ヒロアカ 第一部


それなりに学校生活にも慣れて、多すぎる課題の効率良い片付け方も把握した頃。ヒーロー科である出久と勝己のクラスは午後から特別授業があるらしい。

ヒーロー基礎学の時間は毎度違うことをするらしい。今日は広大な雄英高校の敷地内にあるうちの一つの施設で授業を行うのだと朝から出久がとても楽しみそうに教えてくれた。

あくまでもヒーロー科の授業なので俺にはどんな授業なのかわからない。聞いてみれば今日は特別授業だから直前までどんな内容なのか出久にもわからないらしい。

不思議の多い授業は最近あったセキュリティ事故への対策の一つかなと思ったけど深く突っ込むことなく今日も三人で学校に向かってクラスのところで分かれた。

「ヒーロー基礎学っていいよな」

朝、顔を合わせてから授業をずーっと一緒に消費していた人使が不意に言葉を漏らす。

吸っていた栄養補給食品から口を離してそういえばと思い出す。

『元々ヒーロー科希望だったんだっけ』

「ああ。つーかこのクラスの奴は大体そうだと思う」

大体に省かれてる俺はそうだったなと頷いて、クラスの中を見る。

初日の自己紹介で無個性だと伝え、それなりに拒絶のオーラを出していたのが功を奏したのか、微妙に浮いてる俺は、何故か話すようになった人使以外に名前を覚えてない。

だからどれだけの人間がヒーロー科への転向を目指してるのかは知らないけど、人使が言うならきっとこのクラスの人間はヒーローになりたい、そういうことなんだろう。

ヒーローになりたい人間であるにもかかわらず、普通科にはないヒーロー基礎学なる授業を人使が羨ましがるのはなんとなく理解できた。

『普通科にも同じ授業があったら良かったのにな?』

「…わかっちゃいたけど、たしかにそう思う」

目を逸らして息を吐くから苦笑いを浮かべて持ったままの栄養補給食を口につける。

ここの在学中に学んだものがどれだけ今後に生かされるのか俺はよく知らない。必要な知識しか身につける気がない俺と、ヒーローとして必要になるであろう事柄をすべて学びたい人使や、出久、勝己とは最初から認識も意欲も違う。

いつか出久や勝己と話したらヒーロー候補生として話があっていいんじゃないかなと思ったけど出久はともかく、勝己とは性質が相容れないだろうなと首を横に振った。

ポケットの中で揺れた携帯を取り出す。

通知を見れば出久からで、どうやらもう次の授業に向けて前倒しで動き始めたらしい。クラスメイトみんなでバスに乗目的地に向かってるなんて楽しそうな内容に頬を緩ませながら頑張れと送ればオールマイトが親指を立て歯を見せ笑う絵が返ってきた。

「すごくだらしない顔してる」

不意に聞こえた驚いてるような人使の声に顔を上げる。目をぱちぱちと瞬いてる表情にそうか?と飲み終わったパッケージから口を離して捨てるため買ってきたときと同じようにビニール袋に入れた。

「彼女?」

『弟』

「家族に向ける顔だったか?」

『どんな顔かわかんないけど、弟に対してはいつも同じ顔してるはず』

「ブラコンだな」

『出久は世界一可愛いから』

「そうか」

呆れたような声色。さっきまであったヒーロー科への劣等感は忘れ去ったのかいつもと変わらない雰囲気で、こんなところでも人の心を救う出久は流石だなぁなんて口角を上げる。

再び揺れた携帯に視線を落とす。てっきり出久からかと思えば、連絡先を交換して以降初めて見る“とむとむ”の文字が差出人に現れてた。

何故か登校してるのかと問いかけられて是を返す。即座に既読がついたことから相手は画面を見ているらしく、十秒もすれば返事が現れた。

『………?』

“ちゃんと授業に励めよ”なんていう応援するような言葉。わざわざ送られてきた言葉に首を傾げながらもちろんとスタンプを送る。

先ほどと同じように既読がついたものの一分待っても返事は来なくて、どうやら本当に話はこれだけらしい。

一体何がしたかったのか意味がわからず不思議に思いながら携帯をしまった。







緊急放送が流れたのは本当に唐突だった。

昼の授業が開始され、三十分経つか経たないか、ぷつりとスピーカーが音を立てて息を吸う音がした。皆が顔を上げて一様に同じ方向を見る。

「複数の敵がUSJを襲撃。オールマイト、相澤、13号が交戦中。同場所にて授業中だった生徒の救出、及び、救援のため職員は直ちに助力に向かうように。繰り返す__…」

聞こえた内容に瞬きをする。

授業をしていたプレゼントマイクはすぐさま生徒へ自習という名の待機命令を出し、教室を飛び出していった。

ぱちぱちと瞬きをして、それから、ぞわりとした、虫でも這っているような感覚が右腕を襲う。すぐさま携帯を取り出して画面をタップする。

三人の名前が入ってるそこへ無事かと送れば、中々送信されない。

言葉にすることもできない根拠もない嫌な感覚がして、気持ち悪い。

「大丈夫か」

かけられた声は俺を案じていて、視線を向けると眉根を寄せた人使と目が合う。

なにか言うべきかと口を開こうとして、また虫が這うような感覚が今度は足を襲う。

思わず足を見るけど当然俺にはなにもない。不可解なそれに眉根を寄せて、それから携帯を見る。授業中に真面目な二人が携帯をいじるわけがない。それでもこの緊急事態に俺と同じく自習を言い渡されているのなら安否の確認をするだろう。

連絡が取れないのは、ただ単に真面目の延長線か、それとも取れる状態にないためか

ゾワゾワもぞもぞと体が気持ち悪くてしかたない。

画面に触れた拍子に会話履歴の画面に移っていた携帯に、どうしてか最新から二番目にある名前が目につく。

奥歯を噛みしめるように唇を結って、その間にスリープ画面になり真っ暗になった画面に俺の顔が映る。

眉根を寄せて唇を噛みしめるような表情は大変俺らしくない。

携帯を置いて深呼吸を繰り返して、いつの間にかかいていた手汗をスラックスで拭う。

それから視線を右に向ければ心配しているらしい人使と改めて目があった。

「大丈夫か」

『俺は平気』

「何かあったのか」

『まだわかんない。何もないといいんだけど』

「……そうだな」

鳴らない携帯を握りしめて、体を這いまわる違和感を堪える。

人使の心配は有難かったけど、たぶんこれは出久になにかあったんだろう。

こういうとき同じクラスでないのは不便だなと唇を結った。



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