案の定スタッフさんが大忙しで準備しているところでまだまだリハーサルは始まりそうになかったけれど、隅っこで邪魔にならないよう時間を潰すことにした。

「最近は男子高校生でも痴漢に遭う時代なんだな…」

小難しい顔をした薫の言葉に翼は心配そうに首を縦に振る。

「僕は背も高くて、それなりに対抗できる見た目ですから遭ったことはありませんが……聞いたことはあります。…高校生で顔も整ってる子ですと、狙われやすいのかもしれませんね」

「心に傷を負ってしまったかもしれないな」

悲しそうな桜庭と翼に俺も頷いて息を吐く。弁護士の頃にもそういう相談を受けることは意外と多くあった。

大抵は小柄だったり気の弱そうな人がターゲットで木賊くんも口を開くと活発なタイプだったけれど、黙ってるときはきりっとした瞳が伏せがちでお淑やかな空気を纏っていたから標的にしやすかったのかもしれない。

重くなってしまった空気に飲み物を買ってくると一旦会場を出る。

きょろきょろしながら自販機を見つけ出して小銭を入れて三本飲み物を抱えた。

急ぎ気味の足音が近づいてきて顔を上げる。

「あ~あかん、ほんまあかん、もぉまず顔がええねん。あの顔好きすぎる。今すぐ整形して欲しい」

早足で廊下を闊歩するのは木賊くんで、小声、その上早口で言葉を溢してる。心なしか頬は赤くて眉尻が下がってた。

「言葉もゲロ甘いし、最近のはくあは何目指してるん??あれがスパダリか?とっくに惚れてるわ、阿呆。神や神や思うとったけど最近のあいつ色々甘すぎる、心臓保たんしもう堪忍してほしぃわ」

早口言葉かなと思うレベルの早口なのに全部聞き取れてしまった聴力が憎い。横切った木賊くんは耳まで赤く、完璧に照れてるらしい彼は俺に気づくことなく廊下の角を曲がっていって足音が遠ざかる。

今日初めてあったばかりのひとの関係に口出すのは野暮だろうと聞いてしまったことを散らすように首を横に振って足を踏み出す。行き道をたどるように戻ろうとしたところで声が聞こえた気がして足を止めた。

「今の事務所で本当に満足されていますか?当社ならもっと貴方が輝けます」

スカウトっていうか、引き抜きなんて初めて見たかもしれない。

思わず隠れてしまったけど壁の端から顔をのぞかせる。スカウトマンらしいスーツに捕まっているのは見覚えのある顔で、笑みを繕ったまま首を横に振った。

『お誘いくださいましてありがとうございます。しかしながら僕は今の事務所以外は考えておりません』

やんわり断るかと思っていたけど、かなりきっぱりと断った紅紫くんは意外で、しかしながらスカウトマンが諦めるわけもなく、かけていた眼鏡の位置を直すとじっと紅紫くんを見据えた。

「確かに貴方が今所属されているのはとても大手ですが、貴方の立ち位置に不満はないのですか?」

『いいえ、なにもありません』

「、君ほどの人間がユニットなんてもので活動していることはおかしいんですよ!」

聞く耳を持たなそうな紅紫くんに口調が崩れる。少し叫ばれるようにして吐き出された言葉に唇を結って、静かに息を吸った。

『………―それは、どういう意味でしょうか?』

笑みの空気が変わる。今まで見てきた人好きのするものとは別の、壁を作った笑み。

気づいているのかいないのか、話を聞いてもらえると思ったらしいスカウトマンは勢いをそのままに口を開いた。

「今の君は飼い殺されているのと同義なんですよ!あの紅紫はくあを活動停止させて?その上、箱でしか仕事を受け付けない?君はあんな子供の遊びの延長線のようなグループにいるべきじゃない!ユニットだってもっと適任者がいるし、そもそも君は、独りでいることにこそ意味があり、価値がある!!」

『………そうですか』

肩で息をしそうなくらいに荒れた口調のスカウトマンを見据える紅紫くんの目は冷たい。喉がなったのはスカウトマンか俺か、紅紫くんは携えていたはずの笑みを消して言葉を吐く。

『僕はソロで活動する気も、今の皆以外とユニットを組む気もありません。御社のご期待に何一つとして添うことは出来ませんので、今回のお話は遠慮させていただきます』

本当に高校生なのかと思うような強い眼差し。まっすぐ射抜かれているスカウトマンは目の前で見ている分突き刺されていて後退ってた。

「っ、わかりました」

『はい、申し訳ございません』

にっこりと笑みを携えるから背筋が凍りそうになる。早足気味に離れていったスカウトマンを見送って、視線を戻すと紅紫くんは無表情で、驚きから目を擦って再び見直すと姿がなかった。

「あれ?」

不思議に思うより早く、落とした視線に映った人影に紅紫くんがしゃがみこんでいるのに気づく。両肩を抱えて小さく、浅く息をしているらしい。

『だいじょうぶ、大丈夫、俺は大丈夫』

暗示のように消え入りそうな声量で唱えられる言葉と震える肩。さっきまでとは全く違うその姿に驚きから固まっていれば一分もしないうちに、唐突にポケットから携帯を取り出して耳にあてる。

『……はい…。泉、さん、?……はい、大丈夫です。戻れます。……ん、…三階の、非常口前…』

電話相手に居場所を伝えているらしく言葉の通りならば合流するんだろう。

たまたまとは言え、多分見てはいけない部分を見てしまって、聞こえてきた走るような足音にバレないよう急いで会場に戻る。

飛び込んだ会場にはさっきよりはちらほら人がいて、桜庭と翼が俺を見て目を瞬いた。

「ずいぶん遅かったな。何かあったのか?」

「輝さん、顔色が悪いです」

「あー、いやー、ちょっと。まぁ気にすんな」

ペットボトルを差し出せば納得いかなそうな表情で受け取られて、ちょうど足音が近づいてきて扉が開く。現れたのは他のアイドルで、腕時計の針がだいぶ進んでた。

俺達よりも年上のアイドルユニットの二人が適当な場所に腰掛けて、すぐに再び扉が開く。向こう側からはKnightsである五人組が揃って現れて俺達からは少し遠い場所に腰を据えた。

「セッちゃん。彼奴、大丈夫そうなの?」

朔間くんが頬杖をついて問いかける。瀬名くんが携帯を見据えたまま息を吐いた。

「“とりあえずは”って感じ。立て続けに負荷がかかってるから崩れそう」

「おう!セナ!いざとなったら構い倒してやろうな!」

「はぁ〜?アンタがいなくても俺一人で十分なんだけどぉ?」

「ふふ。喧嘩しないでちょうだい?泉ちゃんったら、嫉妬はだーめ♪」

「ちょっとぉ?ふざけたこと言わないでくれる?」

「瀬名先輩とleaderは本当に先輩がお好きですね。凛月先輩はよろしいのですか?」

「あー、う~ん、俺はそういう感じじゃないからぁ~…」

別に聞き耳を立てていた訳じゃないけど聞こえてしまった会話になんとなく顔を合わせる。

「confectioneryの皆様がお迎えにいらしてましたが、本当に先輩方はghatが固いといいますが、本当にknight…guardianの雰囲気がありますよね」

「あの四人は紛れもない紅紫の従者…自他称認める臣下だから、スーちゃんがそう感じるのも仕方ないかもね」

「ミドリは毛色が違うみたいだけどただのツンデレだからな!セナと一緒!」

「はぁ?!全然違うし!」

「うふふ。あの子達も本当に変わったわよね♪昔はあんなに感情を出す子たちじゃなかったじゃない?」

「感情どころか倫理観もなにもかもぶっ飛んでたし、正直、よく彼処まで懐柔できてるよね。紅紫ってなんなの?」

「んふ♪それは紅紫くんに聞かないとわからないわ?」

男子高校生らしい、ぽんぽんとリズミカルに交わされる談笑。聞こえている内容はたまに不穏な影があったけれど五人ともわちゃわちゃとしててハイジョの子たちと変わらない賑やかさがある。

持参したらしい飲み物に口をつけたり、テーブルに突っ伏しながら話したり、携帯を触ったり。自由に時間を潰しているうちに朱桜くんが顔を上げた。

「そういえば、もう間もなくrehearsalの時間ですね。
confectioneryの皆様は間に合いますでしょうか?」

つられて時計を見るとリハーサル開始まで後30分程で周りには大体のユニットが集まってる。椅子も後10席分程しか空いてなくてずっと携帯に触れてた瀬名くんがすっかり見慣れたしかめっ面で息を吐いた。

「もう来るってさ」

「準備は終わってたみたいだったけど、結構ぎりぎりね?」

「彼奴の立て直しに時間かかったっぽいよ」

「そんなにヤバイの?」

「だからさっきも“とりあえずは”って言ったでしょ」

頭の痛そうな瀬名くんに月永くんが眉根を寄せて、朔間くんは目を逸らし、鳴上くんと朱桜くんが心配そうに顔を見合う。

「私、confectioneryの皆様とのライブ楽しみにしていたんですが…ouch!」

「はぁ。あのねぇ、彼奴もプロだからステージは仕上げてくる。アンタが心配する必要はないよ」

泣きそうに表情を暗くした朱桜くんにデコピンをかまして、不格好だけどきっと瀬名くんは励ますようなは言葉を並べる。

朱桜くんが唇を結ってから頷いて、表情を綻ばせたところで右側から大きな声がした。




『ごめんね』

泉さんに支えてもらった上に皆に迎えに来てもらうなんてなんて情けない。

本番前にあまりにも崩れすぎていて迷惑をかけてる。

謝れば俺と手を繋いでる黄蘗が笑った。

「だいじょーぶ!はーちゃんはなんにも悪くないよ!」

「謝る必要はない。むしろ今回謝ってくるべきなのは心労を掛けてきているアイツらだ」

先頭を歩くシアンが同調してその隣の木賊が頭を掻きながら頷く。

「こないなことになるなら一緒に控室戻ればよかったわ」

『木賊のせいじゃないよ』

「ふふ、いざとなりましたらそのスカウトマンを探し出して処分いたしましょう」

「うん!そうしよ!」

「せやな」

「そうだな」

『えっと、落ち着いて?』

「冗談だよ!」

「けど、まぁ、それぐらい自分のこと思ってるから、もうちょこっとだけ我慢してぇや」

四人が同じように柔く笑むから息を楽にして笑う。ほっとしたように肩の力を抜く四人にまた気を使わせてしまってるなと思いながら、ようやくたどり着いた目的地へと続く扉に手を伸ばした。

「つーか、紅紫も見る目ねぇよなぁ」

聞こえた声に伸ばしていた手が止まる。この声は確か、今回共演する予定のベテランアイドルのはずで、それに賛同するように頷いたのはユニットの人だろう。

「彼奴、なんであんなやつらとユニット組んでんだろーな」

「あいつら見てくれはそれなりだけど、なんも出来ない一山いくらみたいな奴らじゃん。あれならソロのほうがよっぽど売れんだろ」

「あ、それともそれで格差つけて売ってんじゃね?」

「そういうね!うっわ、くずいわ〜」

「最近の露出もすくねー落ち目の奴だし、そんなことでもしねーと出てこれねぇんだろ?」

そんなことないって今すぐに飛び出して否定するべきなのに、混乱する頭と苦しくなり始めた息に目の前が霞む。

ああ、また、勝手なことばかり、お前らに、なにがわかる。

がんっと向こう側で大きな音がした。

「あのさ!そういうのよくねーとともうんすけど!」

これは、誰の声だっけ

「はぁ?」

「こ、紅紫くんのことも、一緒にいる人たちのことも、貶しめるのは最低だと思います!」

「ああ?」

「そうやって人を貶めでもしないと自身の存在を確立できない弱者は大変だな」

「んだよてめーら喧嘩売ってんのか!?」

ざわつく向こう側。ピロンと短い電子音がポケットから響いた。

「はぁ〜あ。ほんと、これだから馬鹿って嫌いなんだよねぇ。アレと俺が同じ人間だと思いたくないんだけどぉ」

「あはは!きったないやつばかりだな!空気が淀んでる!反吐が出る!…こんな場所だから、彼奴が死んじまうんだ」

椅子を引いた音におそらく立ち上がったんだろう二人の声が届く。同時に後ろから伸びてきた手が俺の代わりに扉を開け放った。

「おっはよーございまぁす!今日はよろしくお願いしまぁす」

「おはようございますぅ。今日はよろしく頼みますわ」

「おはようございます。本日はよろしくお願いいたします」

あぁ、みんな怒ってる。

前にシアンが立って俺を隠すから顔は見えないけど、三人とも声が刺々しい。離れていく三人と入れ替わるように近づいてきた足音は俺の両腕を取った。

「はくあをよろしくお願いします」

「ふん、さっさと行くよ」

「すすめすすめー!!」

『あ、え?あの?』

囚われた宇宙人のように引きずられ始めた俺に、シアンは笑って、一歩進み扉を閉めた。




笑ってるのに笑ってない。そんな表情の四人が入ってきたことにより室内は静まり返ってた。

閉まりかけの扉から出ていった二人に両サイドを固められて引きずられる紅紫くんが見えたけど、あれはどこに連行されたんだろう。

空気の重さをものともせず足を進める四人に、一人がゆるりと手を上げた。

「こっち座りなよ〜」

「うん♪さっくんありがとぉ〜!」

スキップでもするように歩いて空いてる席に腰掛けた黄蘗くんに鳴上くんが微笑む。

「うふふ、さっきの美味しいお茶のお礼よ、気にしないでちょうだい?」

「けったいなやつやなぁ。しかしまぁ…おたくんとこのリーダーと先輩、借りてごめんなぁ?」

「ん〜?いいよいいよ別に。むしろ出てってくれなかったらあの二人イライラしすぎててやばかったし」

「はい、貧乏ゆすりの速さにそろそろ火がつくか床に穴が開くんじゃないかと気が気ではありませんでした」

「そうねぇ、貧乏ゆすりなんて普通ならしない二人だから仕方ないわよ」

「でも司は思うのです。いくら苛立っていて、本当のことだとしてもleaderも瀬名先輩も、もう少し言葉をoblaatに包むべきですよね!」

「そんなことはないぞ、朱桜。あの二人はだいぶオブラートに包んでいた」

「そぉそ。オブラートとどころか誕生日のラッピングくらい包み込んでたよ。あの二人のがち怒りはやばいからね?スーちゃん」

「うええ、あれで包んでいたんですか…?」

「はい。先輩方も僕達も、優しさで八割ほど成り立っておりますので、言葉は大変丁寧に包装いたしております…♪」

「うふ、柑子くん楽しそうねぇ♪」

オブラートに包むべきなのは朱桜くんの言葉じゃなかろうか。さっき出ていった二人が吐いた台詞は確かにその通りだったけど大きな声で朱桜くんも同意を示してしまってる。

反論にあったことにか、それとも当事者に聞かれていた気まずさか、さっき紅紫くんを貶していたユニットの三人は舌打ちを噛まして椅子に座り直す。

目の奥が笑ってないのはconfectioneryと、朔間くん。鳴上くんと朱桜くんは眉根を寄せて嫌悪感を顕にしつつも五人を心配そうに見てる。

不意に椋実くんの視線が上がって、ばちりと目が合った。

思わず肩を揺らした俺に桜庭と翼も同じように目を丸くして、椋実くんは立ちあがる。周りの視線が椋実くんを追っていくのを気にも止めていないのか足を進めると俺達の前で止まった。

「感謝する」

「あ、え?」

「他事務所、義務は生じない。本来無意味。だが行った。理由は不明だが、故に俺は、」

「あ~ストップストップ、ちょい待てやシアン!」

淡々と単語に近い言葉を吐き出していく椋実くんに面食らう。そんな俺達に気づいて関西弁が椋実くんの言葉を遮った。

青の隣に緑色が立つ。すんませんと頭を掻くと椋実くんを見上げたあとに笑った。

「あ〜…えーと、要約するとなんですけど…、シアンはDRAMATICSTARSの皆さんがはくあのことを庇ってくれたことに感謝してるんです」

「………それは…」

桜庭が言葉を詰まらせれば木賊くんが眉根を寄せたまま口角をあげる。

「正直…結構多いんよ。こういう場所は特に…良くないものが集まって、はくあは目立つから…_すぐ汚いもんが群がる」

「、」

ぞっとするくらい冷めた瞳に息が止まりそうで、翼が目を丸くして固まる。すぐに息を吐いて首を横に振った木賊さんは頭を掻いて椋実くんの服を引いた。

「ゴミの始末は僕達の仕事ですね」

その横にいつの間にか柑子くんと黄蘗くんが立っていてにっこりと笑ってる。

「DRAMATICSTARS様。この度は庇ってくださいまして誠にありがとうございます」

「僕からもありがと!今度はーちゃんとみんなで改めてお礼しに行くね!あ、これ美味しいからあげるっ!!」

二人の表情は初めて会った時と同じく穏やかに見えて、桜庭が眼鏡を直して目を逸らした。

「僕は僕が正しくないと思ったから正したまでだ。君たちに感謝されたくて否定した訳ではない」

「困ったときはお互い様です。君たちは僕達が道に迷って困っているときに快く案内してくれましたし、紅紫くんも僕達のお願いを快く聞いてくれて_…優しい人だから、優しさを返した、それだけです」

飴を受け取った翼がおっとり笑えば四人は目を丸くして互いに顔を合わせる。随分と小さい子みたいな表情を浮かべるから少しアンバランスさを感じたけれど俺も受け取った飴を握って目を合わせた。

「俺は頑張ってる人を貶すのを見逃せなかった、それだけだ」

「…………理屈に合わない行動をするなんて、変な人間だな」

ぱちぱちと瞬きをして首を傾げた椋実くんに黄蘗くんが嬉しそうに笑う。

「しーちゃんにはまだ難しい?」

「難しい。はくあに聞けば理解できるか?それとも俺には早いか?」

「変だなって思えたんなら理解できると思うよ?頑張ろーね、しーちゃん」

「ああ」

黄蘗くんと椋実くんのやりとりに木賊くんと柑子くんも頷いて、鳴上くんが苦笑いを零した。

「シアンちゃんってああやって感情増やしてるの?」

「場合によりますが、大体そうですね?」

「私は今、もしかして素晴らしい場面に立ち会ったのではないでしょうか…!」

「スーちゃんこの間ロボットが感情を持つ映画見てたもんね」

「ええ!まさしくこれはあのsceneです!」

目を輝かせる朱桜くんに朔間くんが頭を撫でて、鳴上くんと柑子くん、木賊くんが顔を合わせて言葉をかわす。

なにか口を挟むか、見守るべきか、迷ったところでスタッフが声をかけてリハーサルが始まった。

順番にステージの広さや位置、音を確認して場合によっては一曲歌ったりしていく。

リハーサルが始まったのにもかかわらず、見渡してもあのとき出ていった月永くんと瀬名くん、更には連れ出された紅紫くんの姿も見当たらない。

「あ、あの、揃っていませんが…」

心配そうに翼が問い掛ければうふふと鳴上くんが笑い、あーと朔間くんが首を傾げた。

「ナッちゃん、どこにいると思う?」

「控室まで戻ったのかしら?」

「かもね。人目がないところってあまりないし…鍵かけられてたら俺達どうしようか」

「いざとなったらconfectioneryの方にお邪魔しましょ♪」

「賛成」

二人のやりとりに目を瞬けば聞こえてたらしい柑子くんが振り返ったのが視界に入る。

「ご心配をおかけして申し訳ございません。恐らくリハーサルには来られないと思いますのでこのまま僕達だけでリハーサルは行います」

「大丈夫なのか?」

俺の問いかけに全員が不思議そうに顔を合わせて、迷い無く頷いた。

「ええ」

「はい」

「うん!」

「ああ」

「ん」

「まぁね」

「任せてちょうだい♪」

最後に鳴上くんが力こぶを見せるときのような、ガッツポーズを作るから今度は俺達が顔を合わせる羽目になった。嘘や虚勢はない、そんな当たり前みたいな空気に驚くなというのが無理な話だ。

言葉を失う俺達に四人と三人はそれぞれ位置の確認と音だけを聞いてどこのユニットよりもあっさりとリハーサルを終わらせて舞台を降りていく。

揃って控室に帰るのであろう七人はあっという間に姿を消して、俺達もしっかりリハーサルを行い、時計を見上げる。

リハーサルが最後に近かったのもあり、本番まで時間は大体一時間。着替えてメイクをしたらいい時間だろう。

来た道を戻って控室に入る。出たときと室内にそのまま足を進めて椅子に座る。

「座る前に着替えるべきだろう」

「あ、そうだったな」

「輝さん、お疲れですか?」

心配そうな翼の顔に苦笑いを返して首を横に振る。立ち上がって衣装を受け取り、改め座った。

鏡を覗き込むと冴えない表情の自分が映っていて息を吐いてから、両手で頬を叩き目を開く。

「よっし!」

「本番前に怪我を作る気か?」

「気合注入しただけだよ!」

桜庭は意味がわからないと溢して、翼が笑って僕も気合注入とさっきもらった飴玉を口の中に転がす。

三人で控室を出て、比較的時間もあるからゆっくり会場へ向かう。もう観客は会場入りしている時間のはずで息を吸って、吐いて、それから足を止めた。

見えたのはオレンジ色と銀色と、それから黒色。

桜庭と翼も咄嗟に足を止めて唇を結い息をひそめてる。

『俺は、また、間違えてませんか?』

震え消えてしまいそうな声が聞こえた。泣いているんじゃないかと思ってしまいそうな声に二人は笑う。

「ばっかじゃないのぉ?」

「お前は本当に馬鹿だな!」

片や鼻で、片や花のように、雰囲気は違うものの表情を綻ばせると、手を頭に乗せて優しく動かす。

「間違ってるか正解かなんてお前が決めるんだよ!ほら!顔上げろ!」

「しろくんが間違いだなんて言ったら、ついてきてるあの子達は何なわけ?」

二人の言葉に妙な間を置いて、それから顔を上げる。

『………その理論は強引ですし、ここでみんなを出すのはずるいです』

「強引??昔お前が俺に言った言葉だろ??」

「ふふ、痛いところはつくためにあるんだよ?」

二人の激励に紅紫くんは一度俯く。堪えるような間を置いて顔を上げればもういつも見る笑顔を浮かべていてさっきまでの不安に揺れる瞳は消えていた。

『そうでしたね。俺がルールです』

「おう!そのきっもちわるい作り笑顔!やっと出たな!」

「はいはい、その調子だよ。それでこそしろくんだねぇ」

褒めてるのか貶してるのかわからないけどこの三人には三人だからこその意味を持つんだろう。全員笑って、それからさっきまでの異様な空気はどこへやら。三人は仲良く扉をくぐって行って、俺達も顔を合わせてから首を傾げて扉に手をかける。

扉の向こうにはほとんどの出演者が揃っていて、悪態をついたユニットはconfectioneryとKnightsを視界に入れて眉根を寄せてた。

ぎすぎすとした裏方。そんな空気を知るわけもない向こう側からはファンの今か今かと沸き立つ声が聞こえてる。

スタッフの指示により、段取りの通り、観客席側の照明が落ちてスクリーンいっぱいに動画と音楽が流れ始めたのが聞こえる。

予定通り順番にアイドルたちが出ていってパフォーマンスを見せる。

俺達は最後から三番目。その前がKnightsで、その更に前がconfectioneryだ。次に迫るconfectioneryの出番。

ずっと静かで唇を結んだままだったその五人組の一人が胸元で拳を作る。

『………_俺は、みんなを信じてる』

儚く笑った紅紫くんに、言動を盗み見ていたらしい全員が息を詰める。応えるように笑ったのは四人だけで、揃いも揃ってにんまりと口角を上げた。

「右腕として、答えを見せないといけないな」

「はーちゃんのためなら、僕、本気だしちゃうよ?」

「…まぁ、そういう契約やし、今日は借りがあるからなぁ」

「貴方に求められるなんて…とても気分があがりますね…!」

スイッチが入った。そう表す以外に例えようがない。空気を張り詰めさせるレベルで切り替わった四人に背筋がぞくぞくとして、そんな四人の視線を受ける紅紫くんは表情を綻ばせた。

『うん、ありがとう』

黄蘗くんが紅紫くんに一度抱きつき、柑子くんが膝をついて右手を取るなり手の甲に唇を落とす。椋実くんが頬にキスを贈って、木賊くんが視線を迷いに迷わせてから紅紫くんの髪留めに唇をくっつけて逃げるように走り出した。

一連の流れにぽかんとしてる俺達を置いてけぼりに、紅紫くんも微笑んで足を進め、五人はそれぞれの速度で歩みだす。

真っ暗なステージ。焚かれ始めたスモークの少し甘い香り。

かつんかつんとヒールの音が響いて察したファンが叫んだ瞬間に電気がついた。

三角系のような体系で紅紫くんを頂点にしていた五人は曲にあわせて踊り始め縦横無尽に移動する。音にはめるように順に動いてポーズを取った瞬間、空気が変わった。

『真っ赤なルージュ
油断してると 怪我するわよ
キレイなだけじゃないの
いつだってそう
知らないふりを 装ったって
にじみ出てくるのよ
愛情に 飢えてるだけ』

ずっと真ん中にいて、そして歌い始めた紅紫くん。視線を奪って掴んだ彼にさっきの嫌味な先輩アイドルはほらとでもいいたげに鼻で笑ったけど、逆に俺は首を傾げた。

なにか、違う。

そう思った瞬間に微笑んだ紅紫くんが後ろに下がって、両サイドにいたシアンくんと黄蘗くんが前に出る。

『「「詮索するのは もうあきあきなの
隠し事はもっと上手にしてよ 」」』

そのまま三人が中心で歌い踊り、二人が手を叩き始めて、三人の寸分狂わず揃った指先にはっとした。

「ぴったりなんて、もんじゃない」

実力がある紅紫くんについていくどころか肩を並べる。それがどれだけすごいことなのか、気づいた人は目を見開いて息を呑む。

流れるように踊っていて、いつの間にか紅紫くんのセンターから黄蘗くんのセンターに、そしてシアンくんがソロで歌っても、木賊くんがセンターになっても見劣りしない。夢中になっている間にラストのサビになっていた曲は柑子くんがセンターを飾って、曲が終われば誰も最初と同じ顔はしてなかった。

ああ、もう、ここはこの子たちの世界だ。

唐突に光が絞られて薄暗くなった空気に小さく甲高い電子音が一つずつ鳴り響き始めて、すぅっと全員が目を細めた。

黄蘗くんを中心としてゆっくりと二歩、美しく進んだと思った瞬間に五人が揃って踊り始めた。

「「「black out craze your dream
その向こうに 潜ませたdeepなrealty
ah break your beat
この世界に その心
round and round and round」」」

激しいながらも色気のある踊り。流される視線。

「っ、すっごくかっこいい…!」

翼の漏れだした感嘆に、桜庭は怒ることもなく食い入るようにステージを見つめてた。

どこかのアイドルのファンだったらしい観客も魅了して歌い踊る。吐息すら魅せて笑う彼らから誰も目を逸らせないでいるらしく、バックヤードは気持ちが悪いくらいに静まり返ってた。

誰だ、あの子達を一山いくらなんて言ったの。ファンの派閥、垣根、確執を凌駕して目を奪うことなんてだれでもできることじゃない。

いつの間にか溜まってた唾を呑み込んだ。

「本物の、アイドル_…!」

目を輝かせて五人を見つめる。くるくると場所を移動しながらも正確に距離を保ち、楽しそうに歌って踊ってる。可愛らしくも格好良く、曲によって雰囲気をガラリと変える五人は、どんどん曲を消化していく。

トークタイムを取る気はないのか息継ぎの間もないような、無駄口を叩く時間は作らないけど観客が息を呑んだり歓声をあげたりはできる絶妙なタイミングで音を奏でて魅了していく。

「「早く 手と手」」

「繋いで」

「最後に一つだけ…」

『溺れるくらい愛してよ』

囁くような紅紫くんの言葉の後、五人がそれぞれ思い思いの笑顔を見せれば観客の声が揃った状態で悲鳴混じりの歓声として上がった。

五人はそのままサビを歌って音にあわせて踊りきり、最後にまとまってポーズを取る。ちょうど切れた音に観客が歓声を送って、五人は立ち上がると手を振ってステージを後にした。

戻ってきた四人はにこにことしていて、一番最後を歩いていた紅紫くんが柔く笑む。

『…ありがとう』

掠れてるくらい小さな声なのにとてもよく聞こえて、四人は笑顔を零す。

「僕!はーちゃん大好きだもん!」

「はくあ、これが俺の答えだ」

「全ては貴方のために」

「…これからも、よろしゅうな」

独特の絆みたいなものを見せつけられて言葉を発せない俺達。異様に静まり返った舞台袖に大きな笑い声が響いた。

「いいステージだったな!」

声の主は楽しそうな月永くんらしく、呼応するように瀬名くんがにんまり笑う。

「アイツらに負けてちゃ世話ないよねぇ?」

「さぁ、全部食らってやるぞ!」

「ふぁ〜ふ…よし…目、覚めたぁ」

「あら!みんなやる気満々ね♪」

「Marvelous!皆様、素晴らしく目が輝いておりますね!」

朱桜くんが嬉しそうに声を張ったところで月永くんが口角を上げる。

「さぁ!剣をとれ!敵をすべて薙ぎ払え!俺に忠誠を誓わない奴は皆殺しだ!!」

「ふふ。王様ったらやる気満々だねぇ?」

「くまくん、あたりまえでしょぉ?ここをどこだと思ってんのぉ?」

「全員目を開いたか?油断したら背後から刺されて、なぶり殺される。…_ここは、戦場だぞ?死ぬ気でKnightsを魅せろ」

ぺろりと唇を舐めた彼は獰猛な肉食獣みたいに目が爛々としてて自信が満ちあふれてる。ぞわりとした感覚が背を這っていって、同じように翼も腕をさすってる。

五人は殺意高らかに、confectioneryと視線を交わすとステージに上がる。

confectioneryと違いトークはする派なのかお姫様とファンを呼んで一人二言ずつくらい話してから流れ始めた音楽に合わせて踊り始めた。

「ゆ、夢ノ咲学園こえぇ…どんな教育してんだ…?」

「これが高校生なのか…?」

あまりの殺意の高さと異様なやりとりに顔を青くしてしまうのは仕方ない。うちのハイジョの五人を少し見習ってほしいくらいに物騒だ。

それでもその殺意によるものなのかどちらのグループも統率はとれているし、パフォーマンスの完成度だって高い。

どれだけの時間をかけて努力したのか、苦労を匂わせることない完成された舞台は桜庭が魅入ってしまうくらいにとても美しい。

Knightsもステージを降りて、そして俺達を見つめて笑った。

「バトンタッチだ!」

にっかり笑った月永くんはさっきまでの殺意はどこにも見当たらない。

年相応かそれよりも幼く見える笑みを浮かべていて両手を大きく上げてるから頷いた。

「ああ!confectioneryとKnightsには負けねーぜ!」

「はい!」

「はぁ。おい、二人とも力みすぎてから回るなよ」

「桜庭さんも楽しそうですね!」

「俺はいつもどおり完璧なパフォーマンスをするだけだ」

桜庭と翼が歩いていって、不意に視界に入った黒髪と目が合う。

向こうも俺達を見つめていたようで、黄蘗くんと木賊くんが大きく手を振ってくれ、椋実くんと柑子くんは微笑む。紅紫くんは何も言わず、何故か眩しいものを見たときみたいに目を細めた。









「すっごくどきどきして…ファンになっちゃいました…」

すべてのユニットがパフォーマンスを終えて、ほぼリアルタイムで集計された投票の結果、上位を華麗に奪っていった二つのユニットは全員笑顔で、何故かメンバーが入り乱れてる。

アンコールの疲れすら見せないその表情に若いってすごいなと感嘆の息を吐いた。

「うふふ、confectioneryの演目、とってもかっこよくて可愛かったわ♪♪」

「ありがとうございます。Knightsの皆様も華麗なステージでしたね」

「はぁああ!!私、とても感動いたしました…!先輩!またご教授ください!」

「自信持ちぃ。司すごかったで?前よりもキレ出てたわぁ、さすがやな!」

「はぁ〜。久しぶりに本気出したから目が冴えちゃってやばいんだけど。眠れなそぉ…」

「あはは!じゃあみんなで打ち上げだね!えっと、今日どこだっけ?」

「よし!カラオケだ!100点取るまで帰れないぞ!」

「はぁ?ばかじゃないのぉ?今日はもうしろくん家で終わりにしな!」

「おお!いいないいな!じゃあそうしよう!」

『え、僕の家ですか?』

ライブ後にカラオケの発想も大概だが、人ん家での打ち上げの提案もなかなかだ。

若い十人のやりとりに苦笑いを浮かべれば椋実くんが首を傾げる。

「たしか今はくあの家は何もなかった気がするが…何か頼めばいいか?」

『うん?シアンまで肯定的になったら僕の味方がいなくなるんだけど?』

「あら!アタシ紅紫くんのお家初めてだわぁ!こんなことなら可愛い格好してくればよかったわね!」

「ふふ、紅紫の秘密を探るチャンスだよねぇ…。どこから探そうかなぁ…?」

「っ!私、こういった行事はあまり経験したことがないのでとてもワクワクいたします!」

楽しそうに笑う三人とにやにやしてる六人。紅紫くんは目を瞬くと小さく息を吐いて笑った。

『流石に僕もこれから何か作る気にもないから、食べ物も飲み物も途中で調達しようか、シアン。…月永さんも、泉さんも、それでいいですよね?』

「そうだな」

「仕方ないねぇ」

「異議なーし!」

『それと、朔間くんは柑子と行動して?』

「えー。それじゃあ何も探せないじゃん」

「ふふ、かしこまりました。必ずやご期待に添った成果を用意いたしましょう」

『遅くなると思うから、鳴上と朱桜くんは必ず家に連絡を入れてね』

「あら、そうね、忘れてたわ?」

「はい!かしこまりました!」

『それで木賊は帰りの電車は僕の隣だから勝手に動かないこと』

「はぁん?!なんでやねん!」

「はーちゃん僕はぁ?」

『黄蘗は右側で、木賊が左側だよ』

「はーちゃん大好き!」

『うん、僕も好きだよ』

抱きついてきた黄蘗くんの頭をにこにことしながら撫でる。きれいにまとまったっぽいやりとり。放置された木賊くんがぷるぷると震えた。

「話流すな!ボケ!!」

「木賊ってセッちゃんと同レベルの高度なツンデレだよねぇ」

「はぁ?なにそれ聞き捨てならないんだけどぉ?ちょーうざぁい」

ステージ前はあんなに殺気立っていたのに、今はハイジョの子たちとかわらないくらいに賑やかであまりの雰囲気の違いに目を瞬く。

わいわいと喋りながら控室に向かうことにしたらしい一団が歩き始めて、一人だけ足を止める。九人は早く来るように言付けて歩いていってしまって、一人残った紅紫くんは俺達の向かいに立つと頭を下げた。

『本日はお心遣い誠に感謝いたします』

「あ、え?!」

翼が驚いて肩をはねさせる。桜庭がむず痒そうな顔をしたところでゆっくり紅紫くんは体を起こした。

『お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありませんでした』

「あれは別に君たちが悪いわけではないだろう」

『そう言ってくださると、とても気持ちがらくなります』

柔らかな笑みはどちらかといえば先程仲間内で浮かべていたものに近い印象を受ける。

紅紫くんは俺達ひとりひとりと目を合わせてから口元を緩める。

『皆様のパフォーマンス、とても素晴らしかったです。…_Starと名前がつくユニットは、一等星になる運命なんでしょうね』

にっこりと穏やかに微笑む紅紫くんに言葉を失えば、小さく笑い声を転がした。

『変なことを言ってしまってごめんなさい』

あまりに優しい表情だったから目が離せなくて、何も言えない俺達に右手を差し出す。

『…_315プロダクションのDRAMATICSTARS…一皆様、とても素敵でした。またご縁がありましたら、よろしくお願いいたします』

「あ、おう!!confectioneryもよろしくな!」

咄嗟に手を出して握る。俺よりも小さな手は年の差を物語っていたけど、笑顔には貫禄を感じるから人は本当に見かけによらない。

手を放して、もう一度頭を下げた紅紫くんが踵を返す。迷いのない足取りで会場を出ていくからきっとこの後は全員で打ち上げをするんだろう。

握手した右手をなんとなく見つめてれば背が叩かれて前のめりになる。振り返れば目を逸らしてる桜庭と驚いた顔の翼がいた。

「いつまで呆けてるんだ。さっさと帰るぞ」

「あ、」

「今日の敗因をまとめて、次に活かす。早くしろ」

控室に向かうためか歩き始めた桜庭の背中に何を言おうか迷ったところで翼の転がすような笑い声が鼓膜を揺らす。

「桜庭さんが打ち上げに誘ってくれるなんて珍しいですね」

「……_そんだけ、影響されたってことだろうな」

俺達は初めて夢ノ咲学園のアイドルと仕事をしたけど、今後きっと何度も夢ノ咲学園のアイドルと出会うだろう。

今まで身近にいなかったタイプのアイドル像は、それぞれ全く違う輝きをしていたのに美しくて、完璧なパフォーマンスを目標としてる桜庭の琴線に触れたに違いない。

俺も、たぶん翼も、あのユニットの魅せたものが記憶に焼き付いてしまってる。

「翼、腹減ってるか?」

「はい!もうぺこぺこです!」

「んじゃファミレス行くか!」

「桜庭さんに追いつかないとですね!」

笑った翼に頷いて二人で走り出す。飛び出した扉の向こうで待っていたらしい桜庭が目を見開いたから、怒られるのを覚悟で肩に腕をまわしてみた。



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