ヒロアカ 第一部


雄英には高校らしく食堂があって、学生であれば学科問わず安価で昼食がとれる。出久は早速クラスメイトとご飯を食べに行ったらしいけど、俺は残念なことにまだ一緒に食べれてない。

推薦入学故の提出物が多すぎて出久との昼食タイムはお預けなのだ。

「そんなに量多いんだ」

今日は食堂ではないのか、たまたま隣でおにぎりをかじってる人使が俺の手元を見て少し眉根を寄せる。

『まだ序の口らしいけどね』

今後は更に量が増える予定の課題に更に眉間の皺を濃くすると机の上を眺めて自分の手元を見た。

「昼、食べないのか?」

『食べた』

「え、いつ?」

『最初に』

ペンを走らせてる左手は動かせないから右手で鞄の方を指す。そこにはゴミ入れ代わりにしたビニール袋がぶら下がってるはずで、中にはさっき飲んで捨てたゼリー飲料の外装が入ってる。

「それは昼飯とは言わないだろ…?」

見るまでもなく呆れ混じりの表情を浮かべているはずの彼にページを送って次に移る。

『手っ取り早く腹を膨らませられるんだから俺の中では一食』

「そんなんじゃ朝と夜も食べてないのか?」

『ん?朝と夜はちゃんと食べてる』

「……?昼潰しても終わらない量の課題なのに?夜とか使っても終わらないなら飯食べる暇無くないか?」

『ああ、違う違う。自由のために昼だけ潰してんの』

最後の項目を埋めて課題を閉じる。顔を上げれば不思議そうな顔をしてるから目を瞬いて、課題をしまった。

『朝と夜は家でゆっくりしたいじゃん?俺昔から宿題は学校にいる間に終わらせるタイプなんだよ』

「それ宿題の意味ないし反則だろ」

『弟との時間を邪魔するって言うなら世界も敵に回すよ』

「なるほど、ブラコンか」

『昔からよく言われる』

三白眼どころか四白眼気味の目を細めて見据えてくるから笑ってみせる。

途端に大きな音が聞こえて、天井についたスピーカーを見る。警報のようなそれにクラス内も慌て始めて、外を見た。騒ぎの中心。押し寄せ騒いでるのは成人済みらしい年齢層のカメラやマイクを持った人間たちで首を傾げる。

『あれ?外にいたマスコミじゃん』

「朝からずっと粘ってたんだな」

『仕事熱心だね』

「……というか、不法侵入じゃないか?」

この警報が何用なのかは知らないけど、大方あのマスコミのせいで鳴ってるんだろう。

朝、校門の外で待ち構えていたマスコミはどうにもオールマイトを目当てだったそうで、生徒たちにインタビューを求めてた。勝己は別の意味で絡まれて朝から苛立ってたし碌なことをしないなと頬杖ついて眺める。

「………雄英のセキュリティ、どうやって突破したんだろうな」

『んー?』

「最高峰の学校がこんなあっさりとマスコミの侵入を許すもんなのか?」

『さぁね』

入学時のガイダンス。事前情報にもあったことだけれど雄英には許可された人間以外が校内に入ろうとするとバリケードが発動したり、警告が鳴ったりといろいろなセキュリティが用意されてる。

今回の警報もほのうちの一つのはずだけど、そもそもマスコミが校内へ入り込んでることが自体が問題だろう。

マスコミの中にそれほどまで取材熱心で周りが見えなる猪突猛進タイプがいるのか、はたまた邪な目的を持って入り込むため便乗したやつがいるのか。

まぁ出久に直結することじゃなければなんでもいいかなと頬杖をつき直せば警報は止んで教師が飛び込んでくる。そのまま今の警報について説明を始める教師の言葉を右から左に流していればとんとんと机の端が叩かれた。

「出留はどっちだと思う」

『主語がないけどなんの話?』

真顔に近い表情で問いかけられて首を傾げる。ぱちぱちと瞬きをして眉根を寄せた。

「まさか。考えてるだろ?今回の騒ぎでマスコミだけが原因か、扇動したやつがいるかどうか」

隣の席の人使は案外こういう出来事で裏側を考えるのが得意らしい。俺と同じように可能性を上げてたようで、それで?と促されるから目を逸らす。

『あー。さっきちょっとだけ。あのマスコミ陣がどんな個性持ってんのか見なきゃわかんないけど、どっちも可能性はあるよね』

「朝から屯してたんだから、それが今になって入ってきたことを考えればきっかけがあったんだろうな」

『誰かが壁を壊した、とか?』

「………それが本当なら落ち着いて授業も受けてられないな」

『あくまでも仮説だしそう深く考えると深みに嵌って抜け出せなくなんよ?』

「あら、随分仲良くなったのね?」

聞こえた高い、女性の声に視線を向ける。いつのまにかそこにいたらしい担任は俺と人使を見比べて笑顔を浮かべていて、口の端が引き攣ってた。

『あー、すんません』

「はぁ。緑谷くんも心操くんも、仲良くなるのはいいけど先生の話はきちんと聞くように」

「すみません」

上辺の謝罪に息を吐いて教壇に戻っていく。クラスメイトの窺うような視線を無視して窓の外を見る。

さっきまで騒ぎの中心になっていたはずのマスコミの姿はなく、警報が鳴り止んだことも手伝って校内はすっかり普段通りに思える。

携帯を手探りで取り出して画面を見ればメッセージが届いていて、出久からは安否確認、もう片方は警報の煩さへの文句だけが綴られていて両方にスタンプを押して返す。二人から連絡が来ているのなら特にあちらも問題はないということだろう。

「さぁ、それじゃあ授業を始めるわよ」

警報の説明は終わったのか、手を叩く音のあとにいつもと同じ様子で号令を促す声が聞こえたから視線を前に向けた。


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