あんスタ


5

それなりによく行くお店なのか、スタスタと迷うとこなく歩いてついたお店は入り口から明るい雰囲気でガラス張りで中が見える店内は賑わってた。

「わ!スイ●ラだね!俺初めてきた!」

「そうなノ?バルくんたちってこういうとこ来てそうなイメージあったんだけど意外だネ」

「そういえばB組は前に大人数で行ったんだったな?」

「おう。まぁ木賊たちは用事があったらしくてこれなかったんだけどそれなりにわいわいして楽しかったぞ!」

受付をしている木賊くんに聞こえないよう気遣ってか控えめな声量で返す衣更くん。受付が終わったらしく、逆先くんと明星くんが声をかけてきたから全員で中にはいる。

学校が終わる時間だからか学生が目立って、女の人が来るイメージが強かったけど意外と僕達のように男子だけのグループもいた。

席につくなりスタッフのお姉さんが注文を取って、慣れた様子で木賊くんが人数分のドリンクバーを頼む。終了時刻を書いて伝票を置き、にこやかに退席したお姉さんを見送ると木賊くんと逆先くんが立ち上がった。

「夏目、どこいくの?」

「バルくん、これは戦場なんだヨ」

「食わなもったいないで。はよう好きなもん取ってきい」

「そうなんだ!わかった!ホッケーもいこ!」

「僕は先に飲み物取りに行くけど、衣更くんはどうする?」

「そうだな、一斉にいっても混むだけだもんな」

見通しのいい店内で置き引きの心配はないだろうとバッグを置いて各自目的の場所に向かう。飲み物を取る最中ちょっと見た店内にはケーキだけじゃなくてパスタやリゾット、カレーなんかもあるみたいで甘いものに飽きちゃったらそっちを食べるのもいかもしれない。

飲み物を置きに戻ったテーブルには誰が取ったのかケーキが皿の上に綺麗に並べられていてかなりの量があるから見てるうちにちょっと胸焼けをしてしまいそうだ。

「真、俺達も取り行こーぜ!」

「うん!」

招かれて、さっきよりはちょっと人の減ったショーケースの前に立つ。季節限定のぶどうを使ったシフォンケーキに梨のタルト、さつまいもクリームのロールケーキ。定番のショートケーキやチョコケーキ。おしることかゼリー、プリンもあるらしい。

「すごいね…目移りしちゃうよ」

「気になるもんちょっとずつ取っていって食べるのが定石だよな!」

「そっか!大きく取ったらたくさん食べれないもんね!」

気になるケーキをお店のワンカット分の半分にくらいしてお皿にのっけていく。大きめの平たいお皿一つがいっぱいになったところで席に戻ればちょうど飲み物を取ってきた木賊くんたちが戻ってきた。

「あ!全員そろったね!食べよ食べよ!俺もうお腹ペコペコ!」

「わ、明星くんたくさんもってきたね!」

「なんかすっごく楽しくなってきちゃって!」

「これでも俺が言ってだいぶ自重したほうなんだぞ」

「スバル、食えなくても知らないぞ〜?」

笑いながら席についてみんなでフォークを持った。

「ん〜、甘いもんさいこー!」

「ん、このタルト美味しいネ」

「逆先って甘いもの好きだったんだな」

「魔法を使うと甘いものが食べたくなるのサ」

「魔法と勉強って似てるんだね」

「こっちのロールケーキ美味しい〜」

「スバルなんでそんなにプリンばっかり取ってきたんだ?」

「きらきらだから!サリー食べる?美味しいよ!」

「はは、俺も取ってきたし気にしないで食ってくれよ」

各々持ってきたケーキやゼリーを食べて頬を緩ませる。甘いものを食べて幸せな気分になるのは違いないんだけど、…ばくばくとケーキを食べてる木賊くんの目が陰っているのがとても気になった。

「えーと…」

誰から声をかけるべきなのか、さっと目を合わせて迷っているうちにそんな長い時間じゃなかったはずだけど木賊くんが息を吐いた。

「気分害してしもたな、ごめん」

「べつに気にしてはないけド…なにそんなに気落ちしてるのサ」

苛ついてるだけじゃなく、哀しんでいたようで、木賊くんが息を大きく吐き出して目を瞑る。

「……せやな、気落ち、してんのかなぁ…はぁ、あかんわ…」

普段の木賊くんからは想像がつかない小さな声に一度お茶を飲んで息をついてから目を合わせた。

「僕は紅紫くんのあの広告、すごくかっこよかったなって思ったけど…どうして木賊くんはそんなに落ち込んでるの?」

「え、コッシー?」

プリンを飲みこんで目を瞬いた明星くんはキラキラとした目で身を乗り出す。

「広告あった!?俺も見たかったのに!」

「え、さっきの街なかで?」

顔を同じように上げて意外と食いついてきた逆先くんに対し、氷鷹くんと衣更くんは首を傾げた。

「逆先まで…三人ともそんなに紅紫と仲良かったのか?」

「さっきも思っていたが、遊木だけじゃなく明星まで仲がよかったんだな…いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」

「は、はぁ?!別に僕は仲良くなんかないし!」

「それはウッキーとコッシーと、三人の秘密だよ〜ん」

疎外感に不貞腐れたようにむっとした衣更くんと氷鷹くん。ぽかんとしてる木賊くんに苦笑いを浮かべた。

「あはは…まぁそのことは今は置いといてよ。でも、広告の話は…ほら、さっき街でEdenの出てる広告あったでしょ?あれに一緒に映ってたんだよ、紅紫くん」

「「え」」

三人分の目がこっちに向いて、木賊くんが唇を結い、衣更くんが息を吐く。やっぱりこれは禁句だったのかなぁと思いながらスマートフォンで検索をかけて、目的の二枚の写真を引っ張りだした。

「こっちの、これとこれ。巴さんと凪砂さんと映ってる人が紅紫くんだよ」

「うええ?!この人コッシーだったの!?」

「Edenとソロで仕事なんて…どれだけ先にいってるのさ、アイツ…」

目を丸くした明星くんに悔しそうに歯を噛む逆先くん。写真を見て氷鷹くんは驚きのあまり固まってた。取り繕うように咳を溢してお茶を飲んだ。

「す、すごいな、紅紫…相手はあのEdenで、しかもあんなに大きな広告に出演するなんて…ん?そんなにすごいことをしたのならなぜ木賊はそんなに気落ちしているんだ?普通祝うようなことじゃないのか?」

「はぁ、氷鷹…あんなぁ、そないに簡単なこととちゃうねん…」

オレンジジュースを飲んでシフォンケーキを齧る。さっきまでとは違い楽しそうに見えない木賊くんはそれでも手は動かしたままで目線を落とした。

「そりゃあな、はくあがああやって活躍すんのは見ててすごいて思うたり、純粋に腹立つからはようぬかしてやるわとか、あんなふうになりたいなぁ思うたり…自分らもそんなん、思うことあるやろ?」

「うん!俺はサリーの器用さ!見習いたい!」

「僕は氷鷹くんの冷静さがほしいなぁって思うよ」

「俺は遊木の柔軟さを手に入れたいと思うときがある」

「スバルの底抜けの明るさとか羨ましいよな!」

「………仲がいいネ、君たち」

「チームワークの良さならだっれにも負けないよ!」

「ふぅん、ええやん。これからもそれ武器にしてったらええよ?仲いいんは他のユニットとそれだけで差ぁつけられる」

もぐもぐとケーキを飲みこんで、目を細めたと思えばまた息を吐いた。

「まぁ、それはそれや…。俺も、きぃもシアンも柑子も、自分らもそうやろうけど、自分に足りんもんあったらそれを補おうて力合わせたり努力したり練習したりするやろ。でもなぁ、ほんまに、ほんまにたまーに…それが、虚しくなるんよ」

ぞっとするくらいに力のない声。思わず明星くんが表情をなくしてしまうくらいのそれに気づいていないのか木賊くんは口を動かす。

「あかんねん…はくあは元から別世界の人間なんや。スタート地点も、積み重ねてきたもんも、俺と比べもんにならん」

今まで止まることのなかった右手が止まって、悔しそうに唇を噛んだ。

「俺が必死こいて一歩進んだって、同じ時間あれば五歩進んでいける。…こんなんじゃ、いつまで経ったってはくあに追いつかれへん」

「……そんなに差があるように見えないが?」

「はぁ…一回一緒にレッスンしたらええ…そらな、夏目とか明星みたいなポテンシャル高いとか地位あるとか、自分らは嫌かもしれんけど俺はあったらええ思う……俺は、出来損ないやから、そうでもせんとはくあの背中も見えてこない」

目を閉じて、ついでに唇も結んでしまった木賊くんに全員が心配そうに眉根を寄せ、口を開いた。

「出来損ないなんて、そんな卑下するほどじゃ…」

「…卑下とちゃうわ…俺なんてはくあに拾うてもらわな今頃、……なんもない、はぁ…、また間違えてしもた」

口元を抑えて目を閉じるとグラスを傾けて飲み干す。眉間に皺を寄せてた逆先くんが息を吐いた。

「君だって彼奴と一緒にユニット組んでるんだから、そこまで差を覚えるほどじゃないだロ」

「………ユニットいうても、近ければ近いほど、差は浮き彫りになんねん」

自分の手のひらを見つめ、目を閉じたと思うと顔を上げた。動いたと思うと右手の手首に触れてた。多分無意識なんだろう。

「はくあはそないこと気にしてないやろし、気にかけさせへんよう俺らも必死こいてんけど…いつか決定的な差ぁ突きつけられて、はくあがもう俺らを要らんゆーたら…必要とされなくなったら…もう、今度は堪えられへんわな」

しきりに触れてる右首と自嘲気味に笑った口元。ぞわりと背筋に悪寒がはしって、同じように察したらしい衣更くんが口を開こうとして慌てて閉じた。

気づいてても顔に出さないだけなのか、元から知ってたのか、逆先くんは目を逸らすだけだ。

「一回人の優しさに触れてしもたら、怖いねん、独りになるんが。あかんよな…独りなんて慣れてたんはずなんに、いつの間に俺はこんな弱なったんやろ…」

「……ねぇトクさん!俺もね!すっごく怖いよ!独りなんてあんなの慣れていいものじゃないんだよ!」

「そうだな、明星の言うとおり人は誰かと支え合い生きていくものだ。それはきっと、紅紫だって同じなんじゃないのか?」

思いがけない明星くんと氷鷹くんの援護に紅茶を啜った逆先くんがまっすぐ木賊くんを見つめた。

「そうだネ。彼奴がそんな簡単に人のこと切り捨てるような奴なら、僕は彼奴をすごいなんて思わないし、どんなに大きな仕事をしてたって悔しくも思わないヨ」

「そ、そうだよ木賊くん!僕よりも紅紫くんと一緒にいる君がそんなこと言ったら変だよ!」

「なやねんそれ」

「紅紫くんはこんな僕にも笑いかけてくれるような人なんだから!紅紫くんの優しさは君のほうが知ってるでしょ!」

「……阿呆か、遊木はすごいやろ、自己評価低いんも大概にしぃ?足元掬われんで、もっと自信もちぃや」

「おいおい、それを今の木賊が言っちゃうのかよ」

空気を見守ってた衣更くんが気を抜いたように笑って、木賊くんが目を瞬く。

「今の木賊はいつもの木賊の見る影もねーぜ?あのグループ内で紅紫にも対等、そもそも誰にでも負けん気が強いのが木賊だと思ってたんだけどな?」

ぴたりと右手首を触っていた左手が止まる。言葉の意味を考えるみたいに固まってたと思えば木賊くんははっと鼻で笑って、次には満面の笑みを見せた。

「せやな、俺らしないわ…あー!アカン!ぶれっぶれやん!は〜こっぱずかしいわ!」

頭を掻いて笑い飛ばした木賊くんはいつも見た表情ですっかり顔色も良くなってる。

グラスに手を伸ばそうとして空なことに気づいた木賊くんは息を吐いて顔を上げた。

「せやなぁ、はくあはばっかみたいに甘い奴や。せやから俺みたいなんが一緒にいても許してくれるんやろうな」

さっきと同じ少し自分を卑下た言葉なのに空気が違うからじっと見守っていれば木賊くんは恥ずかしそうに鼻を擦った。

「あ〜、まったく、こんなことでぶれてまうなんてほーんと俺らはまだまだやなぁ。付き合わせてごめんなぁ?」

「うんん!トクさん!またいつでも誘ってよね!」

「そうだな、人と話すことで解決することもある。もしよければまた話してほしい」

「別に、僕はただ甘いものを食べに来ただけで君が勝手に喋ってただけだかラ、謝ることでもないヨ」

返された言葉が予想外だったのか、また固まったと思うと視線を惑わせて、恥ずかしいのか少し頬が赤い。

「そ、そか。………せ、せや、あいつら今頃何してんのか聞かな。みんなバラバラやと何しでかすかわからん奴らやしなぁ。まったく、誰かに迷惑かけてへんとええんやけど」

苦し紛れに取り出した携帯電話。木賊くんが画面に目を落とすよりも早く左右から笑い声が聞こえた。

「柑子は蓮巳先輩んとこだってよ」

「檳榔子は零兄さんと奏汰兄さんのところらしいヨ」

「…―な、なんやねん、自分らの情報網どうなってん!気色悪!?」

慌てる木賊くんが生き生きとしてて、安心から息を吐いてずっと置いたままだった携帯を持ち上げる。

画像を消そうと落としたそこには滅多に見ない人から連絡が入っていて、身構えながら内容を読んだ瞬間に笑ってしまえば視線が集まった。

「どうしたんだ、遊木?」

「うん、椋実くんは泉さんのところだってさ」

「はぁぁん?彼奴らどんだけ散らばっとんねん!アホか!人の迷惑考えろや!」

携帯を叩きつけて突っ込みを入れた木賊くんに疎外感を覚えたのか携帯を見て何か連絡が来てないか確認する残りの二人。そのうちの明星くんは肩を落とした。

「俺はなんにも情報はいってなーい。つまんないの〜」

すっかり手を付けてなかったプリンをやけになって頬張りはじめて、対象的に氷鷹くんは笑った。

「俺はあったぞ」

「え、なにそれ!どんなやつ?!」

「うむ、部長からだ。もうニ時間も前のものだからみんなと違ってリアルタイムではないんだが…」

画面の文を目が追って、ゆっくり言葉を紡ぐ。

「どうやら紅紫は手芸部の斎宮、影片…そしてなぜかうちの部長とティーパーティーをしていたらしいな」

「はぁぁぁ?!なに優雅に茶ぁしばいとんねん!しばき倒したろか!?」

「ほう、それは駄洒落か?」

「ちゃうわボケ!!」
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