暗殺教室
これが僕の行いの結果だというのならば、
それは――――…
少しばかり上がり始めた息を大きく吐いて、汗を拭った。
『オリジナル
差し金の時間』
朝から先生たちの様子が少しいつもと違うように思えた。
落ち着きのない殺せんせー、戸惑っているビッチ先生、表情がいつも以上に険しい烏間先生。
みんなも気づいてるのか様子をうかがってるけど、誰一人として声をかけることなく、気づけば五時間目、体育の授業になってた。
「渚、なんでだと思う?」
「僕じゃわからないかな…カルマくんはどう思う?」
「さぁね、けど、あの三人全員がなら本校舎絡みじゃない?」
近いうち修学旅行だし、なにか不都合があったとかさ。
継ぎ足された声にああ、かもしれないなんて頷いて外に出た。
先生たちがそわそわしてた理由を知ったのはその授業中だった。
点呼した烏間先生は相変わらず顰めっ面ながらも今日授業でやるゲームについて説明しようと先生用ナイフとボールを持つ。
がさりと草を踏みしめる音に、僕達はもちろん、烏間先生が振り返った。
普段ならば大方、授業をサボってるカルマくんとか寺坂くんが気紛れで出てきたとか殺せんせーが覗きに来たとかそんなだけど、今日は誰一人サボってないし、殺せんせーは音をたてるわけがない。
視界に入った制服。予想外の訪問者に例外なく目を見開いた。
そんな僕達に気づいてストローから口を離した彼は笑う。
山の上で比較的強い風が彼の藍色の髪を揺らした。
『やぁ、授業中に失礼したね。はじめまして。いや、初めて会うわけじゃないからこの挨拶は適切じゃないんだろうね。でも僕は君たちを知っているが君たちが僕を知っているかどうかわからないから一応この挨拶をさせてもらうことにするよ。』
「…………は、?」
ぽかんと口を開いて瞬きを繰り返す。
ここにいるはずのない彼はとても愉しそうに笑いながらふむ。と頷きまた口を開く。
『僕としたことが、名乗ることもせずに言葉を並べてしまうなんてすまない。はじめまして椚ヶ丘中学校特別強化クラスの皆さん、僕は清水昴、清い水で清水に日向の卯のはなで昴と書くよ。して、僕は思うんだが“椚ヶ丘中学校特別強化クラス”とは長いと思わないか?僕はこれから椚ヶ丘中学校特別強化クラスのと自己紹介をしないとならないなんて嫌でね、今すぐにでも改名を訴えるべきだと思うんだがどうだろうか、誰か署名に手伝ってくれないかな?
ああ、話がそれてしまったね。今日から僕は君たちと同じクラスな配属されて、同じ教室で同じ勉強を受けることになった。毎日この山の上まで登ってくることは運動不足改善に持って来いだね。まぁ、つまり簡潔に言うのならばよろしく頼むよと言いたい』
みんなして無言になって、ずらずは並べ立てられた言葉を飲み込むために頭の中で復唱していく。
たぶん、名前が長いとか、改名手伝ってくれとかはあまり関係ないことだと思う。
重要なのはその後の、これから一緒に勉強するっていうことだ。
『はて、なにやら歓迎されている空気じゃないようだね。やっぱり移籍初日から遅刻したのは叱られるべきことだったようだ。自業自得ではあると思うんだけど悲しく思うよ。僕としてはコーヒー牛乳さえ調達したらここに来ようと思っていたのだけどここまで遅れてしまったのは諸事情というやつなんだ。知っているかい?コーヒー牛乳というのは正式名称はコーヒー乳飲料でコーヒー牛乳と呼ぶは間違いなんだ。それには牛乳の定義付けから語らないとならないんだけど…これ以上話しても興味はなさそうだから自重することにしようかな』
彼、清水くんは、我が校、椚ヶ丘が誇る天才の一人。
「っ、え?なんで、こんなとこ、いんの?」
こんなところにいることがありえない人間だった。
生徒会長の右腕とも言われてる清水くんは、別のところでは奇人とも言われてる。
その片鱗…全貌がこんなところで見られるなんて嬉しくもない。
「………君が、清水くんだな」
ようやく口を開いた烏間先生は重苦しい顔で、今にも頭を抱えそうな表情で清水くんを見てる。
清水くんは笑顔のお手本のような表情で一度頷き持ってたコーヒー牛乳を飲んだ。
「話は聞いている、だが、受け入れは拒否したはずだ」
殺気が出てなくても相手を萎縮させる視線を向けられて、清水くんは答えることなく笑んだまま視線をそらし、僕達のそのまた後ろを見た。
釣られて僕達も振り向く。
殺せんせーとビッチ先生と旧校舎に不釣り合いなスーツ。
「、理事長」
眉間の皺をさらに深くした烏間先生と余裕そうに笑う理事長がやけに対比して見えた。
どっちから話し出すかなんて察しはついていたとおり理事長だ。
優雅に笑んで清水くんを一度視界に入れてから口を開いた。
「貴方がたの仕事はわかりますが、この学校で活動していただく以上こちらの方針に従っていただかなくては困りますよ。このE組は暗殺者を教育するためではなく、成績を上げるための特別クラスなのですから。」
「ねぇー、理事長せんせー、それって清水くんが成績低いみたいな言い方なんだけど。清水くん優等生なんだからそれ、おかしいよね」
にっと笑ったのは一番に硬直が治ったカルマくんで、理事長と目を合わせ腹を探りあうような視線を巡らせてる。
二人の様子を冷や汗をかきながら眺めてれば服が引かれて、顔を向けた。
「渚、私清水くんってあまり知らないんだけど…」
「あ、そっか…えっと、清水くんはA組で試験じゃ一位とか二位の…?」
あれ、そういえば今回の試験の順位変だった。
上位の六人が変わったことはない。それが今回、カルマくんが食いこんで…
清水くんは、何位だった?
どっちが話し始めるかわからず、様子を眺めてるとさくっと短い草を踏む音が響いた。
『僕は成績不振からここに来るに至ったわけだから浅野學峯理事長の言っていることは間違いじゃないよ。先日行われた中間試験で、僕は他の生徒たちと同じように範囲変動についていくことができず点数を落としてしまったんだ。自己最低得点を打ち出した僕はクラス落ち…まぁ、妥当なところじゃないかな。だから優等生なんて肩書きは返上されてしまったんだよ、赤羽業。』
「え?それ本当なの?」
ぽかんとしたカルマくんに清水くんはにこりと笑んで頷く。
記憶に違わない笑顔には裏があるようにしか見えず、目をそらしてしまった。
「……ふむ」
事前資料の一部として送られてきた数回分の試験の結果。
筆跡に違いはなく、代筆ではないのだろうが、眺めれば眺めるほどに今回の試験分だけ後半にすすむにつれ作られた空欄が目につく。
もう一度一番上の得点を見ればうちのクラスと同じか、それ以下の数字が並べられていた。
「ぜっったい変よ!」
「監視役か……差し金にしては時期が中途半端のような…」
この旧校舎の数少ない教員であるイリーナ先生が飲み終わったティーカップを叩きつけ、眉間の皺を深くしたまま顎に手をやった烏間先生が資料を眺める。
今日はもう授業がなく、生徒たちは帰ったあとだ。
しかしながら、先生というものは早々と片付く仕事ばかりではなく、今回で言えば今後あるかないかの大一番な仕事に三人で頭を抱えた。
「…やはり、断るしかないだろう」
「あの子、もうコイツのこと見ちゃってるでしょ?」
「記憶操作は致し方ないな…」
「消したって、あの理事長がまた送り込んできたら…」
手元の答案用紙から調査書に目を移す。
本校に在学して、この子は一年次から問題行動一つなく暮らしてきている。遅刻はあるものの、許容範囲内だ。
生徒会に属していたこともあり、同クラスのみならず、同学年、全校生徒の模範生の一人として数えられるほどの優等生。
なるほど、カルマくんの言うとおり彼は“本物の優等生”ということなのか
「おい、どうする」
烏間先生の視線が突き刺さる。
眺めていた資料を破りながら笑った。
「このE組に来た以上、彼が差し金であろうと関係ありませんよ。清水くんはもう私の生徒です」
「だが、」
「それにここで私が先生をするためにも、E組が暗殺をするためにも、この学校がなくてはなりませんし」
「……それ、アンタが理事長怖いだけじゃないの」
「そ、そんなことはありませんよ。」
はぁっと大きくため息をついた烏間先生は資料と携帯を持ち職員室を出て行く。
これから政府に連絡を入れるんだろう。
一人増えたクラスメイトはE組にうまく馴染めるのか、彼はE組にどんな影響を与えてくれるのか
すでに散った資料を思い返してから明日の授業の支度を始めた。
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それは――――…
少しばかり上がり始めた息を大きく吐いて、汗を拭った。
『オリジナル
差し金の時間』
朝から先生たちの様子が少しいつもと違うように思えた。
落ち着きのない殺せんせー、戸惑っているビッチ先生、表情がいつも以上に険しい烏間先生。
みんなも気づいてるのか様子をうかがってるけど、誰一人として声をかけることなく、気づけば五時間目、体育の授業になってた。
「渚、なんでだと思う?」
「僕じゃわからないかな…カルマくんはどう思う?」
「さぁね、けど、あの三人全員がなら本校舎絡みじゃない?」
近いうち修学旅行だし、なにか不都合があったとかさ。
継ぎ足された声にああ、かもしれないなんて頷いて外に出た。
先生たちがそわそわしてた理由を知ったのはその授業中だった。
点呼した烏間先生は相変わらず顰めっ面ながらも今日授業でやるゲームについて説明しようと先生用ナイフとボールを持つ。
がさりと草を踏みしめる音に、僕達はもちろん、烏間先生が振り返った。
普段ならば大方、授業をサボってるカルマくんとか寺坂くんが気紛れで出てきたとか殺せんせーが覗きに来たとかそんなだけど、今日は誰一人サボってないし、殺せんせーは音をたてるわけがない。
視界に入った制服。予想外の訪問者に例外なく目を見開いた。
そんな僕達に気づいてストローから口を離した彼は笑う。
山の上で比較的強い風が彼の藍色の髪を揺らした。
『やぁ、授業中に失礼したね。はじめまして。いや、初めて会うわけじゃないからこの挨拶は適切じゃないんだろうね。でも僕は君たちを知っているが君たちが僕を知っているかどうかわからないから一応この挨拶をさせてもらうことにするよ。』
「…………は、?」
ぽかんと口を開いて瞬きを繰り返す。
ここにいるはずのない彼はとても愉しそうに笑いながらふむ。と頷きまた口を開く。
『僕としたことが、名乗ることもせずに言葉を並べてしまうなんてすまない。はじめまして椚ヶ丘中学校特別強化クラスの皆さん、僕は清水昴、清い水で清水に日向の卯のはなで昴と書くよ。して、僕は思うんだが“椚ヶ丘中学校特別強化クラス”とは長いと思わないか?僕はこれから椚ヶ丘中学校特別強化クラスのと自己紹介をしないとならないなんて嫌でね、今すぐにでも改名を訴えるべきだと思うんだがどうだろうか、誰か署名に手伝ってくれないかな?
ああ、話がそれてしまったね。今日から僕は君たちと同じクラスな配属されて、同じ教室で同じ勉強を受けることになった。毎日この山の上まで登ってくることは運動不足改善に持って来いだね。まぁ、つまり簡潔に言うのならばよろしく頼むよと言いたい』
みんなして無言になって、ずらずは並べ立てられた言葉を飲み込むために頭の中で復唱していく。
たぶん、名前が長いとか、改名手伝ってくれとかはあまり関係ないことだと思う。
重要なのはその後の、これから一緒に勉強するっていうことだ。
『はて、なにやら歓迎されている空気じゃないようだね。やっぱり移籍初日から遅刻したのは叱られるべきことだったようだ。自業自得ではあると思うんだけど悲しく思うよ。僕としてはコーヒー牛乳さえ調達したらここに来ようと思っていたのだけどここまで遅れてしまったのは諸事情というやつなんだ。知っているかい?コーヒー牛乳というのは正式名称はコーヒー乳飲料でコーヒー牛乳と呼ぶは間違いなんだ。それには牛乳の定義付けから語らないとならないんだけど…これ以上話しても興味はなさそうだから自重することにしようかな』
彼、清水くんは、我が校、椚ヶ丘が誇る天才の一人。
「っ、え?なんで、こんなとこ、いんの?」
こんなところにいることがありえない人間だった。
生徒会長の右腕とも言われてる清水くんは、別のところでは奇人とも言われてる。
その片鱗…全貌がこんなところで見られるなんて嬉しくもない。
「………君が、清水くんだな」
ようやく口を開いた烏間先生は重苦しい顔で、今にも頭を抱えそうな表情で清水くんを見てる。
清水くんは笑顔のお手本のような表情で一度頷き持ってたコーヒー牛乳を飲んだ。
「話は聞いている、だが、受け入れは拒否したはずだ」
殺気が出てなくても相手を萎縮させる視線を向けられて、清水くんは答えることなく笑んだまま視線をそらし、僕達のそのまた後ろを見た。
釣られて僕達も振り向く。
殺せんせーとビッチ先生と旧校舎に不釣り合いなスーツ。
「、理事長」
眉間の皺をさらに深くした烏間先生と余裕そうに笑う理事長がやけに対比して見えた。
どっちから話し出すかなんて察しはついていたとおり理事長だ。
優雅に笑んで清水くんを一度視界に入れてから口を開いた。
「貴方がたの仕事はわかりますが、この学校で活動していただく以上こちらの方針に従っていただかなくては困りますよ。このE組は暗殺者を教育するためではなく、成績を上げるための特別クラスなのですから。」
「ねぇー、理事長せんせー、それって清水くんが成績低いみたいな言い方なんだけど。清水くん優等生なんだからそれ、おかしいよね」
にっと笑ったのは一番に硬直が治ったカルマくんで、理事長と目を合わせ腹を探りあうような視線を巡らせてる。
二人の様子を冷や汗をかきながら眺めてれば服が引かれて、顔を向けた。
「渚、私清水くんってあまり知らないんだけど…」
「あ、そっか…えっと、清水くんはA組で試験じゃ一位とか二位の…?」
あれ、そういえば今回の試験の順位変だった。
上位の六人が変わったことはない。それが今回、カルマくんが食いこんで…
清水くんは、何位だった?
どっちが話し始めるかわからず、様子を眺めてるとさくっと短い草を踏む音が響いた。
『僕は成績不振からここに来るに至ったわけだから浅野學峯理事長の言っていることは間違いじゃないよ。先日行われた中間試験で、僕は他の生徒たちと同じように範囲変動についていくことができず点数を落としてしまったんだ。自己最低得点を打ち出した僕はクラス落ち…まぁ、妥当なところじゃないかな。だから優等生なんて肩書きは返上されてしまったんだよ、赤羽業。』
「え?それ本当なの?」
ぽかんとしたカルマくんに清水くんはにこりと笑んで頷く。
記憶に違わない笑顔には裏があるようにしか見えず、目をそらしてしまった。
「……ふむ」
事前資料の一部として送られてきた数回分の試験の結果。
筆跡に違いはなく、代筆ではないのだろうが、眺めれば眺めるほどに今回の試験分だけ後半にすすむにつれ作られた空欄が目につく。
もう一度一番上の得点を見ればうちのクラスと同じか、それ以下の数字が並べられていた。
「ぜっったい変よ!」
「監視役か……差し金にしては時期が中途半端のような…」
この旧校舎の数少ない教員であるイリーナ先生が飲み終わったティーカップを叩きつけ、眉間の皺を深くしたまま顎に手をやった烏間先生が資料を眺める。
今日はもう授業がなく、生徒たちは帰ったあとだ。
しかしながら、先生というものは早々と片付く仕事ばかりではなく、今回で言えば今後あるかないかの大一番な仕事に三人で頭を抱えた。
「…やはり、断るしかないだろう」
「あの子、もうコイツのこと見ちゃってるでしょ?」
「記憶操作は致し方ないな…」
「消したって、あの理事長がまた送り込んできたら…」
手元の答案用紙から調査書に目を移す。
本校に在学して、この子は一年次から問題行動一つなく暮らしてきている。遅刻はあるものの、許容範囲内だ。
生徒会に属していたこともあり、同クラスのみならず、同学年、全校生徒の模範生の一人として数えられるほどの優等生。
なるほど、カルマくんの言うとおり彼は“本物の優等生”ということなのか
「おい、どうする」
烏間先生の視線が突き刺さる。
眺めていた資料を破りながら笑った。
「このE組に来た以上、彼が差し金であろうと関係ありませんよ。清水くんはもう私の生徒です」
「だが、」
「それにここで私が先生をするためにも、E組が暗殺をするためにも、この学校がなくてはなりませんし」
「……それ、アンタが理事長怖いだけじゃないの」
「そ、そんなことはありませんよ。」
はぁっと大きくため息をついた烏間先生は資料と携帯を持ち職員室を出て行く。
これから政府に連絡を入れるんだろう。
一人増えたクラスメイトはE組にうまく馴染めるのか、彼はE組にどんな影響を与えてくれるのか
すでに散った資料を思い返してから明日の授業の支度を始めた。
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