金田一少年


「あの、これは一体」

『着替え…あ、動いちゃだぁめ』

マスカラでコーティングしたまつげをきゅっと専用の器具で摘んで上げた。他人のをやるのは初めてで、ちょっと手が震えたけど瞼を挟まないで済んだようだ。

少しずつ挟み込む位置を変えながら力を込めて、手を離せばくるりとカーブを描く睫毛が出来上がってる。

『はい、できた』

「………あの、これは一体なんですか?」

さっきと同じ問いかけに、だから着替えと答えれば今にも白目を向かれそうな勢いで、女の子がそんな顔しちゃダメっしょと言えば息を吐かれた。

『なかなかいい出来じゃんね!』

鏡を渡してどうどう?と感想を待てばもう一度特大級のため息をつかれ、ゲンナリとした顔で俺を見る。

「なぜこの格好なのか、説明して頂いてもいいですか?」

『外出るのに普通の格好じゃ変だから』

この格好も十分目立ちますよなんて息を吐かれてそう?と首を傾げた。

たかとおくんは背があまり高くなくて、線が細い。今だって俺の冬仕様の女性用服一式を見事に着こなしてた。俺よりも小さくて似合うのが正直なところで羨ましさを覚える。

そんなこと言ったら洋服を脱ぎかねないので言葉を飲み込み、化粧品をすべてポーチにしまった。

『とりあえず、たかとおくんの服とマグカップ買いに行こう!』

「……はぁ、わかりました」

手を繋いで外に飛び出す。

四日ぶりの外の冷たい空気にたかとおくんは身震いして、俺も息を吸えば肺が冷え切って喉が痛かった。

今、俺の隣のたかとおくんは絶賛女子化キャンペーン中で、俺は休日に珍しく男物を着て一緒に歩いてる。

履き慣れてないだろうたかとおくんにはヒールが低いというかほぼないブーツを纏ってもらって、俺はシークレットブーツを履き身長差を作ってる。

傍目から見ればきちんと男女に見えてるだろう。

『服のブランドって決まってる?』

「…いえ、」

小さな声で返されたのは身バレしないためにだろうか。

視線と空気が警戒を怠ってなくて、まぁそこまで危険視するほどのものでもないと思う。

俺の技術か、たかとおくんの素材の良さか、大していじってないのにたかとおくんらしさが消えて今は可愛い女の子だから怪しむ人のほうが少ないはずだ。

慣れない靴にか、 ふらついたたかとおくんの腕をとってそのまま繋げば驚いた顔で見上げられて笑う。

『危ないし、こっちのがぽいじゃん?』

「………そういうもの、ですか?」

『そうそ。じゃああっち行こうか』

歩幅を合わせるようにゆっくり歩いて店に入った。




たかとおくんのサイズは俺の服を貸した時点で大体把握したから、デザインだけ見てもらって数着見繕い袋を持ち上げた。ついでにレディース物も気兼ねなく見に行けて、ついてきてくれたたかとおくんが死にそうな顔をしてた。

『へーき?』

「……………」

運ばれてきたレモンティーのグラスを見つめたまま返事もないたかとおくんに苦笑する。

適宜休憩をとっているものの、慣れない格好と久々の外出、常に緊張をしてるせいで疲労は大きいらしい。

もしかしたらプラスして、血の匂いはしないから傷口は開いてないだろうけど、痛むのかもしれない。

『俺のミルクティーと交換しよっか』

無言で差し出されたレモンティーと俺が一口飲んだミルクティーのグラスを交換するとたかとおくんはストローで中身を何回か混ぜた後にほんのちょっと飲んだ。

『どこでもそうだけど、飲まないの?』

たかとおくんは用心深いねと聞いたらいつもはそういう検査キット的なものを持っててひと目を盗んささっとやるらしい。

今持ってないのは俺のせいじゃないと信じたいけど、今は毒味を俺がしてるし問題ないだろう。

『ご飯はどうする、俺あんまうまくないけど家で食べる?』

「そうですね、外よりは…あ、いえ、あの」

素で返したのか頬を赤らめてあたふたと可愛い反応をされる。

いやぁ、これぞ女子力か。

頷いてから笑いかける。

『嫌いなものは?』

「あ、ありませんが…」

『じゃあはりきってロールキャベツでも作っちゃうっすよ』

「え、」

『ん?』

煮込みハンバーグのがよかった?と聞けば眉を下げて少し悩んだあとに息を吐きながら縦に頷かれたので今日はロールキャベツを囲んでのご飯になりそうだ。

あ、その前にリビング片付けないとご飯を食べられないかもしれない。



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