あんスタ


2

部室に向かってから早三日。歌は柑子が、ダンスは椋実くんがレッスンつく。最初こそ勝手が違うから戸惑うだろうと思っていたそれは案外体に馴染んで違和感はなかった。

休憩を言い渡されて息を吐く。基礎練習も体力も、別に怠った覚えはないが、特に椋実くんはハードな練習をかましてくるから息が上がりやすい。奏汰くんはしゃがみこんでるし、宗や瀬名くんでさえ汗を拭い目を閉じてることが多かった。

『シアン、柑子』

「お疲れ様です紅紫くん」

今日も今日とて、用事とやらがあったらしいそれは俺達がレッスンを始めた三時間後に現れて顔を合わせた柑子は嬉しそうに緩く笑む。

「お話はまとまったようですね」

『うん。納得してもらえたと思う』

「妥協点は?」

『甘いものを食べに行くのと、一緒に洋服見に行くこと』

「ふふ、そうだったんですか」

「そうか、楽しんでこい」

『うーん、楽しむようなことでもないと思うけどね…』

入ってきたそれの表情を見るなり安心したような顔をした二人は揃って肩をゆらして表情を綻ばせる。不思議そうに首を傾げたあと、こちらを確認して、椋実くんに視線を戻した。

『ねぇ、シアン』

「出来てるぞ」

『そっか、ありがとう』

「木賊がかなり時間をかけていたから褒めてやったほうがいいだろう」

『うん、そうする。木賊は?』

「今は仮眠室で眠ってます」

『ありがとう。それなら後でのほうが良さそうだね』

淀み無く会話を続けた三人に柑子と椋実くんが部屋を出ていく。

さて、と顔を上げたそれは笑った。

『今日の練習は一旦締めます。順番にシャワーを浴びてきてください』

「はー、サッパリできる」

『後が詰まってしまいますので軽くでお願いしますね?』

「はいはい。一式借りるよぉ」

『はい』

扉を押さえるそれと、嬉々としてる瀬名くんを見送る。初日に部室内の設備の案内と説明。それと実際に利用もしたことがあるから知っていたとはいえ部室にシャワー室があるのは未だに謎だ。シャワー室の設立には柑子が噛んでいると聞いたがどこまでが本当なのだろう。

「ぼくはさいごでかまいません〜」

「零、先と後ならば希望はあるかね?」

「うむ、後のほうが良いな」

スタジオの床に座り込んでペットボトルを頬につけて緩く笑んでいる奏汰くんの横に腰を下ろす。

準備のためにか部屋を出ていった宗に二人取り残されて顔を合わせた。

「『そうぞう』していたいじょうにとても『はーど』ですね」

「そうじゃなぁ。椋実くんといい、柑子といい、もう少し老人を労ってくれても良い気がするんじゃけど…」

「『りゅうせいたい』で『たいりょく』はついてるはずなんですけど、……いったい、どんな『すてーじ』になるんでしょう?」

「ううむ、」

流星隊といえば派手なアクションや立ち回りが多いステージが目玉のようなユニットだ。奏汰くんはそのゆるく柔らかな雰囲気や歌声に誤解されがちだが、どちらかと言えば遠慮なく急所を狙ってくる攻撃派で体力もある。そんな奏汰くんが疲労を見せるのは中々ないだろう。

「派手な演目なのか、それとも純粋にパフォーマンスが我輩たちに馴染みがなくて無駄に体力を消費してしまっているのか…」

「うーん。はくあは『てーま』はおしえてくれましたけど、そのへんの『くわしいこと』はまったくですもんね〜」

奏汰くんはため息まじりに秘密主義はこれだからと力なく首を横に振った。

「ぜんぶがぜんぶおしえてほしいとはいいませんが、すこしくらいは『いきさき』をおしえてくれないとついていくのが『ふあん』になってしまいます」

「そうじゃな」

「…あのこも、きみもですよ、れい」

「おや、我輩もかえ?そんな風に置いてけぼりにしてしまった覚えはないが…」

「はぁ。『じかく』がないのはいただけませんね」

呆れたような奏汰くんに苦笑いを浮かべる。叩かれた扉に顔を上げれば開いた向こう側から手招かれた。

『お待たせいたしました、朔間さん、深海さん、どうぞ』

「はーい」

「ああ」







瀬名くんと宗がスキンケアに熱を入れ始めたり、奏汰くんがシャワー室から出てこなくなったりなんていうハプニングを経て、ようやく全員が集まる。

椋実くんと柑子、それに最近全く見ていなかった檳榔子くんと木賊くんも揃っていて、欠伸をこぼす木賊くんはそれに頭を撫でられるなり瞼をまた閉じそうになってる。

俺達の座る椅子の前のテーブルには畳まれた洋服が置かれていて、それは微笑んだ。

『衣装の原案です。一度着ていただけますか?』

「わぁ!もうできたんですか?!」

「んー、まだ仮やから、微調整はするけどなぁ。きぃも小物作っとるし、今はサイズあってるかみたいねん」

目をゴシゴシと擦りながら零す木賊くんに擦らないと柑子が諌める。

「あかん…瞼が落ちてくる…」

『木賊、もうちょっと寝ようか』

「んんー」

半分足が向こう側に入っているのか、睡魔に負けそうな木賊くんに笑みを浮かべてそれは手を取り慣れたように部屋を移動した。

取り残された彼らのうち、柑子が笑顔を作る。

「では皆様ご協力お願いします。お部屋はこちらを利用ください」

促されて仮と言っていたわりには随分としっかりとした衣装の見本を取る。原案はできていたとはいえ、そこからまだ三日しか経っていないのにもう四人分繕っただなんて、木賊くんの眠たそうな様子も頷けた。

指定された場所にバラけて服を着る。当初の予定通り俺に用意されたのは青系統らしく、黒というよりはとても深い濃い青色の布で作られた服はあまり着ないような色彩と形をしてる。

着ていたものを脱いで、履いて、被り、羽織る。

腰回りや肩に違和感はなく、腕を上げても突っ張らない。精巧な出来に思わず言葉をもらしてから部屋を出た。

どうやら先に着替え終わっていた奏汰くんはサイズを確認されているらしく、それは安心したように笑う。

『深海さんも問題なさそうですね』

「はい。とっても『きごこち』がいいですし、うごきやすいです♪」

『ありがとうございます』

同じようにすでにチェックが入った後なのか、衣装をまとった宗も鏡の前で自身の姿を確認してた。

俺とは違い背中が開いたデザインらしく白い肌と深く黒に近い赤色の衣装がコントラストとなってる。動くたびに揺れる裾のレース、あの交渉の結果か、足元は膝よりほんの少し上の裾丈に編みタイツで肌が出ないようになってた。

今の今までチェックを受けてた奏汰くんは惜しげもなく白い足を晒していて、予定通りなら足元はショートブーツが合わせられるんだろう。

『では次は瀬名さん』

「はいはい」

赤味の黒色の衣装は普段青色のイメージが強いけれど案外似合っていた。宗と同じように足元はあまり肌が見えないデザインになっていて、宗とは違い短めの丈にロングブーツが合わせられてる。

瀬名くんの襟元、肩周り、袖丈。そして少し身をかがめて腰回りに触れたそれは目を瞬いた。

『…あ、れ?…泉さん、サイズ変わりました?』

「はぁ?太ったとでも言いたいわけ?」

驚いたような口調にあからさま機嫌をそこねた声色の瀬名くんに、取り繕うように笑みを浮かべて首を傾げる。

『そういうわけではなくて、その、腰回りがこう、………何か食べました?』

「…アンタ…それ、喧嘩売ってんの?」

『……………あ、』

吹き出したそれに眉間に皺を寄せた瀬名くんはすかさず頭をはたく。叩かれてもなお肩を揺らすものだから瀬名くんは顔を赤くしてもう一発、腕を振り落とした。

『ちょ、いたい、です、ふふ、もう』

「ちょ〜うざぁあい!!!」

『ひ、ふふ、ふふふ、あははは!!』

涙を目尻に浮かべて笑う表情に全員が珍しさを覚えてるのか、手を止めて二人を見てる。俺も歯を見せて笑うのかなんて感想が浮かんだ。

腹を抱えて、あまりにも笑われてか、ぷるぷるとまた拳を握る瀬名くんは目つき鋭く表情を歪ませる。

「笑いすぎ!アンタのせいなんだからねぇ?!」

『だって、こんなに響くなんて、ふふ思わな、くて、ひぃ』

「だから嫌だって言ったでしょ?!」

『あは、もっ、許してくださいっ』

「ふざけないでよねぇ!?」

更に三度腕を振り下ろしたところで波が落ち着いたのか息を吐いて浮かんだ涙を拭った。

『ん、どうしたらいいですか?』

「そうだねぇ…?」

不機嫌さを隠さずに眉根を寄せたまま、悩む素振りを見せて、にんまりと笑う。

「本番まで同じ食生活ね」

『う、わぁ…思ったよりも怒ってますね…』

「しょうがないからメニューは決めさせてあげる〜」

『あ、俺が作るんですか?』

「当たり前。衣装は直さないでこのまま着れるように体型戻すから」

『はぁ、わかりました…』

ついてしまっていた膝を上げて立つと息を吐いた。頭を押さえて横に降って、俺に視線を向ける。

『では、最後に朔間さんもよろしいですか?』

「う、うむ」

近寄り、じっと俺を見つめる。長いまつ毛が伏せられて影を作った。じっと見ていると心臓が痛くなってしまいそうだから目をそらす。

特に気に止めてないのか一つずつ服を見ていく。黒のドレープ、手袋も同素材で用意され葬祭の婦人のようにも見える。マントではなくジャケットの後ろだけが長めで、裾についたレースが晒された足に触れると少しくすぐったい。

「だいぶ、足が出ておるのう…」

『そういうデザインですから』

「たんぱんはとてもめずらしいですね〜」

「ロングブーツなんて趣味出てるねぇ?」

『やるからには僕がルールですから』

満足そうに笑うそれはきちんと俺の衣装を眺めて頷いてる。レースの形や縫い目の細かいところまで見つめられれば何だか気恥ずかしくて視線を惑わす。その先には自身の洋服を睨むように眺めてる瀬名くんがいて、奏汰くんが目を瞬いたところだった。

「そういえば、いずみ〜。さっきはどうしたんですか?すごく『おこって』いましたよね?」

「はぁ?普通嗤われたら怒るでしょぉ?」

「いずみの『たいけい』がかわってたのとはくあが『かんけい』あるんですか?」

「大あり」

「おや、八つ当たりではなかったんだね」

「違う!………一昨日シチュー食べたんだよねぇ」

「しちゅーってあのしろいやつですか?」

「そう、そのシチュー。生クリームとバターたっぷりのね」

「ふふ、あったかくてとろとろで『おいしい』ですよね♪」

「冗談じゃない、あんな脂質の塊!それを嬉々として食べさせてきて…ああ〜っ!思い出しただけで苛々する!今日の晩ごはん、どうしてくれようかねぇ…っ!」

「瀬名は食べたものがそのまま響くのだね」

「ふんっ」

そっぽ向いた瀬名くんに奏汰くんはあれに視線を移して、戻したと思うと明るく笑った。

「ごはんいっしょは『たのしそう』ですね〜!ぼくもおじゃましていいですか?」

「作るのはアイツだから構わないよぉ」

「わぁい♪」

『待ってください、勝手に約束取り付けるのやめてもらえませんか…?』

「どうせアンタん家でしょ」

『あの、俺の家ならいいって言うことではないんですよ?』

「はぁ?」

『…はぁ』

「ぼくおさかながたべたいです♪」

「ああ、蒸した魚とかいいよねぇ」

『まためんどうなことを…今家に魚ないんですけど?』

「知ってるよぉ」

瀬名くんの暴挙にため息をつき額を押さえる。そのまま、衣装の確認が終わったらしく立ち上がり礼を零すと俺から離れていく。ふらふらとしていて疲れてるような背中に勢いよく飛びついて笑ったのは檳榔子くんで、ヴェールのついた小さな帽子を被ってた。

「ねぇ!はーちゃん、どうかな?」

『うん、かわいいね』

笑って指先で触れ、レースに目を落とす。腕の中でにこにこしてる檳榔子くんはさらに頭を撫でられたことで笑顔を破綻させた。

『編み目もとってもきれい。また腕を上げたね』

「えへへ、はーちゃんに褒められたぁ♪」

力の限り両腕で抱きついている檳榔子くんは本当に幼く見える。表情を緩ませて受け入れ髪を撫でるそれとの間には誰も入れそうになくて、どうしてか目が逸らせない。

「はぁ、人目のあるところで騒ぐなや」

甘すぎる空気に息を吐いたのはいつの間に目を覚ましたのか呆れ顔の木賊くんで、片手には袋を持ってる。檳榔子くんの頭を撫でる手はそのままに目線を上げた。

『おはよう木賊、大丈夫?』

「ふん、五分も寝れば十分や。ほんでこれ、朔間センパイと奏センパイの分な」

『ありがとう』

差し出された袋を受け取り木賊くんの髪を撫でる。一瞬頬を緩ませたあとにはっとしたように真っ赤になった顔を背けて一歩退いた木賊くんは、鼻を鳴らして隣の部屋に逃げていった。

「くーちゃん素直じゃないな〜」

『だね。撮れた?』

「うん!後でグループ上げとくね!」

ひっついたまま携帯を片手に笑う檳榔子くんはとても愛らしい表情なのに悪巧みを成功させた策士のようだ。

強く抱きついて、離れる。帽子を取ると代わりにそれに被せて近くにある椅子に腰掛けた。

「それも衣装の一部なのかね?」

『はい。帽子は瀬名さん。こちらの袋の中は朔間さんと深海さんの分です。斎宮さんの装飾品はシアンがそろそろ用意し終えるので少々お待ちいただければと思います』

「そうかい。……このレース…君と同じ編み方だね」

『教えたのが僕なので、癖とかは似てるかもしれませんね』

宗が手を伸ばし、頭に乗せられた帽子に目を凝らす。見やすくするためか、少し頭を傾けているから距離が近く見えた。

「はくあ〜、なかみはなんですか?」

近寄ってきた奏汰くんと瀬名くんに顔を上げなおして袋の中身を取り出していく。

『衣装の一部です。もしよろしければ少しつけていただけますか?』

奏汰くん、それと俺の手の上に乗せられたのは少し太い紐と、ソックスらしく、目を瞬いて首を傾げる。

「ガーター…?」

『ふふ』

「…変態臭いのだよ」

『酷いですね』

「ぼくのはちょーかーですか?」

『はい。映えるかなと思いまして』

にこにこしてるそれはさぁ、つけてくださいと目が言っていて拒否権はないように思えた。

「しかし、ガーターベルトとなればつけるのに一度脱がねばならんのう…?」

『ガーターリングなので脱ぎ着の必要はございませんよ。では、よろしくお願いします』

「う、うむ」

流されるままに部屋を追い出されて渡された物を眺める。ソックスを履いてからとめればぴったりよりも少しだけ小さく作られているらしい。血は止まらないようだけど心配になるそれに唸ってから部屋を出た。

「これで合っておるのか…?」

『はい』

それはもう満面の笑みで頷かれる。奏汰くんのチョーカーから目を逸らして俺の足元を見つめる。その目は熱を帯びているようにも見えて不意に伸びてきた手が肌に触れたから肩を揺らした。

「な、なんじゃ?!」

『ただの確認ですからお気になさらず』

ガーターリングをなぞり目を細める。顔にだんだんと熱が集まるから助けを求めようと顔を上げれば静観していたうちの椋実くんが首を横に振った。

「はくあは脚フェチだからしかたないだろう」

「特に太ももとか内股、好きだよね〜♪」

『ちょっと、趣味ばらすのやめてもらえるかな?』

むっとして立ち上がったそれは息を吐きようやく離れる。思ってもよらない情報に俺は固まり、宗と奏汰くんが目を丸くする。唯一瀬名くんは笑った。

「こいつ、背中も好きだよ」

『は、泉さん??』

まさかの援護射撃に椋実くんと檳榔子くん、柑子が頷く。一人、きょとんとしてた木賊くんは目を丸くした。

「……もしかして、俺がきぃにやられてるときはくあがむっちゃ機嫌良く笑ってんのて、」

「おや、気づいていなかったんですか?」

「ッ、はくあ?!!」

『ちっ』

顔を真っ赤にしてつかみかかってきた木賊くんに舌打ちを噛まして目をそらす。あまりの表情の崩れ具合に驚きが隠せず、硬直が溶けたらしい奏汰くんは皆に近寄った。

「そうすると、こんかいの『いしょう』ははくあの『せいへき』の『おんぱれーど』ということですね!」

「嬉々として衣装案を練っていたからな。そういうことだろう」

「ノン!不純なのだよ!」

「ふふ。落ち着いてください、斎宮さん」

とても嬉しそうな奏汰くんに取り乱す宗。それぞれ笑っているその子らに深々と息を吐いて、木賊くんに掴まれ左右に揺らされているそれは死んだ目で口を開く。

『あー、もうその話置いときません?好みは人それぞれじゃないですか』

「アンタの私情の挟み具合がひどいからでしょぉ?」

『泉さんだって髪フェチじゃないですか』

「はぁ?違うし!」

『え、違うんですか?昔からやけに髪触ってくるからそうだと思ってました』

「しろくんの髪はちゃんと手入れされてて触り心地がいいから、それだけ。アンタ以外の触らないし」

「はくあの阿呆!変態!むっつり!!」

ひらひらと手を振られて話題の転換に失敗したらしく、未だ喚く木賊くんのことを掴んで隣の部屋に逃げていった。







着替え終わり、音を立てぬように静かに扉を開く。そこにはタブレット視線を落としている紅紫がいて、深くため息をついて額を押さえた。

『ちっ』

「今日の君は仮面を付け忘れているようだね」

顔を上げて僕を見据えるとまた視線を落とす。

『付けた端から叩き割られていってしまうので、疲れたんです』

「………脚フェチ」

『その話、出さないでもらえませんか?』

むっとした顔をして睨むように見据えてくるから頭に手を置いて撫でる。セットが崩れないように手を動かして、隣に座った。

僕の言動を見守っているらしいそれに頬杖をついて首を傾げる。

「参考までに聞いておこうと思うのだが、僕は脚と背中なら、どちらが君の性的興奮を煽るのかね?」

『、どうしました?壊れましたか?』

「ノン!失敬なやつだね!…いいからさっさと答えるのだよ」

瞬きを繰り返して仕方がなさそうに息を吐く。ほんの少しの劣情を携えた瞳の影。伸びてきた手が、僕の頬を撫でた。

『貴方はどこも作り物のように綺麗ですけど…特に背中が、とても美しいなと思います』

「…背中?」

『はい。背筋は伸びていて、肩甲骨のラインもしっかり見えますし、日焼けしたことのない白さが……どうしました?』

「ば、ばかなのかね!?べつにそこまで語れなんていっていない!」

『え?さっきと言ってることが違いませんか?』

「いいからもう黙るのだよ!」

声を荒げれば不可思議そうに眉根を寄せるから本当に影片に劣らない間の抜けた子だと思う。痛む頭を押さえて、もう一度息を吐いてから髪をなでた。

「本当に、感謝するのだよ。遅くはなってしまったけれど…よろしく頼む」

『………こちらこそ、貴方の願いを遂行するために尽力いたします。ですから、斎宮さんも、マドモアゼルも、僕に身を委ねてくださいね』

触れ合ったままだった頬に伸びる手はなぞるように動いて下ろされる。瞼を閉じてから開けば少しだけ哀愁を漂わせた瞳が僕を見つめているから頷いた。





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