あんスタ

頼んでいた通りであれば、ここで会えるはず。ガーデンテラスの端の方。足を進めていけば先についてたのか腰掛けている紅色が目に入って、足音に気づいたらしい彼は顔を上げた。

「あ、」

『えっと…待たせてごめんね?Knightsの朱桜くん、だよね?』

「はい。貴方は瀬名先輩のご友人の紅紫さんですよね」

『………友人…なのかな、?』

迷わず頷いてくれた朱桜くんだったけれど続いた言葉にこちらが首を傾げてしまう。朱桜は記憶の通り冗談を言うような子でもなさそうで、泉さんと俺のどの辺を見てそう感じたのか少し不思議だ。

はっとした顔で慌てながら向かいの椅子を示される。椅子を引いて腰を下ろせば向かい側に座るその子は目を泳がせていて苦笑いが出た。

『急に呼び出してごめんね?時間を作ってくれてありがとう』

「い、いえ、大丈夫です。…その、瀬名先輩からの唐突な召集だったので少し驚きましたが……今回は、どうして私を?」

『ちょっとこの間のことで話がしたくて』

瞬きを繰り返した朱桜くんは不意に小さく言葉をこぼして、もう一度ぱちりと瞬きを見せる。

「もしかして春川くんのことでしょうか?」

『うん』

「ああ、そういうことでしたか…」

附におちたらしい。朱桜くんと宙くんがどれだけ仲が良くてどこまで話してるのかはわからないけど、俺にできるのはただ謝罪することだけだろう。

『…うん。僕のせいで朱桜くんに迷惑かけてごめん』

「えっと、あれはなにかaccidentがあったんでしょうか?」

『ああ、うん、そんな感じ…。押し付けてごめんね』

「……………」

朱桜くんが俺を見て固まる。時間の関係で人気のない少ないガーデンテラスは静かで妙に居心地が悪い。黙っていた朱桜くんは手元に置いていたカップに口付けて息を吐くと笑みを浮かべた。

「安心ください、紅紫先輩。実は後日、宙くんが “お兄さんはとてもいい人なので誤解しないでください” と私に直談判しにきました」

『え、』

「あの時は正直何がなんだかわかりませんでしたが、被害者のはずの宙くんが大丈夫と言ってましたし私は特に事を荒立てるつもりはありません」

朱桜くんは落ち着き払った笑みをそのままにもう一度コーヒーを飲むと俺を見据えて頷く。

「それに貴方のことは瀬名先輩からよく聞いていました」

『、瀬名さんが?』

「対価次第である程度はなんでもしてくれる、お姉様と同じproduserなのだと」

『僕が?』

「はい。managementがお得意なんですよね?衣装のdesign、作曲、作詞…それにcounselingも出来ると伺いました。ふふ。私、あの瀬名先輩がKnights以外で頼っている方を初めて見るのでとても驚いてるんです」

『うーん、頼られてる…のかな?』

一体泉さんはこの子に何を言ったのか。思わず目を逸らしてしまって首を傾げたけれど迷わずに頷かれてなんだかむず痒い。

「瀬名先輩は本当に困ってどうにもならないことがあったら、貴方に声をかけろともおっしゃっていました」

『…そんなこと言ってたの?』

「嘘ではありません。でもとても不服そうでした」

『ああ、その顔はなんとなく想像ついたかも』

悪戯っ子のような表情を見せて内緒ですよと続ける。朱桜くんは思い出したようにコーヒーに口をつけて一息つくとカップを指先でなぞりながら目を閉じた。

「………私はようやくKnightsとして名を借りることを許された、瀬名先輩の言葉を借りるならひよっこです。私の憧れた、先輩方が作り上げたKnightsの騎士としては大変未熟で何れは紅紫先輩のお力を借りることがあるかもしれません」

朱桜くんは柔らかな笑みを崩すことなく言葉を紡ぐ。カップを撫でていた手が止まり、ゆっくり視線が上がった。

「その時は紅紫先輩、どうか私の手助けをしてくださいませんか?私はそれで充分です」

『………僕に声をかける予定はあるの?』

「どうでしょう。……私は瀬名先輩にとてもたくさんのことを教わっている最中ですし、朔間先輩も鳴上先輩もいらっしゃいます。…いつか戻ってこられるleaderともお話をして……私は立派な騎士になるので……機会はないかもしれません」

自信満々に言い切られる。泉さんとも月永さんとも違う、新しい光の形。目の前の朱桜くんが笑って王冠を輝かせる未来を見つけて目を細める。

月永さんが消えて、Knightsを守る泉さんが選んだのがこの子ならそれはきっと遠くない未来のはずだ。

年相応に輝く瞳と利発的な表情。相反しているはずなのにバランスの取れている彼に息を吐いた。

『うん、いつでも手を貸すよ。もし機会がなければ…そうだなぁ、その時はKnightsのステージを僕が用意するね?』

「stageをですか?!紅紫先輩そんなこともできるんでね!?」

『ふふ。過度な期待はしないでほしいけど頑張るよ』
 
テーブルに手をつき身を乗り出す目を輝かせる姿に可愛いなぁと思いながら頷いて、瞼を下ろす。

いつか五人揃ったKnightsのステージを見てみたいものだ。

「あ、そうでした。紅紫先輩にお聞きしたいことがあります」

ぽんと手を叩いたような軽く小さな音を立てて、真剣そうな声に目を開ける。朱桜くんは声の通り真面目な顔で俺を見据えてた。

「瀬名先輩と一緒にlessonしているというのは本当ですか?」

『うん?嘘ではないけど…』

「どんなlessonをされているんですか!?」

『え?』

尋問されている。気迫ある朱桜くんに目を瞬いて首を傾げる。

『急にどうしたの?』

「Knightsの先輩方はdancelessonなどは一緒にしてくださいますし、stretchやtrainingも付き合ってくださいます。けれど私のやり方に合わせてlessonするだけで自身のlesson内容は何故か内緒にされてしまうんです」

『…それは気のせいじゃなくて?』

「いいえ、特に瀬名先輩は “アンタみたいなひよっこには早い。絶対無理だからおとなしく自分の練習しなよぉ” と勝ち誇ったような笑みを浮かべて先日も秘密にされてしまいました…!」

合間に挟んだのは泉さんのモノマネなのか、少し声を低くして語尾を伸ばした口調はあまり似てなくて思わず笑ってしまう。朱桜くんはむっとした表情のままテーブルに両手をおいた。

「もちろん私がひよっこなのは悔しいながらも事実ですしそこに対して反論することはできませんが、少しくらい教えてくださってもいいと思いませんか!」

『秘密にされると気になるもんね』

「その通りです!それに私は早く立派な騎士にならなければいけません。そのためにも先輩方のlessonを知りたいのに…!」

頬を膨らませた表情は一つ年下なことを踏まえたとしてもとても幼く見える。負けん気が強くて、愚直で、泉さんが可愛がる理由がなんとなく見えた気がした。


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