金田一少年

気づいたらそこにあった。
生まれた時からずっと隣にあった。

だから有り難みを感じることも、まして、感謝することなんてあるわけがないわけで。それを大多数の人たちは失ってから初めてわかる大切さなんて呼ぶ。

『らしいっすよ』

「…君は一体いきなり何を言ってるんですか?」

前半言葉に出てなかったらしく、最後だけ伝えてしまったようで今まで美しく流れていた音がピタリと止む。

地毛と同じく色素の薄い眉をきゅっと寄せた一つ歳上のその人はピアノから顔をあげてて、なんともまぁ様になるから女子がキャーキャー言いそうだなと目を逸らした。

『あー、明智先輩って進路決まってんすか?』

「露骨に話を逸しましたね?」

気のせいっすよ。で?と催促すれば息を吐いた明智先輩は再度ピアノに触れて鍵盤を叩きながら警察の道に進みますよと答えた。

まぁ、知ってたけど思いついたの話題の先がそれしかなかったんだから仕方ない。

『ふーん、じゃあ明智先輩はきっと警視庁とかそういうおっきーとこでデスク座って資料片手にコーヒーとか啜っちゃうんでしょうね。で、女子事務員とかきゃーきゃー騒がしちゃうんだろうな〜。税金泥棒め、仕事しろ』

「泥棒ではありません。警察はしっかり仕事していますよ」

『へー、じゃ、明智先輩も警察なったらちゃんと仕事するんすか?』

「愚問ですね。もちろんですよ」

なら、次会うときは子犬のワルツなんて流れてるような和やかな空気はないかもしれない。

続けて、この人にしては珍しく難易度の低い曲が流れてきて、聞いたことある気はするけど曲名は知らないやつだ。

目を閉じて右から左に音を流す。

俺にとってこの人はただの先輩で、この人にとっての俺は一後輩。

その関係性が変わるのはいつになるからはわからないけど、もし変わるのだとしたらやっぱりその時には

『俺を殺してね』

俺の声はピアノの音でかき消されてしまったらしく、返事はなかった。



.
2/8ページ
更新促進!