あんスタ
ジャッジメントが終わって、王様は一応Knightsの王様として在籍してる。でも相変わらずレッスンには来なかったり、そもそも学校に来てなかったり、連絡が取れないことも多い。
それでも王様がいることでセッちゃんが生き返ったし、スーちゃんのやる気スイッチも刺激されまくりみたいだからなんだかんだうまくいってるんじゃないかなぁと思う。
五人の完全体で出場したライブはまだ数少ないけど、今度はフルール・ド・リスってライブに出場する予定で、セッちゃんもナッちゃんも、もちろんスーちゃんもやる気満々だ。
武器生成を任された王様も黙々ととは言わないけどそれなりに騒ぎながら曲を作っていってて、時折セッちゃんが回収してる。王様ってどんだけ作曲してんのって感じ。まぁ王様が作る曲は俺達の武器だったり、単純に仕事だったり、それ以外だったりで実際とのところはよくわからない。
ふぁっと出てきたあくびを噛み殺して寝床から這い出る。スタジオ内にはかりかりとペンの音だけが響いてて、それ以外の音は何もしない。
王様は寝転がって作曲してるのかと思ったけど、なんだかそうじゃないっぽい。
「…ん~…違うなぁ」
首を傾げてはペンを走らせて、ペンを握る右手を止めるとまた首を傾げる。手元には見慣れた五線譜ではなく、便箋。音符じゃなくて文字が踊ってた。
「王様なにやってんの~?」
「おおリッツ!ちょうどいいところに起きたな!手伝ってくれ!」
見られて困るものじゃないのか、ぱっと顔色を明るくして手招かれる。仕方なく隣に座りこんで机の上に顎を乗せた。
「で、なにやってるのー?」
「手紙だ!書くの手伝ってくれ!」
「手紙~?」
ばっと見せられた紙は本当に高校三年生が書いたのかなってくらいのぐだぐだした内容で、中身が二転三転してるし話がまとまりがない。落ちがないというか、なにが話したいのか全くわからない。
「…これ何を書きたいの?」
「えーっと、セナとレッスンしたとか、リッツと昼寝してたらセナに怒られたとか、スオーがおかし食べすぎてセナが怒ったとか、ナルが密室でマニキュア塗ってセナが窓開けろって怒ったとか」
セッちゃんが怒ってることしか伝わらないけど、それで大丈夫なの?
王様が唸って口にする言葉はどうにも手紙として成立しなそうなものばっかりだけど、王様がそれでいいならそれでいいか
「近況報告するの?」
「おう、そんなかんじ!」
「なに、久々に連絡する人なの?」
「ん?全然!」
ぶんぶんと首を横に振ってみせた王様は毎月だ!と笑う。
「え?王様わざわざ毎月手紙書いてんの?いつから?」
「んー、もう半年くらい?いや、三ヶ月前?あれ?去年の冬だったか?うーん、覚えてない」
王様の記憶は宛にしてないからまぁいいとして、少なくとも三ヶ月前だとしたら三通は送ってるらしい。
「毎回こんな感じの書いてて、相手は何も言ってこないの?」
「なぁんにも。でも報酬はちゃんとあるからこれで問題ないはずだ!」
にっかりと笑う割に言ってることがちょっと引っかかる。ただ手紙を書くだけで報酬が貰えるってどんな相手なんだろう。
「ねぇ、この相手――…」
「お!そういえばセナハウスについて書いてない!セナハウスは暖かいんだぞーって自慢しないとな!リッツは最近なんかあったか?」
「えー?えーっと…」
「あ!リッツ最近昼間でも起きてるよな!それがいい!」
「え?俺のこと書くの?」
「おう!なるべくいろんなことを書きたい!」
にこにこと笑ってさっきよもテンション高くペンを進めていく。
文面を眺めていると本当に俺について書いてて、敬語でもなく、王様主観の文体は読んでて王様の日記みたいだった。
「なんかこれ、王様に日記つけさせてるみたいだねぇ」
「んー、かもなぁ」
不自然な返しにちらりと視線を上げるけど、王様は紙面を眺めるのに忙しそうで目が合わない。あの王様に日記をつけさせて、曲とは違い手放しで褒め称えられるようなものじゃない文に報酬を払う。この手紙の相手は何を考えてるのか全くわからなくて、気持ち悪い。
「王様、そこ字間違えてる」
「んん!痛恨のミスだな!ま、いっか!」
けろりと笑って指摘した部分を直すことなく、そのうち俺が便箋の隅っこに落書きをしても気にすることなくもっとやれなんて頷いた。王様は便箋三枚分に文字を踊らせたところでどこからか封筒を取り出して、三枚の紙を重ねて折りたたむと中に入れた。
白地にうっすらとしたピンク色の桜が散る封筒はなんだか王様っぽくないし、そもそも男子高校生が持ってる事自体が珍しい代物だった。
「あれ?相手女の子なの?」
「ん?男だぞ!」
「………そうなんだぁ」
深く突っ込んだら負けかなぁなんて頷いて、また意識を引っ張りはじめた睡魔に船を漕ぎはじめてればレッスンに来たスーちゃんとナッちゃんの喧騒で目をさました。
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